生体信号が拓くコミュニケーションの未来 #10

「理想は美女と野獣の晩餐会のシーン」neurowear座談会:後編

  • Kamiya
    神谷 俊隆
    株式会社電通サイエンスジャム
  • なかの かな
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・テクノロジスト/コミュニケーション・プランナー
  • Photo
    加賀谷 友典
    ディレクター / プランナー
  • Portrait
    土屋 泰洋
    株式会社電通 CDC

「生体信号が拓くコミュニケーションの未来」第10回は、前回に続き加賀谷さん、神谷さん、土屋さん、なかのさんによるトークセッションの様子をお届けします。今回は、少し先の未来の話と、それぞれが今後やりたいことについて語っていただきました。

ロボット掃除機に感情移入する人が出てきている

神谷 今度は未来の話をしようか。プロジェクトを始めたのが、ちょうど3年と少し前。今から3年後ってどうなってるんだろうね。

加賀谷: これはいろんな所で話しているけど、CPUの処理速度って3年で50倍くらいになるんですよ。ハイエンドが50倍になると、ローエンドは小型化と省電力化が進み、価格が驚異的に落ちる。そうすると、いろんな物にセンサーが内蔵されて情報を発信するようになる。しかもソフトウェアからアクセスできるようになってくるんじゃないかな。

土屋: 例えばIPV6って、IPアドレスが枯渇しないことっていうのが大事なポイントですよね。その例え話でよく出るのが、砂浜にある砂一個一個にIP振っても枯渇しないって話ですけど、まさにそういう状態になるかもしれない。

神谷 今はデバイスがスマホと連動するという流れがあるけど、デバイスがスタンドアローンになっていくんだろうね。

加賀谷: さらに、それらが群知能のように結びついて、勝手にファンクションを作り出すタイミングが、シフトなんじゃないかな。家でエアコンと電子レンジとドライヤーを同時に使うと、ブレーカーが落ちたりするじゃないですか。あれって単純にそれぞれの機器の消費電力を把握できれば、少なくとも加減できるはずですよね。それくらいのレベルから始まるんじゃないかな。

土屋: 人を感知して、エアコンがつくとか。一瞬だけ電力供給量を増やすとか。

神谷 データを集めてスマートに割り振っていく、それをトータルで見てコントロールするみたいな方向にいくんですかね。

加賀谷: 抽象的な言い方になるけど、セントラルコンピューターみたいなのが管理するという形には多分ならなくて、インテリジェントに物が連動する方向にいくんじゃないかと思う。

土屋: 物そのものがいろんな情報をセンシングして、勝手に環境に最適化していくんでしょうね。インターネットで、nクリックを1クリックにしたらサービスになる、1クリックを0クリックにしたら革命が起きる、という話があるじゃないですか。この先いろんな物がインテリジェントに、自律的に振る舞いはじめると、いろいろなものが0クリックになっていくんだろうなっていう気がするんです。進化していくと、人間は何もしなくなる…。

なかの: 理想は「美女と野獣」の晩餐会のシーン。

神谷 え?

土屋: ポットが踊ったりするの?

なかの そうそう。自分たちなりに考えておもてなししてくれる。あと、一條裕子さんの「静かの海」っていうマンガがあるんですけど、それも家の中の物全部が、それぞれ自分で考えているんですよ、家具同士のグチとか、人間への思いやりとか、バカな妄想とか。人といっしょでスマートだけだと多分つまんなくて、たまに踊り出しちゃうとかしてほしいんですよね。

土屋: それで言うと、ロボット掃除機に感情移入する人が出てきていることが面白い。ロボット掃除機の振る舞いに「人」を感じて、たまごっちが死んだときに泣いた女子高生がいたのと同じ現象が起こっている。プログラムで動いているのに、そこに感情移入してしまうのって人間の想像力ですよね。

加賀谷: ロボット掃除機のコアにある技術って群知能なんだよね。複数のセンサーがあって、それらが協調して動くことで生物っぽい振る舞いになる。やっぱり生命が持っている情報処理を、テクノロジーというか、マシン側が取り入れていくフェーズに来ているのかもしれないですね。

人間は、自分たちが想像している以上にセンサーの塊

土屋: 今後コンピューターの処理能力が上がると、コンピューターは人間の振る舞いについて、人間以上に理解し始めると思うんです。自分で気付いていない癖や行動の因果関係みたいなものを理解して学習する。広告のターゲティングって、今まさにそういう感じですけど。例えば家電などの機械が、人間の無意識を読み取ってくれるようになるんじゃないかって気がする。

加賀谷: この前サンフランシスコでジョーイさん(MITメディアラボ所長の伊藤穰一さん)に聞いた話があって。ある実験で、被験者に自分の声と他人の声が混じっているテープを聞かせたら、被験者は自分の声と他人の声を誤認したらしい。だけど、そのときに皮膚反応を採っておくと、副交感神経は必ず自分の声に反応する。つまり顕在意識は惑わされるけど、潜在意識の方はちゃんと気付いている。その無意識が持っている情報というのは、われわれが思っている以上に大きいんじゃないかと。ジョーイさんは、その無意識をターゲットにしたデザインやサービスの考え方が、これから価値になっていくんじゃないかって言ってた。

土屋: すごい面白いですね。人間は、自分たちが想像している以上にセンサーの塊で、うまくコンピューティングに盛り込んで生かしていくと面白いことができるはず。MITメディアラボのメディエイテッド・マターという研究グループのシルクパビリオンっていう作品が面白くて。専用に設計された多面体のテントのような構造体に、6,500匹の蚕を放つんです。そうすると蚕は繭を作ろうとするから、結果的に多面体の絹のテントが作られる。それって昆虫が持っている振る舞いを通してつくられた、ナチュラル3Dプリンティングなんですよ。生体信号を使うことも同じで、人間が持っている高度なセンサー機能をコンピューティングに生かすということだと思う。

なかの: 人って年を重ねていくと、振る舞いや意識に社会性が強くなっていくじゃないですか。でもそれは、身体を守るとか、決断をするとか、本当にやるべきことの邪魔をしていると思う。自分の子どもを見ていると、風邪をひく前の晩って熱もないのに眠りながら「かぁさま!かぁさま!」って呼ぶんですよ。彼の身体は、これから体調が悪くなるって分かってる。大人は自分が気付くべき身体の悲鳴や心の悲鳴に「元気だから大丈夫」ってフタをしてしまうけど、従うべき本心みたいなものを生体信号から知ることができたら、とても意味があると思います。

「いかにユートピアにしていくのか」が、私たちの考えるべきこと

神谷 じゃあ最後に、それぞれが今後やってみたいことで、まとめたいと思います。最近僕は、催眠に興味を持っています。潜在意識というものを、脳波と同じように科学的に解明することで、例えば身体の痛みをやわらげるとか、世の中を少し幸せな方向に持っていけるんじゃないかと思っています。催眠というと、まだうさんくさい印象があるので、そこを払しょくしていきたい。

土屋: 脳波を測りながら催眠の実験をしましたが、実際にかかるんですよ。面白かったです。

加賀谷: 僕がやっていきたいと思っているのは、テクノロジーによって、今まで気付かなかったことに気付けるようになったり、通り過ぎてしまっているチャンスを的確に捉えられるようなサービスやプロダクトを作れたらいいなと思います。運が良くなるというか、セレンディピティを作りやすくするような仕組みができたらいいなと。

土屋: 僕は、今あるメディアというものの意味を更新できたら面白いと思っています。micoは選曲するヘッドフォンなんですが、その体験自体が「音楽」になったらよいなと。これまで音楽は、演奏を聴くもの、ラジオから流れてくるもの、好きなレコードを買って聴くもの、それがCDになりデジタルデータになった。やがて音楽とは、ヘッドフォンを装着すると、自分にフィットした曲を聴けるものというふうになったら、音楽の意味を更新できるんじゃないかと思っています。今音楽を聴くには、音源があって、聴くためのデバイスがあって、というふうに意味が固定されているけど、その意味が揺らぐようなものを作っていけたら素敵だなと思っています。

なかの: これまで脳波を使って「気持ち」を見えるようにすることで、未来像を描いてきました。これからのことを思うと、まず時間と距離は、インターネットによって境界が崩れてきている。そして今度は人間の内側と外側という境界や自己と他者の境界が、ソーシャルネットワークやセンサーによって曖昧になりつつある。その流れって、多分もう止められないので、そこをいかにユートピアにしていくのかっていうのが、私たちの考えるべきことなのかなと思っています。
それから、人が本来持っているセンサーや直感などのアルゴリズムは、とても優れていると感じています。それらの能力を拡張すると同時に、能力を意識下から拾い上げる手助けになるものを作っていきたいと考えています。

プロフィール

  • Kamiya
    神谷 俊隆
    株式会社電通サイエンスジャム

    電通コミュニケーション・デザイン・センター(CDC) 次世代コミュニケーション開発部にて、neurowearブランドを立ち上げ、脳波コミュニケーションツール「necomimi」や「mico」のプロデュース及び事業開発を担当。2013年8月に(株)電通サイエンスジャムを設立し、科学者の知性や最先端技術に、電通ならではのアイデアを加えることで、新しい事業開発の可能性に挑戦している。

  • なかの かな
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・テクノロジスト/コミュニケーション・プランナー

    インターネット広告会社勤務を経て2009年より電通。
    AR(拡張現実)と位置情報を利用したクーポンアプリ「iButterfly」、脳波によるコミュニケーションツール「necomimi」など、テクノロジーを用いたちょっと未来のコミュニケーション体験を企画している。

  • Photo
    加賀谷 友典
    ディレクター / プランナー

    フリーのプランナーとしてデジタルネットワーク領域で多数のスタートアッププロジェクトに参加。
    新規事業開発における調査・コンセプトプランニング、チームマネジメントが専門。
    主な事例としては坂本龍一インスタレーション作品「windVibe」「GEOCOSMOS」など。現在は生体信号を使った新しいコミュニケーション体験を提案する「neurowear プロジェクト」(http://www.neurowear.com)で脳波で動くネコミミ「necomimi」、脳波ヘッドフォン「mico」、脳波カメラ「neurocam」、EYEoT デバイス「mononome」などを開発。

  • Portrait
    土屋 泰洋
    株式会社電通 CDC

    1981年神奈川県生まれ。広告制作プロダクション勤務を経て、2006年より電通 関西支社、2012年より本社コミュニケーション・デザイン・センター 次世代コミュニケーション開発部に所属。新規事業開発やデジタル技術を利用した広告企画に従事。東京インタラクティブアドアワード金賞、スパイクスアジアシルバー、Yahooインターネットクリエイティブアワード特別賞など受賞歴多数。

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