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共創するサーキュラーエコノミーNo.5

容器自体をなくすのも一案。サステナブルな素材選びを考える

2021/07/02

電通グループを中心とする7社が協働して、企業のサーキュラーエコノミー(循環型経済)構築への取り組みを支援する「SDGsビジネスソリューション」(リリースはこちら)。

SDGsビジネスソリューション
SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが加速する中、「脱プラ」に象徴されるように、さまざまな業界が「サステナブルな素材」に注目し始めています。しかし実際には、どのように素材を選んで製品化すればいいのか悩む企業も少なくありません。

そこで今回は、「SDGsビジネスソリューション」に参画している「Material ConneXion Tokyo」(以下、マテリアルコネクション東京)の取り組みを紹介。マテリアルコネクションは、素材や材料のライブラリーを世界7カ所に持ち、素材起点のコンサルティングを行っている、「素材の専門家集団」です。

サーキュラーエコノミー構築における素材選択の重要性について、マテリアルコネクション東京を運営するエムクロッシング代表取締役・吉川久美子氏に話を伺いました。

吉川久美子
吉川久美子氏:2013年、マテリアルコネクション東京の設立に携わり、2015年に運営会社であるエムクロッシングの代表取締役に就任。さまざまな領域の素材や加工技術をクロスボーダーで活用することでイノベーションにつなげるマテリアルコンサルティングを行っている。

マテリアルコネクションは、8000点以上の素材を保有する「素材の専門家集団」

──まず、マテリアルコネクション東京の事業内容について教えてください。

吉川:1997年、ニューヨークで設立されたマテリアルコネクションは、世界に七つの拠点を持ち、素材を軸にデザイン、製品開発、製造のイノベーションをサポートする事業を展開しています。2013年には日本の拠点としてマテリアルコネクション東京が設立されました。

事業内容は大きく三つあります。一つ目は、世界中の素材をリサーチして蓄積したライブラリーの運営です。オンラインで見られるデータベースと、各拠点で実際に触れることができるライブラリーを併設しており、データベースには8000点以上の素材を保有。毎月20~30点の素材が新しく追加されています。二つ目は、企業やデザイナーに最適な素材を提案するコンサルティング。そして三つ目は、素材メーカーと企業をつなぐサポートです。

Material ConneXion Tokyo

私たちが扱う素材は多岐にわたり、自動車、家電、建築、インテリア、スポーツ、ファッションなどさまざまな業界のプロダクト開発関係者にご利用いただいています。素材選びでは、自分が属する業界以外のものについて知る機会が少ないのですが、マテリアルコネクションでは、他業界で使われている素材とも出合えます。これまで知らなかった素材からインスピレーションを受け、新しい価値創造につなげる「アイデア発想の場」としても利用できるところが強みです。

サステナブルな視点での素材選びの課題とは?

──SDGsが国連で採択されてから6年になります。「サステナブルな視点での素材選び」の現状をどのように捉えていますか?

吉川:サステナブルなものづくりを進めていく上での課題の一つは、素材の選択肢が少ないことです。海外では割と多くの選択肢があるのですが、国内では、すぐに使用可能で、量産できる素材がまだ少ないんです。

さらに、生活者が使用して廃棄するところまでを考えたときに、廃棄方法がちゃんと定められているか、リサイクルが可能かどうかなど、インフラの部分で地域差が大きいため、そこも理解しておかなければなりません。特にグローバルな企業は、商品が流通するエリアが広くなりますから、国や地域のインフラの状況を踏まえて素材を選択していかなければなりません。ですから、いま使っている素材をなかなか替えられないのが現状だと感じています。

また、企業の部署ごとに「SDGs」「サステナブル」「サーキュラーエコノミー」についての理解レベルにバラつきがあると感じています。企業全体で理解を深めた上で、具体的な方針を決めていく必要があります。

──具体的にはどのように素材を選んでいけばいいのでしょうか?
 
吉川:「脱プラ」における素材選びを例に挙げると、まず、「石油由来以外のプラスチック」に転換する方法があります。植物由来のプラスチックはよく知られていますね。しかし、植物由来のプラスチックといっても素材はさまざまです。トウモロコシなどの農作物からプラスチックをつくることもできますが、今後、温暖化が進むと地球上で農地にできる面積が減少することから、最近ではプラスチック原料のために農地を使うことは極力避けるべきだと考えられています。そのため、木などの植物からとれるセルロースという繊維からつくったプラスチックや、微生物を介してつくるプラスチックなど、「農作物とバッティングしない」方法でつくるプラスチックが注目され、開発が進められています。

その他、「プラスチック以外の素材」に転換する方法もあります。例えばプラスチックと同じように射出成型(※)ができる木材由来の素材などがあり、海洋汚染につながるマイクロプラスチックを出さない素材として期待されています。また、アルミや紙など今ある素材を選ぶことも方法の一つ。特にアルミは、国内の飲料用アルミ缶のリサイクル率が90%と非常に高く、リサイクルにかかるエネルギー量もアルミを一からつくるときの3%で済みます。このようにリサイクルのインフラがすでに整っている素材に替えることも有効な手段です。

※ プラスチックの成型方法。樹脂を溶かして金型の中に入れ、固めることで形をつくる。


私が最近面白いなと思った脱プラの事例は、あるベンチャー企業が開発した固形せっけんのようなシャンプー。これだとプラスチックボトルも、詰め替え用のプラスチック容器も要らないですよね。このように製品自体を変えることも、脱プラにおける一つのアイデアです。

脱プラ一つとってもさまざまな選択肢があり、私たちとしても「SDGsビジネスソリューション」の中で、企業と一緒に最適な方法を考えていければと思っています。さらに、企業の取り組みが加速すれば、素材の需要が増えて価格を下げることができます。そして、ニーズがあることを見える化できれば、素材開発をしてみようという企業も増えていくはず。素材開発のイノベーションにつながるよう努めていきたいと考えています。

また、サーキュラーエコノミーの考え方がもっと理解され、浸透していくべきだということも強く感じています。この考え方にシフトすることで、製品のエンド・オブ・ライフを考慮した、最適な素材を選ぶための道筋がおのずとできてくるはずです。

素材選びのポイントは、性能とサステナブルをどう両立させるか

──マテリアルコネクションのライブラリーは海外企業も多く利用していると思います。海外でもSDGsの視点を持った素材選びが行われているのでしょうか?

吉川:海外では、サステナビリティを実現する素材の選択は当たり前になりつつあります。ライブラリーには世界中から素材が集まってきますが、以前は「リンゴの皮を使用して作ったレザー」のような、廃棄するものを使っていることをアピールする素材が多くありました。しかし最近では、サステナブルであることは当然で、機能や性能が今までの素材と同等あるいはそれ以上、という素材が増えているように感じています。アメリカや欧州の生活者は、日本に比べると感度が高く、たとえ価格が高かったとしてもサステナブルな商品を購入する人々が一定数いると考えられます。

もちろん日本でも、「性能の良さ」と「サステナブル」が両立した素材を使用することが理想ではありますが、最初からそこを目指すのはなかなか難しい。それまでの製品のスペックをキープしたまま素材を替えるのは相当な努力が必要です。しかも、海外に比べると日本では製品に対してかなり高いスペックが求められていると思います。そのため、見直せるところは見直したり、生活者に受け入れてもらうためにきちんとコミュニケーションを取ったりしていくことも、今後は大切になってくるのではないでしょうか。

例えば、プラスチックを使用しないパッケージに替えたことで食品の賞味期限が短くなったとしたら、その分、商品の価格を少し下げるなど、生活者にもメリットがあるといいですよね。単に「パッケージをサステナブルな素材に替えました」というだけではなくて、素材を替えたことによって発生する課題を、製品の在り方、仕組み、マネタイズも含めたイノベーションによって解決し、かつ、お客さまに新たな体験価値を提供する。私たちと電通グループで取り組む「SDGsビジネスソリューション」では、こうしたことが実現できると期待しています。

「ものづくり」面でサポートし、実現に向けた具体的なソリューションを提案

──「SDGsビジネスソリューション」において、マテリアルコネクション東京は、どのような役割を担っていますか?

吉川:「SDGsビジネスソリューション」は、広告やコミュニケーション分野だけでなく、ものづくりにおけるサポートも行いながら、企業のサーキュラーエコノミー構築を支援する取り組みです。そのなかで私たちは「素材の専門家」として、サステナブルなものづくりの実現に向けた具体的なサポートができればと考えています。

製品の企画段階からあらかじめ廃棄物が出ないように設計するサーキュラーエコノミーという考え方において、素材の選定は非常に大切。だからこそ、悩んでいる企業も少なくありません。そうした企業に対して、素材の提案はもちろん、実際にものづくりをするときに「どうやって加工するのか」「どこで加工するのか」など、加工技術に関する支援まで行っていきたいと思っています。

──吉川さんは、協働する電通グループのどのようなところを強みだと感じていますか?

吉川:広告コミュニケーション事業に長く携わる中で、さまざまなステークホルダーとネットワークが築けているところです。

私たちは普段、デザインや開発など、ものづくりに関わる方と仕事をすることが多いのですが、その方たちだけでサステナブルなものづくりを実現するのはとても大変だと感じています。たとえやりたいことが明確でも、「会社の方針として正しいのか」「社内をどう説得して意思決定させればいいのか」など、クリアしなければならない課題が山積みで、スムーズに進めることがなかなか難しいのが現状です。

しかし今回の「SDGsビジネスソリューション」では、意思決定ができる会社の経営層と、ものづくりを行う事業部をつなげて、川上から川下まで統一感をもってプロジェクトを進めていくことができる。これは、コミュニケーション分野に強い電通グループだからこそできることです。社内のさまざまな役割を担う人たちがワンチームで取り組んでいくことが、より良いソリューションを生み出すことにもつながるはず。サーキュラーエコノミーの構築に向けて、具体的な事業に落とし込んでいくときの「次の一手」を、私たちも一緒に考えていきたいと思います。

SDGsビジネスソリューション
「SDGsビジネスソリューション」は、電通TeamSDGs が窓口になります。電通TeamSDGsのサイトでは、本ソリューションについて詳しく紹介しています。お問い合わせもこちらからどうぞ。
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