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YURIさんからみたイギリスと日本のクリエーティブ

ロンドンのクリエーティブあれこれ №5

  • 武重 浩介

2018/01/09

YURIさんからみたイギリスと日本のクリエーティブ

ロンドンを拠点に活躍しているアーティストYURI SUZUKI(http://yurisuzuki.com)さん。YURIさんは自ら発表した不思議なシンセサイザー「OTOTO」※1がMoMAに収蔵されるなどアーティストとして活動する一方で、クライアントワークの実績も多数。長期にわたってロンドンを拠点に個人で仕事をしているYURIさんからは、クリエーティブエージェンシーで働く自分とは違う経験、視点に基づいた興味深い話を伺うことができた。

※1 OTOTO:なんでも楽器に変えてしまうDIYシンセサイザーhttp://yurisuzuki.com/jp/artist/ototo

OTOTO

 

イギリスはヨーロッパの中心地だった

武重:いつごろからロンドンに?

YURI:ロンドンに来たのは大学院に通いだした2006年なので、もう10年以上になります。

武重:その頃からはロンドンも随分環境が変わったでしょうね。この街を選んだのは何か理由があったのですか?

YURI:やっぱりイギリスはヨーロッパの中心でしたし、各国へのアクセスがいいというのが一番の理由です。ただ、EU脱退によって今後はヨーロッパでのポジションも変わってくるでしょうから、今はそんなにここである必然性は感じていないんです。

武重:イギリス以外の国の仕事もたくさんされていますよね。

YURI:そうですね、むしろ今はアメリカや中国の仕事が多いです。

武重:それぞれの国で仕事の仕方に違いはありますか?

YURI:これは個人的な見解ですが、中国やアメリカはイギリスよりもしっかり仕事を依頼してくれる印象があります。新しいことに取り組んでいる次世代の人や、デザインに関しても理解のある人が多い気がしますね。中国の仕事はエキサイティングで面白いですよ。

必ずしも国ごとに分類できませんが、やっぱりデザインに対して理解があって、敬意を払ってくれる人たちとは仕事しやすいです。

武重:なるほど、それは意外でした。YURIさんのサウンドデザインを中心とした活動の方向性が対外的に認識されているので、クライアントからの依頼もフィットしやすいのかもしれませんね。仕事の領域としてはどういったものが多いですか?

YURI:サウンドデザインを中心に、広告、アートディレクション、インスタレーション、映像制作が多いです。言われてみれば、確かに、話が来る時点でやりたいことが明確なクライアントが多いですね。

武重:イギリスのクリエーティブ環境に関してはどのような印象を持っていますか?

YURI:ロンドンはクリエーターとしてすごくレベルが高い人も多いですが、クリエーティブ人材が飽和しているのかもしれません。

日本の価値は“ここまでやるか”のクラフトワーク

武重:海外で活動されているYURIさんから見て日本のクリエーションはどういう印象ですか?

YURI:とてもレベルが高いですよね。電通の菅野薫さん、ライゾマティクスの真鍋大度さん、Qosmoの徳井直生さんなど皆さん素晴らしいです。以前、ロンドンの大学院でサウンドデザインを学びたいという日本人の方の相談を受けたんですが、日本の優秀な方たちの下で仕事した方が学びが多いと思いますよ、とアドバイスしたこともあります。

武重:なるほど。具体的に日本のクリエーションのどういった部分がグローバルでの強みになってくると思いますか?

YURI:クラフトワークが優れているものや、作り込みの美しさは、どの国にもまねできない素晴らしいものだと思っています。例えば、菅野さんらが携わったリオオリンピックのクロージングセレモニーの作り込みなども、他の国からは出てこないクリエーションだと思います。ここまでやるか、というところまで突き詰めたクラフトはどこの国の人でも感動すると思いますね。

一時的な話題を狙ったものというよりは、普遍的に長くみんなに浸透するようなものに見られる、細かいところまで圧倒的に作りこまれた精度の高さが日本の価値になるのではないでしょうか。昔の日本のものづくりがそうだったように。

武重:YURIさんは、ものをつくられるときに、その国やマーケットごとにテイストやアプローチなどを意識したりしますか?

YURI:ケースバイケースですね。国やマーケットというより、仕事を依頼していただいた方のやりたいこと、嗜好に合わせてアイデアを変えたりします。自分にとって一番大事なのはクライアントとコミュニケーションをしっかり取ること。それが、ベストなアンサーを出す方法だと思っています。あとはどういう場所でどんな人が見るかで若干の見せ方やアイデアを変えていくことはやっています。

例えば、Audi Sonic Pendulum※2は、ミラノサローネで実施したインスタレーションですが、全体的にインパクトを狙った作品が多い中で、来場者にリラックスした空間を提供することを目的につくりました。クライアントのビジョンも明確でした。アイデアに対して理解があり、他のアーティストともエッジの立ったプロジェクトを実施している方たちだったので実現できたのかもしれません。

※2 Audi Sonic Pendulum:AIが想像し実現するサウンドインスタレーションhttp://yurisuzuki.com/jp/design-studio/sonic-pendulum

Audi

じっくりと浸透するアイデアを

YURI:自分のアプローチのベースにあるのは、どこの国の人でも同じ人間なので、そういった人の普遍的な部分を捉えて、じっくりと浸透していくようなアイデアをつくること。だから基本的にはどの国でやることも先入観を持たずフラットに考えてます。

武重:普遍的なものはやはり息が長いものになりますし、息の長いアイデアは、スケーラブルでもある、といえるかもしれませんね。普遍的なものといえば、一過性のキャンペーンではなく楽器から制作されたwill.i.amとのプロジェクトThe Pyramidi※3は興味深いです。アーティストから直接仕事の依頼があったんですか?

YURI:そうですね、直接依頼が来ました。実はそのプロジェクトは、will.i.amと2年間くらい話し合いをしながらデザインをつくり上げていったんです。2年にわたりメールのやりとりを中心に、年に何回か会って形にしていきました。彼自身のやりたいことやキーワードがあって、それをもとに進めていくのですが、何かインスピレーションあったらすぐに自分にメールしてきてどんどん元のアイデアを進化させながらつくり上げていきましたね。

※3 The Pyramidi:デジタル信号によってコントロールされるメカニカル楽器
http://yurisuzuki.com/jp/design-studio/the-pyramidi
The Pyramidi

 

武重:今後やってみたい仕事はどんなものですか?

YURI:オリンピック関連の仕事はやってみたいですね。あとは長いことリサーチしているサウンドデザインの分野がだんだん開拓されていることもあるので、その分野でも仕事に広がりが出ていくといいなと思っています。

‐‐‐

YURIさんとのお話を通じて驚いたのが、イギリスや中国などのクリエーティブ環境に対する自分との認識の違いだった。自分の場合、これまで日本国内やアジア市場を中心に仕事をしてきてそれらの国での仕事の難しさも理解していたため、イギリスのようなクリエーティブ産業が成熟した国の方が、フリーランスのクリエーターにとっては仕事しやすい環境だと思っていたからだ。

ただYURIさんとの会話で再認識したことは、イギリスのような国で、自分でビジネスをするとなると競合するクリエーターも多く、マーケット全体の成長率も高くないためビジネスチャンスがそもそも少ないという厳しい現状があるということだった。

一方で、中国のようにいまだマーケットが成長しており日本と文化的に近くビジネスチャンスが多い国の方が、日本人クリエーターが活躍できる場が多く、結果、仕事の自由度も高くなっているのかもしれない。10年という期間、イギリスをベースに個人で活動されてきたYURIさんの実体験に基づいた言葉には重みがあった。

また、この仕事をしているととかく、自分の領域を広げたくなるのものだが、YURIさんのサウンドデザインのように自分の仕事の領域を外部から分かりやすくすることで、自分のやりたい方向性の仕事の依頼がある程度明確なビジョンを伴った形でが来る、ということは納得だった。何より、イギリスという日本人にとってはアウェーな場所で、日本の持つクリエーティビティーの可能性にも改めて気付かせてくれた対談だった。

最後に

今回でこの連載は終了するが、イギリスに住んで働いてみて強く感じたことが二つある。

一つは、他国や異なるカルチャーの良い部分を見つけ、取り入れる柔軟性の大切さ。もう一つは、自国の持つ独自性を再認識し、高めるという視点。

特に後者が重要で、急速に進むグローバル化やデジタル化は、世界中どこにいても同じ情報にアクセスできるという利便性を生む一方で、価値観や表現の同質化を招く。それらの変化が進むほど、人はどこにいても手に入るものより、その場所でその人にしか体験できないものを求めるようになる。実際「インスタ映え “Instagrammable”」という言葉は、まさに自分でしか体験できないものに多くの人が価値を見いだしてきている現状が表出したものといえるだろう。

クリエーティブ業界で働く私たちも、海外と同質化するのではなく「日本独自の価値を世界でどのように高めるか」を考えることがより大切になってくるのではないだろうか。

個人的には、世界を知れば知るほど自信喪失に陥ったりもしたが、何より得難い経験は、どこにいても“アイデアの力を信じ、世の中に何か新しいものを作り出そうという情熱は世界共通である”ということをチームのみんなから仕事を通じて教えてもらったことだった。


YURI SUZUKI プロフィール:

サウンドアーティスト/エクスペリエンスデザイナー

RCA卒業後、2006年よからロンドンを拠点に活動。作品は、Tate Gallery、Barbican Center(ロンドン)、Mudam(ルクセンブルグ)、東京都現代美術館など世界中で展示されており、中でも「OTOTO」と「Colour Chaser」は、2014年にニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションに認定。クライアントは、will.i.am、Jeff Mills, OK Goといったミュージシャンから、Google、Swarovski、Sonosなど世界的な企業まで多岐に渡る。また教育者として、子どものための音楽・テクノロジー教育に力を注いでおり、自身で開発した「OTOTO」「AR Music Kit」を用いたワークショップデザインやキット制作を精力的に行っている。

YURI SUZUKI PROFILE