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Dentsu Design TalkNo.90

日本をCMする!シンガタ佐々木宏スペシャル(後編)

2017/03/04

今回の電通デザイントークは、日本を代表するクリエーティブディレクターのシンガタ佐々木宏さんが登場します。佐々木さんは広告クリエーティブの第一線で素晴らしい広告を生み出し続けています。そんな佐々木さんと、特別ゲストである女優の樹木希林さんが、これまでの仕事を振り返りながら広告をテーマに語り合います。

シンガタの佐々木宏さん

 

世の中を、人生を面白くするには「幅」を持つことが大切

佐々木:「コピー年鑑2016」の企画で希林さんにインタビューさせてもらったときに、「“偽”という字は、人の為と書く」ということをおっしゃっていました。「偽」という漢字の解釈が「人の為」になるとは夢にも思わなかったので、非常にショックを受けました。

樹木:人間って、みんな裏表があって、全てが本物ではないの。もし全てが本物で正義ばっかりだったら、息が詰まってつまらないし、寂しいものになるんじゃないかしら。
そして、電通という会社は、作り手と一般の人をつないで、世の中を面白くしていく。非常にいい職業だと思っています。

佐々木:ありがとうございます。今日は希林さんがいらっしゃる前に、「かえって良かった」というテーマで話していたんです。自分の不幸話とか、ついていなかったことは、今になってみると全部良かったと思えるという話です。

樹木:でもそれはね、佐々木さんの能力なんですよ。いろんな嫌なことが、全部「良かった」になるわけがないんです。「良かった」にしていった、佐々木さんの受け取り方ですよ。

昔、箭内道彦さんからの依頼でリクルート「ゼクシィ」のCMで、内田裕也さんと私の夫婦で出演しましょうということになって。結婚の雑誌だから、離れた夫婦は良くないんじゃないかと、みんなは反対するけど出ることにしたんです。

そのオンエアがちょうど終わった日でしたね。内田さんが逮捕されてしまいましてね。ああ、悪いことしたな。クライアントに本当に迷惑をかけたな、と思っておりましたら、クライアントも太っ腹で、オンエアが終わっていたのでそれでいいことにしてくれたんです。

その後に、その第2弾を作ると言われて、どうしましょうかと。同じシチュエーションで、夫の位置には誰もいない。私が一人で座っていて、山頭火の句をアレンジした「やっぱり一人がよろしい雑草。やっぱり一人じゃさみしい雑草」とつぶやこうということになりました。

夫が逮捕されたことは世間にバレているわけですけれど、それを隠してきれいなところだけを見せるのではなくて、全部ひっくるめて、ああいうふうに作っていけたのが、箭内さんの力とそれをOKしたクライアントの包容力。「ああ、えらいことになっちゃった」と思うと、もう果てしなく頭を抱えちゃうんです。そういうのも、佐々木さんがおっしゃる、「かえって良かった」ということかもしれません。

人間の根本のところに遊びも含めた「幅」がある生活をしていると、そういう時にひょいっと力が出るんじゃないかと思います。皆さんの力で「面白かったね」「良かったね」「記憶に残るね」というものに関わることができるのは、なかなかうれしいことなんです。めったにないことですからね。

 

世の中発の仕事をつくっていく

佐々木:私の60歳の誕生日の時、希林さんにビデオでお祝いのコメントをいただきました。その中で「60歳になったのだから、これまでやってきた仕事はいったん横に置いて、新たな方向性を見つけてください。世の中にある問題を、もっとCMの世界の人が発信をして、政治家の頭にバチ―ン!と響くように、伝える方法はないですか?」というお言葉を頂きました。

この希林さんの「ためになることをやったら?」というひと言で、何かを気付かせていただいたんです。日本を元気にすることに関われるのはいいことだなと。それに昔から、僕は日本のCMを作りたいと思っていたんです。

樹木:それもね、受け取り方の問題ですよね。最後に11歳のブラジル人の少年の言葉を言わせてもらって帰ろうと思います。

「言葉というのは、人を幸せにもするし、人を傷つけもする」

簡単な文章でしょう。たったこれだけのことです。言葉というものは、置き場所によって、見事に生きることもあれば、すごく傷つけてしまうこともある。

私は人間も置き場所だろうと思います。例えば広告会社の中にはいろんな部署があるわけで、人の置き場所を決める時は、一人一人の素質を見て、じっくり熟すのを待ってあげるということが、すごく大事なんじゃないかと思います。

もし自分の居心地が悪い時は、それを不満に持っていかずに、糧にして、何かを見つける。人生は結果じゃないんですから。人生は過程がなかなか面白い。あんまり頭を抱えないで、楽しくやっていただけたらなと思います。

人間の置き場所、言葉の置き場所。これを頭に入れていただければ、2017年はすごいコピーがたくさん出てくるんじゃないかと思って、楽しみにしております。
今日はどうもありがとうございました。

佐々木:希林さんはとにかく人間としてすごくカッコいいんです。僕がとても大切にしている、尊敬する素晴らしい方です。私がいろいろしゃべるよりも、皆さんの心に残るようなお話があったように思います。希林さん、大変ありがとうございました。

僕は希林さんの言葉で「クライアント発」の仕事だけじゃなくて、「世の中発」の仕事があるんじゃないかと思うようになったんです。

そのことに、やっとこの年になって気付きました。広告会社も競合と戦うだけではなく、日本をもうちょっとよくしたいよねとか、みんなをもっと楽しませるためには何をしたらいいんだろうかという発想から企画を考える、という方法もいいかなと思うんです。希林さんがおっしゃった「面白くて、ためになること」をやっていく。そういうふうであってほしいという思いがあります。

私の「かえって良かった」という話は、あまり説得力がなかったかもしれませんが、今日をきっかけに「いろいろあったけど、あれを機に良くなったよね」と思えるように願っております。

<了>
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企画プロデュース:電通ライブ クリエーティブユニット第2クリエーティブルーム 金原亜紀