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Dentsu Design TalkNo.12

電子書籍『広告会社からのイノベーションって?』

第一章「現代におけるイノベーションとは何か」(2)

2014/02/02

第一線で活躍するクリエーターや知識人、経営者をゲストに招いて電通クリエーターとの トークセッションをまとめた「DENTSU DESIGN TALK」シリーズが、株式会社ブックウォーカーのコンパクトな電子書籍専用レーベル【カドカワ・ミニッツブック】から刊行されました。

2014年1月30日に第一段として配信開始された、博報堂を経てリ・パブリック共同代表を務める田村大氏と電通特命顧問の白土謙二氏のセッション、『広告会社からのイノベーションって?』を少しご紹介します。

 

<新事業の敷居が下がった時代のコンサルティングのあり方>

田村:僕はある時期からコンサルティングの仕事に限界を感じていました。コンサルティング・サービスは、ある事業領域の課題に確実にミートする答えを出さなければいけません。球を投げられたら、ちゃんとフェアゾーンに打ち返さないといけない。その役割に対して、結構な報酬を頂いているわけです。そして、そのビジネスモデルゆえに画期的な事業創出までの距離があることを感じていた。そして今、新しい事業をつくる上で、事業投資の敷居が劇的に下がってきていると思うんです。

昔だったら、金型をひとつ作るのに数千万円かかっていたのが、今は3Dプリンタを使えば5万円ぐらいでできあがっちゃうわけです。そう考えると、最初に何かことを起こすときに、今までであれば広告代理店に対しては、「そんな新しい事業、できるわけがない」とスルーしていた話が、これからは「いいですね、一緒にメーカーをつくりましょう」という風になるわけです。

そのときに、クライアントと代理店とか、クライアントとサービサーという関係の境界を取り払えるか。特に広告代理店やコンサルタンシーという文脈で考えると、無意識に多くの従事者はその枠にとらわれているけれど、そうじゃないことがどんどんできることを認識してほしいのです。

白土:ラグビー日本代表の監督や三井住友銀行取締役専務執行役員を務めていた宿澤広朗さんが、投資家にコンサルをしていたときに分かったことがあったという話を思い出しますね。クライアントから「これはAですか、それともBですか」と聞かれたときに、「分かりません」と言ったらそれはコンサルではない。だから分かっていなくても「これはAです」と言えないやつに金は払わないと。「Aです」と言えば「本当かな」と向こうも考えるし、こっちも考える。聞かれた瞬間に「さぁ」と答える人はダメなプロです。

それに対して、僕らが考えるコンサルティング・サービスでは、みんなが困っているカテゴリーに風穴を空けるのは素人なんです。プロのみなさんが困っているから、素人の意見を聞こうとしているわけでしょう? つまり、異なるジャンルに精通していたり、違う視点を持っている人の意見を聞きたいというように変化しているところですね。ひとつの企業だけではリスクが高いし、行政はお金がないから着手ができないし、その一方で、大学は社会に役立つ研究をしていこうと考えている。大きい問題は1社で、あるいは1人では解決できません。みんなで集まって考えていかないといけない。そこで、どう集まるかということがとても大事になってくる。集まったときに誰がファシリテーションし、プロデュースしていくのか。そのさらに次の段階として、こういう集まり方の仕組み化を問われているのかなと思うんです。

 

 

コンサルティングをめぐって、もう一点、難しいと感じるところは品質に対する認識のあり方です。技術者は物性品質を追求して、0.5%軽くしたり、明るくしたりする力があります。でも商品やサービスがB2Cであれば、ユーザーが使いにくかったり、性能が良くてもデザインで嫌われたりしたらそれでアウトなわけです。

また、生活にどれだけ影響を与えたかという、感性品質がある一方で、「その商品は環境・社会に負荷を与えていないか」や「原材料に問題があるものを使っていないか」、もっと具体的に言えば、「児童労働させていないか」や「壊れたらリサイクル可能か」という社会・環境品質があります。メーカーには、技術者やプロダクトデザイナーはいらっしゃる。でもユーザーではないから感性品質や、まして社会・環境品質のことは分からない。しかしこの3つぐらいの視座がないと、良い製品かどうかも分からないのが現在です。いくら商品スペックが高くても、この3つの視座のどこかを外してしまうと、一瞬で何も価値がなくなってしまう時代ですから、どういう異なる視点やモノサシを持つ人と組むのかは非常に重要なことだと思います。

 

<ビジネスではなく、エコシステムを考える>

 

田村:そうですよね。Jane Fulton SuriというIDEO創業メンバーの一人で、IDEOにリサーチというプラクティスを持ち込んできた人と5年くらい前に話したときのことを思い出します。彼女が「これからIDEOがやらないといけないのは、エコシステムのデザインだ」と言ったんです。そのとき僕は彼女が何を言いたいのか、さっぱり理解できなかったんですよ。でも、そのあと彼女の話を反芻する機会が何度もあって、それで彼女が考えていたことが腑に落ちていきました。

富士通研究所のある研究員の方は、先日こんなことを言っていしまた。

「企業って、まず一にも二にもビジネスモデルを考えろと言うけれど、もうそれはやめた方がいいと思う。僕は常にエコシステムをどうつくるかということを考えています」と。

つまり、ビジネスになるかどうかは後で考えればいいということです。どういうエコシステムをつくれば新しい価値の連鎖を起こすことができるというアイデアが最初にあったとき、もしくは、「これは美しい」「これでより良い社会になる」という理想像ができたときに、初めて富士通がどうやって関わるのか、もしくは行政が関わるのか、電通や博報堂が関わるのかという話になる、と聞いて深く共感したんです。

エコシステムはもちろん、勝手にできていくものではない。その創出にはある種のリーダーシップが必要になってくると思います。

 

白土:コンサルティング・サービスの紹介に行って、「どういうメニューがあるんですか」と聞かれたときには、こう答えます。「松竹梅があります。松という一番高いものは我々がすべてお膳立てして差し上げるもので、おたくの手間はかかりませんが、逆に関わる余地が少なく、不愉快に思われる方も出てくるかもしれません。一方、梅はポイントごとにアドバイスするしかできないので、費用は安く済みますが、効果を上げるのが難しいでしょう。その間の竹を探ると、おたくからエース級を含めていろんなセクションから人を出してもらって、うちからもいろんな人材を出して、トータル10人で社長プロジェクトみたいなものをつくり、お互いの知見をフラットに交換していくことが可能になります」と。こういう方がうまくいくことが多いんです。

また、電通だけだと不十分なので、大学の研究者や、自分たちがいっしょに仕事をしたい、話を聞いてみたいと思っていた人たちを呼び込んできて、プロジェクト・メンバーとしてアサインします。

たとえば、車の開発を依頼されたとき、車は人生で買うものの中で2番目に高いものなのだと考えます。一番高いものは家でしょう。家と車って別々に買うけど、結局合体して使用されるわけですよね。だったら、ハウスメーカーと一緒に車を考えたらどうだろうというように思考を広げていくんです。たとえば電気自動車になったら、車はそのままリビングに入っていけます。タイヤの汚れの問題を除けば、排ガスが出ないから汚れることもない。非常用のバッテリーにもなるし、ひとつの空間サブの空間として煙草を吸ったり音楽を聴いたりできるかもしれない。こういう、まったく違う考え方ができるんです。

また、若者が車に乗らないことが課題ならば、たとえば4人ほどでAV空間を考えてみる。そうなればAV機器を作っているソニーのようなメーカーにガッチリ噛んでもらって、後からタイヤとスピーカーを付けたらいいんじゃないか、という発想が出てきます。誰と組むかによって、違う視点でお互いの価値を見出して、その上で、実際に一緒に会って深く議論してみる。そうするとお互いの抱えている悩みは、外から見たら意外とたいしたことがないことがわかるかもしれない。こうやって悩みの視点をずらすことによって、これまでの難題を解きやすい環境が生まれるかもしれない。そういうことをやっていかなければならないのではないかと思います。

(続く)