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新明解「戦略PR」No.6

きのこをリポジショニングさせました。

2014/01/27

早くも新年突入から1ヶ月が経とうとしておりますが、みなさま、いかがお過ごしでしょうか。私は、年初に誓った、毎朝5時起きのエクササイズを3日間で卒業し、いまだ昨年末から続く飲み会の真っただ中におりますが、ともかく今年も体調には気をつけたいところです。昨年来、景気浮揚のせいか、いつにも増してお誘いが多いのは嬉しいことですが、調子に乗りすぎるのは厳禁ですね。そこで、今日はこの場を借りて、みなさんの体調管理に寄与できそうな方法をひとつお教えいたしましょう。それが「菌活」です。

 

元々請け負ったお題は、「きのこを“日常食”として消費者に認識させる」

とはいえ、健康についてマジに語れるほど、私自身が健康ではありませんし、「おまえが言うな!」というツッコミも怖いので、ここではPR視点から仕組みを解説してみたいと思います。名付けて「生活者の新習慣創出/顕在化PRのウラ側」。あ、ちなみにこれ、日本PR協会が主催する2013年度PRアワードのマーケティング・コミュニケーション部門で優秀賞を受賞したキャンペーンのひとつです。

元々請け負ったお題は、「きのこを“日常食”として消費者に認識させる」というもので、「きのこ」を食べる機会を増やし、いかに消費を上げていくか、という課題に取り組むべく、PR活動に着手しました。そもそも、きのこは「秋」や「冬の鍋の具材」といった季節的なイメージが強く、秋冬は放っておいても勝手に売れていくのですが、その他の季節になると伸び悩むのです。しかし、今やきのこは屋内環境で生産されており、実は一年中品質の良いきのこが採れるんですよ! だから企業としては、「一年中売らずにどうすんじゃい! もったいなか!」ということになったわけです。

でもね、急に「春夏にもきのこっていいんですよー、買ってくださいよー」なんて言ってもピンとこないですよね。やっぱり鍋で食べたいし、「秋の夜長にきのこを炭火であぶっちゃうと風情あるよね」なんて思うじゃないですか。そこで何か日常的な習慣として、きのこを生活に取り入れてもらうきっかけがないものか? と考えていたときにブチ当たったのがこれ、「菌=きのこ(訓読み)」というトリビアでした。

漢字検定一級の方にとっては、「そんなの知っとるわい!」の常識でしょうが、私は初めて知ったわけで、「どうせ私は常識ないですよ」と半ば逆ギレしながらも、「でもこれ、まだまだみんな知らないよね? これって、語りたくなることじゃない?」と思ってしまったわけです。

もちろん「きのこ」は、正真正銘菌の仲間で、漢字で書けばまさに「菌」。このプチ情報を活用して、きのこを「カラダに良い菌」として、「リポジショニング」させようといろいろ調べてみたわけです。すると、きのこに限らず、「菌」を日常生活に取り入れ、健康生活を送っている方が結構たくさんいらっしゃるじゃあーりませんか。こりゃ、きのこ独りで戦うよりも、「菌」仲間がいたほうが強いな、ということで探してみると、まるでマンガのように、あれよあれよという間に仲間が現れます。それも結構な強者ぞろい。「私、ヨーグルト。乳酸菌です。毎日食べてね」「こっちは妹のビフィズス菌です」「重鎮のみそ汁じゃが、朝にはやっぱりわしが欠かせんじゃろ? わっはっは」「最近話題の塩こうじです。誰とでもすぐ仲良くなれるし、いいところを伸ばせるのよ!」などなど、いろんな「菌世界」の有名人(あ、有名菌?)が勢ぞろいしたわけです。

顔触れを見てみると、やはり日常的に生活者から愛されている存在ばかり。よし、「きのこ」をセンターに立たせてデビューさせれば間違いない! ということで、このグループにネーミングまで考えちゃいました。命名、「菌活隊。」! 名前も決まっていよいよ初舞台、と相成ったわけです。

 

俯瞰して大きく市場を括り、広い領域で“自分ゴト化”を促進

話はアイドルグループにまで飛んでしまいましたが、PRのポイントは生活者に納得感のある新市場を創り上げること。見知らぬ存在がいきなり握手を求めてきても、おいそれと手を差し出す人は皆無でしょう。自分自身が何者なのか、それをうまく生活者に理解してもらう努力が必要です。生活者における違和感をなくし、納得感を高めるステップを作ってあげること、これが大切なんです。

だって、いきなり1メーカーが「こんな製品が人気です!」といくら声高に叫んでみても、それは手前味噌な情報としてしか認識されませんよね。ヨーグルトなどの周辺の近似製品をも巻き込みながら、これまでの経験値をベースにしつつ「生活者の腑に落ちる現象」として、その存在を見せてあげることが大切なんですよ。そのためには、あまり自分ばかりが前面に立ち、ソロパートをやろうとしてもうまくいきません。「あんな習慣もある」「こんな習慣もある」「以前これはやったことがある」など、その経験値を生活者の中で顕在化させ、大きな束として理解させることで、その新市場への期待感が拡大するのです。その中で「一押しのニューフェイス」としてアピールしていくことで、自身が集中的にスポットライトを浴びる作戦というわけです。

今回の作戦のエッセンスとして併せて留意したいのが、いくら“自分ゴト化”を創出しても、それが狭い領域であっては共感する母数も少なく、ムーブメントまでには至らないということ。多くの生活者の共感を得るためには、なるべく母数を多く取り、その中での最大公約数を見つけ出すというアプローチが必要です。だから、周辺の食材も巻き込みながら、多くの経験者をあぶり出し、大きく「菌活」として打ち出すことが重要となるわけ。それでこそ生活者における「あるある、そういうこと」という多くの共感を獲得することができます。

結果、「菌活」は「きのこ」のみならず、さまざまな食材を巻き込みながら、新たな「食習慣」としての認知が高まりました。「きのこ」を使ったレシピなども言葉のおもしろさと相まって、生活情報誌や女性週刊誌、また料理ムック本などでも自然発生的に採り上げられるようになったのです。(イエイ!)

 

PRをCMで後押し

こうして「菌活」はブームになったものの、「きのこ=ホクト」というメーカー名の純粋想起を促進するにはどうするのかというと、やはり広告やその他の施策も含めた、インテグレートされたコミュニケーションプランが必要になるわけです。そこで、今回はかなり「エッジ」の立ったCMを同時期に展開することになったわけです。この、要潤さん、鈴木砂羽さんが出演されたセクシーCMは、ネット上でもかなりの話題に。きのこのメインターゲットである主婦のみならず、若者における「ホクト=きのこ」という認知度が急激に向上したのは言うまでもありません。こういう、PRをCMで後押しするような連動も大切ですね!

 

日常にある既知の事象こそが共感しやすい

ここでご理解いただきたいのは、新たな概念を生活者に対して訴求していくのは、非常に骨が折れるということです。これまで触れたことのないような情報に対して、生活者はすぐに理解・共感できるのかというと、やはりハードルが高いでしょう。しかし、少しでもその事象についての経験があれば、「そう言えば、あれはね…」とか「確かに、それは…」などと、少ないながらも自身の経験をバックグラウンドに、コミュニケーションもできるというもの。その既存イメージを、うまく括る横串をいかに見つけるかがノウハウとなってくるのです。

例えば、既存マーケットとして定着した「スイーツ男子」なども良い事例と言えるでしょう。それまでは「男なのに甘い物好きとかって言うとバカにされそうで…」と、なりを潜めていた男子たちの実態をあぶり出し、「結構、そういう人ってたくさんいるよね」と顕在化してみせてあげることで、その市場が明らかになり、またそれに安堵・共感する男子が「我もスイーツ男子なり!」とカミングアウトしていきました。仲間がいることの安心感と、そのボリュームを知ることで、存在のメジャー感が後押しされたのだと思います。こういった隠れた、しかしポテンシャルのある市場を新たな目線で発掘、顕在化してあげるというのもPRアイデアの一つと言えるかもしれませんね。