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ネットがもたらす新しい価値No.4

【古田秘馬×馬郡健 対談】SNSは人とのつながりを変えたのか?後編

2014/03/25

【後編】人類の責任がひとつ重くなった

「いいね!JAPANプロジェクト」でご一緒している株式会社umari代表の古田秘馬さんを迎えた対談企画、前編ではFacebookが広げたコミュニティーづくりの可能性や、その一方で「SNSがコミュニティーを生み出すわけではない」というお話もあがりました。後編ではさらに、人とのつながりにこれからデジタルがどんな影響を与えるのか、掘り下げていきます。

本当に何を選ぶべきなのか、人間に与えられた試練

馬郡:FacebookをはじめとするSNSは、あくまでツールだという話が先ほど出ました。デジタルテクノロジー全体に対しても、それは言えることなんでしょうか?

古田:同じじゃないでしょうか。よく「デジタルが人間をどう変えるか」という議論がありますが、人間を変えるっていうのはちょっと違うんじゃないかと思うんです。画期的なツールが登場すると必ずそういう論議があがって、その弊害も声高に言われたりしますが。

馬郡:可能性が広がっているからこそ、より本質を見抜く目が必要なんですね。

古田:技術が進化しているからこそ、本当に何を選ぶべきかを考える必要がある、そんな試練が与えられているとも思うんです。

例えば、昔は「フライパンで焼く」ことしかできなかったのが、今はオーブンもレンジもスチーマーもある。だからといって、最新の調理法が必ず適しているわけじゃなくて、目の前にいる人が喜ぶのは、ただフライパンで焼いただけの肉かもしれない。

いろんなデジタル技術を使えるようになった今こそ、人間はよりレベルを上げないといけない時代を迎えているのではないでしょうか。便利になったというより、人類全体の責任がひとつ重くなったというか。

馬郡:なるほど。車も便利に使うにはモラルが必要ですし、デジタルも同じなんですね。

古田:そうですね。これまでもそういうシーンは何度もあって、実は新しいことじゃない。

それに、デジタルによって皆が簡単につながれるようになって出てきたように見える、クラウドファンディングやソーシャルプロジェクトは、昔だって「皆で壊れた神社を直そうぜ」という感じでどこでも行われていました。

究極的には、すごくさかのぼると古代では神様とテレパシーでつながっていたかもしれません。今、瞬時にどこの誰ともつながれる状況は、まるでテレパシーです。そう考えると、今のデジタル社会には、本来の人間の感覚に近づく原点回帰みたいなところもあるんじゃないかな。

馬郡:一周回って戻ってきた、と。

Facebookがもたらしたマルチタスクのライフスタイル

古田:デジタルが人間に与えている影響、という話をしてきましたが、僕はこの話にはもっと大きな時間軸が関わっているんじゃないかと思っています。今の時代が、人間が変わるパラダイムシフトの時期なんだろう、と感じるところもあるんです。明治維新のころと同じで。

馬郡:古田さんは幕末がお好きなんですね(笑)。

古田:大好きです(笑)。人間社会には新しい社会を生み出す時期、成熟する時期、それが終わりに差し掛かって次を考えるパラダイムシフトの時期、といくつかのフェーズがあります。社会の根底を変える技術が生まれたときは、世の中が変わるときなんだと思います。だから当時の新しいツールや情報の流通がどう変わったのかを追うと、これからのデジタルの役割が見えてくるかもしれません。

馬郡:当時の新しいツールというと。

古田:新聞です。明治の知識人が、「新しく聞いたことを伝えるぜ」というメディアを生み出しました。

馬郡:でもそれさえなかったのに、黒船が来たとか、顔も知らない人と待ち合わせて倒幕をとか、よくできましたよね。それを考えると、われわれはもっとチャレンジできるはずだろうと思います。

古田:本当に、当時を考えると、今はどんなアイデアも実現できないわけないと感じますよね。

もうひとつ今の時代で興味深いのは、人と人との上下関係が改められていることです。Facebookによって、社会的地位によるヒエラルキーに縛られず、この人は社長だけど僕の友達、ということが起きている。これも原点回帰と言えるかもしれません。

馬郡:なるほど、確かにそうですね。

古田:例えば会社では自分の上司でも、地域の祭りには自分の方が長く関わっているから、祭りでは上司の方が下っ端で敬語を使っている、とか。そういうマルチタスクのライフスタイルは、昔からあったんでしょうが、Facebookによって改めて浮き彫りになりました。

だから、なぜ今の時代に女性が活躍できるのかというと、女性は昔からずっと融通のきかない男性に比べるとマルチタスクだったからなんです。洗濯しながら子育てしながら、夫の世話を焼いて町内会の雑務をこなす、そんな水平処理能力がある。

本来、男性の中にも女性性が、女性の中にも男性性があるものですし、男女だけでなく例えば都会と地域を行き来したり、会社員をしながらフリーランスの活動をしたりといったことも、今はしなやかにできると思います。

馬郡:SNSが多様な生き方を顕在化したことで、好きなことを自由にやる、というそれぞれの幸せをもっと追求できるような気がしてきました。私は仕事の上ではつい、新しい技術をどう使うかという手法的な思考になりがちなんですが、デジタルが広げた可能性に、どんな遊びや幸せを乗せられるかを柔軟に考えていきたいと思います。

古田:この時代の変わり目にデジタルという新しいものを手にして、人間がどう成長できるのか。自分自身にも突きつけられているなと思うと同時に、とても楽しみですね。