2020年東京オリンピック・パラリンピック招致を成功させた最終プレゼンテーションの陰の立役者である、英・国際スポーツコンサルティング「セブン 46」のCEOニック・バレー氏が2013年11月、電通に来社。アジア13カ国・地域でメディアとデジタル事業を展開する電通メディア・ネットワークが招いたもので、 同ネットワークが主催する、最新情報の共有を目的とした「DREAMミーティング」において、形勢を変えるコミュニケーション戦略「Game Changing Strategy」をテーマに講演した。バレー氏が示した“ピンチをチャンスに変える”秘策とは?

ニック・バレー氏

セブン46共同創業者CEO
英ガーディアン紙のス ポーツ記者などジャーナリストとしてのキャリアを経て、2006年に国際スポーツコンサルティング会社セブン46を設立。オリンピック・パラリンピック招 致で12年のロンドン、16年のリオデジャネイロ、20年の東京と3大会連覇に成功。東京の招致活動では、戦略的コミュニケーションアドバイザーのトップ を務めた。

バレー氏がCEOを務めるセブン46は、ロンドンを拠点とする国際スポーツコンサルティング会社。社名は、12年のオリンピック開催地として「ロンドン」の名が読み上げられた05年7月5日午後7時46分に由来する。国際スポーツ大会の招致活動を得意とし、これまでに携わった12件のうち、12年ロンドン、16年リオデジャネイロ、20年東京のオリンピック“ハットトリック”を含む9件で成功している。
ジャーナリスト出身のバレー氏が掲げる同社の使命とは「人々にストーリーを語る」ことだ。クライアントの伝えたいことを引き出し、その表現に力を貸す。プレゼンテーションにおける「3点ルール」の力を強調する同氏は、国際的な舞台でストーリーを語るために必須な要素として「インパクト」「単純明快さ」「深い内容理解」の三つを挙げる。
オリンピック招致の最終プレゼンテーションは45分、候補国の首脳らも駆けつける“世界最大のピッチ”だ。聴衆は言葉も文化も異なる100人ほどの国際オリンピック委員会(IOC)委員。最終プレゼンテーションは立候補都市と一丸となってのチームワークであり、セブン46はシナリオを書き、“配役”や進行を決める“制作総指揮”を担う。今回の講演でバレー氏は、プレゼンテーションで勝利するための七つのヒントを披露した。全てを実行することが必須なのではなく、ゴルフクラブのセットのように、必要なときに必要なものの使い方を理解していることが鍵だという。

1 Do the Math
科学的に効果を狙う

科学的な方法で、プレゼンテーションに構成とまとまりをもたらす。古来、演説の名手が用いてきた「3点ルール」は、「人間は要点を奇数で記憶しやすい」という研究結果に基づいている。野球に発する「セーバーメトリクス」という統計学的分析による選手評価と戦略立案もプレゼンテーションに応用できる。また、要点の繰り返しや話すスピードなども、科学的に効果を分析できる。

2 Know Your Audience
オーディエンスを知る

聴衆の年齢・性別構成や職種がさまざまであっても、その聴衆全体に共通する関心事、集団的思考を把握する。集団として抱える課題は何か、何について話されているのか、何が“口説き文句”となるのか。プレゼンテーションを行う側は問題点に対し意見を述べ、解決方法を提示する。ロンドンオリンピック招致時には、若者のスポーツ離れがIOC内で問題となっていた。資金調達面で重要な米NBCオリンピック番組の視聴率が下降線をたどり、しかも視聴者層が高齢化している。そこで最終プレゼンテーションでは“オリンピックブランド”の将来を見据えて、若い世代へのスポーツ奨励を前面に出した。

3 Make an Impact
インパクトを与える

プレゼンテーションでは、語る言葉、登壇者の属性や人柄、登壇順などさまざまな要素でインパクトを与えることができる。言葉は少ないほどインパクトが強い。多くの言葉を連ねるよりも、少ない言葉を賢く使う。東京招致最終プレゼンテーションでは、トップバッターにパラリンピック女子陸上代表の佐藤真海選手を起用した。日本のスピーチは“年長の男性”が先頭に立つと考えていた聴衆の予想を裏切り、意外性と新鮮さで聴衆を一気に引きつけた。

4 Keep Making an Impact
インパクトを与え続ける

佐藤選手の次には進行順に意外性を持たせ、短編ビデオを上映した。東日本大震災の被災地も連想させる映像が映り、水辺でバスケットボールのシュート練習をする日本人の少年が、バスで通り掛かった外国人選手たちと交流する。このビデオはこれ自体では完結せず、プレゼンテーションの最後に上映するもう1本のビデオにつながる伏線とした。
良いプレゼンテーションは、一定の周期で見せ場が滑らかに訪れる“正弦波”に例えられる。プレゼンテーションの冒頭、中央、最後と一定間隔でインパクトを与え、その間を緩やかにクールダウンさせてつなぐ。プレゼンテーション全体を通し、一定のペースを保ってインパクトを与え続けることが重要だ。

5 Be Visual
視覚に訴える

人間の記憶には画像(イメージ)がよく残る。「百聞は一見にしかず」は真実。「1枚のスライドにつき、一つの考え」を示すスティーブ・ジョブス氏のプレゼンテーションが好例だ。リオデジャネイロの招致活動の際には、欧州では30回も開催されているオリンピックが、南米大陸では1度も開催されていないことを、1枚の地図によって一目で示した。

6 Be Visionary
ビジョンを示す

なぜ、自分たちがベストソリューションを提供できるのか、明確な展望、セールスポイント、主張を示し、それを貫く。東京の招致活動では「Discover Tomorrow-未来(あした)をつかもう-」をスローガンに、「東京から、夢と希望とスポーツの力を世界中に広める」というビジョンを打ち出した。最終スピーチの前に流したビデオは冒頭のビデオの完結編に当たり、後にバスケットボール選手として成長した日本人少年が、かつての自分のようにシュート練習をする黒人少年と出会うなど、スポーツが世代も国境も超える素晴らしさを伝えた。

7 Be an Actor
役者になる

プレゼンターには演技が求められる。東京の最終プレゼンテーションでは、フェンシングのオリンピック銀メダリスト太田雄貴選手が素晴らしい演技を見せた。招致ビデオの登場人物たちがしていた胸に手を当てるポーズを、自分の考えで自然にスピーチに取り入れていた。スポーツ選手がプレゼンターとして優れているのは、練習しなければ良いパフォーマンスが生まれないことを熟知しているからだ。アメリカンフットボールの伝説的コーチ、ビンス・ロンバルディが「成功(success)が努力(work)よりも先に来る唯一の場所は辞書である」と述べたように、良いプレゼンテーションを行うためには、反復練習による向上が不可欠だ。

講演後インタビューに応じた同氏は、「国際大会の招致活動におけるアジア諸国の課題」について、「言葉の壁」と「先入観」を覆すこと、と回答。プレゼンテーションにおいて、アジア諸国に対する先入観の裏をかく「サプライズ」の要素が、聴衆の認識や雰囲気を一変させる強力な武器になると説明した。また、グローバル市場での日本企業の強みについて、「イノベーション」「たゆまぬ改善努力」「驚くべき勤勉さ」を挙げるとともに、「考え方や振る舞いを国際基準に合わせることが必要。日本的なものと日本的でないものとの融合のバランスが大切だ」と述べた。
最後に同氏は、オリンピック招致を勝ち取った日本に向けて、「これからの7年間はとても素晴らしいチャンスになるだろう。オリンピックが自国で開かれることは、人生で一度あるかないかのこと。その好機を最大限に生かしてほしい」と呼び掛けた。

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