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Haneda Robotics Lab羽田空港ターミナルビルロボット実証実験No.1

複数のロボットの実証実験を公共空間で行う意義と意外な成果とは?

2017/04/24

日本空港ビルデングと電通および電通国際情報サービスは、「Haneda Robotics Lab」を設置し、ロボットの技術検証を目的に「羽田空港ロボット実験プロジェクト」を開始、幅広いロボット事業者に空港内で実証実験の場を提供しています。本プロジェクトは、経済産業省「ロボット導入実証事業」を活用し、政府が進める「改革2020」プロジェクトの実現に向けた取り組みとして、国土交通省及び経済産業省と連携して実施しています。第1期(2016年12月15日~2017年2月13日)は羽田空港国内線第2旅客ターミナル出発ロビーで17社のロボットの実証実験が行われ、大きな注目を集めました。今回は日本空港ビルデングの志水潤一氏に、電通の中嶋文彦氏が、実証実験の目的や、その可能性について聞きました。

(左)日本空港ビルデングの志水潤一氏、(右)電通の中嶋文彦氏
(左)日本空港ビルデングの志水潤一氏、(右)電通の中嶋文彦氏

羽田空港と電通グループがHaneda Robotics Labを始動させた経緯

中嶋:日本空港ビルデングでは、元々ロボットの活用に興味を持っていたのでしょうか。

志水:以前から労働力の確保はわれわれの課題で、いろいろな人が集まってくる空港で24時間365日の労働をどう支えていくか、常に考える必要があります。羽田空港は、世界の空港のサービスを評価している英スカイトラックス社の「Global Airport Ranking」で毎年世界最高水準の「5スターエアポート」を獲得しています。清掃の行き届いた清潔さや接客・応対が大きく評価されての受賞なのですが、今後、旅客数が増えていけば、さらに多くの労働力が必要になり、国際線が増えていけば、これまでのようなサービスを維持するだけでは外国のお客さまの満足を得られなくなるという危機感があります。

われわれの中期経営計画でも、5スターエアポートを獲得し続け世界で一番選ばれる空港になることを掲げていますが、選定基準も年々厳しくなることが想定される中で、時代の流れに合わせた新しいサービスを提供し、不十分であったサービスを改善していく必要が出てきます。しかし、現状ではそのような余裕がなく、将来的なサービスレベルの低下を懸念していました。ロボットがこれらの解決に100%寄与するとは考えていませんが、中長期的な視点では、ロボットの活用を模索することで労働力とサービスの課題を一部でも解決していく必要があると考えていました。

中嶋:今回のプロジェクト以前にも、実証実験がありましたね。

志水:自律走行方式の清掃ロボットを一部エリアで使ったことがありました。また、巡回案内を行っているコンシェルジュを立ち乗り型の移動支援ロボットに乗せて実証データを集めたり、航空会社とともに電動車いすを館内をくまなく走らせて検証したことがあります。

内閣府による「戦略的イノベーション創造プログラム」をベースに、大田区や東京工業大学とともに、店舗商品搬入用の台車の代わりとなるオリジナルカートの開発も行っています。実証導入から正式導入につながったケースとしては、リムジンバス乗降場で長時間にわたり荷物の積み降ろしを行っているスタッフをサポートするために、腰の負担を減らすロボットスーツを試したのですが、結果的にわれわれを介してリムジンバスを運行する東京空港交通様が昨年11月から10台を導入しました。

もともと、空港従業員が健康上の理由によって退職することを避けたいという思いがありました。熟練したスタッフが辞めた後、新たな人材を一から教育していくということを繰り返すのではなく、体の負担を軽減する仕組みを提供して、より長く働いていただけることを考えました。ただし、これらは全て独立したプロジェクトでしたので、グループ会社も含め組織横断的に持続させることに大変苦労しました。

中嶋:個別で考えるのではなく、さまざまな人や企業を巻き込んだ、大きなプロジェクトとして動く必要があると考えたのですね。

志水:個別で行うだけでは間に合わないということを直感的に感じていました。日本空港ビルデングでは、ターミナルビル内で話題のブランドを発信するスイーツのセレクトショップ「羽田スタースイーツ」を展開しているのですが、ロボットについても同じような仕掛けで情報発信を行えないかと思ったのです。日本政府の「改革2020」プロジェクトとしても、ロボットなどの先端技術を使って、もう一度日本の産業を盛り上げたいという意向があり、日本の玄関口としての羽田空港でロボットをショーケース化していきたいという考えがありました。今回の実証実験は、その一連の流れとして「改革2020」プロジェクトの実現に向けた取り組みの一つとして位置付けられ、国土交通省・経済産業省との連携のもと、取り組みを始めました。

(左)日本空港ビルデングの志水潤一氏、(右)電通の中嶋文彦氏
(左)日本空港ビルデングの志水潤一氏、(右)電通の中嶋文彦氏

官民連携の「オール羽田」で世界に発信していく

中嶋:われわれのチームは元々、ロボットやIoTなどのテクノロジー系の事業開発やクライアント企業のイノベーション支援を行っていました。プロダクト開発やコミュニケーションロボットの開発に携わっているという、電通の中でもユニークなチームなのですが、ご縁があって日本空港ビルデングとつながり、テクノロジーを使ったイベントや事業企画に参画させていただいています。このような経緯で、Haneda Robotics Labを始動となりました。Haneda Robotics Labという事務局が生まれた経緯を教えてもらえますか。

志水:よく「オール羽田」という言葉を使うのですが、われわれのようなターミナルビル会社が空港の中で新しく単独で物事を進めようと思ってもなかなかうまくいきません。関係官庁や羽田地区で事業展開している事業者との連携が重要で、今回のプロジェクトも官民連携で、国土交通省、経済産業省との連携をしながら、航空会社などのユーザーの協力のもとで行われています。その中で、「羽田」の存在価値をもっと強く打ち出したいと考えました。

1年弱くらいの立ち上げ期間があったのですが、電通さんとディスカッションしながらプロジェクトの価値や内容を整理していきました。日本中にある優れたロボットや将来性のあるロボットを、もっと羽田空港という舞台を使って日本中や世界中に発信したい。それにより実証実験が加速し、ロボットに関わる人たちのビジネスがマッチングし、世界に打って出るチャンスが増える、そうした役割を果たしたいと考えました。

中嶋:電通がLabという名前を提案したのは、継続的な発信拠点としていくということを考えたからです。Labでさまざまな人がやりとりしながら、次々とロボットを生み出していくというイメージで、ロボットベンチャーも応募しやすく、継続的な発信をしたいというコンセプトがあります。

今回のプロジェクトは、官民連携で日本政府の「改革2020」プロジェクトをベースに、空港という非常に目立つ公共施設で行えたことが波及度の大きさにつながっていると思います。大企業とロボットベンチャーの両方に価値のあるプロジェクトとして取り組みました。複数のロボットの実証実験を、人がいる公共施設で同時に行えたことは非常に大きな意味があり、その結果多数のメディアに取り上げられました。

(左)日本空港ビルデングの志水潤一氏、(右)電通の中嶋文彦氏
(左)日本空港ビルデングの志水潤一氏、(右)電通の中嶋文彦氏

案内ロボット同士が会話をしながらお客さまを案内

志水:今回採択された17社(チーム)はそれぞれ独自の技術を持っていて、事業者同士でお互い交流できたことも大きな成果だと思っています。空港のオペレーションが分からずに事業者が悩んでいるのを見ることで、われわれと違った視点があることに気付き、事業者に提案することで新しい発想・コラボレーションが生まれたことも数多くあります。空港のオープンな環境で使ってみることで、ロボットが作られた従来の目的とは違う使い方が見つかったこともありました。

興味深かったのは、ロボット同士が連携して何かできないかという発想が生まれたことですね。これまでは、事業者もわれわれも一つのロボットで何ができるか考えていましたが、公共空間で実験することで事業者の垣根を越えることができたのだと思います。案内ロボット同士が会話をしながらお客さまを案内するという光景は、展示会やイベントではあり得なかったもので、ロボット同士で連携しようという提案もありました。

中嶋:ロボット同士の業務の引き継ぎということもありますね。清掃ロボットが警備ロボットに情報を引き継ぐなど、大きなユニットでのロボットエコシステムもできると思います。言われてみると、そのような世界は簡単に想像できますが、これまでそのような場を誰も見たことがなかった中で、実際に連携を考えられるようになったことも、今回の実証実験での成果のひとつだと思います。これによって、新たなビジネスや取り組みが生まれれば、今後のHaneda Robotics Labの活性化につながると思います。

志水:ロボットの特長を生かしたサービスが考えられますね。コミュニケーション力が高い案内ロボットに、お客さまからレストランについて問い合わせがあり、お勧めのレストランを紹介して予約まで完了する。巡回コンシェルジュの手が空いていなくても、誘導案内ができるロボットが引き継いでお客さまをご案内できれば、切れ目のないサービスをロボットで実現できると話したこともありましたね。

ロボットは代用で、人が行うサービスに勝るものはないと今でも思っていて、より人に近い形のロボットの方がお客さまの反応が良いと想定していたのですが、人の形に近いとかえって距離を取る人が多く、ロボットっぽい形で曲線がある方が親しみを持たれやすく気軽に声を掛けられやすいというのは意外でしたね。また、ビデオ通話でオペレーターと会話できるロボットの場合も、実際の人よりもロボットの映像にした方がお客さまに受け入れられやすかったということも、やってみて気付いたことでした。

中嶋:われわれのチームも、Human Machine Interfaceの事例検証を重ねています。そうした意味でも、多くの人が集まる空港という場所での人々の反応は興味深いですね。いわゆる「弱いロボット」の方が話し掛けやすく、ロボットの不完全な部分を補ってあげようという心理が働き、人間に対しては人間として振る舞う必要があると緊張してしまう場合もあります。今後、積み上げていく必要がある分野だと思います。