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世界1位のキーマンが語る、ビットコインが変える未来

ベンチャーが未来を創る №1

  • 加納 裕三
  • 井口 理

2017/03/10

世界1位のキーマンが語る、ビットコインが変える未来

未来を見据えた事業を行うベンチャー企業にスポットを当て、その事業の概要や、かなえたい未来について明らかにする連続インタビュー企画。今回お話ししたのは、仮想通貨「ビットコイン」の取引において、世界1位のシェアを獲得したbitFlyer。同社代表の加納裕三氏と、電通パブリックリレーションズ PRプランナーの井口理氏が語り合いました。

左から、井口氏、加納氏
 

前年比100倍の急成長。その企業の始まりとは

 

井口:bitFlyerは2014年1月に設立され、ビットコインの取引やその根幹となるブロックチェーンのシステム提供などを行っています。今年1月には、ビットコイン取引所として世界1位のシェアを獲得しましたね。やはり、ここにきてビットコインの取引は伸びているのでしょうか。

加納:そうですね。昨年12月の取引高は約2800億円だったのですが、これは1年前の100倍ほどになっています。bitFlyerのユーザー数も、直近の公表で40万人と、こちらも昨年より数倍上がりました。16年の途中から右肩上がりになっています。

井口:まさに急成長中だと思うのですが、そもそも加納さんがビットコインで起業した経緯はどんなものだったのでしょうか。

加納:私はもともと外資系の金融機関にいて、エンジニアとトレーダーを経験しました。ちょうどフィンテックの両方の要素に携わった形で、そのうちに「フィンテックで起業したい」と思ったんですね。そして、ちょうどトレーダーをやっていた10年ごろにビットコインの存在を知りました。トレーディングの職場内で流行していましたから。

井口:そのときにビットコインでの起業を考えたんですか?

加納:いえ、当時はまだビットコインは流行しないと思っていました。いわば“おもちゃのお金”だと。ただ、13年11月にFRB(米連邦準備制度理事会)の前議長ベン・バーナンキ氏が、ビットコインを容認する発言をしたんです。それにより考え方は変わりました。可能性を感じたんですね。容認発言の2カ月後には、bitFlyerを設立しました。

井口:世界的にはまだあやふやな状況であったわけですが、加納さんはその時点でビットコインに目をつけたのですね。

加納:通貨が通貨として機能するためには、「価値が保存できること」「交換の手段として利用できること」「価値が計測できること」の三つが必要です。ビットコインは、最初からその全てを満たしていました。ただし、それが流通するには“信用の連鎖”が起きないとダメで、バーナンキさんのお墨付きはその意味で大きかったんですね。実際、容認発言を起点にビットコインの価格は10倍以上に上がりました。

加納氏
 

起業直後のマウントゴックス事件をどう捉えるか

 

井口:ただ、その直後にマウントゴックス社が預かった顧客のビットコイン消失という事件がありました。あのイメージを強く引きずっている人もまだ多いのですが、これについてはどんな認識でしょうか。

加納:あの事件は社長による不正で、ビットコインの問題ではありませんでした。一時はブロックチェーン(取引記録をネットワーク上で管理する仕組み)というシステムの脆弱性によりビットコインが盗まれた可能性も指摘されましたが、当時からそれはないと思っていましたね。ブロックチェーンの仕組み上可能性はかなり低いと考えていました。一方、まさか社長が不正するということもないだろうと思っていましたが、それが事実だと知ってびっくりしました。

井口:業界としては、かなり信用を落としてしまった部分もあると思います。ただ、そこから加納さんは、日本ブロックチェーン協会(前・日本価値記録事業者協会)という業界団体をつくり、その団体を牽引してきました。自社の運営のみならず、ビットコイン業界全体のためにかなりの時間と労力をお使いになったと思います。その結果、昨年5月の法改正により、ビットコインをはじめとした仮想通貨の法的位置づけが認められましたね。今年4月ごろには法施行される見通しです。

加納:もともと私が業界団体をつくったのは、第二のマウントゴックス事件を起こしたくなかったから。顧客をだます目的で何かをやってはいけません。そういった顧客保護の体制を業界全体で統一したかったんです。

井口:そういった加納さんの活動があって、今回の法改正につながったのは誰もが認めるところだと思います。

加納:バーナンキさんの発言と同じで、通貨に必要な「信用」の点で法律のお墨付きができたのは大きいです。こういった動きは世界でも国としては日本が最初になりますから、格段に信用が変わるのではないでしょうか。

井口氏
 

ビットコインが、新たなグローバル経済をつくる

 

井口:法施行によりビットコインの信用度が上がれば、これから利用する人も増えると思います。そこであらためて聞きたいのですが、ビットコインとはどんなもので、どんなことを可能にするのでしょうか。

加納:一言でいえばビットコインは「世界共通の電子マネー」です。そしてその最大の特徴は、他の通貨と違って発行体がないこと。「中央」の存在がないことです。それを可能にしたのが、ビットコインを運用するブロックチェーンの技術で、だからこそ世界共通で使えますし、間に何も通さず個人同士で送金できるようになります。

例えば海外に送金する際、通常は手数料だけで何千円もかかってしまいますよね。ビットコインなら発行体がないため、途中に何かを介する必要がありません。個人間での直接取引になり、数円〜数十円の手数料で即座に海外へ送金できます。

井口:それによって、これまでできなかったことが可能になるということですよね。

加納:そうですね。現状では、海外に100円単位や数千円単位の少額を送るマーケットはありません。でも、そのニーズはあるはずです。クラウドソーシングのサイトと組んで、インドネシアのアニメーターに色塗り作業をお願いしたり、フィリピンの個人に英会話教室をお願いしたり。ビットコインは、そういった国境を超えた小さな経済活動を可能にします。さらにいえば、0.0001円を送金するという“スーパーマイクロペイメント”もできるんですね。それは、世の中の人やデバイスによるサービス一つ一つに値段をつけて、経済が回る仕組みをつくることも可能です。

井口:これまでなかったグローバル間の新たな雇用関係が生まれたり、ネット上にあるようなマーケットプレイスみたいな「場」がなくとも個人同士がどんどん取引していけるような環境ができるわけですね。全てのものにビットコインによる値段がついて、代替価値を示せるようになれば、モノや労働力、知恵などが同じレイヤーで価値交換できるようになったりするんですね。

加納:実は新興国とのフェアトレードにも貢献できます。現状では、一部のアジアの国やアフリカといった新興国から農作物などを輸入する際、間にいろいろな企業が入るため、手数料などが増して生産者の得られる利益が減ってしまいます。また、現地の人が新規事業を行うために資金調達をするにも膨大な金利が重なります。ビットコインという世界共通の仮想通貨なら、エンドユーザーとの直接的なトレードやファイナンスができるんですね。新興国の経済を助けられると思います。

井口:ビットコインという新たな通貨を送受することで、いろいろな広がりが生まれますね。

加納:あとは、表面的には日本円を送金する場合でも、一度ビットコインに置き換えて送る方法も出てきます。日本円をいったんビットコインに換えて送金し、受け取ってからまた円もしくはドルに換えれば、直接の受け渡しと同じなので手数料は非常に安い。海外送金もこの手法で行えます。

これまでの金融システムとの違い
 
 

期待されるブロックチェーン技術の応用

 

井口:ビットコインの「中央がない」という特性は、ブロックチェーンという技術が根幹になっています。そしてbitFlyerでは、ビットコイン取引所以外に「miyabi」というブロックチェーンを開発しました。これは法人向けのものになりますよね。

加納:ビットコインに使われるブロックチェーンの技術はいろいろな領域に応用できます。銀行や証券、保険といった金融系はもちろん、不動産のデータベースとしても使えるでしょう。さらに注目されるのは、政府関係ですね。マイナンバーシステムをブロックチェーン化するということも考えられます。

ブロックチェーンは中央の管理者がない状態でデータベースが分散されて運用され、ブロックチェーンのどこか一部のコンピューターが故障してもデータが消えることは一切ありません。つまり不正しづらいんですね。私たちは、ビットコインの取引所運営で培った技術を元に新しい概念のブロックチェーンを開発して、金融機関を含むエンタープライズ向けに提供していきます。

井口:ビットコイン取引所とブロックチェーンの技術提供という二つのビジネス展開になりますが、企業としての軸足や比重はどう考えていますか。

加納:これは全くの均等です。二つは切っても切れない関係で、私たちがmiyabiというブロックチェーンを生み出せたのは、ビットコイン取引所を自社で開発した上で運用している経験があったからです。逆に、ビットコインのプロトコルを十分に理解せずにブロックチェーンを開発する組織も多いですが、これはリスクがあると思います。プロトコルを理解し運用した上で出てくる課題があり、パフォーマンスがどうなるのか、セキュリティー問題があるかなど実際に対峙していませんから。その意味で、私たちは3年間ビットコインを運用してきて、その中で真剣にブロックチェーンを考えたからこそ、良いものができたと思っています。

日本発の技術力で、世界一を目指していく

 

井口:これまでのビットコインは投機目的で買う人がほとんどでしたが、ここにきて決済用として購入する人も増えてきたと伺っています。今後、どのような広がりを見せるでしょうか。

加納:まずは個人間のやりとりが増えると思います。当社でも「bitFlyer ウォレット」というアプリを出しており、QRコードを読むだけでビットコインの売買をしたり、SNS感覚で友達に送金したりする機能がついています。ビットコインによって気軽なやりとりが可能になります。

また、今後は店舗レジ向けのアプリを本格リリースし、決済への普及も進むはずです。世界共通の電子マネーですから、例えばインバウンド対策にビットコイン決済を店舗が導入するケースも増えると思います。タブレットのレジを使っている店舗でしたら、アプリをダウンロードするだけでビットコイン決済が可能になります。

すでに国内でも回転ずしや美容院など、さまざまな業種でビットコインを取り扱う店舗、サービスも出てきています。まさに一般の生活者の方々がビットコインを日常生活で使うのが当たり前になってくるでしょう。

井口:さらに「中央がない」というブロックチェーン技術を生かした決済システムも増えそうですね。

加納:はい。音楽データをダウンロードするケースでいえば、まず著作権者がブロックチェーンに楽曲データをアップロードします。その曲を聴きたい人は、ブロックチェーンに対しビットコインを支払います。このとき、中央の管理者は存在しないので、そのお金は著作権者に直接渡りますよね。あとは、ブロックチェーンのネットワーク保持者に多少のお金がいくだけ。ずっとコストも低く、直接的なお金のやりとりが行われます。もちろん音楽管理会社に手数料を支払う必要はありません。

井口:しかもそういったやりとりのデータは細かく記録されて消えないので、推移も明確に分かるということですね。では最後に、これからブロックチェーンの開発競争は世界的に激しくなると思いますが、今後の展望を教えてください。

加納:日本人の強みは0から1を生み出すことより、1を2にして、さらに10に伸ばすことだと思います。改良を繰り返す作業はまさに日本人が得意で、私たちも最初に発明されたブロックチェーンを改良し続けてmiyabiをつくりました。この分野なら欧米にも勝てると思うので、引き続き世界一を目指してやっていきたいです。