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ライター、編集者、プランナー…“しおたん”の実践するパラレルキャリア

ミレニアルズと「未来のスキル」 №13

  • 塩谷 舞
  • 能勢 哲司
  • 天野 彬

2017/07/06

ライター、編集者、プランナー…“しおたん”の実践するパラレルキャリア

左から能勢哲司氏(電通)、塩谷舞氏、天野彬氏(電通)
左から能勢哲司氏(電通)、塩谷舞氏、天野彬氏(電通)

本連載では、スタートアップとの協業経験豊富な能勢哲司氏と、デジタルメディアで深い知見を持つ天野彬氏の二人の電通社員が、ミレニアルズ世代の注目すべき人物にインタビューし、“未来のスキル”のヒントを集めていく。

今回のゲスト、“しおたん”こと塩谷舞氏は、ウェブライター・編集者から、PRプランナー、イベントプランナー、司会者など、いくつもの顔を持つ。自身のコンテンツ開発力と発信力でソーシャルメディア上での知名度を獲得し、さまざまな人とつながりながら活躍のフィールドを広げ続ける、今の時代らしさを体現するミレニアルズの一人だ。

大学時代にフリーマガジンを創刊したことから始まり、卒業後はウェブ制作とメディア運営を行うCINRAに勤務。2015年春に独立し、お菓子メーカーBAKE Inc.のオウンドメディア「THE BAKE MAGAZINE」の編集長として注目を集めたり、今年に入ってからはカルチャーやクリエーティブにまつわるオピニオンメディア「milieu(ミリュー)」を立ち上げた。現在28歳だが、“しおたん”としてSNSで情報発信をしてもう9年。そしてインターネット歴は18年になるという。

これからの時代に求められる“パラレルキャリア”を実践する彼女の考えをひもといていくと、多様な活動を束ねる一つの軸と、それらを推進する原動力が浮かび上がってきた。

スターを生むために“文脈”をつくるという仕事

「自分の職業や肩書に、あまりこだわりはないですね。外からは “読モライター”(読者モデルのような、タレント化したライター)や“バズライター”など、いろいろな肩書で呼ばれたりもしますが、どうでもいいなぁ…と。ライター業であれイベント企画業であれ、今していることは、あくまでも“現時点でやりたいこと”を実現したり、広めたりするための最適解であって、時代が変わって次の最適解が見つかればそれをやるだけです」

これは取材の最後に聞いた、「数年後、自分がどんな職業や肩書になっているか」という質問に対する塩谷氏の回答だ。

「小学生の頃はホームページビルダーとペイントでフリーのイラスト素材サイトをつくって、中学生の頃はガラケーでモバイルサイトを構築して、大学生の頃はmixiでコミュニティーを立ち上げまくっていました。その流れで、今はウェブメディア編集長です。全部、ただの手段でしかないです。手段だから、『自分はこの職業の人間だ』と意識し過ぎると、なんだか小回りが利かなくなる気がするんです」

多方面で活躍する彼女の職業は、一言では説明しにくい。だが、その多様な活動には一つの共通項がある。

「スターが生まれるきっかけや仕組みをつくりたいんです。せっかく面白いことをやっているのに、自己発信が苦手な方っていますよね。SNS全盛期の今、どうしても目立つ人は偏ってしまっていますが、目立ってる人だから面白いかというと、それが全てじゃない。
本当に何かにのめり込んでいる人は、自己発信どころじゃないケースが多いんです。私はそんな人から生まれるものにほれ込んでいて、milieuをはじめとする私の活動は、それらを世間に届けるためのもの。いわば“中継ぎメディア”を目指してやっています」

何か面白い素材があったとしても、それをいきなりマスメディアに乗せて世間に広めるのは難しい。その前段階で“中継ぎ”をするメディアが必要だというのが塩谷氏の考えだ。そして、外部の人間にも理解しやすい“文脈”をつくることも中継ぎメディアの役割だという。

「小さなコミュニティーで語られている面白いことが、コミュニティー外に出ていかないという構造がよくありますよね。コミュニティー内部の人が『もっとたくさんの人に知ってほしい』と思っていても、情報流通に問題を抱えている場合があります。
私は、コミュニティー外の人にも興味を抱いてもらえるように、より広義な文脈で記事を書いたり、自分のフォロワーを介して広めることに、めちゃくちゃ注力しています」

そんな塩谷氏が強く意識しているのが、まず“キーパーソン”に伝えること。

「milieuを始めてからは、広めるといっても、誰でも分かるようにと内容を広く浅くするようなことはしません。まずは数万人の“キーパーソン”に伝えることが重要なんです。キーパーソンの中に例えばテレビ局のディレクターがいれば、最終的にマスメディアにも取り上げられて二次拡散されたり、研究者の目に触れて可能性が広がったりする。それが“中継ぎメディア”です」

「あるいは、才能のある誰かと誰かを引き合わせると、想像もしないような世界が生まれたりします。そこを最初に見せてもらえるのは、本当に役得で幸せなことです。最高ですね。
私自身は黒幕として、スターが生まれるお手伝いをしたいんです。自分より何倍も才能のある人が好きなんです。でも、この人がスターだ!という文脈を描くためには、情報発信能力は重要なので、そこは鍛えていきたいと思っています」

今回のインタビューの中で、塩谷氏は “文脈”というキーワードを何度か使っている。どんな光る才能も、それを伝えるための適切な文脈がなければ、受け手には届きにくいし、大手メディアに注目されることもない。

つくり手の視点からは見えていない価値を見つけて言語化する。新しいもの・こと・ひとを理解してもらうための下地づくりが、この情報化時代には大切なステップとなるのだ。

milieuでは、さまざまなプロダクトや芸術・文化に携わった人たちを取り上げている。ただ取り上げるだけでなく、届かせたい読者に対し、最も効率の良い届け方や文脈づくりを考え抜く。

5月に掲載した新日本カレンダーの社員インタビュー記事では、老舗企業の若手社員が起こしたユニークな取り組みを紹介した。すると、さまざまな団体や企業から「ぜひ、新日本カレンダーさんと一緒に、新しいカレンダーをつくりたい」という問い合わせがあった。塩谷氏は「つくっている人たちの思いが伝わり、何年後も心に残り続けることが一つの理想」だという。

塩谷氏が注目するクリエーターが多数登場するメディア、milieu
塩谷氏が注目するクリエーターが多数登場するメディア、milieu

塩谷氏の話を聞いた能勢氏は、「塩谷さんのスタンスやアイデアは、地方活性化の分野にも役立つのではないか」と問い掛けた。若い才能にスポットを当てて注目を集めることは、「次の一手に悩む地方にとって、まさに求めているもの」だという。

すると、塩谷氏はすでに企画中の地方プロジェクトを教えてくれた。それは一部で“バズライター”とも呼ばれ、ネットで広がりやすい記事制作ノウハウに精通した、彼女ならではの企画だ。

「以前、milieuの取材で宮城県の南三陸町を訪れたのですが、そこで地元の方々と出会って、仲良くなったんです。それがきっかけで、南三陸ホテル観洋の方々と7月1 、2日に“#BuzzCamp”というイベントを南三陸町で合同開催することになりました。
広告、PR、メディアの最前線で活躍するスタープレーヤー45人を南三陸に招待して、現地の課題にアイデアソン形式で回答したり、南三陸の方々にブログの書き方やメディア運営の仕方をお伝えするイベントです。
自分一人ではできることが限られるので、もっと大きいプロモーションを手がけられる人や、発信力のある人を連れていく、というやり方をしてみようと」

インフルエンサーの発信力で、地域への注目を集めることも計算しているが、重要なのはその後の継続性だ。いくら地方に面白い才能や資源といった素材があっても、それを発信する“中の人”が現地にいなければ外部にはなかなか伝わらない。

「東京に住む私たちが南三陸の魅力を発信することにも意義はありますが、そのやり方だけでは一過性のものになってしまいがちです。それより、そこに住んで生活している方々にバズの方法やメディア運営のコツをお伝えすれば、継続的な発信力につながるのではないか、と思って。南三陸だけではなく、気仙沼や石巻から、50人近くの方が講義に参加してくださる予定です」

なお、本インタビュー収録後に開催された#BuzzCampは、盛況のうちに幕を下ろした。

インフルエンサーや記者、広告クリエイター、起業家、漫画家、フォトグラファーなど45人が南三陸に集まった
インフルエンサーや記者、広告クリエーター、起業家、漫画家、フォトグラファーなど45人が南三陸に集まった
東日本大震災から6年が経過した南三陸の今を知り、その後アイデアソン形式で課題解決案を発表した
東日本大震災から6年が経過した南三陸の今を知り、その後アイデアソン形式で課題解決案を発表した

書いて届けるメディアから、書いて“広めて”届けるメディアへ

発信力が足りないばかりに、せっかくの才能や資産が埋もれてしまう。彼女の根底には、そんな損失をなるべくなくしたいという動機が一貫してあるように思える。

塩谷氏が“中継ぎメディア”という立ち位置を意識したのは、高校時代にさかのぼる。絵画や演劇などアート分野が好きで、自ら制作や表現に取り組み、何ごとも人並み以上にこなせていた彼女だが、校内で自分が到底かなわないと感じる才能の持ち主たちと出会った。

しかし、彼らはアートの才能はあるものの、自分から発信するのが得意ではなかったため、クラスでもそれほど注目されず、埋もれてしまっていた。その頃から、塩谷氏は「才能のある人に、きちんとスポットライトを当てたい」と考えるようになったという。

「私は発信するのが得意、というだけで、大多数の同級生からは彼らではなく私の方が評価されていたんです。でも、本当はもっとすごい人たちがいるのに。ちゃんと彼らのすごさを広めなきゃ! そう思ったんですよね」

京都市立芸術大学に在学していた際、自ら編集長としてフリーマガジン『SHAKE ART!』を創刊し、美術・デザインを志す若者たちを取り上げた。その他、学内でのファッションショーの運営や裏方も行った。

塩谷氏が大学時代に立ち上げたアートマガジン。当時は学生発のウェブメディアは少なく、フリーマガジンブームだったという
塩谷氏が大学時代に立ち上げたアートマガジン。当時は学生発のウェブメディアは少なく、フリーマガジンブームだったという

社会人となってからは、PRや記事の執筆、ウェブサイト制作、イベント企画などで“スターを生み出すきっかけ”を試行錯誤してきた。

そんな彼女を語る上で欠かせないのが、TwitterやFacebookといったSNSの活用だ。SNSの動向をリサーチしている電通の天野彬氏は、塩谷氏のSNS活用に対してこう話す。

「今のSNSは交流の場というだけでなく、情報が拡散され、検索される場となっています。そうした中では、メディアも書いて届けるだけでなく、書いて“広めて”届けることがより求められる。塩谷さんは、会社員時代からSNSで積極的に自社情報を発信されていましたが、個人の発信力を生かせる時代ですし、そうしたことに前向きな会社が今後増えるのではないでしょうか。やることのリスクよりも、やらないことのリスクの方が意識されるようになるかもしれません」

塩谷氏は「SNSでの個人発信は、不特定多数から直接いろいろ言われるリスクもあるので、一概には推奨できないですが…」と苦笑いしつつ、しかしその意義を語ってくれた。

「例えば広告でも、携わった人がSNSで『こんな広告をつくりました』と発信するだけで、これまでとは違った広まり方をします。もちろん、SNSが全てではないし、広告はクライアントの販促物ですから、つくり手の主張は要らない場合もあります。でも、従来の方法で広まらない現状に、困っているクライアントが多いのも事実です」

「プレスリリースサイトなんかには毎日、キャンペーンサイトが立ち上がった、というリリースが出てるじゃないですか。それを、反響はどうかな…とSNSで検索してみるんです。悪趣味ですよね、分かってます(笑)。
すると、盛り上がってるものもありますが、ほとんど誰も言及していないキャンペーンもあります。唯一言及してるのが、フォロワー数1ケタの公式アカウントのみ、といった悲劇もあって…それは本当に、お金がもったいないです!」

塩谷氏は、広告クリエーターや関係者に対しても「大手の方ほど裏方に徹していて、それは美しい姿勢」だと話す一方で、「もう少し“個人”で発信すればさらに広まるのに」と思うことがあるそうだ。

「みんなの手の中にSNSがあるんだから。良いものをつくったら、自信を持って発信すればいいのでは? と、私は思いますね。“炎上リスク”については、そこを気にし過ぎてしまうと、インターネットの醍醐味を味わえないじゃないですか。もちろん、怖いですけどね、炎上は…」 

物心ついた頃にはネット環境があった塩谷氏にとって、SNSは「息をするようなもの」だという。学生時代からSNSでの情報発信を積極的に行い、発信力があるかないかの“違い”を常に感じてきたからこそ、「SNSで発信して広めることは今の時代のウェブメディアには普通のこと」と考えている。

ウェブ電通報へのリクエストとメディア論

自身の拠点の一つである都内のシェアオフィスで
自身の拠点の一つである都内のシェアオフィスで

企業のオウンドメディアが多数生まれる中で、今後は書いて“広めて”届けることがますます重要になるだろう。ウェブメディアの一例として「ウェブ電通報」について聞いてみると、塩谷氏はこんな意見を出してくれた。

「電通報はクライアント向けの“to B”記事を徹底されていますが、個人的にはもう少し“to C”というか、消費者が読む可能性をもっと意識した記事も増やしてみてほしいなと思うことはあります。インターネットは自由な領域なので、to B記事でもコアなto Cに刺さることもありますから」

例えば、話題になりそうな広告プロジェクトについて、リリースと同時にクリエーターのサイドストーリーを電通報に載せる。プロジェクトが一番盛り上がり、消費者の興味が最高潮の瞬間に、裏側を見せることで、コアなファンになってもらえる。そんなアイデアも、「つくり手に近いメディアだからこそできるのでは」と塩谷氏は提案する。

天野氏は、塩谷氏のアイデアについてこう考える。

「広告を受け取るだけでなく、それをめぐってインタラクションをするというかたちで生活者と広告との距離感が変わり始めている今、発表された表現物からは読み取れないプロジェクトの過程や意図といった裏側を広告会社が見せるというアイデアは面白いですね。“発信者の顔が見える”こと、つまりコミュニケーションの透明性を人々が求めるようになっている時代の感覚にも合致する方向性だと感じます」

続いて、この情報過多の時代にメディアをつくり成功させるために不可欠な要素を尋ねると、「つくり手の熱量」という答えが返ってきた。

「“そのメディアのテーマを異常なほどに好きなメンバー”がいないと、読者に不親切になってしまうと思います。読者の気持ちに憑依できないと、読者にとって本当に情報が欲しいポイントに何もない…ということになるんですよね」

「例えばHow to taiwanという日本人向けの台湾観光情報メディアがあります。このサイトは数人の女性で運営されているのですが、お店でのオーダー時などに必要な中国語などの言葉が、全部カタカナで書いてあったりします。編集長の台湾への愛情があるからこそ、読者を実際の行動に移しやすくしていて、そうするとメディアとしての信頼度が強くなるんですよ」

milieuも、もともとアートが好きだった塩谷氏が、素晴らしいクリエーティブとそれをつくる人たちに光を当てたいという熱意があって誕生したメディア。その熱量をもって、日々「書いて広げて届ける」記事を生み出している。

ただし、“広げる”のはそれ自体が目的なのではなく、あくまでも届けたいターゲットに記事を“届ける”ためのステップにすぎない。

「本当に届けたいモノと、届けたい対象がいる場合は、バズればいいというものではないですよね。100万PVを取るような記事にも大きな価値はありますが、例え1万人であっても、読んだ人の多くがファンになってくれる。そんな濃いコミュニケーションが理想です」

ファンを増やすようなコミュニケーションになっていないバズは、結局一過性に終わってしまい、発信者自身も疲れてしまうのだという。

塩谷氏は、こうした自分の役割を意識しているからこそ、表面的な職種や肩書は気にしない。今後も、スターを生み出すための最適解を見つけ続けていく。

「これからの時代は、肩書が三つ、四つある人もどんどん増えるはずです。道を一本決めることでプロフェッショナルとして輝く人もいますが、私はあまりそういうタイプではない。あれもこれも気になるし、“多動”タイプなのかな、と。もし『編集者になりたい』と思っていたら、今までやってきたような仕事の多くはできなかったと思います。時代に応じた最適解を見つけながら、インターネットを味方につけて、歴史に残るようなスターや、クリエーティブを生み出していけたら、人生最高ですよね」

塩谷さんから学んだスキルのヒント:
「SNSでヒト・モノ・コトをプロデュースする!」


【本連載について】
電通総研内のクリエーティブシンクタンク「電通総研Bチーム」において、さまざまなスキルを持つ人同士のネットワークを生かしたソリューション提供を行うプロジェクト「スキル・ライブラリー」に参画中の能勢氏と天野氏が、毎回デジタルネイティブ世代=ミレニアルズの注目すべき人々にインタビュー。
「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」(ニューヨーク市立大学・キャシー・デビッドソン教授)といわれるほどに仕事の未来が不透明なこの時代に、「ミレニアルズ」の取り組みから“未来のスキル”のかたちを模索する。
電通総研Bチーム