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イノラボが生み出す協創のカタチNo.4

世界初のソーシャルシティ「グランフロント大阪」の可能性

2014/02/17

株式会社電通国際情報サービス(ISID)のオープンイノベーション研究所(イノラボ)は、いま、ITを活用したまったく新しい街づくりにチャレンジしています。街全体がひとつのITプラットフォームでつながり、NFC(近距離無線通信)や位置情報システムの力で集められた膨大なデータによって、日々アップデートされていく…。

“育ち続ける街”の仕掛人、イノラボ研究員・鈴木淳一さんに、詳しいお話を伺いました。

NFCや測位技術の利活用検討から始まった、まったく新しい街づくり

――鈴木さんは、イノラボでどんなことをされているんですか?

鈴木:ITの利活用による街づくりを研究しています。もともとはISIDの金融事業部というところで金融機関向けのシステム構築を担当していたんですが、ふと気づいたら、金融機関でない一般の事業者が、さまざまな電子マネーサービスやポイントサービスを提供する世の中になっていて…。今後、非金融機関が行う金融サービスが、どんどん普及してくるんじゃないかと思ったんですよね。鉄道会社やメーカーといった事業者が金融に紐付いたテクノロジーによって、他の事業者とアライアンスを結んでサービスコンテンツを変えていく、そういう世の中がやってくる予感がして、「ならば私たちも、金融機関だけでなく幅広い顧客に向けて、金融事業で培った技術力を生かしてサービスを展開しよう」と考えました。

――電子マネーサービスに用いられるRFIDやNFC技術が、街づくりとどのように関係しているんですか?

鈴木:一般の事業者が発行するICカードは、当初、電子マネーやポイントによる決済手段としてのみ利用されていました。ところがRFID(Radio Frequency Identification/電波による個体識別)や、NFC(Near field communication/近距離無線通信)という技術が一般化するにつれて、個人を識別するための認証手段や事業者どうしの相互送客の手段としても機能するようになったんです。年齢認証が必要なタバコを、カードをかざすだけで買えるようになったり、個人を認識して映画のチケットを発券したり。さらに、お店や観光スポットなどに設置された端末に、カードやスマホを“かざしてもらう”ことで、どんなお店で何を買ったかという消費履歴や、いつどこに行ったかといった行動履歴も取れるようになりました。また、実空間のIDであるRFIDやNFCをSNSアカウントと紐付けることで、誰と一緒にいたのかも、タグ情報などから分かります。

こういうデータを活用すれば、NFCをもつ個人にどんな友達が何人いるのか、どの人に対してどういった影響力を持っているのかといった“人間関係”まで見えてきます。すると、お店や地域が、より個人に最適化された満足度の高いサービスを提供できるようになる。決済手段としての利用に始まり、相互送客を目的としたアライアンス戦略がサービスの在り方を変え、新しい街のかたちを生み出すんじゃないかと考えました。

世界初のソーシャルシティ「グランフロント大阪」って、どんなところ?

――ITを利活用した新しい街として注目されているのが、2013年4月にオープンした「グランフロント大阪」ですよね。ISIDがIT基盤を担っているそうですが、これはいったい、どのような街なのでしょうか?

鈴木:「グランフロント大阪」は、JR大阪駅と直結した大型複合施設です。7ヘクタールという広大な敷地に、ショッピングモールやレストラン、オフィス、劇場、ホテルなどが併設され、オープン以来、多くのお客さんが足を運んでくださっています。中でも特徴的なのが、国内外の研究機関が集まり“知の交流”を行う場所、「ナレッジ・キャピタル」。多くの大学や企業が入居し、コラボレーションによって新たな知的創造を生み出すことを目指しています。実はイノラボも、「ナレッジ・キャピタル」に入居しているんですよ。

この「グランフロント大阪」は、街全体がひとつのITプラットフォームを採用した、世界初のソーシャルシティとしても注目を集めています。プロジェクトが始まった当初、私たちは、決済やポイントの仕組みづくりを考える研究部会の一員として参画していました。ところが、決済には電子マネーが便利だよね、みんなICカード持ってるし、電子マネーやポイントを運用するなら当時スマートフォンへの導入も検討され始めていたNFCに対応できないとね、NFCの個人認証で得られる情報は街のファン形成に向けて最大限に使いたいよね、と、どんどん構想がふくらんでいきまして…。いつしか「グランフロント大阪」が目指すコミュニティ活動を中心とする街との情緒的な関係性の構築に重きを置いた街づくりと、私たちイノラボが目指す人間関係の可視化を目指すソーシャルシティという街づくりのコンセプトがうまく合致するようになって、IT基盤を担うことになりました。

人と人とが響きあう、情緒的なコミュニティを目指して

――「グランフロント大阪」とイノラボが目指すソーシャルシティとは、どのようなものですか?

鈴木:ソーシャルグラフ、つまり人間関係に基づいて育つ街、といったところでしょうか。ITの利活用によって生まれた新しい街の形として、よくスマートシティが挙げられますが、これは電力を見える化したり、電気自動車を活用するための交通システムを整備したりと、エコ的な軸で作られていますよね。一方のソーシャルシティは、もっと情緒的なものなんです。例えば、NFCの履歴や位置情報システム、SNSの履歴などで、「たぶんこのふたりは恋人同士だろうな」と類推されるカップルがいたとします。男性に対しておすすめしたい商品がある場合、店員さんが直接男性に「これこれこういう商品がいいですよ」と伝えるよりも、たぶん恋人であろう女性から「あの店にこんないい商品があるらしいよ」と伝えてもらった方が効果があるかもしれません。ソーシャルシティなら、こういう、その人にとって影響力のある特定の人物というルートでメッセージを送ることができるんです。

また、あるお客さんは、ひとりのときは客単価3,000円だけれども、恋人と一緒のときは1万円に跳ね上がり、なおかつ窓際に座ったときは2万円になる、という傾向があるとします。そういうデータが事前にわかっていれば、恋人と一緒に来店されたら窓際の席をご案内し、ドリンクを無料で提供する、なんていう心憎いサービスができるようになるんです。多くのお客さんが訪れる大型のレストラン、アルバイトの従業員が入れ代わり立ち代わりで接客しているようなお店でも、誰もが、まるで常連さんを迎え入れるようなおもてなしができる。こういうところが、ソーシャルシティならではのメリットだと思います。

人と人とが響きあい、より質の高いサービス、新しい価値が生まれる、そういう街を作っていきたいと思っています。

第5回に続く)