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生きる。 映画監督・河瀬直美氏にその意味を問うNo.1

2020/07/22

リアルって、何だ?映画監督・河瀬直美氏に問うた

河瀬監督の作品や日常には、一貫して「生きる」というテーマがあるように思う。生きるとは、自然体であるということ。生きるとは、普遍的な価値を慈しむこと。めでること。生きるとは、刹那の喜びと、重ねた歳月の重みをリスペクトするということ。その思いを、広く世の中と、そして世界の人と共有するために
映像と、真摯に向き合う。作品を通して、人と深くつながりたいと願う。

そうした彼女のスタンスは、ビジネスの世界にも通じるものがあるはずだ。「見えないものこそを、大切に撮りたい」と、彼女は言う。自分でも見過ごしがちな微かな感情の揺らぎであったり、なにげない日常の中にある、素朴な喜びや深い哀しみであったり。その先に祖母が遺した「この世界は、美しい」という言葉の意味を読み解く何かがあると信じているからだ。

毎月の新月と満月の日に、彼女は決まって今は亡き祖母の墓前に赴く。月の満ち欠けのハザマで、彼女は「生きること」と向き合い続けている。10月23日に公開予定の最新作「朝が来る」に続いて、2021年の東京2020オリンピック競技大会の公式映画の監督も務める 河瀬監督に「この時代を生きることの意味」を、シリーズで尋ねてみたい。
 

オンライン時代に、思うこと

非常にざっくりとした話から入るのですが、最近「心ここにあらず」みたいな人が増えている感じがするんです。PCでリモート会議をしながら、スマホで別の会話をして、かかってきた電話にも対応して、おまけにゲームまでして、みたいな。オフラインか、オンラインか、は問題ではないんです。自分のことを見てほしいのに、見てもらえない。そんな不満や不安を抱えている自分も、相手ときちんと向き合ってはいない。対面では絶対にばれてしまっていたことが、簡単に隠せるようになってしまった。

それは、ある意味、心地いいことなのかもしれない。この人今、やたらと冷や汗かいてるぞ、みたいな「恥ずかしい」ことがバレることはないから。

©2020「朝が来る」Film Partners
©2020「朝が来る」Film Partners

リアルとは、人と人との関係性のこと

でも、その分、人との関係性がものすごく薄くなっている。リアルって、人と人との関係性のことだと思うんですよね。親子でも、上司と部下でも、恋人や夫婦でも。時節柄、「密は避けましょう」ということになっていますけど、他人との関係性が薄らいでいくと、なんだか自由になれた感じがする半面、とても心細くなる。なぜ、心細くなるのか。そこにドラマが生まれないからだと、思うんです。ドラマって、決して虚構のものではないと私は思います。だって、そこにこそ人間の真実があるから。それが、リアルということだと。

リアル=ドキュメンタリーということではないんです。人間の心の奥底にある本当の気持ちと向き合う。それを、だれかと共有する。それがリアルということなのではないでしょうか?だって、そこに嘘はないもの。
 

梅雨の晴れ間、奈良公園にて
梅雨の晴れ間、奈良公園にて

東京2020オリンピック・パラリンピックについて

このたび、ご縁があって、2021年に開催される東京2020オリンピック競技大会の公式映画の監督を務めることになったのですが、スポーツこそまさにリアルだと思いますね。というのも、「筋書きのないドラマ」とか「感動を、ありがとう」という言葉に象徴されるように、多くの人が、実はスポーツに「フィクション」(虚構)の要素を期待しているように思うんです。「やってくれました!まさかの金メダル!」のように。私はそれは、違うと思うんですよね。スポーツの魅力は、究極のリアリズムです。まさかも、なにもない。目の前で起きていることは、まぎれもない現実です。

そのリアルの向こう側にある「人間性」や「人と人との関係性」といったものを、ぜひ、私なりに映像化したいと考えています。
 

©Tokyo2020
©Tokyo2020

河瀬直美氏のインスタグラムは、こちら
月満ち欠けに合わせ、新月→上弦→満月→下弦の日の朝8時より新作映画「朝が来る」のオンライントークを配信中。

最新作「朝が来る」公式HPは、こちら
 

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