バイラルムービーと地方創生 #02

何かを始めようと思ったら、とりあえず直電してみよう

  • Ochi kazuyoshi pr3
    越智 一仁
    株式会社電通 CDC/Dentsu Lab Tokyo コミュニケーション・プランナー

前回は、小林市の2016年度の取り組みについてお話ししました。
そして今回は、めちゃめちゃ今さらな感じもしますが、第1弾動画「ンダモシタン小林」について深掘りしてみたいと思います。うまくいった要因の大部分は「運」によるものでしたが、学んだことや発見は数多く、少しでも自治体の仕事をされる皆さんの参考になれば幸いです。

なぜこんな仕事が生まれたのか?

 

宮崎県小林市は僕の生まれ故郷なのですが、どんな経緯でこの仕事がはじまったのか?クライアントから直接依頼があったのか?自主プレしたのか?などよく聞かれるので、そこからお話ししたいと思います。この仕事の発端は、少々変わったものでした。
ある地元の同級生と東京で飲んでいたときのこと。

「本当は英語の先生になりたかったんだよなぁ」

という言葉を耳にしました。ちなみに彼は今、民間企業の営業職。
宮崎県は民放2局ですし、小林市に至っては最近になってやっと専門学校ができたくらいです。僕らのまちは極端に情報が少なく、当時高校生だった僕らにとって、進路や就職先を検討するための選択肢はあまりにも少な過ぎたのです。

そこで、彼が好きな仕事に就かなかったことが良いか悪いかは別として、若いうちに何かに興味があるならば、関連する情報や周辺の仕事を知っておくことは大事なのではないかと思ったわけです。

僕は、地元の若者に少しでも有益な情報を共有することができないだろうか?と勝手にチャンスをうかがい始めました。例えば「世の中にはこんな仕事もあるんだよ〜」というような話をしてあげられれば、何か変わるんじゃないか…みたいなことを、ひとりで妄想したりしていました。

ただ、何の実績もない僕なんかの話に誰も耳を貸してくれるはずもないので、まずは何か自分を売り込むニュースがないかと模索する日々が続きました。

のどかな小林市の風景
 

そんなある日、とある海外のアニメーション映画祭で賞を頂くことができ、アメリカに移住した大学時代の後輩に報告したところ、「そういうのはメディアや自治体にちゃんと言わないとダメ」と何ともアメリカ的なアドバイスをもらい、それをネタに地元とつながりをつくろうと思い立ちました。

とりあえず、片っ端から市役所、県庁、テレビ局、新聞社に電話し、受賞をニュースにしてもらえないかと相談しました。そこで、市役所からもレスポンスを頂くのですが「電通みたいな会社がうちに電話してくるなんてあり得ない。きっと何かの営業だ!」と、初めのうちはかなり怪しまれていたそうです(笑)。

最初は疑っていた、小林市役所地方創生課の柚木脇さんと鶴田さん(お二人ともとてもいい人です)
 
 

それから間もなく地元の高校のOBだよりに寄稿する依頼を受けました。自分の思いを正直につづったところ、ようやく信用していただけたようで「今度まちのPR動画をつくろうと思っているが、監修してもらえないか?」という依頼を受けることに。限られた予算で、年間5本の制作。さすがに金額がハマらなそうだったので、4本に減らすことを勧めました。そして、1本目は、総務省主催の全国移住ナビにエントリーするための「移住促進」の動画ということでした。

いろいろ悩みましたが、結局稼働のしやすさなどを考え、ボランティアでなく会社で仕事として受けることを提案しました。

そして、その少し前に小林市役所職員の方々のつくったポスターがネットでにわかに話題になっているのを目にしていました。その時、「この人たちとなら何かやれるかも」という直感が働いたことを記憶しています(前回も触れましたが、実際に小林市の職員の方々は、ネットリテラシーとモチベーションが非常に高かったのです)。

 

アイデアはありきたりだったけど

 

動画を見られた方ならご存じかと思いますが、「誰もが必ず2度見る動画」としてバイラルしたこの動画、アイデア自体は決して目新しいものではありません。

古くから外国語と似ていると言われた方言は、津軽弁をはじめ至るところにあるものです。また、そういったCMもコントもたくさんあります。わが故郷小林市も、その立地からか薩摩弁をベースとしながらも宮崎弁の要素もあるという、なかなか特殊な言語性を持ち合わせていました。

事実か定かではありませんが、一説によると、その地域でよそ者かどうかを判別するための言語として、わざと難解なイントネーションに進化したのだともいわれています。

今となっては笑い話ですが、学生の頃、都会に出ていったほとんどの友人たちは、至る場面でその方言をフランス語に似ているなど散々イジられたと言っていました。もちろん僕自身も市役所の方々も例に漏れず同じ体験をしています。アイデアのヒントはそんな若い頃の苦い思い出だったりします(笑)。

実は、初めは小林市にまつわる面白い数字を取り上げたインフォグラフィックスをつくろうという企画があったのですが、予算的にも時間的にも全然ハマらない。では、実写を背景に数字やあるあるを乗せようというアイデアにたどり着きます。しかし、もうひとひねり欲しい。そこで西諸弁(小林市周辺の方言)がフランス語に似ていることを逆手に取った空耳ムービーを思いつきました。「ほとんどが森林なのに、“小”林市…」のフレーズは、緑の割合をインフォグラフィックスで表現しようとしたネタの名残だったりします。

全てを想定しスムーズにあの企画を生み出せたわけでは決してなく、実際はかなりの曲折を経て最終的な形に落ち着いたという苦労のたまものなのです(計画性がないともいいます)。

それから、さまざまな「あるある」を市の職員の方々にヒアリングしていきました。
「トラクターで渋滞」「星がキレイなのにプラネタリウムがある」は、地元の人々ならではの視点から。「ペットボトルの水がコンビニに売っている」は、実際に福岡の大学に通っていた頃、水源地が小林市のペットボトルを買った体験が生きています。「この間まで、この水を風呂に使っていたのに、この量で200円…!?」と驚いたことを覚えています。

みんなでまとめた小林市あるある
 

ひたすら仮説と検証

アイデアやネタはなんとなく決まったので、後輩の村田くんに字コンテを書いてもらったところ、ラストに小さく「西諸弁の字幕が出せるようになっていたら面白いかも」と書いてあったんです。これが、成功のカギでした(出し方もミソでしたが)。

次に「本当に空耳するほど似ているのか?」。僕らは、テスト収録を行うために、日本文化に精通した日本語とフランス語のバイリンガルのナレーターさんに相談し、方言をフランス語っぽく読んでほしいという無茶振りをします。しかし、このナレーターさんがかなり勘の良い方で、一気に実現性が高まりました。
 
本邦初公開!検証に検証を重ねた原稿の一部
 

初めは、徐々に方言であることがバレていくような構成を想定していたのですが、実際に本収録に入ると、そううまくいかないことが分かりました。ならば、いっそ最後まで空耳させて、最後に大きな裏切りがある企画はどうか?という方向にシフトします。録音スタジオでは、市役所の方とチャットをつなぎ、地元友人にも立ち会ってもらい、よりミスリードを誘う語順や言葉選びなど、フレキシブルに方言を修正していきます。「遠えも遠え」は「トワ・エ・モア」みたいに読めますか?(僕らは真顔)などと、次々と無理難題をナレーターさんに突きつけることになります。最終的に6時間の収録を終え、素晴らしいナレーションを録ることができました。

字幕の扱いはかなり議論しましたが、これをオマケみたいにするのではなくメインに据えることで「答え合わせ機能付き空耳コンテンツ」になるので、きっとメディアの人も取り上げやすいだろうし、人が人に伝えるときの安心感も増すだろうと考えました。コンテンツをシェアしてもらう上で、納得性が高かったり、裏付けがあるということは大変重要です。「本当に方言なんだ!」ということが証明できれば、見た人に「分からなかった」とか「時間を返せ!」などと思われることもないため、人に勧めやすいはずなのです。

2回目に答え合わせができると、シェアの可能性が高まる
 

本編集後、市役所の方に許可を取った上で、数十人の知人に動画を見てもらい率直な感想をもらいました。一番多かった問題は、「裏切りに気付いたがあまり驚かない」「字幕の誘導にそもそも気付かない」の2点でした。

そのため、本編集は2回行っており、字幕への誘導の修正などかなり緻密に行いました。
YouTubeの字幕表示の言語として「フランス語」を選んだのも、なるべく自然に選択させたいからです。

ちなみに、ラストの「じょじょんよかとこ、住んみやん。」というコピーは、実はキャッチという位置付けではありません。これは、一番最初に視聴者が出合う“西諸弁の字幕”なのです。「ここまで西諸弁でしゃべっていた」というネタバラシの直後に、初めて方言のナレーションに標準語ではなく“方言の字幕 ”が付く。こうすることで、1回目の視聴でダメ押し的に裏切りに気付いてくれる可能性が高まる。そう考えました。そのため、「じょじょん」「〜みやん」といういかにもフランス語にありそうな音の言葉をセレクトすることにしたのです。

世の中視点でアウトプットを逆算

 

ウェブの仕事を長くやっていると、低予算案件のほとんどの場合、リーチが確約されていないため、「どうやったら多くの人に見に来てもらえるか?」の工夫を迫られることが多くなります。バイラルを目的にするのではなく、手段としてバイラルを選択せざるを得ないわけです。前述の字幕のアイデアの扱いに関しては、見た人がどんな気持ちになりどう行動するか?を徹底的にシミュレーションし、世の中視点で考えました。

企画は比較的平凡なものでしたが、世の中視点を意識しながらアウトプットをつくっていくと、至る所にエグゼキューションの質を上げる「チャンス」が隠れていることに気付きます。「方言の空耳企画」を考えただけで満足し、視聴者やメディアのことを深く想像していなかったら、ここまで見てもらえるものにはなっていなかったと思います。

最近では主流となっている海外メディアへのプロモートも一切やめることにしました。英語字幕設定の選択肢を一つ増やすだけで動線上の混乱を招き、フランス語字幕をオンにしてくれる視聴者がかなり減ってしまうことを懸念したからです(現在は英語字幕も実装済み)

「ンダモシタン小林」リリース
 

そして、何より「誰もが2度見る」というリードコピーをリリースに据えたことがもう一つの成功のカギだったと思います。ウェブ動画はシークバーをコントロールして何度も見ることができますが、逆に離脱も容易に起こります。リードであおることで、視聴者はとりあえず最後まで付き合ってくれるわけです。

また、映画にも多いですが「目の前に答えがずっとあったのに気づかなかった系」のコンテンツは、視聴者に「もう一度初めから見たい」という気持ちをほぼ100%引き起こさせるはずなのです。

さらに、一人の視聴者に複数回見せることが可能となれば、再生回数をいち早く稼ぐことができ、メディア的にも人気の動画として取り上げやすくなります(連続視聴は仕様上カウントされないとしても)。

 

この仕事の背景を通して伝えたいこと

 

「ンダモシタン小林」がうまくいったおかげで一応の面目は保たれ、念願かなって2016年2月に母校である宮崎県立小林高校で講演をさせていただくことができました。テーマは「大人と仕事(と、ちょっとだけ夢の話)」というものでした。

どれほどの生徒にとって将来について考えるきっかけになったかはいささか不安ですが、まあ楽しんで聞いてもらえたような気がしたので良しとします。

2016/2/12 宮崎県立小林高校で
 

なぜ今回事細かにこの事例の背景を語ったかというと、この仕事を通して、地方創生というものは「情熱」や「地元愛」がないと到底無理だなあと改めて思ったからです。多くの場合、予算的にも距離的にも時間的にもかなりハードルの高い課題を抱えることになると思われるので(もちろん、そうでないケースもたくさんあると思います)。そして、そのきっかけは一つの怪しい電話だったりもするわけです。

僕の場合は、冒頭に書いた友人の一言から「地元の高校生たちのために何か…」と思ったことがきっかけだったわけですが、その情熱は紛れもなく僕の勝手ともいえる地元愛から生まれたものです。

今、小さな自治体の仕事を優秀なプランナーの方々が手掛けるようなケースが増えてきていることはとても喜ばしいと思う一方で、一発花火を上げるだけでなく継続的にそのまちのプロモーションに関わっていくことがもっともっと定着していくといいな、と思っています。

特に福井県大野市の「大野へかえろう」の取り組みは大好きです。一発花火を上げるのではなく、地元出身のスタッフもチームに巻き込み、数年かけて継続的な取り組みをしていて理想的だなと思います。コミュニケーションターゲットを完全にインナーに振っているのもステキです。小林市もインナーの視点は大事にしているので。

一貫したメッセージで密度の高い取り組みを実践し続けている大野市の「大野へかえろう」
【オフィシャルサイト】http://www.return-to-ono.jp/
【関連記事「大野へかえろう 〜とある盆地の地方創生〜」】http://dentsu-ho.com/articles/3864
 

地元出身だからこそ分かるローカルネタや市民性など、地域おこしに有効な材料はたくさんあります。
例えば僕の場合は、方言をイジられた思い出や、地元の水が有料で売られていたことなど。世の中の人の興味を強く引くようなヒントは、地元で長い時間を過ごした者にしか分からない体験の中に隠れているのかもしれません。

次回は、自治体との仕事の進め方についてお話しします!

プロフィール

  • Ochi kazuyoshi pr3
    越智 一仁
    株式会社電通 CDC/Dentsu Lab Tokyo コミュニケーション・プランナー

    小林市出身。電通入社後は、営業、コピーライター、CMプランナーを経て現職。得意領域はデジタル・クリエーティブ全般、特に映像を軸としたシェアラブルなコンテンツ企画やコミュニケーション・プランニング。手掛けた作品が国内外で多数受賞。

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