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DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~No.6

ウェアラブルが変える僕たちの未来とは?

2014/01/31

昨年あたりから、急速に話題になっている「ウェアラブル」。今回は、佐々木俊尚さんの新著『ウェアラブルは何を変えるのか?』を取り上げましょう。

「ウェアラブル」(正確には「ウェアラブル・デバイス」ですが)とは、人の身体に装着できる形状のITデバイスのことです。すでに、眼鏡型、腕時計型、フィットネス・ブレスなどは、一般向けに販売されていますね。
先日ラスベガスで開催されたエレクトロニクスの見本市「CES 2014」でも注目度が高く(編集部注:CES2014のイベントレポートはこちら)、3月にはウェアラブルのイベントが東京で開催される予定だったり、2014年はウェアラブル祭りになること必至です。
ただ、このように次々と発表される製品が、ウェアラブルの本質的な価値を見極められてのものかどうかは、まだ疑問という感じもあります。

本書では、ウェアラブルの登場をIT業界における一過性の流行りではなく、僕たちの未来を大きく変えるであろう、重要な兆しとして位置付けています。
たとえば、こんな捉え方がされています。

「単に眼鏡にカメラをつけたとか、腕時計に液晶画面をつけてメール着信ができるようにしたといった『電子オモチャ』的な捉え方ではなく、体に装着することで体の感覚を拡張し、インターネットと身体をダイレクトにつなげていく基盤になるものだ」

ウェアラブルの価値は、常に身体に装着されているところにあります。それによって、身体内部の情報と外界環境の情報が蓄積されていくのですね。
つまり、ウェアラブルは、単にスマートフォンの情報を眼鏡や腕時計上に表示するものではなく、心拍や運動量、体温、血圧といった身体の状態や、気温や湿度といった外界の状態をセンサーで取得し、これらをクラウドに送信してビッグデータ解析をしていく入り口になっていくわけです。

本書では、ウェアラブルが活用されていく世界についても解説されています。たとえば、自動車メーカーやグーグルが開発を進めている自動走行車から、高速道路や水道設備、ビル設備、病院、送電、街角の防犯カメラなど、あらゆる都市インフラにセンサーを組み込んでリアルタイムに計測し、その情報に基づいて運用が行われる構想です。

「アナログなモノをネットにつなげるための『媒介役』になるのが、センサーです。モノそのものはネットにつながらなくても、モノの状態をセンサーで測り、そのデータを通信モジュールによってクラウドに送信することで、擬似的にネットにつながることが可能になる」

米インディアナ州のある市は、頻繁に氾濫事故を起こす古くなった下水を、多額の予算をかけて作り直すのではなく、下水路の各所にセンサーを取り付けて汚水の量をコントロールするという選択をしたそうです。このようなことが、あちこちで起きているというのです。

これが、ウェアラブルとどうつながるか、分かりますか?
今後5年、10年で、ITの世界は、単にバーチャルなネット空間の中に存在するものではなく、リアルな空間を、センサーを媒介役として取り込んでいく方向へと大きく進んでいきます。
これは、「Internet of Things」、つまり「モノのインターネット」と言われる概念です。あらゆるモノ(それは人の体内の要素も含みます)とクラウドが接続され、ネットワークが形成されていく。そんな中、ウェアラブルもこの大きな潮流の一部として位置づけられるべきというわけです。
本書にはこのような説明がされています。

「ウェアラブルによって、身体とITがダイレクトに接続されていくような未来が作られ、クラウドに置かれている情報や知識は、すべて身体とリアルタイムでシンクロナイズしていくということになるのかもしれません」

こうなると、ウェアラブルで取得される情報から、本人の意識していないニーズを捉え、コミュニケーションを成立させることが可能になっていきますね。
たとえば、ターゲットの体内の情報から空腹値を算出し、GPS情報との掛け合わせで最寄りのハンバーガーショップをレコメンドしたり、その情報を自動的にソーシャルにシェアしたりするというようなものです。

果たして僕たちがこんな世界を望むかどうかは別にして、これはもうSFの話ではなく、目の前に迫っている現実です。人とテクノロジーは、ますます共進を遂げていき、コミュニケーションは無意識の領域に進んでいくということです。
このままいくと、これまでのコミュニケーションのあり方もガラリと変わりそうです。人間はどんどんバカになっていきそうな気もします。僕たちも、広告人として、いやその前に一人の生活者として、来るべき世界に向けて準備をしなければなりませんね。

         【電通モダンコミュニケーションラボ】