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アジア発★ アドフェスト2014リポート②
審査員、本紙に語る

2014/03/20

    3月6~8日、タイ・パタヤで開催された第17回「アジア太平洋広告祭」(アドフェスト2014)。全17部門のアワードに、アジア・パシフィック41都市の3253作品が集まった。今年のテーマは「Co-Create the Future」(未来の共創)。エントリー作品の傾向、審査の感想、審査を通じて見えた未来など、総審査委員長のトア・マイレン氏と、電通グループから参加した5人の審査員に聞いた。


    総審査委員長
    トア・マイレン(グレイ・ニューヨーク社長)

    Q1. 今年のテーマは「Co-Create the Future」です。広告業界の現在と未来をどう捉えていますか。

    A. 「未来の共創」というのは素晴らしいテーマ。広告業界で最も重要なトレンドといえます。今はまさに、広告業界が一番波に乗っている時です。毎日のようにチャンスに出合えます。私たちは同じようなマインドを持ったクリエーティブな仲間と協力して、世界をより良く、より面白くしていく。このような時代にこの仕事に携わっていられることは、とてもラッキーなことだと思っています。

    Q2. ご自身はどのように共創を進めていますか?

    A. グレイの重要な文化的テーマに、「Radical Collaboration」(急進的協働)があります。私たちの世界はこれまでになく興味深くなっています。音楽関係、巨大IT企業、ハリウッド、ゲーム、そしてもちろん生活者。世界中で最先端をいく彼らとのコラボレーションを進めているところです。

    Q3. グレイが達成した「クリエーティブ・ルネッサンス」について。グローバルなネットワークにおいて共創を成功させるために、最も大切なことは何ですか?

    A. エージェンシーの文化が全ての基本。そして、皆が信じる共通のゴールの存在です。グレイの不動の指針“北極星”は「Famously Effective」(誰もが知っているほど非常に効果的)。ポップカルチャーで話題になる仕事を常に目指しています。今日のマーケットではこのような仕事―人々が手を止め、注目し、話題にするような仕事―が効果を生み出します。素晴らしい仕事こそが自己を解放するのだ―このことを、スタッフ一人一人が信じていれば、良い仕事をする、という最も肝心なことに集中できるのです。


    インタラクティブ/モバイル部門委員長
    グラハム・ケリー (アイソバー・アジアパシフィック)

    Q1. 審査をした感触は?

    A. インタラクディブ部門に関してはポジティブな印象を受けました。モバイル分野ではさまざまな取り組みがなされているので、多くのイノベーションが見られると期待していましたが、残念ながらそうでもありませんでした。出来栄えは決して悪くはなかったのですが、グランデ(最優秀賞)に値するほど審査員の心をつかんだ作品が見られませんでした。

    Q2. 日本の作品はどうでしたか?強みと弱みを教えてください。

    A. インタラクティブとモバイルについて、日本はアジアで突出しています。賞を独占したことでもこれは明らかです。プラス面は、優秀なアイデアと素晴らしい実行力。クラフトのレベルが非常に印象的でした。では何が欠けているのか、難しい質問です。強いていえば、アジア地域における強力なライバルの不在。健全な競争は常に、進歩への刺激として必要なことだからです。

    Q3. グローバルなネットワークにおいて、シナジーや共創が持つ意義は何でしょう?

    A. シナジーとは、より多くの才能がネットワークに集まることを確証してくれます。そして共創を通して、その才能はより多くのスキルや視点にアクセスできるようになります。こうしたことが最終的に、私たちを想像もできなかった新鮮な課題解決に導くのです。


    フィルム/ラジオ部門
    細川美和子 (電通)

    Q1. フィルム部門の審査基準は何でしたか? どのような傾向が見られましたか?

    A. トア・マイレン審査委員長が初めに示したのは、「見たことがないもの、新しいものを評価しよう。誰かがほめたものではなく、新しい評価の基準をつくろう」でした。それはとても勇気がいることだけれど、私たちはそれをしなければならない、と。カンヌや他の広告祭に先駆けて、わざわざアジアで行われるアドフェスにふさわしいな、と思います。その上で、特に地域の課題に向き合ったもの、ユーモアのあるものが評価をされていました。

    Q2. グランデを受賞した日清食品カップヌードル「グローバリゼーション」の評価ポイントを教えてください。

    A. 地域特有の課題が、見事に笑いのあるエンターテインメントになっている点。また、企画、コピー、演出、カメラ、音楽、演技など、要素の全てが最高レベルにあって初めて起きる「マジック」がここにあると、最大級の賛辞を得ました。

    Q3. 審査員を務められた感想を聞かせてください。

    A. 英語に自信がなかったので、引き受けなければよかった・・・と直前まで思っていましたが、実際参加してみると、つたない英語でも、コミュニケーション能力の高い各国の審査員の方々が親切に拾って理解してくれて、感激しました。話していくうちに、今後の仕事に対して、いろいろな刺激ももらいました。恥をかくのをおそれず、何事もやってみるものだな、と感じました。そこをクリアしさえすれば、世界に通じる仕事のできる人が社内にたくさんいるとも思いました。


    デザイン/プリントクラフト部門
    土橋通仁 (電通中部支社)

    Q1. デザインとプリントクラフト部門の審査基準は何でしたか? どのような傾向が見られましたか?

    A. 国籍、文化、考え方、好みなどが違う7人の審査員が審査をしました。そもそも意見がまとまるはずがありません。しかし、まとめなければならない。アドフェストでは大まかに審査基準が定められていますが、受賞作品を決めるには、7人が合意する具体的な基準を設ける必要がありました。それが「カテゴリーネーム&サブカテゴリーネームとの親和性」だったのです。例えば“タイポグラフィー”というサブカテゴリーは、デザインカテゴリーにも、プリントクラフトカテゴリーにもあります。プリントクラフトなら、タイポグラフィーの「クラフト性」を基準に審査をする。デザインカテゴリーなら、タイポグラフィーの「デザイン性」を基準に審査をする。一つのタイポグラフィーの仕事で両カテゴリーを狙うなら、それぞれの審査基準をしっかりと満たせるようプレゼンボードの作り方を変える必要性があると身をもって学びました。デザイン部門における日本のレベルは本当に高い。他の多くの審査員もそれは認めています。しかし、カテゴリーネームを意識してプレゼンボードが作られてない、もしくは、応募カテゴリー自体が違っているものもいくつかあり、そのため苦戦したものもありました。

    Q2. ご自身が関わられた「マザーブック」がグランデに選ばれましたが、どのように評価されたかご存じですか。

    A. 審査員は、自社の作品に関して、投票はもちろん発言することも許されません。マザーブックについてももちろんディスカッションから外され、ずっと外で待っていないといけなかったので、どのように審査をされたか分かりませんが、「審査基準のどの角度から見ても素晴らしく、全員一致でグランデに決まった」と後で聞きました。

    Q3. 審査員を務められた感想を聞かせてください。

    A. 審査委員長であるデービッド・パーク氏はまず、「ファイナリスト(受賞選考通過作品)以上の作品は年鑑に載る。それを多くのクリエーターが見る。つまり、私たちの審査力も多くのクリエーターに問われる、ということを自覚して審査しよう」と言いました。その言葉から審査がスタートし、アドフェストの デザイン&プリントクラフト部門史上、記録的な長時間審査となりました。時間をかけたディスカッションのおかげで各国の審査員たちの広告やデザインに対する考え方が本当によく分かりました。正直、審査がこんなにハードな作業とは思いませんでしたが、多くを学べた貴重な経験となりました。チャンスをもらえたことに感謝しています。


    フィルムクラフト/ニューディレクター部門
    細谷正太 (電通クリエーティブX)

    Q1. フィルムクラフトとニューディレクター部門の審査基準は何でしたか? どのような傾向が見られましたか?

    A. フィルムクラフトの審査基準は、「各カテゴリーのクラフトマンシップ(技巧)がストーリーやアイデアにいかに有効に機能したか?」ということです。また最終的に「優れたフィルム」(=完成度が高い)に仕上がっていることが重要です。どれだけ苦労していてもディテールの詰めが甘いと過半数を得票できず、ファイナリストに残りませんでした。気持ちは動くのですが、さすがに審査員は職人集団ですので、この点に関してはみな頑固でした。

    今年の応募傾向としてフィルムクラフト部門、ニューディレクター部門とも「作り込まれた作品」が少なく、メダル以上の受賞作が少ないという結果に終わりました。またどこかで見たことのあるような作品が多いねという声もちらほら聞かれました。審査傾向の特色としては、前のめりで真剣に審査しているせいか、オフビートなもの、つい笑ってしまうもの、など柔らかい作品にはどちらかというと甘い評価だったように思います。

    ニューディレクター部門「ファビュラス・フォー」(若手映像クリエーター4人によるショートフィルムの競作セッション)では、1人が失格になり、3人だけのセッションになりました。失格の理由は、事前に審査選抜された「シナリオ」と出来上がった「フィルム」があまりにかけ離れていることでした。

    審査基準は、有望な新人の発掘という目的がありますが、フィルムクラフトと変わりありません。「Co-Create the Future」というテーマに対してまずはアイデアやストーリーがあり、各ディテールが有効に機能しているか、破綻が無いか、という点を評価しました。観ていただければ分かりますが、今年の3本はどれも好評でした。

    審査の一部を紹介しますと、豪Adam Graveley氏の「Karen」は面白いけれども、美術、衣装などディテールの詰めが甘いことが失点となりました。畔柳恵輔氏の「Deads」はアイデアもいい、ディテールもよくできている、と評判でしたが、「ゾンビフィルム」ということがオリジナリティーという面で加点されなかったのかなと思いました。節田朋一郎氏の「A Man」は、シナリオを読むとなかなか複雑なストーリーなのですが、破綻無く、各ディテールも有効に機能して、懐の深い作品に仕上げたディレクターの力量が高く評価されました。内容的には僅差だと思いましたが、得票は「A MAN」がダントツの1位という結果でした。審査員はシナリオを読んでいますので、一度限りのスクリーニングで観客が投票をしたなら、また違った結果が出たかもしれません。

    Q2. 審査員を務められた感想を聞かせてください。

    A. 審査員のメンバー構成は、ディレクター4人、プロデューサー1人、音楽ディレクター1人、CGエフェクト1人で、大きな意見の食い違いはあまり無く、審査上の苦労はほとんどありませんでしたが、もう少し突き詰めて議論をしてもよかったと思う未消化な部分もあります。人間のやることなので必ずしも理屈だけではない未確定要素があり、その場の雰囲気や流れ、シーソーゲームがあったりと、それを体験できたことがとにかく貴重でした。その経験を生かして、さらに業界に貢献していくことができればとてもうれしく思います。


    プレス部門
    スバン・コウ (電通プラス:タイ)

    Q1. 審査をした感触は?

    A. 優秀なエントリー作品の多さに、興奮と感動を覚えました。昨年より出品数は減ったものの、プレスには独自のコミュニケーション力があると思います。今年のグランデ作品は、アイデア、実行、クラフト、制作のコンビネーションが完璧でした。全てのディテールに努力を注げば、プレスが人々の心に強力なインパクトを与えられると証明されたと思います。プレス広告の未来については、従来の枠にとどまらない傾向が見えてきました。特殊テクニックを駆使した作品や、デジタルキャンペーンの一部として使うなどのコラボレーションは生活者をさらに引きつけるでしょう。プレスという素晴らしいメディアを、より有効に利用する方法を模索していきたいと思います。

    Q2. 全部門を通し、日本の作品にはどのような印象を持ちましたか?

    A. 魅力的なものがたくさんありました。プレス部門のエントリーは少なかったのですが、フィルムは素晴らしかったし、デザイン、ダイレクト、プロモ、メディアなど多くの部門で優れた作品に出合いました。他国と異なる点は、ユニークネスを先端技術と組み合わせて、パワフルなキャンペーンをつくれるところだと思います。

    Q3. グローバルなネットワークにおけるシナジーはどのように生まれると思いますか?

    A. “優れた仕事をする”という共通のゴールを共有することが必須と思います。私たちの電通イージス・ネットワークは、世界中の拠点同士がつながっており、シナジーを生み出すに足る多くの才能と能力が集まっています。クライアントのビジネスと私たちのクリエーティブワークを次のステージに高めるのが共創。今後も力を注いでいきます。