loading...

イノラボが生み出す協創のカタチNo.8

本屋もなければ塾もない!島根県の離島でトライした「アダプティブラーニング」

2014/04/21

株式会社電通国際情報サービス(ISID)のオープンイノベーション研究所(イノラボ)は、ICTを活用した教育改革にも挑戦しています。連載8回目の今回は、前回に引き続き、2児の母でもあるシニアコンサルタント・関島章江さんにインタビュー。島根県の離島、隠岐諸島で行われた、ICT教育の実証実験についてお聞ききしました。

島の公営塾に通う高校生に、iPadを配布! 教育を変える実証実験とは?

――前回のインタビューで、「アダプティブラーニング」の実現を目指している、とお聞きしました。そのために、どんなことから始めたのでしょうか?

関島:まずは情報収集からスタートしました。「すべての小中学生がデジタル教科書を持つ環境」を目指して活動している「デジタル教科書教材協議会(DiTT)」という団体があるのですが、そこに参加して、情報交換をして…。教育関連企業だけでなく、IT企業や一般企業、実に多彩な組織の方々とお話ができて、ここで教育について語り合えたことは、とても有意義な経験になったと感じています。DiTTのメンバーと、デジタル教科書の先進国である韓国に視察に行ったことも忘れられません。

異業種の方々を幅広く巻き込み、IT活用による新たなサービスを生み出すイノラボの方針のもと「エデュカッション」という、教育についての討論会を立ち上げました。出版社、塾、IT企業、いろいろな業界の方々にお越しいただいて、毎回、教育についてのぶっちゃけ話を展開(笑)。その中で生まれたのが、隠岐諸島の公営塾とコラボして行った、高校生の学習を変える実証実験だったんです。

――どのような実験を行ったんですか?

関島:実験を支援してくださる出版社から紙の教材を提供頂き、弊社がデジタル化しクラウド上にアップしました。同時に、子ども一人につき1台のiPadとモバイルルータを配布。公営塾の先生が生徒一人一人に合った教材をピックアップして、専用のSNSに配信するという仕組みをつくりました。子どもがiPadを立ち上げると、自分のための学習課題がずらりと並んでいて、それをこなすと結果がどんどん蓄積されていくんです。間違った場合は先生に通知が行き、即座に先生が、「どこを間違えちゃったの?」とフォローしてくれる。そこでやりとりが始まって、場所や時間など関係なく、あらゆるところで学習ができるようになりました。

――隠岐というと、島根県の離島ですよね。確かフェリーで2時間半ぐらいかかるところだったような…。

関島:そうなんです。本屋さんもなければ塾もない。大学受験になるとみんな都会に行ってしまって、そのまま帰ってこなくなってしまうとのことでした。そういう構造を島ごと変革したいとお考えでした。

――なるほど。実際に実証実験をしてみていかがでしたか?

関島:子どもたちからは「聞きたいときにタイムリーに質問できて助かった」「一人で勉強しているときの孤独感がなくなった」と好評でした。「紙のテキストと、いい意味で変わらない」という声も多かった。いまだに「教材は紙じゃないとダメだ!」と思っている先生もいらっしゃるんですが、そういう保守派の先生方を説得する材料も得られたな、と思っています(笑)。同時に、先生方の役割が「教える」ということから、「ファシリテートする」に変わる必要があることも気づきました。

教師が面白がってICTを受け入れることが、成功につながっていく

――隠岐諸島の実証実験で、子どもたちの憧れを形にする「夢ゼミ」という取り組みを行ったと聞きました。「夢ゼミ」とは、どのようなものだったのでしょうか?

関島:これは私たちが関わる以前から、隠岐の公営塾が行っていた取り組みなんです。さまざまな職業の“プロ”を招き仕事についてお話しいただいて、それをもとに、子どもたちが自分のキャリアビジョンを描いていく。私たちはこのプロジェクトを、SNSで支援させていただきました。

といっても、「夢ゼミ」を担当している先生に、授業のテーマや途中経過、成果などを書きこむようにしていただいただけなんですが…。これを行うことによって、生徒が振り返りをするようになったと報告がありました。また、先生と生徒のやり取りが文字になって残ることで、「SNS上で宣言したことは必ずやる」「約束や期限はしっかり守る」という意識がグッと強くなったそう。最初は高校3年生のみを対象にしていたんですが、「ぜひ参加したい」という下級生も増えてきて、確かな手応えを感じました。

――それはうれしいですね。成功したポイントは、どんなところにあったとお考えですか?

関島:先生と生徒の目線が近いところ、でしょうか。先生が上から目線で、「ああしろこうしろ」と使い方を押し付けてしまうと、絶対にアダプティブラーニングはうまくいきません。一緒になっていろいろなツールを試してみて、あくまで子どもたちが、主体的に自分に合った学習法を見つけられるようサポートしてあげる。先生が柔軟な姿勢で面白がってICTを受け入れ、楽しい雰囲気や空気をつくることがカギなんじゃないかな、と思いますね。

(第9回に続く)