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対談「2013年話題・注目商品」

消費の深層トレンドから見えてくること

第1回

2013/12/18

    「消費者が2013年の話題・注目商品ランキング」 消費の深層トレンドから見えてくること

    「多難な時代を生き抜くには“成功体験”が絶対に必要だ」

    「2013年の話題・注目商品」リポートをまとめた電通総研の袖川芳之研究主幹が、消費社会分析の第一人者である三浦展氏を招いて、同リポートで明らかにしたキーワードへの感想・意見を聞くと共に、そのキーワードから見えてくる「日本のこれから」について議論を交わした。3回にわたってお届けする。

    【第1回】 消費者は「場所性」を求めている

    袖川: 「消費者が選ぶ2013年の話題・注目商品」ベスト20をご覧になって、全体的にどのような感想をお持ちですか?

    三浦: 今年はアベノミクス効果があり、東京オリンピック招致も決まり、若い世代が初めて社会的な目標を持った。確かにバブル崩壊以降、いやそれ以前から、広く国民が社会的な目標を持つようなことはなかった。社会的な目標を持てる喜びがようやく芽生えたといった印象です。

    人は、目標があれば、それを実現するための方策を考えます。リポートで五つのキーワードの中で提示されている「手が届く未来」につながる話ですが、これを達成するにはこうするべきといったプラクティカル(具現的)なものへの志向が高まる。だから、ヒット商品を見ても、世界一高いとか、100円でこんなにおいしいコーヒーとか、非常に分かりやすいものが多いですね。

    「話題・注目商品」と共に発表された「消費者が選ぶ2013年の時事・世相ベスト10」には3位に東京オリンピック招致が入っていますね。ということは、「商品」にランクインしている「東京スカイツリー」と「東京駅」を合わせると、いわゆる「東京もの」が三つある。

    袖川: 確かにそうですが、東京が注目された裏には、地方からの応援もあります。東京スカイツリーは2011年が3位で、昨年が2位。順位が徐々に上がってきて、今年ついに1位。地方では東京観光キャンペーンなども盛んで、この東京スカイツリー第1位の原動力は地方票ではないかと思っています。

    三浦: その「地方」ということに関連していえば、今の消費者は「場所性」へのこだわりが非常に強いように思います。ランキングを見ても「東京もの」以外に、確かに「地方もの」がいくつかある。この場所で何かしたい、何かするなら本格的な場所でやりたい、あるいはその土地で一番おいしいものをその場所で食べたいといった、「場所」にこだわる意識が透けて見えてくる。SNSが普及して、個人が発した情報で、「あそこでこういうイベントがある」と分かると、遠い所でも結構すっと行ったりするのも、場所性を求めているからでしょう。

    袖川: 場所性へのこだわりにひと役買っているのがSNSなのでしょうか。

    三浦: 今この瞬間にも、SNSで「今度の土日にパーティーするよ」とか「知り合いが写真展を開くから見に行こうよ」といった情報が拡散しているわけですね。例えば拡散する話題が3000あったとして、それぞれに10人が行動を起こしたら全部で3万人。その3万人って、昔の渋谷の公園通りを土曜日の午後に歩いている人くらい規模でしょう。今は、そんなふうに大きな拠点に一気に人が集まるのではなく、個々の人が、個別な場所に分散する形で、場所性へのこだわりが満たされている。

    シニアを狙うと、ミドルもヤングもついてくる

    袖川: ランキングで、他に感じたことはありますか。

    三浦: 車の話題が2位と5位に入っていますが、私の最近の分析だとこれまで世間で言われてきたほど、若い人の購買意欲がないわけではないですね。ただ、かつてと嗜好(しこう)が変わってきているのは確か。安さ志向があったり、環境技術にも関心が高い。これは若い世代も、女性も支持しやすいテーマなので上位に来たのだと思います。

    それから、全体的に見て、企業がシニアを狙っているのを感じます。塩麹、プレミアム、特保、東京駅といずれもシニアっぽいものが多い。若者向けなのは、LINEくらいでしょう。パラパラマンガも、若者というより中高年受けしている印象があります。(※電通総研注 鉄拳「パラパラマンガ」は50代女性では5位でした)

    食べ物で言えば、例えばあるブランドのいわしの缶詰などは薄味で、非常に健康志向のシニア狙いだし、実際CMにも70歳くらいの夫婦が登場していますね。

    ただ、シニア向けといっても、いかにもおじいさん、おばあさん風ではなくて、おしゃれなアクティブシニアです。そんな現代的なシニア像を前提にものをつくると、ミドルもヤングもついてくるのが昨今の傾向です。シニア向けにつくれば健康的で、価格も低価格。その割には質が良かったり、使いやすかったり、安全だったりする。

    袖川: それはおもしろい視点ですね。

    三浦: 昔の若者は「刺激のある酒がいい」「強い酒が好き」などと言ったけれど、今の若者は好みが穏やか。車もお酒も、シニア向けとされていたものの方が自分の嗜好に合う。つまり、年齢の差がなくなってきているわけです。加えて、男女間の差もない。ウェア一つとっても、ノンセックス・ノンエイジ。シニアの男性は若者化し、若い男性は主婦志向になり、中年男性はかつての女性のように「おうち」志向。一方、ミドルとシニアの女性は、男性顔負けに外へどんどん出ていく。つまり相対的な差異がなくなり、混沌(こんとん)として一点に集約されてブラックホールに吸い込まれていくような感じです。

    袖川: コンバージェンス(収斂・しゅうれん)していくイメージですね。

    三浦: だから、その最大公約数を考えれば、実はものがつくりやすい時代だともいえる。それをうまくやったところが、メガヒットを生むわけです。

    袖川: 今年のヒット商品には、その最大公約数がありそうです。そうすると、プレミアム志向の商品などは、これからもまだまだ展開がありそうですね。

    三浦: つくれる商品はたくさんあると思いますよ。

    第2回へ続く 〕


     

    三浦 展

    (みうら・あつし)
    カルチャースタディーズ研究所主宰
    1982 年パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集長などを務める。その後、三菱総合研究所を経て、99年カルチャースタディーズ研究所設立。著書 に、80万部のベストセラーとなった『下流社会』のほか、『第四の消費 つながりを生み出す社会』『データでわかる2030年の日本』『日本人はこれから 何を買うのか?』など。

     

     

    袖川 芳之

    (そでかわ・よしゆき)
    電通総研研究主幹
    1987 年電通入社。マーケティング局、電通総研主任研究員、内閣府経済 社会総合研究所政策企画調査官などを経て現職。多摩美術大、慶應義塾大大学院で非常勤講師を務める。専門分野はマーケティング・コミュニケーションおよび 家族研究、世代論、ヒット商品・トレンド分析など。著書に『クリエイティブ頭のからくり』など。