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未来づくりは未来の意思を可視化するところから始まるNo.1

「DX小学生」とは?
未来の顧客像「Future persona」と導出アプローチ

2023/10/24

<目次>
「量」から「質」の時代へ。未来を可視化して新しいサービスを生み出す

「あるべきくらし」から求められる事業を考える

「あるべきくらし」の可視化手法としてのFuture Persona

「DX小学生」は何を使っているか、何を欲しているか

「超メリハリパートナーズ」という新しい共同生活

新しい生活様式=あるべきくらし を導出する「Future CSV Approach」


「量」から「質」の時代へ。未来を可視化して新しいサービスを生み出す

質から量の時代へ

2021年7月に未来思考で新規事業やパーパス、ビジョン策定を行う電通グループ横断組織「未来事業創研」を設立しました(リリースはこちら)。

立ち上げた背景としてはまず、GDP(国内総生産)からGDW(国内総充実)へと言われているように、SDGsが浸透する期間を経て、2030年以降は一人一人の豊かさが重要になると考えられる点があげられます。

特に日本では人口減少が進んでいることや、資源やエネルギーのひっ迫、ゴミ問題などの観点からも大量生産・大量消費のような考え方は肯定しにくい時代になってきました。

デフレが進む日本においては、必要な人に価値を届けて適正な対価を得て、きちんと利益を得るという構造に変えていく必要もあります。ある意味ブランディングに近い考え方です。

水面下でこのような考え方が進む中、コロナ禍となり、一人一人の考え方や望むくらしを肯定する流れが顕在化しました。ニューノーマルという言葉が生まれたように、新しい生活様式が広まってきています。ただし、生活者ができることは現状の環境下での選択であり、望むくらし方に必要な環境や商品やサービスを生み出すことはできません。

このような現状の中、未来を可視化して企業の事業創造・変革の実現を支援するために、「未来事業創研」を立ち上げることにしました。

「あるべきくらし」から求められる事業を考える

あるべき未来の図

未来を活用した事業創造は、企業として、その企業に所属する社員として、どのようなくらしを創り出すことで社会や人々が豊かになるかを想像することが重要です。

つまり、プロジェクトに関わる人たちのビジョンを可視化することになります。事業会社では、優秀な人ほど思考プロセスの中で、社内で承認される事業企画、商品企画を考えることが増えてしまいがちです。5年後、10年後のことではなく、今、何をするか・できるか、ということが先に求められてしまうので、こんな未来を創りたい、という「想い」よりも会社の事情が優先されてしまう傾向があります。

そこで私たち未来事業創研が提案するのが、「あるべきくらし」からのバックキャストアプローチです。いったん現状の事情は横に置いて、本当はどんなくらしを創り出したいかという想いを可視化した「あるべきくらし」から、そのくらしを創るために必要な事業、サービスを企画します。ビジョナリーな経営者が、未来の夢を語り創業するようなイメージです。

「あるべきくらし」の可視化手法としてのFuture Persona

未来事業創研における「あるべきくらし」の可視化フレームは2種類あります。1つは「ライフピース」と呼んでいるフレームで、くらしのシーンを切り取り、その実態を可視化します。文字とイラストでシーンを表現することができ、ひと目でどんな人が何をしているのかがわかるため、そこにどのような喜びがあるかが伝わるものになっています。

<ライフピースのサンプル>

もう1つのフレームが「Future Persona」です。こちらは未来のIdeal Target、つまり、自社の将来の顧客像を描きます。ライフピースと同様にくらしのシーンは描くのですが、どんな人なのかがわかるようにするために、その人、またはその人たちの特徴的なくらしのシーンを描きます。

ライフピースもFuture Personaも同じように活用することができます。「こんなくらしを創るために何をするのが望ましいか」「このような人たちが欲するもの、必要とするものとして何が望ましいか」は、事前に目的と照らし合わせて決定します。

この記事では、昨年、未来事業創研内で作成したFuture Personaをいくつかご紹介します。未来事業創研内で作成したものなので、Ideal Targetというより2030年代にこんな人たちが増えそう、という位置づけで作成したものです。

「DX小学生」は何を使っているか、何を欲しているか

1つ目は「DX小学生」というFuture Personaです。現在でもスマホを使いこなす小学生はいますが、普及率で見ると小学校低学年ではまだスマホを保有している人は少ない状況です。しかし、近い将来、低学年の小学生でもスマホを持ち、デジタルスケジューラ―で予定を管理する時代が来るでしょう。インターネットだけでなく、メタバースが広がり、どこに住んでいても望む習い事ができます。

DNAを解析すれば子どもの特性やどんな領域の能力が高いかがわかりますし、能力を発揮できる可能性のあることをいろいろと試してから自分のしたいことに気付くこともできます。また、将来に向けて「自分らしさ」「自分の強み」を身に付けることが重要になり、勉強以外に個性教育なども促進されるでしょう。その結果、忙しい子どもたちが増えていくことになります。でも、子どもですから友達と遊びたいですし、好きなお菓子も食べたいですよね。そんな子どもを描いたFuture Personaです。

DX小学生

このFuture Personaシートを見て、ぜひ考えていただきたいのが、「DX小学生が何を望んでいるか?」「どんなサービスを使っているか?」です。きっとお小遣いは電子マネーで何に使ったか全部履歴が残ってしまいますよね。お菓子を買いすぎて怒られたり、お金の使い方をAIに指導されたりするかもしれません。

さらには、健康状態もチェックされ、元気がないときや体調が悪いときは、保護者に自動で連絡が届くかもしれません。友達との約束はデジタルスケジューラ―で調整するでしょう。場合によっては、自分のパートナーAIと友達のパートナーAIが勝手にやりとりをして、「ここなら遊べるけどどうする?」などと言ってくれる可能性もあります。こんなFuture Personaがいる未来に、どんな領域でどんな「うれしい」を提供すると良いのか、何が必須のサービスになるのか、アイデアが具体的にたくさん浮かんでくるのがこの手法の魅力です。

「超メリハリパートナーズ」という新しい共同生活

もう1つFuture Personaをご紹介します。今後さらに結婚をしない単身が増えるという予測がありますが、その一方で一人暮らしの金銭的合理性に関する疑問が顕在化していくと考えられます。シェアハウスなどもありますが、人は自分が楽に過ごせる相手と一緒に過ごしたいと思うものです。

そこで、恋愛ではないけれど、考え方も合うし、趣味も合うから共同生活をするという新しいパートナーとの生活が増えると考えられます。共同で住むため生活に必要なコストの負担は軽減され、趣味が合うなら一緒に楽しみ、それ以外はお互い干渉しないくらしを理想とする人たちです。結婚という形を取らず、共に住む人は同性同士という人も増えていくかもしれません。

超メリハリパートナーズ

「超メリハリパートナーズ」が求めることも考えてみます。役割分担や、やった・やらないでもめたくない人が多いと思われるため、家事などはロボットにやってもらう人が多くなるでしょう。全自動家電だけでなく、家事代行のサブスクリプションなども喜ばれそうですし、場合によっては住居にそういったサービスが付いている物件の需要も増えそうです。

そもそも、出会い方も変化すると考えられます。未来は恋愛ではなく、条件でパートナーを探すケースがもっと肯定されていくでしょう。条件の中にはお金の使い方が入っていて、何にいくら使っているか、生活費はどのように管理しているかが記録され、それを基にマッチングされる仕組みだと安心できるかもしれません。年収よりも、お金に対する価値観やリテラシーが重視される傾向が進むのではないでしょうか。 

新しい生活様式=あるべきくらし を導出する「Future CSV Approach」

「Future CSV Approach」

この未来の可視化フレームは、これまで支援させていただいた多くの企業で高い評価をいただいています。未来予測は重要ですが、それを踏まえて自分たちがどんな未来を創出できるのか、したいのかということが可視化され、チームで共有できることが魅力と言われます。そしてそもそもの課題でもある具体的な事業アイデアが考えられるだけでなく、便益と意味(創出される未来像)の検証ができるツールとしても価値を発揮しています。

では、この生活者の未来を可視化する未来事業創研ならではのユニークな手法をご紹介したいと思います。

未来を知るためには、未来に関するマクロトレンドを把握する必要があります。これはインターネット上にあるさまざまな情報や、官公庁が公開している未来の予測や可能性から把握することができます。

中でも最もよりどころとなるのは、人口推移と年齢構成の変化です。これらは大きく予測がずれない領域として信用できます。加えて世帯の変化、都市部と地方など地域別の差、環境問題、気候変動、自然災害なども予測しやすい領域です。これらと同等またはそれ以上に重要な領域が、くらしに大きな変化を与えるテクノロジーです。インターネットやスマホがそうであったように、これからはロボティクスやAI、メタバース、センサーの普及などが大きな要因となるでしょう。

こういった社会の動向予測に加えて、私たち電通グループの強みである生活者の理解や未来予測を活用し、社会、生活者、企業すべてにとって快適な「あるべきくらし」を見いだすアプローチが、未来事業創研独自の「Future CSV Approach」です。この手法によって「あるべきくらし」を可視化することで、未来の価値を明らかにすることができます。

未来を考えるために必要なこと

電通には生活者の未来を考える独自のナレッジがいくつかありますが、その1つが2023年9月12日にリリースしたFuture Time Use(以下FTU)です(リリースはこちら)。

FTUは10年後のくらしを具体的に描くツールです。毎年聴取しているメディア接触データをコーホート分析(※1)し、可視化したもので、10~ 60代の性・年代ごとに、現在と10年後の1日の生活時間変化を見ることができます。

FTU
※1=コーホート分析
長期的な継続調査データから、その変化の要因を加齢の要因による影響(年齢効果)、時勢の要因による影響(時代効果)、世代差の要因による影響(世代効果あるいはコーホート効果)に分離する分析方法。コーホートとは、出生年(あるいは出生年代)を同じくする集団を指す


未来を考えるためには、変わることと変わらないことを分けて捉える必要があります。どこを想像・妄想しなくてはいけないのかを明確にすることが大切です。また、全てが変わってしまう、変化するとなると、変数が増え過ぎてしまい、思考が困難になってしまいます。

そこで、私たちはFTU以上に生活者が望む未来を考えるために人々の「欲求」を重視しています。こちらも電通が経年実施している消費者調査データをもとにコーホート分析を行い、未来の欲求スコアを算出していますが、欲求の数と年代の掛け合わせをすると複雑になりすぎてしまうので、理解と活用を優先し、普遍的な欲求を設定しています。つまり、欲求は変化しないが、さまざまな欲求を満たすための行動が変わること、時代に応じて欲求にひもづく価値観が変わることに着目し、それぞれの実態を導出するアプローチにしています。


今回は未来事業創研のアプローチ、メソッド、そして可視化フレームの1つであるFuture Personaの具体例を2つご紹介しました。実際には、未来の顧客像なのでもっと情緒的で特徴的なFuture Personaが可視化されるケースが多くなります。

ビジョンやパーパス、新規事業を考えるとき「創りたい未来の実態」「ターゲット像」を可視化してみてはいかがでしょうか?その未来を創るための取り組み、その未来の意味からビジョン、パーパスを策定する、というアプローチをお勧めします。きっと、これまでにはない、新しいアイデアと、こんな未来を創りたい!という意思が確立できるはずです。

イラスト:松山朋未
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