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SNS史、その20年のターニングポイントはどこか~『SNS変遷史』出版記念連載No.5

SNS運用の定則「三つのM」、そして「バズ」の魔力について

2020/07/06

書籍『SNS変遷史「いいね!」でつながる社会のゆくえ』(イースト新書)の出版を記念し、その一部内容をダイジェスト化してお届けする本連載。

これまでは、以下のような記事を発信してきました。

第1回:三大SNSの特性と支持を得た理由

第2回:SNSで情報を探す時代へ:「ググる」から「タグる」へのシフト

第3回:イノベーションとしての「いいね!」と模倣の原理

第4回:SNSがもたらした情報の広がり方をモデル化する

今回は、生活者が情報の発信者へとシフトしたことで起こった「バズ」現象と、企業がSNSとうまく付き合っていくための「三つのM」という考え方を紹介します。

SNS時代に生まれた「バズ」と、そのマーケティング活用

SNSを通じて情報が広がり、その中で生活者の態度変容やトレンドの発生が起こるようになったことで、「バズ(Buzz)」という概念が注目されるようになった。「バズ」とは、蜂が飛ぶ際の「ブンブン」という音が原義で、そこから転じて騒音や人々が集まって話すことによるガヤガヤ感を意味する。

この言葉が、ウェブマーケティング業界で拾われ、ネット上で人々が草の根的に話題を広げ拡散されていくものを「バズ」、そのような現象が起こることを「バズる」というようになった。

なお、「バズ」と同様の意味で、バイラル(Viral)という言葉も使われる。こちらは伝染病が広がるように、話題やアイデアが人づてに拡散していく様を指す。例え方が悪いと感じるかもしれないが、ネットワーク科学の分野では人々の噂話の広まりとウイルスの感染の拡大は、どちらも同じように分析される(新型コロナウイルスが短期間で爆発的に広がった国が多数出たことを考えると、その伝播力を実感する)。

「バズる」というワードには、「短時間」に「大量」の発信や共有が起こることがニュアンスとして含まれている。もちろん情報がゆっくり広がっていく現象を「バズる」と呼ぶケースもあるが、一般的に「バズ」とは、一気に大量に降ってくるゲリラ豪雨のようなものだ。予想もしなかったことが突然起こって拡散し、そのムーブは長くは続かず残らない。

どこからが「バズ」なのかという範囲の線引きも難しい。例えばZOZOの前社長・前澤友作氏による2019年初頭の「1億円お年玉企画」は、それまでのリツイート数世界記録の355万件を塗り替え500万近くに迫った。このような超特大のケースを指すこともあれば、かわいい犬の写真が1万リツイートされたようなものを「バズった」と言うこともある。

そして、どちらにも違和感はない。「バズる」という現象は多義的であるし、その言葉自体がそのような「ゆらぎ」を持っていることを留意しておくべきだろう。

「バズ」をプロモーションや広告コミュニケーションに活用することへの関心も高い。というのも、若年層世代では、商品やサービスの認知や好意がSNS経由で高まることも多いためだ。特に食品や飲料など消費財を扱う企業にとっては、話題喚起力のあるバズ現象を望む声も大きい。

ただし、バズってもブランドへの好意につながるかどうかは別問題であるし、企画を立てて綿密に実施したとしても、「バズ」が起こるかどうかは確定的ではない。

私たちは良いアイデアや面白い施策さえあれば、生活者に受け入れられて「バズる」と考えがちだが、インターネットサイエンスの領域で著名なダンカン・ワッツ氏が著した『偶然の科学』(2012年)の考えに則るならば、それは少々甘いかもしれない。

例えば森林火災を考えてみると、それが燃え広がるか燃え広がらないかは、その時のさまざまな変数やコンディションによっているわけで、誰も「そのきっかけとなった火花がすごかったからだ!」とは考えない。しかしながら、人が起こす社会現象については、何か自分が納得できる理由を探し求めてしまう傾向があると、ワッツ氏は指摘する。つまり、中身が良ければバズるといった単線的な見方では捉えきれない複雑な現象に他ならないのだ。

バイラルの項で紹介した「社会的感染」や、連載第3回 でルネ・ジラール氏が主張した「模倣」のような考え方は確かに重要なものだが、アイデアが良ければ、有名人が広げればバズる…といった単純な話ではなく、その時の他の競合ニュースの状況、情報を受け取る側の状況や気分、世の中全体のコンディションなどなど、森林火災同様にさまざまな変数が絡んで「バズる」か「バズらない」かは決定される。

「バズ」と「炎上」の違いを考える

「バズ」というテーマに触れるに当たり、避けて通れないのが「炎上」との違いについてだ。

ウェブ上でのバッシングや批判的な集中攻撃は、2000年中頃までは「コメントスクラム」と呼ばれていた。これは、ブログや記事のコメント欄が荒れることを指していたが、SNSの普及によって、そのイシューについての攻撃や非難がさまざまな場で同時多発的に起こるようになり、「炎上」という呼び方が定着した。

「バズ」も「炎上」もSNS上での話題の広がりの表裏ではありつつ、前者は発信者に対してポジティブな、後者はネガティブな評価が残る点に違いがある。

あえて「炎上」することで話題を集めてしまえばいいんだという乱暴な割り切りで、一部では「炎上マーケティング」という「戦略」─実際には戦略にもなっていない─があるとされる。実際に「炎上」を繰り返しながら知名度を上げているSNS上のインフルエンサーも確かにいる。

しかし「炎上」とは、敵と味方がはっきりする酷な一面もあり、それまで味方だと思っていた人が自分を非難するようになるなど、「話題になるからお得だ」という考え方には回収しきれない傷が残る可能性もある。どれだけ拡散されたのかが可視化されることで効果があったように錯覚してしまうことの危険性は拭えない。

炎上の特性は、端的に言えば「他者の視線を欠いた自分本位な発信」が元凶だ。本当はよく知らないのに知識不足や思い込みで誤謬を撒き散らしたり、客観性を装って自分が得するように誘導したりする─2000年代以降何度か起こった、芸能人やインフルエンサーによる「ステルスマーケティング(ステマ)騒動」はこれに当たる─ために起こる。

情報が広がっていくときのその質に注目して、「バズ」と「炎上」とを峻別する必要がある。

SNS運用の三つのM、「モニタリング」「ミングル」「メジャリング」

「バズ」を巡る熱狂は幾分冷静になってきているようにも思うが、「自然に情報が広まっていく」ことの魔力(マジック)は私たちを依然として魅了し続けているし、「バズ」がない世界は、それはそれできっと退屈に違いない。

しかしながら、私たちにはマジックのみならず、ロジックのそなわった方法論も必要である。

冷静になるために、主に企業や団体がSNSを活用する際の「三つのM」という定石を紹介しよう。

三つのMとは、次のことを指す。
「Monitoring モニタリング」(観察すること)
「Mingle ミングル」(交流すること)
「Measuring メジャリング」(測定すること)

「Monitoring」はいわばソーシャルリスニングのことで、ユーザーがどんなコミュニケーションをしているのか、そこで何が話題になっているのかをしっかり観察し、把握することを指す。自社、自ブランドのファンはもちろん、世の中一般の声やニーズを把握することの意義も深い。

モニタリング
イラスト:渡邊はるか(電通)

「Mingle」とは、他のアカウント/ユーザーとの交流によって関係性を深めていくこと。コメントにコメントで返信するといったものだけでなく、「いいね!」を付けたりリツイートで拡散したり、何らかのかたちでアグリゲート(集約)したりすることを広く包含する。

ミングル


「Measuring」は、最適な運営に近づけていくためにPDCAを回すことを意味する。個人が趣味でやっているSNSであれば気にする必要はないが、何らかの事業的な目標を伴う場合には必須の工程で、SNS上で測定できるエンゲージメントの数値を見ながら、投稿内容や運用方針について調整していくことになる。

メジャリング


三つを統合する考え方としては、「Monitoring」と「Mingle」の価値をどのように「Measuring」に落とし込むかという視点が大切だ。それが抜けたまま、近視眼的な目標設定と「Measuring」が行われていないか見直す必要がある。

この「三つのM」を意識したSNS運用は長期的に生活者とのエンゲージメントを高めるのに役立つだろう。そして、そのようにSNSの運用によって生活者の理解を深めることを通して、私たちはどこかで「バズ」と出合うのを期待することができるのだ。