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イノラボが生み出す協創のカタチNo.7

ICT×教育の力で実現する「アダプティブラーニング」

2014/04/07

株式会社電通国際情報サービス(ISID)のオープンイノベーション研究所(イノラボ)は、ICTを活用した教育改革にも挑戦しています。連載7回目の今回は、2児の母でもあるシニアコンサルタント・関島章江さんにインタビュー。教育×ICTの可能性について、たっぷりお話しいただきました。

ICTの力を借りて、子どもがイキイキと学習できる環境をつくりたい

――関島さんはイノラボで、どんなことをされているのですか?

関島:ICTを活用した教育関連のビジネス開発を行っています。そもそものきっかけは4年前。社内のビジネス企画プログラムに、ICT教育に関する企画を応募したことが始まりです。当時はスマートフォンやタブレットといった端末が、家庭内で全く浸透しておらず、教育現場にITを持ち込むことを煙たがっている人が多くいました。しかし、社会全般に目を向けると、メールが飛び交い、インターネットで情報収集を行うことが一般的。家庭をはじめとした教育現場と社会全般の“ICT活用のズレ”に、ふたりの子どもを育てながら常にストレスを感じていました。

こうした“ズレ”を強く感じ始めたのが、子どもが小学校高学年になったときでした。反抗期が始まると、学校のお便りが親に渡らず提出物が滞りがちになります。お便りを見るのが夜になり、明日必要なものを深夜まで営業しているスーパへ買いに行く。遅い夕飯を終えてから学校の宿題を始めるが子どもは眠たくて仕方がないし、親も疲労で口調が厳しくなる。また子どもも、宿題や提出物を出すのが遅れて、親や先生に叱られがちになってしまいます。こうした悪循環を防ぐためにも、明日の持ち物や緊急連絡、日常の出来事などをちょっとサイトやメールで知らせてくれるだけですごく子育てが楽になり話題も豊富になるのです。

小学校高学年になると通塾が本格的に始まりますが、入室テストやクラス分けは、子どもが理解していようがしていまいが、複数教科の平均点で決まってしまうのが一般的です。得意教科は上のクラス、不得意教科は下のクラスという塾は少なく、すでに十分理解できている部分を何度も繰り返して学習することになってしまう。逆に分からない部分までは手が回らず、その結果、学ぶということの楽しさを感じるよりも、模擬テストの点数で一喜一憂する日々になってしまうんですよね。

ちょっとしたICT活用で、先生と生徒、保護者の距離をぐっと縮めたい。子ども自身が自分自身を可視化し、客観的に判断できるような仕組みを作り、自発的に学ぶことの楽しさを子ども達が実感できる場を作りたいと思っています。

――具体的には、どんなことをお考えになっていたのでしょうか?

関島:まずは自分たちが育ったときのように、学校をベースにした教育の形に戻したいと考えました。ただ昔と違うのは画一的な勉強をする場ではなく、個々の子どもにパーソナライズされた学びの環境を提供する。例えば、子ども一人一人好きな科目、苦手な単元、そして勉強の仕方が違います。好きな科目でも単元により苦手な分野もあります。その子にあったレベルの学習コンテンツから段階的に解いていかせて、頑張ったことを可視化してほめてあげる。そうすることにより子どもは達成感と自信を付けていきます。また、多くの子どもたちのログが溜まれば、そのログを参考に、次の世代の子どもたちが主体的に学習に取り組むことが可能になるとも考えました。例えば、憧れの職業に就くためにはどういう学校に進学したらいいか、目標を達成するにはどのようなプロセスを経て、どんな勉強をすると効果的なのか…。そういった道筋が先輩のログから見えるようになれば、自分の力で学びながら夢に向かって進むことができますよね。

ICTの力で、子どもがゆとりを持って学習し、なりたい大人に近づける、そんな社会が実現できるといいなと思いました。

 

オーダーメイドの学習法「アダプティブラーニング」を、ICTで実現する!

――先ほどのお話に出てきた「子どもたち一人一人に合った学習コンテンツ」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

関島:いわゆる「アダプティブラーニング」、日本語で言うと「適応学習」のことだと思ってください。

いままでは、例えばハイレベルの数学ドリルを買ったら、ひたすらそのドリルを解き続けるという学習法が主流でした。しかしこれでは、「図形は得意だけど、計算は極端に苦手」といったような、単元ごとの得手不得手に対応することができません。それなら教科書を電子化し、単元ごとにバラバラにして、必要な部分だけを購入できるようにすればいい。どのレベルのどんな単元を購入したかや、解答の結果がデータとして蓄積されれば、自分の得意なところと不得意なところがハッキリしてきます。そうすれば、不得意なところに関してはレベルを下げた教材を使う、解説映像を見て知識を深めるなどして、克服することができるようになりますよね。これが、「レベルの最適化」です。

もうひとつ、アダプティブラーニングを実現する上で欠かせないのが、「学び方の最適化」。例えば、漢字を学習するとき。これまではひたすら紙に書いて覚えるというやり方が主流でしたが、他にもタブレット端末に書き込んだり、ゲーム的なアプリを使って覚えたりと、さまざまな学習方法があります。紙での書き取りでは覚えられなかったけれど、アプリでなら驚くほど覚えられるという子も、決して少なくありません。このように、できるだけ多くの方法を用意して、好みの学習方法を見つけてもらうことも、一人一人に合ったICT教育をする上で欠かせないのです。

――なるほど。「レベルの最適化」と「学び方の最適化」を両方行うことで、個々に合った学びが生まれるんですね。

関島:はい。さらに、テスト前、受験前など、シチュエーションによる学び分けができるようになると、かなり精度の高いアダプティブラーニングが実践できるようになるのではないかと考えています。多くの方が教育におけるICT活用にチャレンジし、さまざまなデータが蓄積され、より良い学習環境が創造され続けることを願ってやみません。

(第8回に続く)