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動画サービスの未来像No.2

スマホネイティブ世代の動画コミュニケーション~SNS検索の定着とシミュラークルの広がり

2017/03/07

『情報メディア白書2017』の巻頭特集「動画ビジネスの未来像」の第2回は、「スマホネイティブ世代の動画コミュニケーション~SNS検索の定着とシミュラークルの広がり」。現代のスマホ社会における情報の拡散環境について考察する。なお、本稿は電通総研メディアイノベーション研究部のオリジナル調査からの知見に基づいている。

 

1.ビジュアルサーチの隆盛と「スクショでシェア」

Instagramなどのビジュアルコミュニケーションアプリは現在では人々が検索を行う場として機能している。こうした「ビジュアルサーチ」は、情報行動における視覚的なものの重要性がますます高まりつつあるトレンドを示している。

「ググる」という言葉が一般動詞になったことにも表れているように私たちにとってなじみ深いGoogleを使った検索に加えて、今ではSNSを通じたビジュアルサーチが盛んになっている。

調査結果をもとにした図表1からは、はやっているカフェやレストランを探す場合には検索エンジンを使用するが、ファッションのトレンドを知りたい場合にはSNSで検索をするという結果が出ている。

また僅差ではあるものの、旬な旅行スポットについてもSNSでの検索に少々分があるような格好となっている。なぜかといえば、そこで得られる体験がSNS映えするものであるかどうかを事前に確認することを第一義として、私たちは検索行動を行うようになっているためだ。

もちろんどちらの手法にも利点はあるものの、ユーザーは自分に身近なユーザーが発信する情報に触れられるメリットを強く感じて、ハッシュタグなどの仕組みをうまく活用しつつSNSのビジュアルサーチに頼り始めていると指摘することができる。

さらに、スマホユーザーにとっては情報収集の適正単位が「ページ」ではなく「ポスト」(投稿)となっており、ページ単位のネットワークである検索エンジンではなく、ユーザー体験によるポスト単位のネットワークであるSNSの方が都合良いということもこうした現象の要因といえるだろう。

図表1

 

このような動向に関連するものとして、「スクショ」(スクリーンショットの略)という情報行動のかたちを取り上げたい。ビジュアルコミュニケーションの活性化の背後にはスマホの普及が深く関連しているが、それは私たちの情報のシェアの仕方についても影響を与えつつあり、図表2にある通り、現在ではスクショが情報の保存と拡散において重要なものになりつつある。

                    図表2

スクショで保存が約3割、そしてスクショでシェアが18.1%である半面で、リンクをコピーしてシェアが11.3%となっている。いまやスマホユーザーは気に入った情報があれば、「リンクのコピペ」ではなく「スクショしてシェア」するものなのだ。

私たちはスクショで撮ったものをSNS上でさらにシェアしていくようになっており、情報シェアもスマホデバイスにあったかたちへと変化してきていることが看取できる。

2.シミュラークルの拡散とシェアラブルな情報社会のゆくえ

ソーシャルという概念には特有のつかまえづらさがある。良くも悪くも、SNSでは友人も知人も有名人も企業・ブランドも平等につながり合ってしまう特性があるからだ。しかしビジュアルコミュニケーションにおける影響力を測定した図表3から分かるのは、私たちがいかにSNSを身近な人間関係のフィールドとして捉えているかという点である。

図表3

 

この結果は全調査対象者に対してのものであるが、性別も分けて15~34歳を5歳ごとにスライスしたとしても目立った差は表れないことから、これは該当世代にとっての共通する性向であるともいえる(一方でインフルエンサーに対しての反応は世代間で差があった。詳しくは本書で)。

SNSの最も重要な特性は、それが「情報を模倣的に拡散させていく」という点にある。それはコミュニケーションをせずには生きられない私たち人間にとっての必然的な成り行きである一方で、現代の情報環境はそれを加速させる一面を確実に内包している。

そうした性質をユーザー観察から導き出したのが、昨年度の巻頭特集でも提起した「シミュラークル」と呼ばれる現象である。ここから、最後にそのキータームの現在的な意義の検討をあらためて行っていきたい。

図表4

 

メディアコミュニケーションのあり方を発信者と受信者の関係によって分類できるとすれば、私たちはこの図表4のように整理を行うことができる。

左から順に、「マスメディア型」はテレビや新聞などの強力なオリジナル情報の発信者であるマスメディアと私たちの関係を示しており、「1:N」の関係を構成する。

次に、「インフルエンサー型」は、いろいろなジャンルのコミュニティー内に存在する情報感度の高いインフルエンサーによってなされるレコメンドの形式を指しており、インターネット以後に広がりを見せてきた形式である。発信者と受信者のボリュームは「√N:N」で、例えばあるプラットフォームに400万人のユーザーがいるとすれば、おおよそ2000人ほどのインフルエンサーが存在するという理論的な概算となる。

そして最後の「シミュラークル型」とは、明確な発信者、つまりオリジナルとしての情報の起点や発端があるのか不明なままに、網状に情報がコピーされ、それに促されるようにある共通認識が生まれたり、それに基づいた情報行動が起こるようになる現象を指している。シミュラークルとは、「模造品」といった原義を持ちつつ、高度消費社会のあり方を思索的に分析した社会学者のボードリヤールが「オリジナルなきコピー」という定義で流布させたタームとして知られているものだ。

例えばInstagramでハッシュタグをベースにある商品やイベントがはやったり、Facebookを通じて友人知人の投稿を見てまねしたくなったり…そうした体験は全てこのタイプに含まれる。ここに至っては、発信と受信は「N:N」の関係であると描写できるだろう。

「マス型」や「インフルエンサー型」と比較して、「シミュラークル型」は明確な発信者、オリジナルの起点が不明なままに、誰もが情報を発信しそれに影響を受けながら体験がコピーされ憧れを促すイメージ(=シミュラークル)が出来上がっていく状態に特徴があるのだ。

こうした整理はユーザー観察から得られたものであると同時に、歴史的/理論的な背景によっても支えられている。それを二つの切り口から補足していきたい。第一に、現代社会の特性とは、多様性、複雑性、流動性が増していくプロセスの中で、多様な価値観のもと誰もが「自分らしく」固有のライフスタイルを築きそれを生きることが価値とされる。

かつてライフスタイルとは上流階級のそれを指すものだったが、今では「一人一人」のものとして扱われるようになっており、私たちはその答えのない自分らしさの枠組みを埋めるかのように生産、消費を含めた社会生活を送っている。

そして第2に、現代のような成熟社会においては、ボードリヤールが指摘したように、消費は使用価値から交換価値へと重点が移る。その消費(モノや体験にお金を払うこと)が他者にとってどんな意味を持つのか、その記号性こそが「価値」となる。

本論の文脈に沿えば、それはSNS映えするのか?―他者もうらやむ交換価値を含んだ体験をあなたはしているのか?という問いを満足させる実感が消費のトリガーになる。

こうした傾向は、SNSのネクストフェーズとしてのビジュアルコミュニケーション環境下でより顕著に表れている。私たちがセルフィーを動画フィルターで加工しながら撮ること、SNS映えを気にしながらそれをストックしていくこと…それらは特にスマホネイティブ世代において自分らしさを追求しながらも交換価値(あこがれ)を求めずにはいられない情報環境の今を映し出す。

シミュラークルは、このような高度化する消費社会のステージとも密接に関連した議題であり、これからもなお中長期的に続くトレンドであり続けるだろう。

前回の連載では「動画フィルター」に着目する意義を主張した。調査でも動画フィルターについて他のユーザーが行っているのをまねして自分で使い始めたことがあると回答した人は、6割を超えていた。

前回述べた「犬の顔」のように、これからも動画フィルターがシミュラークルとして拡散していくことが起こっていくとみている(このテクノロジーのプロモーション用途での可能性についても調査データに基づき考察しているが、それは本書で)。

動画フィルターとシミュラークルの相性の良さ、そしてそれが満たす体験価値としての効用の高さを鑑みるに、こうした形式のビジュアルコミュニケーションがより広範なトレンドになって今後ますます注目を要していくようになるはずである。


調査概要
電通総研メディアイノベーション研究部
「若年層のビジュアルコミュニケーション調査」
調査会社:①株式会社グラフィティ/②株式会社ビデオリサーチ
調査時期:①2016年4月&11月/②2016年10月
調査手法:①グループ/デプスインタビュー調査/②ウェブサーベイ調査
サンプル構成:①17-21歳の首都圏在住の男女15名
       ②15-34歳の全国の男女1600名
※②は「Instagram、Facebook、Twitter、Snapchatのいずれかニつ以上を週に1度以上発信(送信・投稿)する人(※シェアを含む)」という利用条件でスクリーニング


 

「情報メディア産業の動向」の章「コンテンツ編」の目次からトッピックスを紹介。
詳細なデータや論考の完全版は書籍『情報メディア白書2017』をご確認ください。

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