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NEWSPACE PROTOTYPE OF ART DIRECTIONNo.5

ものづくりへの情熱と生命力を宿した
“動きだすドレス”の制作秘話

2020/01/20

次世代のアートディレクションを模索するため、新進のアートディレクターが自由な表現のプロトタイプを発表する“NEWSPACE”プロジェクト。第5弾は、まるで生きているように動きだす不思議なドレス、“ZOETROPE DRESS”です。

作品を手掛けたのは、グラフィック・空間デザイン・商品開発など、ジャンルにとらわれずさまざまなアートディレクションを行う、くぼたえみ。
“ZOETROPE DRESS”が誕生したバックボーンと制作過程を詳細に明かします。


“アート”と“ファッション”の間にある“装置”をつくる

まずは、実際にドレスが動く様子を収めた映像をご覧ください。

 

紀元前、人は“道具”として服を生み出しました。
やがて人々は着るものに影響され、気持ちや態度を変化させるようになりました。
もしもドレスに命が宿って、人間を翻弄しだしたら?
そんな空想を作品にしました。

─ ZOETROPE DRESSの構想は、どのように考えついたのでしょうか?
ZOETROPE DRESSは、まるで生きているように動くドレスです。
ゾートロープというアニメーション技法を応用して制作しており、ストロボを規則的に当てると肉眼でも動いているように見えます。

今回の作品の発想の背景には、学生時代から続く個人活動が大きく影響しています。昔から装飾の持つ影響力にとても興味があり、テキスタイルのシリーズや“装い”をテーマにした立体作品などを制作してきました。

過去の作品
過去の個人作品

また休日には、より考えを深めたいという思いから、服飾の勉強会や染めや織りの職人さんのお話を聞かせていただく会などに参加しています。
そんな活動をしていく中で、紀元前から人々を魅了し続けてきた“衣服”が持つ原始的なパワーを表現してみたいと思うようになりました。

でも私はファッションの専門家ではないし、美しいお洋服はすでに世の中にたくさんある。そこで、アートディレクターの技術と、服づくりのプロフェッショナルの方の技術が掛け合わさった時に初めて実現できる、“アート”と“ファッション”の間にある“装置”のようなものをつくりたいと思いました。


古典的なアニメーション技法を応用した“動くドレス”

─ 作品名にもある「ゾートロープ」について詳しくお聞かせください。
 “ゾートロープ”とは、ギリシャ語で“生命の輪”という意味。まだ映像技術がなかった時代に発明された、原始的なアニメーション技法を指します。連続性のある絵を環状に並べて回転させ、隙間からのぞくことで、絵が動いているように見えるというものです。
現代では立体を用いたアニメーションをつくる手法にも発展。人の視線を断続的に遮断すると、目の前で立体自体が動いているような効果が得られます。

今回の作品
今回の作品。ドレスのパーツひとつひとつがアニメーションになるように連続した形になっている

“衣服に応用できそうな私の技術は何があるだろう?”と考えていた際に、学生時代アニメーションを制作していた経験からこの技法を思い出しました。もしかして、ゾートロープとドレスを組み合わせてみたら、誰も見たことがない不思議なものができるのではないか?そんな仮説のもと、本当に実現可能なのか、試行錯誤の旅が始まりました。


鬼才クリエイターとの協働で想像とジャンルを飛び越える

─ 今回ニットを担当したファッションデザイナーの方とはどのようにつながったのでしょうか?
企画書を書き、coromozaの西田拓志さんに一緒につくってくださる方がいないか相談をしたところ、圧倒的な存在感のニットの作品で国内外から注目を集めている丹治基浩さんをご紹介いただきました。

丹治基浩さんの作品
丹治基浩さんの作品

私は他者と協働する中で生まれる相乗効果やエネルギーにとても魅力を感じています。今回も丹治さんやカメラマンの山崎彩央さん、プロデューサーの錦木稔さんをはじめ、各分野のプロフェッショナルの方たちと制作したことにより、自分の想像を超えた作品を完成させることができました。
家庭用編み機と手編みを駆使して描かれるパワフルなニットの表情に、ぜひ注目してご覧いただけたらうれしいです。


約半年間におよぶ制作は試行錯誤と手作業による検証の繰り返し

─ 試行錯誤の連続だったとのことですが、具体的なプロセスを教えてください。

 

まずはじめに、ニットでアニメーションを作った時の見え方の検証をしました。ドーム状の立体に、アバウトに連続した形状のニットパーツを取り付け、回転させました。(Step 1)

次に、ドレスの形状×ゾートロープの仕組みが成立するか検証するため、実際の約1/6サイズで実験をしました。ドレスの型紙を作成し、円周率などを使いながら、ドレスのパーツが連続して動くための配置を決めていきました。(Step 2)

その後、どんな形状のパーツがアニメーションになった時に効果的か、粘土を使用して模索しました。(Step 3)

そして、原寸大での調整。実寸のパーツで実験したところ、1/6サイズでは成立していた尖った形状が、本番の大きさだと重力によって垂れてしまうことが分かりました。(Step 4)

さまざまな形を試し、最終的に渦巻きの形状にたどり着きました。(Step 5)

そうして出来上がったドレスを使用し、映像と写真に収めました。

今回の作品

まだこの世界にない、カテゴライズできないものづくりを

─ アートディレクターという職業は、これからどのように進化していくと思いますか?
アートディレクターの役割や求められるスキルは、人々の生活環境の変化に伴い年々広がってきていると感じます。
平面や立体、空間などの包括的なディレクションを求められる案件も増えてきました。
例えば、食品会社さんのオリジナルスイーツブランド創設のお仕事では、コンセプトから店舗デザイン、グラフィックやパッケージ、ホームページなど総合的につくらせていただいたり、パティシエの方と商品を一緒に考えるなどしました。

パティスリーGIN NO MORIの事例

お仕事や作品づくりを通じて、さまざまな職業の方と協働していく中で感じるのは、柔軟であることの大切さです。

例えば、真面目なものと緩いものを掛け合わせてみる。
自国の文化の素晴らしさを知った上で、他国のすてきな文化を取り入れていく。
先入観を捨てて、まずは踏み出してみる。

そうやって物事の境界を飛び越えながらできるものは、まだどの世界にもない、唯一無二のものではないかと思います。
仕事でも個人制作でも、やったことのないことに挑戦しながら、カテゴライズできないものたちをつくり続けたいです。

今回の作品“ZOETROPE DRESS”も、発展・展開していきたいと思っています。舞台演出や映像作品への活用など、興味を持っていただいた方はぜひinfo@newspace.galleryまでご連絡ください。

「ZOETROPE DRESS」STAFF LIST
・Art Director:くぼたえみ
・Knit Designer:丹治基浩(motohiro tanji)
・Photographer:山崎彩央(amana inc.)
・Producer:錦木稔(amana inc.)
・Director:小野聖史
・Hair&Make:扇本尚幸
・Retoucher:首藤智恵(amana inc.)
・Music:佐藤牧子、佐藤教之(Heima) 敬称略