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AR×スポーツが拓く未来の産業のポテンシャルに迫る

ミレニアルズと「未来のスキル」 №9

  • 福田 浩士
  • 能勢 哲司
  • 天野 彬

2016/06/08

AR×スポーツが拓く未来の産業のポテンシャルに迫る

「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今存在していない職業に就くだろう」(Cathy Davidson, ニューヨーク市立大学ディスティングイッシュトプロフェッサー)と言われるほどに仕事の未来が不透明なこの時代に、新世代のデジタル・ネイティブ世代=「ミレニアルズ」の取り組みから“未来のスキル”のかたちを模索します。

私たちが今回フォーカスするミレニアルズは、「ヒザがガクガク震えるほどの面白さを創造する」というビジョンを掲げるmeleap代表の福田浩士さん。数々の注目すべきデジタルアプリを開発してきた福田さん率いるmeleapがいま仕掛けるのは、HADOという新世代のエンタテインメントツールです。

ではHADOとは何か?それを理解するためのコンセプトムービーがこちら。ウェアラブル端末とAR(Augmented Reality:拡張現実)を活用した新しいゲームでもあり、これから普及していくであろう新たなスポーツ=「テクノスポーツ」でもあるのです。

HADO:https://www.youtube.com/watch?v=GVE8jvxceSo

スポーツとゲームはメディアを変え産業そのものを推進する力を持つキーコンテンツです。その二つが今後10~20年のスパンでどうアップデートされていくのか、その大きなうねりの中心にいるmeleapの福田さんとともに、未来に向けて求められるスキルやビジョンについて話を深めました。

かめはめ波を打ちたい。子どものころからの夢に技術が追いついた

天野:福田さんは大学院時代からの知り合いで、当時から良い意味で変わった感じを醸し出していたのですが、ここ最近起業して面白いサービスをどんどんローンチしている様子を見ていました。HADOの話を中心に聞いていこうと思うのですが、社会的に見ても、スマホ、タブレットといったデバイスが進化する中で、ヘッドマウントディスプレー(HMD)など体に密着するようなデバイスへの注目度が高まっているという背景がありますよね。

能勢:そうした背景も含めて、今回は情報テクノロジーとスポーツがもたらす生活や産業面でのインパクトにフォーカスしてお話できればと思っています。まずは、自己紹介を兼ねて現在メーンで取り組んでいる事業について教えてください。

福田:私がCEOを務めるmeleapでは、「世界をおもしろくする」というビジョンを掲げていますが、ARを追求することで何かおもしろいことが起こりそうだと考えています。

創業する前は、Kinectとプロジェクターを使ったアイデアで試行錯誤していたのですが、できることが限られていますし、体験的な驚きやより強い革新性を追い求めていきたくなり、ウエアラブルに方針を転換して2014年1月に会社を設立しました。

また、2013年にライゾマティクスの映像を見て、バーチャルと組み合わせることでこんなにおもしろくなるのか、と影響を受けたこともあったと思います。

能勢:そのようにして事業の方向性が定まっていったわけですね。それでは、いまのHADOに至るまでには?

福田:ARとウエアラブルで何をやりたいか考えたときに思い出したのが、子どものころからの夢である「かめはめ波」を打つことでした。

あと、リアルで「モンスターハンター」のようなことができたら楽しいだろうなとか。街にモンスターが現れて、知らない人と団結して一緒に戦う、コミュニケーションするという体験を実現したくて、「HADO」を始めました。

能勢:そういうピュアなモチベーションとテクノロジーのかけ合わせは、最近のスタートアップに多い特徴でもありますね。

福田:HMDや腕のセンサーを付けることによって、ARでかめはめ波を打つことは実現しましたが、その体験を最終的にどう仕上げるか、つまりゲームにするのかそれとも別の形にするのかというところで悩みました。会社には元ゲームプランナーだったメンバーもいて、ゲームにするのかどうか話し合った結果、「スポーツ」として出していこうという方針になりました。それを私たちは「テクノスポーツ」と呼んでいるのですが、ゆくゆくはF1などのモータースポーツがそうなったように新しいスポーツ市場になり得ると思っています。

「テクノスポーツ」はジャンルとして駆動力を持つか

福田:スポーツとして普及すれば、例えば競技の施設利用、スポーツ用品販売、スポンサー、国際大会になればテレビの放送権など、盛り上がるほど経済・社会的な与えるインパクトが大きくなります。

僕は、魔法を使いたい、かめはめ波を打ちたいというこだわりがあって、それを圧倒的現実感で作り出したいという思いがあり、それを実現するのがHADOなんです。

それから「ヒーローになれる世界」って楽しいだろうなと思っていて。ヒーローといっても、リアルに世界を救うというのはあり得ませんが、スポーツ化してみんなが憧れるトッププレーヤーになるというのならあり得ますし、それも1つのヒーローの形だと思っています。

天野:競技を作ってスポーツ市場として盛り上げるというのはおもしろいですね。

福田:はい、目標としては2020年には国際大会を開催して世界が注目するイベントに育てたいですね。プロプレーヤーがいてスポンサーが付く状態です。さらに2030年代には、スポーツという枠からさらに拡張し、人々が日常的に魔法を使ってコミュニケーションできるようにしたいと思っています。

能勢:5年~15年スパンで考えているのは、技術の進化や普及の問題ですか?

福田:特にハードウエアの問題ですね。今は手軽さからスマートフォンを使っていますが、ハードウエアが進化しないと、スポーツとしての体験も進化しないと考えています。

スポーツなら、当たり判定もシビアでないと競技として成立しないですよね。サバイバルゲームが競技になれないのは当たり判定がつけられないことに一因があります。ですから、当たり判定が厳密にできるためには、ハードウエア、ソフトウエアの進化が必要です。

能勢:なるほど。ハードウエア領域への進出については?

福田:ハードウエア開発も、やれる機会があるなら躊躇なくやりたいと思っていますが、ベンチャーの場合は大企業とコラボするのがよいでしょうね。

天野:ゲームにも、梅原大吾氏のようにプロ・ゲーマーと呼ばれる人がいて、スポンサーがついたりすることで彼のプレイが大きなビジネスインパクトを生むものになっていますよね。少し前であれば「プロのゲーマー」は想像できなかったはずで、そう考えていくと、福田さんが言う「2020年になるとプロのテクノスポーツの選手が生まれる」という主張にもリアリティがあると感じられます。こうしたスポーツ×情報テクノロジーのトレンドについて考えを聞かせてください。

福田:超人スポーツ協会(http://superhuman-sports.org/)というものがあるように、情報テクノロジーにこだわらず、テクノロジーと掛け合わせたスポーツは今後盛り上がりますね。ドローンのレースなんかは早く市場ができそうです。

拡張現実と「身体の拡張」

天野:こうした観点から見たHADOの今後の展開を教えてください。

福田:HADOでは身体性を重視しています。指先ではなく、リアルの場で体を使うということにこだわっています。バーチャルリアリティーというよりも、まさにオーギュメンテッドリアリティー(拡張現実)ですね。

例えば、敵から身を隠すのに机の下に潜る、攻撃を防ぐというようなリアリティーだったり、仲間とアイコンタクトしたりパスを出したりすることができるのがおもしろいです。

天野:実際の場所も活かせるというのが面白いですね。そういうアフォーダンスを活かせると、より体験がリッチになる。

能勢:ところで、福田さんはリクルートの出身ということですが、そのときからリアルとバーチャルを追求されていたのですか?

福田:学生の時から身体を拡張したいという強い気持ちがあって、それをどうすればいいか試行錯誤していました。リクルートに入ったのは、いずれ身体拡張のビジネスをやるなら営業力が必要ということでそれを身につけるために入社しました。昔から、年上の男性、おじさんが苦手で話せなかったので(笑)。リクルートに1年いて話せるようになり、起業しました。

天野:実は、学生のころは建築学を専攻されていたんですよね。

福田:はい、繰り返しになりますが学生時代から「身体の拡張」をテーマにしていて、体を拡張する方向の一つの可能性として建築がありました。思想としては荒川修作氏に近くて、三鷹の天命反転住宅は、自分が学生時代に建てられたものですが、可能性を感じる一方で建築に取り組むには費用も時間もかかり限界があるなと思い方針を変えてバーチャル要素を考えました。

能勢:荒川氏の岐阜の養老天命反転地は学生のときに行きましたが、大人が楽しめる不思議な場所ですよね。

福田:動きたくなりますよね。自然にアクションを起こさせる力はすごいと思います。

アトラクション施設にテクノスポーツを導入してみた結果…

能勢:過去にはKinectを使っていたということですが、ARやセンサーの方がおもしろいと思ったきっかけは?

福田:ウエアラブルは表現力が違いますし、革新的なことができると思います。あとはセンシング技術の向上でインプット、アウトプットの質も上がるでしょう。

Kinectかウエアラブルか、というところではセンサー(デバイス)を環境に設置するか、体に設置するかという違いだと思います。今はまだ環境がメーンですが徐々に体に移っていき、いずれ体に埋め込まれるなどして意識しなくなり、また環境に戻っていく、という循環になると思います。例えば壁や天井など至る所にセンサーが埋め込まれているような時代が来るのかもしれません。どこにデバイスが装着されるかは時代によって変わってくるでしょうね。

天野:HADOはイベントで使われているということですが、使った人の反応はどういう感じでしょうか?

福田:ハウステンボスでは常設で展示している他、ショッピングモールなどの商業施設、テーマパークなどに設置しています。利用される方は、子ども、ファミリー、外国人観光客が多いですね。今は対人のスポーツではなく、対モンスターのゲームとして遊んでもらっています。

現在は繰り返しプレーするのではなく1、2回の体験を楽しんでもらう段階ですね。対人戦の競技になれば、10回、100回と体験の回数が変わってくると思いますが。

天野:現状、人同士の対戦というより、モンスターとの対戦という形を取っていますね。

福田:その理由は、やはりビジネスにしやすいということがあります。まずは単発のイベントとして始めて、次に常設に移行していき、グッズ販売なども含めて日常的に通うユーザーを作るという流れです。イベント利用は気軽にプレーできることが重要です。モンスター対戦なら一人でも親子でもできますが、対人戦となると知らない人と対戦することになりちょっとハードルが上がるので。

能勢:プレーした感想などはどういったものが?

福田:楽しんでもらっていますね。人によっては有料でも3回、4回とプレーする方もいます。頂く感想としては、「思ったより難しい」とか、あとは「想像以上に疲れる」といったこともよく聞きます。ゲームと思ってなめてかかると、体を動かすので疲れるんですよ。

能勢:ゲームだと思ったらすでにスポーツの要素もあるということですね。

福田:今はゲームのような感覚、つまりまだ競技としての勝ち負けの感覚ではないようです。こういう体験型のゲームはこれまでのテーマパークの文脈になかったので、新鮮に感じてもらえています。

能勢さんや天野さんも先ほど体験プレーで負けてしまいましたが、うまくやらないと勝てないようになっているので、何回かプレーしてもらいたいというのが狙いです。ある程度の難易度を持たせて、負けても満足できるようにしています。

天野:今までHMDなどを使うというと、作品を見るということが中心だったので、参加型は新しい体験だと思います。今後こうしたインタラクティブなコンテンツは増えていくと思いますか?

福田:増えていくでしょうね。例えば脱出ゲームをとってみても、クリアできる人は少数派です。頭を使い体を動かさないと勝てない、負けても満足というところで近いかもしれないですし、見るだけでなく参加してリアクションがあって納得感がある方が楽しいはずだと考えています。

天野:リアルな空間で遊ぶということもあるので、チームワークも大切な要素ですよね。

福田:アトラクションの事業は、プレイヤー同士のチームワークも考慮しながら作っています。その点はスポーツ競技として育てる上でも大事になりますから。

ゲームを遊ぶことで「身体拡張」のアイデアを得る

天野:最近では池袋のナンジャタウン、成田空港をはじめとしたさまざまなイベント、テーマパークでの展示が進んでいますよね。

HADOも好調ですが、今後注力していきたいことは何ですか?

福田:「テクノスポーツの新競技を確立する」というのが当面の目標です。HMDを使うのか、ARなのか、可能性をいろいろ考えていますが、リアルとバーチャルを駆使して身体を拡張していきたいと思っています。

天野:テクノスポーツのアイデアを練るとき、参考にしているスポーツなどはありますか?

福田:実はゲームをベースに考えることが多いです。「League of Legends」という2つのチームに分かれて拠点を壊すネットゲームがあるんですが、HADOはそれを参考にしています。「League of Legends」には、ルールとして役職やキャラによる技の違いなどがあるんですが、こうした概念を取り入れて、スポーツの要素、身体的な要素を加えていきたいですね。

能勢:もともと、身体性の拡張に興味があるということですが、そのきっかけは?

福田:子供のころからやんちゃでよく動き回っていました。フィールドアスレチックでジャンプして何番目の棒につかまれるか、という遊びでもっと遠くにつかまりたい、という思いで夢中になって遊んでいたりしました。それが原点かもしれません。

天野:「身体の拡張」はマクルーハンを想起させますが、メディア研究のキータームでもありますね。20世紀は映画、テレビやコンピューターといったメディアによって「スクリーン」を介した情報的な身体の拡張の形式が普及していたのに対して、これからは現実空間における情報的な拡張が起こっていくし、それがフロンティアであるという視点ですね。

ARアプリの面白さをリブートするために注目するべき技術・企業

天野:ARというテーマで思い出すのが、2010年ごろ「セカイカメラ」や「iButterfly」などARを駆使したアプリが話題になりましたよね。当時は1ユーザーとして楽しんで使っていましたが、周りを見渡してみても、キャズムを超えるところまではいかなかった気がしているんです。2010年ごろと比較して、デバイスやユーザーのメンタリティーなどが変わっていると思いますが、今のARのポジションは?

福田:2010年ごろに限らず、今のARアプリはおもしろくないですよね。できることが少ないです。そもそもスマホをかざすというのが、虫眼鏡をのぞくみたいで不自然です。例えばセカイカメラも、あっちの方向になにかあるらしい、しか分からないですよね。「あっちに向かう」という動機付けなら地図アプリの方が良いくらいで、スマホをかざす意味がないと感じています。

それこそ、アニメ「東のエデン」のようにかざすとその人の名前、属性などアイデンティティーが分かるくらいのセンシング技術があって、インプットやアウトプット(コンテンツビジュアライズ)の質が高ければかざすと思いますが。

最近ではウエアラブルにすることでインプット、アウトプットの質が向上して、できることが増えて、ようやく使えるものになってきたという印象です。

センシングに関しては、拾える情報が増えるほど面白くなりますよね。例えば今話しているこの場にセンサーがあれば、誰がどういう話をして、机に何があって、どっちを向いていで、心拍数はいくつでという情報が分かる、というようになれば、いろいろなことができそうですよね。

天野:ARはいわば「見えないモノが見えるようになる」技術ですが、センシングの発達などによってもっとリッチなものができるということですね。VRの領域ではFacebookがオキュラスを買収しプラットフォーマーとして市場展開を今後行おうとしていますが、ARでこれから鍵になるプラットフォーマー、プレーヤーはどこだと思いますか?

福田:ハードウエアでは、Microsoftのホローレンズや、Magic Leapに注目しています。ここ1、2年はまだわかりませんが、3年後くらいに使いやすい価格で発売されれば革命が起こると期待しています。magic leapは、HMDで鮮明な映像を見られるようですが、バッテリーや重さ、視野角、画角などの壁があるでしょうし、価格をどう抑えるかという課題もありますが、資金があるので期待できそうですね。

センシング技術に特化すると、インテルとグーグルの深度センサー「Project Tango」ですね。これがスマホに搭載されれば、スマホで周りの環境や形状を3Dで認識できるようになり、可能性が広がりますね。

テクノスポーツは2020年に向けてスポーツをする人、観戦する人をもっと広げていく

能勢:情報テクノロジー×スポーツという組み合わせは、どんな可能性を生むと思いますか。例えば東京オリンピックが控える2020年に向けて注視しておくべきポイントがあれば。

福田:テクノスポーツで期待されることはいろいろありますが、一つは今までスポーツに参加することをためらっていた人も気軽に参加できるようになり、敷居が下がると思います。それからスポーツがいつでもどこでもできるようになりますね。家の中、オフィス、帰り道など日常の中で自然にスポーツができるようになるでしょう。

一方で観戦する人も増えるはずです。天野さんが先ほど言った通り、今はゲームの実況中継を見る人も多いですよね。ゲームをやらなくても見るだけの人、ファンになる人も多いでしょう。さらに見るだけでなく、チームに投票できたり、応援によってゲームに影響を与えられたりしたらおもしろいですよね。「ドラゴンボール」の元気玉のような。

構想としては、スポーツ選手の事務所を作って選手のマネジメントをしたり、アイドルのように選手を育てたり、あるいはその選手と戦えたりというようなエンタメ要素もあります。いろいろな分野が掛け合わされて、ゲーム的な要素、タレントをどう生むかという人材マネジメント的な要素、テレビ番組的な要素などが出てくるでしょう。

今はネットゲームの中継だと、ゲームの画面ばかりでプレーしている人ははっきり映らないので、人に直結しないですよね。ARの場合はその人自身が映ってその人の動きが出るのでスポーツの要素が強くて、その点では面白くなりそうです。

天野:なるほど。様々な領域にまたがる事業性を感じさせるのですが、テクノスポーツの市場規模はどれくらいのポテンシャルを持っていると考えますか。

福田:数兆円規模になると思います。今のモータースポーツと同じくらいにはなるんじゃないでしょうか。

天野:日本政策投資銀行のレポートによれば、スポーツ産業規模(GDSP)がGDPに占める比率はアメリカが2.8%なのに対して日本は2.4%。もちろん両国間の額の多寡はありますが、こうしたテクノスポーツが日本で花開けば、スポーツ産業の対GDP比率が上がっていくことにもつながっていくと考えられます。

福田:ただ一方で、新しいスポーツを作るのはそんなに簡単ではありません。サッカーも野球も長い時間をかけて普及したという経緯がありますし、普通は5年でつくれるものではないと思います。しかし、デバイスの普及や進化がこれを可能にするのではないかと思っています。

能勢:いまおっしゃっている点は重要だと思います。スポーツとしての普及を考えるのであれば、少々スコープを広げて、20年後の2030年、私たちの生活の形はどう変わっていくかという視点だといかがでしょうか。

福田:2030年には、ウエアラブルが普及して日常的に使われる環境になっているでしょうか。藤井太洋氏の「Gene Mapper」という小説があるのですが、未来のある一面を描いていて、20年後、30年後のビジョンとしては近いものがあると思います。

天野:では最後に、そういう時代に福田さんはどんなスキルを持って仕事をしていて、その仕事は何と呼ばれていると思いますか?

福田:テクノスポーツ事業をつくるにあたっては、競技を開催する側、グッズを販売する側ではなくて、競技そのものを作る側、育てる側にいたいです。そのためにも、拡張現実をより日常的に使うものにさせていくことにもチャレンジしていきたいと思っています。

そして20年後にARがもっと日常的な場に浸透するようになったとき、ひとりのユーザーの中に複数の人生が存在するところまで現実が拡張的になり、どんな風に生きるのかを選択的に享受できるようになっているとも思います。

それはいわばパラレルワールドのようなものだと思うし、その並行世界で新しい人生を提供できるのだとすれば、それは“神”みたいな存在と言えるかもしれないですね。ARを使って日常的に魔法が使えるようになれば、その魔法を授ける人は神みたいなものでしょう(笑)。


取材後記:ARは私たちの豊かな日常を創造することにどれだけ寄与できるか

ARはSF作品などでも描かれることの多い、“てっとり早く未来を感じさせる”テクノロジーでもありました。そうした未来のテクノロジーを今に根付かせること、つまり未来の生活や産業を芽吹かせようと取り組んでいるのが、福田さんの活動だと感じました。

HADOの取り組みやデモ映像からも分かるように、第一にそれは新しいエンタテインメントの可能性をもたらすツールでありながら、新しい市場を開拓し私たちの生活を変えるポテンシャルを持つものであることが分かります(実際に私たちも体験してみてそう感じた次第です)。

ARのテクノロジー的な可能性はまだまだ発展途上で、チャレンジが繰り広げられているという状況認識は保ちながら、一方でテクノスポーツの市場性は、インタビューの中でも触れられていたように、数兆円規模のボリュームになるという未来視点も重要であると考えられます。フィジカルスポーツ、モータースポーツに続く、情報社会のもとで芽吹く第三のスポーツ産業として、その大きなポテンシャルに瞠目すべきだと思います。

最後に、俯瞰的な視点から今回の座談会を振り返りたいと思います。

日本を代表する社会学者の一人である見田宗介は、情報社会が私たちの生活にもたらす豊かさの可能性を指摘しています――すなわち、有限の環境リソースを使い尽くしながら開発などにまい進するのではないようなやり方で、より豊かな体験や日常を創りだすための情報社会を構想することの勧めです。さらに言えば、そうした情報社会に転換できるかどうかこそが、21世紀に生きる私たちにとっての最重要課題でもあるとの認識を促しているのです。

そうした考察を念頭においた時、福田さんの「パラレルワールドをつくる神になる」という発言は、想像豊かなメタファーをはらんだフレーズでありながら、同時にとても重要なビジョン提起でもあるようにも思われます。情報化が可能にする拡張的な現実=私たちに新しいリアルをもたらすパラレルワールドをいかにつくりあげ、そしてそれを私たちの豊かな日常生活に向けてどう社会構造にビルトインしうるのか?

こうした活動は新しいエンタテインメントの発明であるのと同時に、進展する高度情報社会を生きるミレニアルズにとっての社会的なチャレンジのかたちでもあり、その豊饒なポテンシャルを拓くための実践に他ならないのだと言えるでしょう。