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東大生ホテルプロデューサーが考える、「ジャケ買いされるホテル」

ミレニアルズと「未来のスキル」 №14

  • 龍崎 翔子
  • 能勢 哲司
  • 天野 彬

2018/05/14

東大生ホテルプロデューサーが考える、「ジャケ買いされるホテル」

本連載では、スタートアップとの協業経験が豊富な能勢哲司氏と、デジタルメディアに深い知見を持つ天野彬氏の二人の電通社員が、ミレニアルズ世代の注目すべき人物にインタビューし、“未来のスキル”のヒントを集めていく。

足掛け3年に渡る連載の最終回を迎える今回のゲストは、21歳の現役東大生にして、「ホテルプロデューサー」として活躍する龍崎翔子氏。彼女は「ジャケ買いされるホテル」「出会いの場が生まれるソーシャルホテル」など、独特のコンセプトを軸としたホテルをプロデュースし、成熟産業であるホテル業界に変化を起こしているミレニアルズだ。

ホテルに情熱を注ぐミレニアルズへのインタビューから、その哲学と感性、戦略の在り方を浮き彫りにする。

左から能勢哲司氏(電通)、龍崎翔子氏、天野彬氏(電通)

取材協力:東京ミッドタウン日比谷6F 「BASE Q」

「場の魅力」をミレニアル世代のネイティブな感覚で表現する

1996年生まれの龍崎氏は、2014年に東京大学入学後、翌15年に母とホテル運営のスタートアップ「L&Gグローバルビジネス」を立ち上げた。同年、初めて手掛けたホテル「petit-hotel #MELON富良野」のオープンを手始めに、「HOTEL SHE」と付いた自社ブランドの立ち上げや、もともと運営されていた「THE RYOKAN TOKYO YUGAWARA」(神奈川・湯河原)のリニューアルなどに携わってきた。

さらに、北海道・層雲峡温泉の老舗旅館をリノベーションした「ホテルクモイ」の運営も行う予定だ。

全国にホテルが数多くある中で、彼女が手掛けるホテルは明らかに他と違う“世界観”を作ってきた。龍崎氏いわく、その根底にあるのは「土地に対する敬意」だという。

「私たちは、街を引き立てるホテルを作りたいと思っています。このホテルがその街にある意味が分かり、ホテルによって街がより魅力的になる。さらには、そこに住んでいる人でさえ気付いていない、言語化されていない街の魅力をホテルで体験できるような、街の景色になじむホテルを作りたいという気持ちが根本にあります」

たとえば「HOTEL SHE,OSAKA」(大阪・弁天町)は、レンガを基調としたデザインにし、全客室にレコードプレーヤーを置くなど、レトロ感やアナログ文化を強く打ち出すホテルとした。その理由は、ホテルの立地する弁天町が、昭和の趣を持った商店やれんが造りの倉庫が並ぶ街だったからだ。

龍崎氏は、それぞれのホテルでそれぞれの世界観を打ち出し、ただ泊まるだけでなく「ライフスタイルの新しい体験をする場所」になればいいと考えている。

とはいえ、土地を知っただけでこのような世界観に到達したわけではない。大切にするのは、龍崎氏や同社スタッフが持つ世代やカルチャーにもとづく「ネイティブな感覚」だという。ネイティブな感覚とは、自分の中に流れる価値観や趣味。例を挙げるなら、「六本木や渋谷より下北沢が好き」「クラブで朝まで騒ぐより屋上で音楽をかけてゆったりお酒を飲む方がいい」などだ。

「自分たちのネイティブな感覚を“ホテル”という形に落とし込むと、同じ価値観の人が自然と寄ってきてくれます。すると、宿泊するだけで何らかの価値観や趣味で共鳴する人と出会いやすくなるんですよね。実際、私たちのホテルでも『気の合う人との出会いがあった』『知り合いに遭遇した』というケースがよく起きています」

まず土地を知って、それにマッチする自分たちのネイティブな価値観を探す。決して、自分たちにない価値観を押し出そうとはしない。

「自分にとってネイティブなものを作ることが、プロダクトにおいて真摯な姿勢だと考えています。自分と違う価値観の人をターゲットにすると、どうしても偏見や偽りが入ってしまう気がするんですね。もちろん、社会のニーズやマーケットは加味しつつも、あくまで『土地への敬意』と、それに合う『自分たちのネイティブ』をホテルの世界観として反映します」

 

「ホテルのジャケ買い」がミスマッチを防ぎ、コミュニティーを生む

龍崎氏が手がけるホテルの特徴といえる「世界観」。それを作り込んだ上で、彼女はその“発信”やホームページ上での“見せ方”にもこだわりを持っている。理想とするのは、「ジャケ買いされるホテル」だ。

CDを買う際、中身の音楽を聴かず、商品ビジュアルとなる「ジャケット」だけを見て購入を決める。そんな行動を「ジャケ買い」と言うが、同じことをホテルでも起こそうとしている。一例として、「HOTEL SHE,OSAKA」のホームページでは、ホテルの持つ世界観を写真やコピーで表現し、女性モデルも採用している。

また、「THE RYOKAN TOKYO YUGAWARA」は、かつて文豪が多く愛した場所であること、さらには、ネットでのリサーチや現地での声を踏まえて、旅館のコンセプトを「湯河原チルアウト」とした。チルアウトとは、ミレニアル世代において重要なフィーリングのひとつだが、龍崎氏なりに訳すなら「“高揚感のあるくつろぎ”です」という。

ホテルの世界観やコンセプトを、明確なビジュアルやコピーで打ち出す。そうして「ジャケ買い」されることを目指す。ではなぜ「ジャケ買い」を狙うのか。彼女にはこんな考えがある。

「ホテルにとって一番怖いのはミスマッチで、お客さまが訪れたら『イメージと違った』というケースは避けなければいけません。なので、お客さまが来る前にこちらがホテルの世界観をきちんと伝えて、イメージを湧かせてあげる方がいいと思っています。例えば“おひつ”からご飯をよそう旅館に行きたい方は、おそらく“チルアウト”というコンセプトを見たら避けますよね。そうやってミスマッチをなくすことが大切です」

もうひとつ「ジャケ買い」に関わるのが、龍崎氏の掲げる「ソーシャルホテル」というコンセプトだ。世界観を作り込むことで、「同じ価値観の人との出会いや、知り合いとの遭遇が生まれる」という話が先ほど出たが、それはむしろ龍崎氏の狙うところでもある。

「私が心掛けているのは、目指すコミュニティーの濃度をどれくらいにするか、事前に明確にすることです。サロンのように“密なつながり”を目指すのか、“ゆるいつながり”を目指すのか。私たちのソーシャルホテルはゆるいつながりを考えていて、本当にちょっとしたお客さま同士のコミュニケーションがあればいいんですね。

漠然としたビジュアルやアウトプットだと、価値観の多様な人が来ることになります。それではゆるいつながりは生まれず、お客さまが“無数の個”になってしまうんですね。コミュニティー形成の手段として、ジャケ買いされるほど世界観を明確に発信して同じ価値観の人を引き寄せることが大事ではないでしょうか」

能勢氏は、「『コミュニティーを作る場としてどうあるべきか』は今、特に問われるテーマです。コミュニティーの重要性は現代において非常に高まっていて、それが新たな消費行動や体験を生むのではないでしょうか」と言う。

 

チェーンとラスベガスのホテル、そのあいだのスイートスポット

そもそも、なぜ彼女はこの若さでホテル経営に挑戦したのだろうか。成長著しい業界は多々ある中、ホテル業界はむしろ成熟産業といえる。決して、成功しやすそうなビジネスジャンルではない。

龍崎氏は、「お金を稼ぎたくて、あるいは会社を経営したくて、その対象としてホテルを選んだわけではない」と話す。彼女が小学生の頃に感じていた問題意識こそが、「ホテルを経営したい」という目標につながった。

「小学生の頃、両親とアメリカ横断旅行をする機会がありました。ただ、1日の5時間ほどはドライブで、後部座席に座っているだけの私はその時間が退屈でした。だからこそ、毎日の楽しみは最終目的地のホテルだったんです。でも、ホテルはみな似たような作りで、ドアの向こうにある部屋の景色が昨日と変わらない。それがフラストレーションでした」

同じ旅行でラスベガスを訪れると、それまで見たものとは“真逆”のホテルに驚いたという。

「ラスベガスのホテルは、ホテルごとの世界観やコンセプトが強固に作られていました。それまでの無機質なホテルとのコントラストが印象的で、子どもながらに『無機質なホテルと、ラスベガスのような個性的なホテルの間に存在すべきホテルがあるのでは』と思ったんですね」

小学生で芽生えた、ホテルへの問題意識。やがて彼女は、ホテル経営という職業を知り、「その問題意識は、自分がホテル経営者になれば解決できる」と感じた。「母は最初反対していましたが、私が小学生以来ずっと同じ目標を持っていたので、やがて協力してくれました」と龍崎氏。L&Gグローバルビジネスの立ち上げも、母の協力なしにはできなかったという。

その後、ビジネスホテルと同じような価格帯で、世界観を持ったホテルを作ったのは先述の通り。天野氏は、龍崎氏の“世界観の作り方”を聞き、「既存のホテルとの違い」を明確に感じたと話す。

「ホテルが画一的になるのは、ビジネスのスケールメリットを考えれば自然ともいえます。一方、龍崎さんは土地の空気感や存在価値、さらにはネイティブな感覚を入れることで、オリジナルなホテルを生んでいますよね。建築の分野でもモダニズムの考え方に沿った一定の形式に則った建物が増えていった反動として、ポストモダニズムの潮流が生まれてきました。そのような時代が向かう大きな潮流ともシンクロする考え方が自然に醸成されている点こそ、ミレニアルズ世代的ではないかと感じました」

 

今後は、ホテルだけでなく「なんでもプロデューサー」へ

今後も、龍崎氏は引き続きホテルを手掛けていく。とともに、ホテル以外の領域でもプロデュースを行っていきたいという。その考えは、能勢氏から「他の人にはない、自身のスキル」を聞かれたときに垣間見えた。

「自分にとって、ホテルの企画から運営まで一貫して行えるスキルは大きいと思います。あわせて、私は『自分が欲しいと思ったものを作れるタイプ』かもしれません。誰かが作るのを待つのではなく、自分で作るならどうするか突き詰めていくような。それはスキルというか、考え方の傾向として認識しています」

実際、今まさにネット上でのホテルの予約システムを開発中で、もうすぐローンチする予定だ。

取材の最後、「10年、20年先、自分がどんな肩書になっているか」と聞かれて、彼女は「ちょっと間抜けですが…、『なんでもプロデューサー』ですかね」と答えた。ホテルプロデューサーでとどまらず、さらに広い意味でのプロデュースを視野に入れているのだろう。

ホテル業界に新たな価値観、コンセプトを取り入れた龍崎氏。20代前半の若きミレニアルズは、今後、より領域を広げて活躍していくかもしれない。