Dentsu Design Talk #16

電子書籍『物語と格闘せよ!』

大友流、演出の極意(2)

  •     profile 01
    大友 啓史
    株式会社大友啓史事務所 映画監督
  • Takasaki
    髙崎 卓馬
    株式会社電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー
 
 

株式会社ブックウォーカーが展開するコンパクトな電子書籍専用レーベル【カドカワ・ミニッツブック】か ら、「DENTSU DESIGN TALK」シリーズの第二弾が配信されました。第二弾は、NHK時代に「ハゲタカ」や「龍馬伝」でブームを巻き起こし、独立後の初の映画「るろうに剣心」 でも注目された大友啓史氏と、その大友氏が注目する電通・コミュニケーション・デザイン・センターの高崎卓馬氏による『物語と格闘せよ! DENTSU DESIGN TALK』です。働くとは、物作りとは、何か?ふたりの熱いトークを少しずつご紹介致します。

 

 

<CMでしかできないことをやるのが面白い>

 

高崎 映画が大好きで。映画がやりたくて広告をはじめたようなところもあったので、以前は映画に対して少し負い目があって、CMだけど映画みたいに作るという意識でしばらくやっていた時期があるんです。

それから、「映画っぽいもの」を作らなくなくなった瞬間というのがどこかにあって、だんだんCMならCMでしかできないことをやったほうが面白いと考えるようになりました。そうしたら「dビデオ」のCMを作った時に、大友さんから「映画じゃできないことをやっていて羨ましい」というメールをもらって、その場のポテンシャルを100使って、他ではできないことをやるべきなんだと改めて思いました。

だから、映画に憧れてはいるんですけど、映画みたいなものを作りたいと思って生きていく必要がないということを身体で感じたあの仕事は自分のなかで結構大きな出来事だった気がします。

 

大友 それは松田龍平君(以下敬称略)とロバート・デ・ニーロのCMを観たときの話ですよね。僕らくらいの世代にとって、あの二人の共演はたまらない組み合わせです。松田龍平の後ろには当然、松田優作という物語があるわけで、そして『タクシードライバー』などの映画を愛する人間たちがデ・ニーロの向こう側に見ているストーリーや世界があって、そういう自分の思い出や物語の世界が一挙に広がっていく俳優というのが、日本では松田龍平だし、アメリカではロバート・デ・ニーロなんですね。

高崎さんが手がけられたあのCMでは、そんな映像的な艶と物語をいっぱい持った二人が同じフレームにいて、英語と日本語で会話している。30秒と短いけれどもすごく色んな方向に、無限大に物語が広がっていくわけです。

僕も『ハゲタカ』で松田龍平とご一緒した時に、「ふざけんじゃねえよ!」と彼がキレるシーンを撮った瞬間、ふっとそこに松田優作が乗り移った瞬間というのを勝手に感じて、本当にこの仕事をやっていてよかったと思ったんですけど、そういう物語があのCMで一瞬のうちに広がったんです。同時に、この二人が「ああ、映画にできる」と感じるくらいの関係性や場所で会話をしていることも驚きだった。実際に映画で松田龍平とロバート・デ・ニーロを共演させるなんてそう簡単にはできないですからね。それで、そのときにメールで感想を送ったんです。あれはデ・ニーロの交渉もスムーズに進んだのですか?

 

高崎 それがデ・ニーロはすぐ受けてくれたんです。彼は判断も自分でしているようで。まあ普通だと連絡がつきにくい人ですよね。今回は運が良かった気がします。実は以前の撮影でメイキング回してたら怒って帰ったとかいろんな話を聞いてたから、すごく怖いって思ってて。撮影の1週間くらい前から向こうに入って、現地で繋いでいる人に「デ・ニーロってちゃんと理解してるの? 日本語と英語で会話するのわかってるのかな?」って聞いたりして不安になったりしました。そうしたら「部屋のコンテが裏返ってるからたぶん見てる」とか言われて。ただ不安になってました。でもデ・ニーロは、商品がああいうものだったことも大きくて現場には映画のスイッチで入ってきたんです。

CMの現場って普通は役者もスイッチを入れずにやる人多いと思うんですけど、彼は完全にスイッチを入れていて面白かったです。芝居の仕方が普通じゃないんですよ。スクリーンで生きて来た人のせいか、名優だからなのかはわかりませんが、お芝居が小さいんです。目玉の動きだけで伝わっちゃったりする。編集室でその凄さを見つけてはわーわー喜んでました。カメラマンもデイヴィッド・リンチの『ブルーベルベット』とかを撮っている人で、むしろアメリカのスタッフはその人と仕事ができるということに興奮していましたね。

 

<役者のスイッチを刺激する>

 

高崎 やっぱりクライアントと自分だけで解決できることだとつまらないと思っている自分がいて、もう一つ負荷をかけたい。そういう要素があると火事場のクソ力のような作用が働いて、普通とはちがうものにたどりつく。そういう意識もあってああいう人をなんとかしようと思ってキャスティングしました。

 

大友 やっぱり裏側のドタバタって面白いんですよね。

 

高崎 普通は出ない力も出ますし、自分も引けなくなる瞬間があったりしますから。

 

大友 デ・ニーロのスイッチの入れ方っていう話、面白いですね。そういえば僕はスペシャルドラマ「白洲次郎」のときに、吉田茂の役を原田芳雄さんに頼んだんですね。吉田茂は身長155センチ、その小柄な体で敗戦後の日本を支え、総理大臣として一心不乱に働いた人物ですが、そのキャラクターをふまえると日本の役者で演じることができる人なんてそうそういない。最初はビートたけしさんしか思いつかなかった。で、ふっと思いついたのが原田芳雄さんでした。役者としての品格や凄味、経験値、インテリジェンスとユーモア、それらすべてを兼ね備えた原田さんにしか極めてユニークでチャーミングな吉田茂首相を演じることはできないのではないかと。で、早速お願いしてみたら、原田さんは「吉田茂は権力の側にいる人間だからな」と言ってなかなか首を縦にふってはくれない。でも他に思い当たる役者は全然いないわけです。

「最後に一度だけプレゼンさせてほしい、そうすれば諦めがつく」と頼み込んで、吉田茂の資料と原田芳雄さんの資料を散々集めて、最後のプレゼンに臨みました。それで4時間喋ったのですが、それでもOKしてくれない。最後に「諦めきれないけど、少しだけこの写真を見てください」と言って写真を見せた。吉田茂が白いスーツを着ている写真と原田芳雄さんが同じように白いスーツを着ている写真や二人とも着流しを着て、縁側に座っている写真。短髪に丸眼鏡をかけた写真。とにかく二人の「見え方」が似ている写真、同じようなアングルの写真をずらーっとテーブルに広げたんですね。それは僕の思い込みではなくて、本当にすごくよく似ているんです。誰も否定できない。原田さんはそれを面白がってくれたようで、ずっとそれを眺めているんですね。そのうちに、「このメガネは鼻眼鏡か」とか始まるわけです。それで「吉田茂は落語が好きだったから、早口でべらんめえ口調なんだよね」というように、少しずつスイッチが入っていって、その場で吉田茂の口調を再現し始めた。「吉田茂を演じること」に何らかの面白味を見つけてくださったんですね。

役者へのアプローチは色々あるわけで、物理的・外見的に似ているということもそうだし、生き方に共鳴することもある。近衛文麿役を演じてくださった岸部一徳さんの場合も歴史上の人物は決してやらないとおっしゃっていたのですが、写真を持っていったら「僕は普通演らないんだけど、僕と近衛さんはどこか似ている気がするんですよね」って。顔が似ているという外面からのアプローチというのは、なんていうのかな、極めて身体的でクールな判断ですごく面白いなあと。「龍馬伝」の福山雅治へのアプローチとはまた別ですけどね、そういうポイントを作ることで、彼らが自分でスイッチを入れ易くなるという場合もあるみたいですね。

 

高崎 役者って面白いですよね。きっと役者たちは外で自分がこれを演じた理由をちゃんと言えるようにしておきたいということなんでしょうね。やっぱり一番表に出ますし、その役ひとつでさらけ出さなきゃならないですから。

 

(つづく)

 

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プロフィール

  •     profile 01
    大友 啓史
    株式会社大友啓史事務所 映画監督

    1966年岩手県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。90年NHK入局後、ハリウッドにて脚本や映像演出に関わることを学ぶ。帰国後、連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ、「ハゲタカ」「白洲次郎」、大河ドラマ「龍馬伝」等の演出、映画『ハゲタカ』(09年東宝)監督を務める。イタリア賞はじめ国内外で多くの賞を受賞。2011年4月NHK退局、株式会社大友啓史事務所設立。独立後、映画『るろうに剣心』(12年ワーナー・ブラザース)、『プラチナデータ』(13年東宝)が続いて大ヒット、14年夏には『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』が2本連続で公開予定。

  • Takasaki
    髙崎 卓馬
    株式会社電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー

    2013年、2010年クリエーターオブザイヤー、TCCグランプリ、ADC賞、ACC賞など国内外の受賞多数。エイベックス・エンタテインメント「dビデオ」、JR東日本「行くぜ、東北。」、サントリー「オランジーナ」、 ANA、Intel、JRA、朝日新聞などのキャンペーンを担当。2020東京五輪招致のクリエイティブディレクションを担当。著書に「表現の技術」(電通)、小説「はるかかけら」(中央公論新社)など。

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