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Dentsu Design TalkNo.15

電子書籍『物語と格闘せよ!』

大友流、演出の極意(1)

2014/02/14

株式会社ブックウォーカーが展開するコンパクトな電子書籍専用レーベル【カドカワ・ミニッツブック】か ら、「DENTSU DESIGN TALK」シリーズの第二弾が配信されました。第二弾は、NHK時代に「ハゲタカ」や「龍馬伝」でブームを巻き起こし、独立後の初の映画「るろうに剣心」 でも注目された大友啓史氏と、その大友氏が注目する電通・コミュニケーション・デザイン・センターの高崎卓馬氏による『物語と格闘せよ! DENTSU DESIGN TALK』です。働くとは、物作りとは、何か?ふたりの熱いトークを少しずつご紹介致します。

< 「龍馬伝」から『るろうに剣心』へ >

 

高崎:大友さんは、今もっとも注目すべき映画監督です。2011年の4月にNHKを辞めてフリーになられて、最初に監督した映画が『るろうに剣心』。私は大友さんがNHKで手がけられた「龍馬伝」をお手伝いして、そのタイミングでお会いしてからそれ以降、何度かお話しする機会があったのですが、結構とんでもない人で、いい意味で狂っているというか、人間がどこまでいけるか、みたいな戦い方をしていて。そのエネルギーをすべて反映させながらものづくりをしている方だと勝手に思っています。

これまでの「白洲次郎」や「ハゲタカ」や「龍馬伝」といったNHKでのお仕事を通して見ていても、やはり作っているものの重量感がものすごくて、その重量感がどこから出てくるのかを今日はうかがえたらいいなと思っています。

 

大友:どうも、狂っている大友です(笑)。一生懸命ものを作っているとどうしても狂わざるを得ない局面があって色々誤解も受けます。でも、なんとかここまで生きてきたので大丈夫かなと。油断はできませんけどね(笑)。

僕も「龍馬伝」で知り合って以降、同じクリエーティブに関わる同志として高崎さんをリスペクトしています。今日はざっくばらんに色々な話ができると思っています。どうぞお手柔らかにお願いします。

 

高崎:まずは早速『るろうに剣心』のメイキング映像を見ていただいて、大友さんの監督論やものづくりの話をしていこうと思います。

これは何ヶ月くらいで撮影したんですか?

 

大友:撮影期間は4ヶ月なんですが、実質撮影は54日です。売れっ子の役者ばかり集めてますからね、どうしても間が空いてしまって。でも、殺陣の練習もしなければいけませんから、空いた時間はひたすら稽古、稽古です。結局こういう性質の映画は、トータルでそのくらいの期間が必要なんですよね。2011年8月2日に冒頭のシーンからクランクインして、11月下旬まで4ヶ月京都にいました。

 

高崎:僕は一足先に完成版を見たのですが、邦画には見えないというか、いい洋画を観終わったみたいな感覚がしました。おそらく濃さというか、かかったカロリーの違いのようなものを全身で感じたんだと思います。

この映画は原作のマンガが1994年~99年に連載されていて、キャラクターもののマンガの先駆けで、コスプレという行為の発生源になったりもして、ひとつの文化を作ったマンガだと思います。こういう伝説的なマンガの原作の映像化は大変だと思うのですが、よく引き受けましたね。

 

大友:先ほどご紹介いただいたように、NHK時代はどちらかというと実話ベースの社会派ドラマを作っていました。それで会社を辞めると決めた時にいくつか企画をいただいたのですが、その中の1つが『るろうに剣心』だったんですね。

原作は『週刊少年ジャンプ』のアクション・エンターテイメントで、連載当初は少年誌ではこういう明治の時代物はウケないからタブーと言われていたそうですが、少年誌には珍しく女性層を中心に思いがけず人気が出てヒットした。絵もすごく柔らかいタッチで、男性マンガの絵柄ではないですよね。だから最初は、今までの僕の作風からすると一番遠いものが来たなという印象でした。

一般的にマンガは、現実から大きくデフォルメしてキャラクターを描いていますから、実写化する際にそれを忠実に生身に起こしていこうとすればするほど失敗します。観客として私もそういう失敗をたくさん見てきました。ですから、実写化のキーポイントはまずキャラクターを生身の人間にした時にどう着地させていくかということだと思いました。それは、細心さと大胆さのバランスも含めて、実は演出家の腕や力量が一番試されることじゃないかと。自分がフリーになって次のステップに行きたいと思っていた時期だからこそ、挑戦の意味も含めていいネタがきたなと、逆にそう思い始めたんですね。

 

<原作に誠実であること>

 

高崎:映画化にあたって、原作者とはどの程度話し合ったのでしょうか?

 

大友:映画化するときの壁は、原作そのものよりも、その向こうにあるファン層にどう向き合うかだと思います。僕は基本的に真っ向から勝負したい性格なんですが、熱狂的なファンの人たちに対して、どうぶつかることが真っ向からぶつかるということなのか、そのあたりを極めて慎重に探りましたね。で、原作者がいいと言えばファンも黙らざるを得ないだろうと(笑)。

原作者の和月伸宏さんとは、3次元と2次元の違いから丁寧に話し合いました。例えば2次元のマンガの場合はペラペラページをめくりながら見て、わからなかったら戻って、読者が自分の世界でコントロールできるメディアです。文字は全部視覚化されていて情報は耳から入ってきません。

一方で3次元は全く異なっていて、映画は時間芸術です。作る人数もマンガは10人弱だと思いますが、映画は『るろうに剣心』の場合、スタッフが600人いるわけです。エキストラを入れたら、のべ4000、5000人になる。それに比べるとマンガの世界はある種原作者が全てをコントロールできる世界ですよね。こっちは600人関わると、その一人一人が意見も意思もあって、俳優さんももちろん意見を言いますし、僕が思ってもいないことが数々生じてくる。その成り立ちから作品の力が生まれてくることもある。映画は「総合芸術」なんですよね、やっぱり。メディアとしての在り方が全く違う。そういうプロセスの中で原作者の和月さんと最初に一致したのは、CGはナシだよねということでした。

このマンガは日本のアクション・エンターテイメントの先駆けなので、実写化するときの最大の課題はアクションです。いくら超人的とはいっても生身のサムライアクションでなければならない。僕はハリウッドでアクション描写に散々触れ、アクションというジャンルの研究も密かにしていました。NHKでは全くできなかったから、アクションは機会があればぜひ挑戦したいと思っていたので、まあ望むところだと。

 

高崎:大友さんは1997年から2年間ロサンゼルスで映画の演出と脚本の勉強をしていますね。その頃の影響が大きい?

 

大友:はい。言葉に苦労する中で、言葉が無くても通じるアクション映画のありがたみは十分感じていました。と同時に、言葉だと海の向こうに渡って行けないけど、アクションを武器にすれば行ける、それを実感できる時期でもあったんですね。ちょうどその前後だったと思いますが、ジャッキー・チェンの『レッド・ブロンクス』がボックスオフィスで1位を取り、ジョン・ウーやツイ・ハークといったチャイニーズのフィルムメーカーたちがアクションを武器に、まあ言葉もそんなに流暢ではないのに、ハリウッドに来て最前線で映画を撮っていた。

「ムービーのルーツはムーブであり、モーションであり、エモーションである」ということを考えると、やっぱりキートンやチャップリンの無声映画の時代から映像表現のベースにはアクションがある。ですから、留学時代に演技の基本、映像の基本はアクションであると再確認する部分もあって。『るろうに剣心』の世界で一度アクションを極めてみたい、そう思いました。

ただ、そのためにはどうしたらいいかを考えると、例えばスパイダーマンなら蜘蛛の遺伝子が入っているから人間離れした動きができるし、スパイダースーツを着ているからCGっぽい質感でも許せるんですけど、剣心は侍ですからね、人間の動き、人間らしさにこだわりたい。

さらに和服ですから着物や髪の乱れを考えると、そういうものも含めて動いた時の計算できない動きをCGで表現するほうがよっぽど大変で、考えれば考えるほどCGでのアクション表現には勝算がないわけです。人は動けば汗をかくし、息も上がる。そういうことを考えると生身でやるしかないという話になってくる。

実はそうやって比較的現実的なアプローチから詰めていくと、実際のやり方というのはほぼ決まってくるんですね。その中でキャラクターをどういう風にエッジを立てるか。間違ってはいけないのは、コスプレではなくしてあげないといけないということです。いや、どうせやるなら最上級のコスプレにすると言い換えてもいい(笑)。

「これが原作に忠実でリアルなんです」と言って衣装を着せても、剣心を演じる佐藤健さん(以下敬称略)に合ってなくて本人がイケてないと思ったら彼は思いっきり、自信をもって演技はできない。原作に忠実であるということと、原作に誠実であることは違っていて、マンガ家さんはマンガのプロであって、映像化するときのプロではないですよねという線引きを、自分の中でもプロジェクトの中でも、どこかでビシッと決める。ここから先は信頼して任せてくださいというラインを決める代わりに、原作の中にあるスピリットや核心のところは確実に表現しますと、そこだけは約束させていただいて、それ以外は僕を信用してくださいと。役者たちは似ている似ていないにかかわらず、内面から作った正しいアプローチでキャラクターに近づいていきます。そうすると最初は似てなくても、不思議とだんだん似てくるものなんですよ。

「龍馬伝」の福山雅治さん(以下敬称略)だって、実際の龍馬があんなにイイ男なはずなくて、本当はきっと武田鉄矢さんの方が近い(笑)。ところが、福山雅治がちゃんと龍馬の生き方を追体験して、内面から正しいアプローチをしていくとなぜか彼は龍馬そのものになっていく。岩崎弥太郎も、香川照之さんは全然姿形は似てませんけどね(笑)、でも正しいアプローチでその生き方に真っ向から堂々と対峙していくと、なんだか誰もがびっくりするくらい似てきてしまうんですよね。

(つづく)

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