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ADFEST 2017 REPORTNo.2

ADFESTの受賞者・審査員に聞く「サステナブルなキャンペーンを作る方法」

2017/04/11

初めまして。電通でコミュニケーションデザイナーをしております、北恭子と申します。日頃は、「行動を起こしたくなるか」という視点を大事に、コピーを書いたり、キャンペーン企画をしたり、商品企画をしたりしています。

今回、3月22~25日にタイのパタヤで行われたアジア太平洋広告祭(ADFEST)に行ってきました。
そして、受賞者や審査員に「サステナブルなキャンペーンをつくる方法」について、インタビューをしてみました。

 

Why:なぜサステナブルなキャンペーンに注目したのか?

商品企画/プロダクトデザインを勉強していた学生時代は、できるだけ「長く愛される製品のアイデア」を考えていました。

そして「社会課題を、デザインやアイデアの力で解決すること」を目標に、今の会社に入社しました。無垢な学生時代に、「世の中の深刻な問題も、社内外のパートナーと協力し、大きな企業のビジネスになれば、解決できるかもしれない」と思ったからです。

広告キャンペーンでは、「ソーシャルグッド」として社会課題に根差したものが度々あります。しかし、とても大きなビジョンを掲げているのに、あっという間に別のキャンペーンを始めてしまうことも…。

それって、「僕は今、児童虐待の問題に全力なんだ! あ、でも来年は女性の社会進出に本気で取り組むよ!」と言っているような、「本当に本気なのかよ!」と疑いたくなってしまうようなこと。

だからこそ私は、ただ受賞するだけではない、来年も続けていけるプロジェクトについて、受賞者・審査員にこんな質問をしてきました。

 

Question:

「どうやったらそんなにすてきなアイデアをつくれるの?」
「来年どうやって続けるの?」

 

この質問に対する、三つのインタビューを紹介したいと思います。

Answer01:adidas  片足の靴

最初のインタビューは、フィルム部門のブロンズ、プロモ部門でゴールド、インテグレーテッド部門でグランプリを受賞した「adidas odds」の企画者です。

(左)タプルート電通 Santosh Padhi氏
 

オリンピック・パラリンピックのシーズンに、インドで行われたアディダスのキャンペーンで、タプルート電通のSantoshさん(写真左)は一人のドラマチックな人との出会いから、このアイデアを発想しました。

Santosh:ある兵士が戦場で片足を失い、医者に「君はもう歩けないよ」と言われた。
でも彼は「いや、僕は走りたいんだ」と言ったんだ。
強靭な精神を持っていたその兵士は、寝る間も惜しんで、皮膚がすれてなくなるほどに走り続けたんだよ

今ではインドの“ブレードランナー”となった、メージャー・DP・シン氏を見て、Santoshさんは「odds(オッズ)」という片側の靴が2足入った商品を考えました。義足だと使わないもう片方の靴が、いつも捨てられていたからです。oddsは特別な商品ですが、通常の商品とほぼ同価格で販売しているそうです。

「adidas odds」作品ボード
 

審査員のSubhash さん(写真中央)になぜ、oddsを選んだのか聞いてみました。

(左から)北恭子 Subhash Pinnapola氏  Santosh Padhi氏
 

Subhash:ただの広告じゃなく、businessのアイデアだったから選んだ。
odds以外は、いつもの広告のアイデアだった。とてもシンプルで、魔法のようなアイデアだよ。

しかも、この商品を展開している5〜6週間で、普通の靴の売り上げが24%も上がったそうです。
でも1回で終わっては意味がありません。来年も続けるのでしょうか?

Santosh:ワールドワイドに続けるよ、ストーリーのある人、特に若い人に使ってもらうために。既にインドでは実際に販売をしていて、今後は他国でも展開していくつもりだよ。

他国でも続くキャンペーンには、oddsのような、強いストーリーと課題感を持ちながらも、シンプルなソリューションであることが重要だと思いました。そして、この商品を発売したという事実が、adidasがすべてのスポーツを楽しむ人を応援していると強く印象付けるコミュニケーションとなっているのですね。
より詳しい内容は、こちらをご覧ください。

 

Answer02:YMCA 親子でフィットネス

サステナブルなキャンペーン、二つ目のインタビューは、デザイン部門でシルバー、プロモ部門でゴールドを受賞した「YMCA のPLAYNASIUM」です。1844年から続くYMCAは、心身共に健康になるためのアクティビティーを提供し、バスケットボールやバレーボールを生んだ公益団体です。
企画者である、McCANN MelbourneのPat Baronさんにインタビューをしました。

Pat:YMCAは若い親との関わりを持ちたかった。
若い親たちは小さな子どもがいることで、なかなか運動ができないからね。
僕らはまず、若い親たちに集まってもらって話を聞いた。
そこで、エクササイズしながら、親と子どもがアイコンタクトできたらというアイデアが生まれたのさ。事実に基づいたアイデアで、ピュアでリアルなものだった。

このアイデアを元に、Patさんは親がフィットネスをしながら子どもと遊べる遊具をつくりました。ローンチまではたったの5カ月だったそうです。

「YMCA PLAYNASIUM」作品ボード
 

同じく、審査員のSubhashさんに、評価のポイントを聞いてみました。

Subhash:なんてすてきなプロモーションなんだと思ったよ。
幸せとフィットネスが共存している。
僕らのバランスのとれた人生には、どちらも必要不可欠だよね。

一目で良いと思える、文化を超えて共感できるアイデアだったのですね。
しかしこれは続けていけるのでしょうか?

Pat:来年も続けるよ。YMCA自身がとても好きなアイデアだったからね。
続けたいと言ってくれている。ジムや公園にこれをつくれば、YMCAは若い親とコミュニケーションができる。オーストラリア以外でもやろうという話が持ち上がっているよ。

これからどんどん広がっていきそうですね。「クライアントが自ら進めたいアイデア」という点が、続いていく秘訣ではないかと思いました。

 

Answer03:Thai Health  油を取りすぎないお皿

サステナブルなキャンペーン、三つ目のインタビューは、プロモ部門でシルバー、ダイレクト部門でゴールドを獲得した「Absorbplate(アブゾーブプレート)」です。

タイの健康推進財団は、健康啓発や健康に関するリサーチを行っていて、国民に健康意識を持たせることもミッションの一つでした。

そこでBBDOバンコクのPitha Udomkanjanananさんは、タイの脂っこい食事に目をつけ、表面の小さなくぼみで、料理の油を落としてくれるお皿をつくりました。

「ABSORBPLATE」作品ボード
 

すてきなアイデアですが、広まらなければ意味がありません。
どのくらいつくったのか、聞いてみました。

Pitha:最終的には1万枚作ったよ!最初はお店とかにプロモーションで配ったんだけど、欲しいという人からたくさん問い合わせが来たから、追加でつくったんだ。
今は製造会社も決まっていて、ヨーロッパから権利を買いたいって連絡も来ているよ。

油を少しでも取らずに済むなら、使い手にとってはうれしいですよね。
国を問わず生活に馴染むプロダクトであったことが、続く秘訣のようです。
審査員のJerkerさんに、評価のポイントを聞いてみました。

DIRECT&PROMO審査員 Jerker Fagerström
 

Jerker:とても大きな問題を、シンプルなソリューションで解決している。
たくさんの人の生活にとって、意味のある製品だよね。

大きな問題を解決するには、それ相応のことをやらねばと肩に力が入ってしまうものですが、このギャップに驚きがあったのですね。
ちなみに予算やスケジュールはどうしたのでしょうか? 企画者に聞いてみました。

Pitha:5カ月でローンチしたよ。予算は少ないよ。日本に比べたら、そりゃあもう!
ただのお皿だからね、たくさんつくるのにそんなにお金はかからなかったよ。

低予算・短期間でこんなにすてきなプロダクトを作った同世代のPitha。
その姿に私もアイデア次第では、暮らしを良くするプロダクトがつくれるかもしれないと、勇気づけられました。

ここまで三つの事例とインタビューをご紹介しましたが、後半ではもう少しエッセンスに近い、こんな質問をレジェンドチーム、審査員チームに答えてもらったので紹介します。

 

Question:「広告ってキャンペーンが変わり過ぎだと思うんだけど、どうしたらサステナブルなキャンペーンをつくれると思う?」

 

Answer:レジェンドチームのアンサー

ADFESTでは、これまでの活躍をたたえて毎年レジェンド・ロータスが選出されます。今年のレジェンドは、BBDOバンコクのSuthisakさん。

(左)Suthisak Sucharittanonta氏
 

彼の答えは、

Suthisak:良いアイデアの秘密はチームワークだよ。
そして、驚きのあるもの、見たことないもの、心に訴えてくるものを選んでいる。続けるためには、情熱を絶やさずにいること!

その「チームワーク」について、レジェンドチームのお一人、Larpさん(写真中央)に、もう少し詳しく、日頃のプランニングプロセスについて伺ってみました。

(中央)Larp Larptanunchaiwong氏 (最上部)Win Vachira氏
 

Larp:僕らはクリエーティブが30人しかいないから、月一で集まって、お互いが今抱えている案件について意見を出し合うよ。時には他のチームが、別チームの案を選ぶこともある。
みんなの頭を使って、アイデアをブラッシュアップする。そこにはいつもSuthisak (今年のレジェンド)がいて、アイデアのかけらを魔法のように素晴らしいアイデアにしてくれたりする。

なるほど、企画力のある第三者の力を借りて、プロジェクトをシンプルに強くしていっているのですね。

そして、今回聞いた中で、一番地に足の着いた(と感じた)アンサーをくれたのは、このレジェンドチームにいた、同世代のコピーライターWinさん。彼は25歳ですが、21歳にはもう大学を卒業し、BBDO バンコクで3社目だそうです。

Win:サステナブルなキャンペーンをつくる方法は、コカ・コーラのShare a Cokeのような「クライアントのアイデンティティーに完璧に合った、強いタグライン」をつくること。
そしたらどんなキャンペーンも同じ考え方でつくれるよね。
それが強くサステナブルなキャンペーンを生むコツだと思う。

クライアント含めチームの指針となる考え方が、一言で定まっていれば、ブランドもキャンペーンも続いていくということですね。

 

Answer:審査員・審査員長の答え

最後にダイレクト・プロモ部門の審査員であるJerkerさんと、審査員長のTed Royerさんにも「どうしたらサステナブルなキャンペーンがつくれるか?」を投げ掛けてみました。

Jerker:クライアントにアイデアをすっかり渡してしまえばいい。クライアントがやりたいこと、続けたいこと、つくりたいもののアイデアをね。ビジネスアイデアのようなもの。

でも、それはただのプロダクトではなく、ブランディングと共存しているものでなければならない。
だって、どんなに良い機能を考えても、良いものはすぐコピーされてしまう。

コピーされた安いサンダルでも、機能はほとんど本物と変わらないと思うよ。
だからこそ、ブランディングが大事。ほとんど同じ機能でも、僕らは本物の高いサンダルを買うじゃないか。

 

(右)Ted Royer氏 
 

Ted:キャンペーンがすぐに変わってしまうのは、この業界の大きな問題だね。
でも、情熱を絶やさず、自分のクリエーティビティーに正直に。
僕らの中にも、それをやってのける人はいるんだから。

良い質問をしてくれてありがとうと言いながら、見ず知らずの私の話を真剣に聞き、勇気づけてくれたTedさん。作り手のプロとして大事な心構えを伺えました。

多くの方のご厚意により、今回このレポートができていることに感謝し、サステナブルなキャンペーンをつくること、そして社会課題をデザイン/アイデアの力で解決していくことに、微力ながらも貢献できたらと思いました。