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電通クリエイターによるアート展「ONE CREATIVE」ReportNo.5

作品づくりは、脳みその大掃除。

2020/04/22

2月16~29日、東京・日本橋のgalerie H(ガルリアッシュ)で電通クリエイターによるアート展「ONE CREATIVE」Vol.2を開催。

ONE CREATIVE ロゴ

普段、広告をつくっているクリエイターが、クライアントの課題解決という形ではなく、内面から湧き出るものをカタチにしたらどうだろう、というこの企画。 シリーズ第5回では、第1CRプランニング局のくぼたえみアートディレクターに話を聞きました。

くぼたえみさん

モヤモヤを拾い集めて、具現化する。

ギャラリーでまず目に入るのは、見覚えのある、彫刻的な白いニットのドレス。こちらは以前、当サイトでご紹介した「ZOETROPE DRESS」ですが、現物が見られるとは・・・!

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そして右手の方に、今回新作の「羊」たちが。どちらも真っ白な中にいろいろなテクスチャーがあって、統一された世界観を感じます。今回は、新作「SHEEP‘S’ ー自我に目覚めた羊たちー」について聞いてみたいと思います。

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──作品のテーマを教えてください。

英語で羊は、複数形も「SHEEP」。Sはつきません。個々ではなく、群れの塊として認識されているからです。

もこもこした毛に包まれて平和そうに歩く、一見同じように見える羊たち。でも本当は、各々いろんな想いを秘めているのではないでしょうか。

もし羊たちが自我に目覚めて、それぞれ自己主張をし始めたら。そんな空想を作品にしました。

──どの羊も独特な形をしていますね!この作品でどんなことを伝えたいですか。
 
私たちは普段、いろいろなカテゴリーに振り分けられ、認識されます。
それは性別や国籍、仕事場といったものから、「〇〇系」というような基準が曖昧なものまでさまざまです。

忙しい中、できるだけ多くの情報を処理するために、傾向を把握して判断していくことは賢い時間の節約かもしれません。
一方で、そうすることで見逃しているものもたくさんあると思います。
 
この作品では、羊たちが抱える内面を外面に表し、差別化しています。
いっしょくたに認識していた物事も、一つ一つに違う背景があることを意識したら、見える景色が変わるのではと思うのです。

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──不思議なカタチの羊たち。色がない分、形に意識を集中できますね。それぞれのテクスチャーによって、違った感情を持っているように見えます。どんな時にこの作品を作ろうと思いついたのですか。

個人作品を作るときは、日々感じた疑問や違和感を引っ張り出してきて、まず観察します。だいたいそれらはまとまっていなくて、答えがなかったりするので、そのモヤモヤの正体を見つけ出すような気持ちで組み立てていきます。

羊の作品であれば、「人はなぜ服で自己表現をするのだろう」とか、「先入観ってつい持っちゃうな」「羊の複数形はなぜSがつかないのかな」とか、そういう材料が頭の中で散らばっていたので、一つ一つ拾い上げて、固めていきました。

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散らかった脳内を、定期的に整理整頓。

──普段はアートディレクターとして活躍されていますが、広告制作とアーティストとしての活動は、くぼたさんの中でどのように共存していますか。

私にとってお仕事と個人作品の制作はシームレスに繋がっています。
お仕事の場合はクライアントさんの悩みを、個人作品は自分の中に生まれた疑問を、分かりやすくて美しいものに昇華させたい。どちらも、まだ具現化できていないモヤモヤを紐解いて、創作物として世の中に存在させるという点で、同じ行為なのかなと思います。

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──広告と個人作品、両方を作っていることでよかったことはありますか。
 
私にとって個人作品を作ることは、脳みその大掃除です。
定期的に散らかった状態を整理整頓し、考えの輪郭をはっきりとさせることで、クライアントワークにもクリアな頭で臨めます。

また、お仕事では、いろんな業種のクライアントさんとお話しすることで、予想外の刺激をたくさんいただけるので、お仕事と作品の両方を制作していることの相乗効果はとても高いと思っています。

集合-統合

──今後はどのような作品を作っていきたいですか?
 
今回、この展示のお話をいただき、作りおろしたのが羊の作品でした。3カ月間、仕事以外の時間は仙人のようにこもってひたすら制作していました。

私はそういった目標がある方が得意だと感じます。これからも、お仕事でも作品でも「これやってみてよ!」と声をかけていただける人材でありたいです。

──ありがとうございました。
 


鑑賞を終えて

ぼんやりとしたものにピントを合わせていくように、日々感じる疑問や違和感を拾い集めて生み出すくぼたさんの作品は、まるで普段は見えないはずの、他の人の頭の中をのぞき見するようでした。

この「ONE CREATIVE」の企画では、電通に所属しながら作家活動を行う5人のクリエーティブディレクター・アートディレクターをご紹介しました。いかがでしたか。電通には、まだまだいろいろな才能があります。今後また、少しずつご紹介できたらと思っています。ご期待ください。