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生きる。 映画監督・河瀬直美氏にその意味を問うNo.4

2020/10/07

ローカルにこそ、希望の光が見える。映画監督・河瀬直美氏の意思とは?

河瀬監督の作品や日常には、一貫して「生きる」というテーマがあるように思う。生きるとは、自然体であるということ。生きるとは、普遍的な価値を慈しむこと。めでること。生きるとは、刹那の喜びと、重ねた歳月の重みをリスペクトするということ。その思いを、広く世の中と、そして世界の人と共有するために
映像と、真摯に向き合う。作品を通して、人と深くつながりたいと願う。

そうした彼女のスタンスは、ビジネスの世界にも通じるものがあるはずだ。「見えないものこそを、大切に撮りたい」と、彼女は言う。自分でも見過ごしがちな微かな感情の揺らぎであったり、なにげない日常の中にある、素朴な喜びや深い哀しみであったり。その先に祖母が遺した「この世界は、美しい」という言葉の意味を読み解く何かがあると信じているからだ。

毎月の新月と満月の日に、彼女は決まって今は亡き祖母の墓前に赴く。月の満ち欠けのハザマで、彼女は「生きること」と向き合い続けている。10月23日に公開予定の最新作「朝が来る」に続いて、2021年の東京2020オリンピック競技大会の公式映画の監督も務める 河瀬監督に「この時代を生きることの意味」を、シリーズで尋ねてみたい。


アイ、ラブ、奈良

私は、故郷である奈良を拠点にしているのですが、奈良から大阪、大阪から東京、東京から世界、と活動の範囲が広がっていくにつれ、逆にローカルの魅力にぐいぐいと引き寄せられています。

梅雨の晴れ間、奈良公園にて
梅雨の晴れ間、奈良公園にて

日本が本当に誇れるものは、ローカルにこそある。100年続く老舗のカマボコ屋の味、1000年続く神社仏閣。もう、ぞくぞくします。それらはすべて「本物」なんです。足りないのは「本物であることをアピールする力」なんです。

カンヌのすごいところ。それは、アピール力

例えばカンヌ映画祭なんかで圧倒されるのは、アピール力ですね。カンヌというブランドが、元からあったわけじゃない。でも、そのブランドを高めるアピール力が、さすが、という感じ。ああ、あのレッドカーペットを一度は歩いてみたい、と全世界の人に思わせる何かが、そこにはあるんです。メッセージとしてはたった一つで「ここには、本物があるんだよ」ということだけ。それって奈良でも、知床でも、別府温泉でも、やろうと思えばできることじゃないですか。

その宣伝は、「生きている」のか?

なんで、カンヌみたいなことが日本のローカルでできないのかなー、というのが、実は私が「なら国際映画祭」のプロジェクトを立ち上げたきっかけでもあるんです。その気づきは、奈良の老舗のカマボコ屋さんの4代目に教えてもらいました。いわく、「商売は、牛のよだれと同じで、細く長くが大事」だと言うんです。

二百十日を過ぎ、稲の穂が穣る秋を待ち遠しく思う。 ハーベストムーンの光に照らされた奈良の森に虫の声が賑やかでした。
二百十日を過ぎ、稲の穂が穣る秋を待ち遠しく思う。
ハーベストムーンの光に照らされた奈良の森に虫の声が賑やかでした。
 

お爺ちゃんのお説教みたいに思われるかもしれませんが、そうではないんですね。「細く長く」を心がけていると、有事の時に強いというんです。例えばこのコロナ禍にあっても、被害は最小限に食い止められる。本物を知るお客さまの心は、なにがあっても離れない。そして、ここからがなるほどなーと思ったことなんですが、「細く長く」で商売をして余ったお金は、愛する地方に還元する、と言うんです。「地域活性化」みたいな言葉がよく取り上げられていますが、そういうことなんですね。この話にはさらに続きがあって、活気づいた地方には「祭り」が定着するのだ、と。

そのサイクルがあって「細く長く」が維持できるのだ、と。「宣伝が生きている」とは、こういうことなのだと。ああ、これって、私がいるエンタメ業界でも、まさしく当てはまることだな、と“目からうろこ”になった瞬間でした。


河瀬直美氏のインスタグラムは、こちら
月満ち欠けに合わせ、新月→上弦→満月→下弦の日の朝8時より新作映画「朝が来る」のオンライントークを配信中。

最新作「朝が来る」公式HPは、こちら

なら国際映画祭2020特設サイトは、こちら

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