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加藤菊造と「営企」の青春譜(6)

イキですてきな仲間たち―電通を創った男たちⅡ― №40

  • 濱田 逸郎

2016/12/16

加藤菊造と「営企」の青春譜(6)

女性の時代に先駆ける

 

女子マラソンを軌道に乗せた加藤菊造は、女性の時代の到来の予感を早くから感じていた。女性の社会進出は着実に進んでいる。消費の主導権は女性が握っている。テレビ視聴者も女性がボリュームゾーンだ。にもかかわらず広告プランニングへの女性視点の反映は必ずしも十分とは言えない。

たまたま社内論文コンクールの八火賞で社内女性社員のグループが女性の戦力化のテーマで入選した。菊造はそのメンバーの一人である部下の荒木陽子に具体的なアクションの検討を指示した。荒木は即戦力になる女性社員を中心に声を掛け、社内ベンチャーとしてインフォーマルな女性プロジェクトチーム(通称JP)を立ち上げた。

業務終了後ボランティアで企画をプランニングしようというのだ。
これが思わぬ成果を挙げた。チームの存在を知った社内の営業担当から次々に協力を求められるのだ。

女性と日本酒をテーマとしたキャンペーン企画が最初の成功体験だった。続いて大手百貨店、大手化粧品メーカー、大手自動車メーカー。社長に対するプレゼンが相次ぎ、クライアントにも鮮烈な印象を与え、いくつかは億単位のキャンペーンの受注につながった。

何人かのクライアントの社長が、電通の役員にお礼を述べるに至って、女性プロジェクトの存在が社内的に認知され、インフォーマルなチームではなく正式な組織として立ち上げようとの機運が醸成されていった。

確かに、ボランティアではこなしきれないほどの作業依頼が集中し、体力的にも経費面でも限界に達しつつあった。
1984年多数の女性社員が営企に配属された。女性プランナーを早期に育成しようというのだ。

それまでの電通は男中心の世界であった。例えばクリエーティブの第一線では女性コピーライターも活躍していたが、当時600名いたクリエーティブの中でも女性はわずか7名に過ぎない。マーケティングプランナーの女性は4名程度、それ以外を見ても十指に満たない。当時、女性は補助的業務を担当することが多く、やる気はあっても広告業務の基礎的な訓練を受ける機会がないのだ。

しかし、営企に配属された彼女たちは着実に成長し、その後何人もが女性管理職の先駆けとして活躍している。

1984年9月。電通の20番目の子会社として「電通EYE」が発足した。代表取締役社長として加藤菊造が、専務取締役には女性コピーライターとして数々のヒットを飛ばしてきた旧知の脇田直枝が就任した。社外の第一線で活躍中の女性クリエーターやプランナーを集め、他に協力スタッフとしてプロダクションや個人をネットワークしている。

電通EYEの設立パーティー
電通EYEの設立パーティー
 

8月24日の日本経済新聞は「“女心”攻略やはり女性で ── 電通、男ヌキの広告会社設立、社外から即戦力スカウト」の見出しで次のように報じている。

一広告最大手の電通は全額出資子会社として「女性による女性のための広告会社」を設立する。これは商品選択に女性の発言力が増し、商品企画に女性らしい繊細な感覚や生活感が求められているためで、新会社は社員17人のうち13人が女性という構成。広告製作などで女性だけの会社はあるが、大手広告代理店が子会社として設立するケースは初めて。

電通グループ内に女性の活躍の場を作るとともに、社会的にも女性の時代にドライブをかける意欲的チャレンジだった。

各紙に取り上げられた電通EYE設立の記事
各紙に取り上げられた電通EYE設立の記事
 

スタッフや協力ブレーン集めに奔走した菊造は、設立後は脇田専務に大胆に権限委譲し、自らはバックアップに努力を傾注した。

当初、菊造は女性プロジェクトの牽引者である荒木陽子を電通EYEの実務を仕切るコアメンバーに想定していた。ところが荒木は設立に先立って出産退職を申し出る。菊造はよほどショックだったのだろう。朝の会議後荒木が退職を申し出ると、読んでいた新聞をおろさず、新聞で顔を隠し、荒木と視線を合わせることがなかったという。シャイな菊造は急な話に語る言葉を失ったのだろう。意外に「こども」なのかもしれない。

荒木に代わって電通EYEに出向した日根野眞弓は、設立当初のメンバーの多くがそれまで独立独歩で業界を生き抜いてきた自立したメンバーが多く、電通本体とのカルチャーの違いもあり、その調整が大変だったと語る。しかし、まさにカルチャーの異なるダイバーシティを内包していたからこそ電通EYEの成功があるのだろう。その2年後男女雇用機会均等法が施行される。日本社会は女性力の活用に大きく舵を切った。電通EYEは時代の風を受けたかのように注目を集め、数々の実績を上げている。

(文中敬称略)


◎本連載は、電通OBの有志で構成する「グループD21」が、企画・執筆をしています。