企業の未来のためにできること #07

【阿久津聡×朝岡崇史 対談】

これからのブランドマーケティング

(第3回)

  • Akutsusatoshi1
    阿久津 聡
    一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授
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    朝岡 崇史
    株式会社電通デジタル エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクター

第3回 顧客主語のマーケティング時代のブランドマネジメント

三つ目のテーマは「顧客主語のマーケティング時代のブランドマネジメント」。交換価値としてのモノを売るのがゴールの時代から、現在は顧客のブランド体験をデザインする発想が求められている。そのデザインを進めていくに当たって、どうすればブランドを刷新することができるか。顧客主語マーケティング時代の広告のあり方を含めて議論した。

 

「モノ」「個のコト」「集団のコト」はすべてつながっている

 

朝岡:サービス・デザイン、カスタマー・エクスペリエンス・デザインなど、新しい言葉が使われていますが、その根底にあるのは「ブランドデザイン」です。ブランド体験が、顧客にとってもブランドにとっても非常に重要となると、ブランド体験自体をデザインする発想につながります。それが企業にとってはブランドの見直し、ブランドの強化ということだけではなくて、マーケティングのモデルを変えることになるのではないか、と。今後半年から1年先の流れを見ていくと、そういう方向に企業の軸足も移っていくし、われわれのサービス提供の重点も移っていくのではないかと思います。

阿久津:ソーシャルメディアがここまで身近になると、ブランドデザインのプロセスも変わるはずです。大きな枠組みに当てはめるのではなく、小さく始め、顧客からフィードバックをもらいながら試行錯誤を繰り返す。そして、そうやっているうちに、うまく軌道に乗ればどんどん大きくなっていく。試行錯誤を数多く繰り返した経験がある、つまり行動力がある者が有利な時代になってきているように思います。

朝岡:カスタマー・エクスペリエンス・デザインの考え方も、以前はコンタクトポイント、タッチポイントといわれていました。「モノからコトへ」は以前からいわれてきましたが、「個」に問うていた価値観はあまり共有されず、企業と顧客は1対1だったと思います。ソーシャルメディアの時代になってきた途端に、カスタマー・エクスペリエンス・デザイン、つまり顧客体験の仕組みづくりといわれ、それは個人の閉じた価値ではなく、顧客同士で共有され、企業にフィードバックされるようになった。逆に、企業からの発信により、顧客の認識を変えることもあります。コミュニティーからの見られ方を変えるというような、とてもダイナミックな動きも見られますね。

阿久津:ちょうど「モノからコトへ」といわれていた頃に、ブランドの世界では並行して地域ブランドが話題になっていました。地域の自治体では、差別化のために「ゆるキャラ」に代表されるキャラクターが盛んにつくられていました。その後、キャラクターブームは一旦引けたのですが、今度は「個」ではなくて、みんなが共有して盛り上がるという新しい消費形態に乗って、復活した。「ご当地キャラクターの全国大会」というようなイベントに乗って「ゆるキャラ」が復活した背景には、新しい消費の文化があると思います。

朝岡:「モノ」と、「個のコト」と、「共有するコト」は、ばらばらではなくすべてつながっていると。スパイラルイン、スパイラルアウトという話がありましたが、「共創」という一つのマネジメントモデルとして、ブランドをどう構築していくかというお話ですね。

阿久津:そうですね。「モノ」「個のコト」「集団のコト」が相互に作用しているのだから、つながりをエネルギーに変換できれば、ブランドの刷新も可能だということになります。以前はライフスタイルを提案するようなブランドでないと、ブランドコミュニティを形成することは容易ではありませんでした。しかし、SNSが普及した現在では、それも過去の話のようです。次のような例もあります。トマト飲料・食品が主力商品の会社ですが、トマトの苗を配り、それを一緒に育てる園芸コミュニティーをつくった。小さく始めたのですが、どんどん盛り上がっていった。育てるところから始め、最後は収穫したトマトのレシピ大会まで。主催者は参加者に自社製品の話をしませんが、参加者たちはあちこちでその会社の話をする。気付いてみれば、参加者たちは、参加していない人たちよりもずっと多くの同社商品を買っていた…。今では、工夫次第でこうしたことがどんなブランドでも可能になったわけです。大きな予算をかける必要性もありません。マーケターの腕の見せどころですよね。

 

顧客主語のマーケティング時代に、広告のあるべき姿とは

 

朝岡:高度成長期以降の大量生産のモノの時代は、工場でモノがつくられているため、顧客と企業の間に壁ができていたと思います。今は懐(ふところ)を深くとり、例えば工場見学などの接点を途中につくることで、顧客との接点が演出する試みも盛んです。現場を知った顧客がブランド体験を翻訳したり、自分でストーリーをつくったりし、それがシェアされることで、じわじわと広がっていく構造がある。ここで先生にお伺いしたいのは、広告の役割についてです。顧客主語のマーケティング時代に、広告はどんな役割を果たすべきだとお考えでしょうか。

阿久津:広告会社の業務に、ブランドコンサルティングが増えてくるのは間違いないと思います。そのスキルは経験によって培われますから、自社ブランドの経験に限られる事業会社よりも、複数の異なる会社をお手伝いしている広告会社にたまっていくノウハウに価値が生じます。そういう意味で、広告会社はクライアントにとって価値あるサービスを提供することが可能だと思います。消費文化が大きく変化している中で、これまでの広告の既成概念にはとらわれないイノベーションをどんどん起こしてほしいですね。

朝岡:これまで先生とお話しさせていただいて、非常にクリアになったことがあります。一つは、ブランドマネジメントに関して、ストックの価値をどうコントロールしていくかが非常に重要であること。フローについては、スパイラルイン、スパイラルアウトという新しいモデルも浮かび上がってきました。顧客からのフィードバック、または顧客が自分のブランド体験を人に伝える「インとアウトの発想」があって、その入出力のスピードに意味がある。今までブランドがスピードで語られたことはないと思いますが、フローのスピード感は、これからのブランドマーケティングで大きな意味を持つはずです。ストックの価値は既に確立されたものがあるため、手直し程度でよいのかもしれません。フローにはまだまだ研究の余地があり、「いいね!」の数だけでなく、スピードメーターのような目安も必要なのではないかと思いました。

阿久津:フローに関していえば「サーチ」「購買」「シェア」といった「アクション」を、互いの関係性や、スピードや他者への影響力といった新しい視点から指標化するというのも一つの方法かも知れません。それから、今のお話を聞いて、「サーチ」「購買」「シェア」には何か足りなと思っていたのですが、もう一つ「評価」がありますね。「評価」の背後には「共感」などの心理コンストラクトもあり、そのあたりも指標としては使えますね。ストックだけの時代と比べると、測定可能な指標が何倍も増えてくるでしょうから、うまく取捨選択し、戦略的に有効な指標をトラッキングしていく仕組みづくりも重要になってくると思います。

朝岡:まずストックとフローを一つの体系として見る。社会の変化スピードが速く、ソーシャルメディアの時代になると、フローの価値にばかり着目して、ストックは放っておかれがちです。マス広告を使い、モノとしての価値(ストック)を訴求するようなモデルはもう古い。正しいようでいて、それは大きな間違いです。ストックとフローの価値をつなぐことが大切であり、そこには顧客主語の視点が欠かせません。ブランドデザインの新たなヒントを得ることができた気がします。今日はありがとうございました。

阿久津:どうもありがとうございました。

 

プロフィール

  • Akutsusatoshi1
    阿久津 聡
    一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授

    一橋大学商学部卒業、同大学院商学研究科修士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院にてMS(経営工学修士)とPh.D.(経営学博士)を取得。同校研究員、一橋大学商学部専任講師等を経て、現職。専門はマーケティング、消費者行動論、ブランド論の他、知識経営論、実験経済学、文化心理学。主な著書・訳書に、『ソーシャルエコノミー』(共著、翔泳社、2012)、『カテゴリー・イノベーション』(共訳書、日本経済新聞出版社、2011)、『ドラゴンフライエフェクト』(監訳書、翔泳社、2011)、『ブランド戦略シナリオ』(共著、ダイヤモンド社、2002)等がある。

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    朝岡 崇史
    株式会社電通デジタル エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクター

    エクスペリエンス・デザインを専門とするコンサルタント。
    大学生時代は東大野球部で選手・主務として活躍。
    1985年、電通入社。クライアント企業の経営層と向き合い、電通らしい右脳型のアイデアを武器に事業やブランドのコンサルティングを提供するソリューション型サービスを実践。ブランドコンサルティングを行うコンサルティング室長を経て現職。日本マーケティング協会(JMA)のマーケティング・マスターコース・マイスター(2011年~)。
    著書に「拝啓 総理大臣殿 これが日本を元気にする処方箋です」(東洋経済新報社 共著 2008年)「エクスペリエンス・ドリブン・マーケティング」(ファーストプレス 2014年)、「IoT時代のエクスペリエンス・デザイン」(ファーストプレス 2016年)がある。

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