新明解「戦略PR」 #10

動画コンテンツとPRの相性について考えてみた。

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

いやはやもうすぐカンヌの季節ですね。一年たつのってほんと早いなぁ。でもまたいろんな刺激を受けることができるし、そしていち早くみなさんにも世界のPRの潮流を、この電通報上でお届けしていけると思えば、時の流れの早さもなんのその。ってなことで、今回もいってみよ!!

2013年は鉄道事故防止キャンペーン「Dumb ways to die」が各部門を席巻

とはいえ、昨年のカンヌってどうだったっけ? と記憶が曖昧なあなたのために、簡単に振り返ってみましょう。そうそう、オーストラリアの鉄道会社が行った鉄道事故防止キャンペーン「Dumb ways to die」が各部門を席巻しましたよね。ウェブ動画がここまで拡散し、多くの生活者があの歌を口ずさみ、実際に事故発生率が減少するといった大きな成果を収めたことはエポックメーキングと言ってもいいのではないでしょうか。

コンテンツにパワーがあれば、マスメディアへの出稿がなくともここまで多くの人たちにリーチでき、共感され、シェアされるのかとびっくりしましたよね。視聴回数はもちろんですが、やはり「これはみんなに教えなきゃ!」という強い意志をもってシェアされたという二次的効果がPRの審査員たちにはかなり評価されていたと聞きました。

ウェブでウケるコンテンツといっても、ただ単にオモシロイ! といって受け流されるものではなく、生活者の気持ちを動かすためのコンテンツというものが求められているわけですね。ネット上での盛り上がりにとどまらず、リアルでもそのメッセージが波及していったことが「世の中動かしたね!」と評価されたポイントではないでしょうか。

Dumb ways to dieのエントリーボード
Dumb ways to dieのエントリーボード。カンヌライオンズ2013にてPR部門ほか、
史上最多となる5部門でグランプリを受賞

 

この「Dumb ways to die」ですが、もともとは若者向けの啓発ということで、生真面目な注意をしても響かないだろうと、事故を起こすことのばからしさを自虐的に見せていくことで「確かにそりゃそうだ」という若者の共感を得ることができています。大人から一方的に言われれば、何かと反抗したくなる世代にどう接点を持ち、また共感を創り出すのかがよく練られた作戦ですよね。

さらにこのムーブメントは、より低年齢層を対象に広がっていきます。各小中学校では授業の一部にこの歌やダンスを採り入れて意識に残したり、幼児たちには分かりやすいように絵本を作ってみたり。若者向けのキャンペーンが、自然と大人の気持ちに火を付け、「この機会に子ともたちの安全に対する意識を高めなくちゃ!」という運動に広がったわけです。

そしてその際にも、このなじみやすい音楽や、ゆるいイラストの「誰でも扱いやすい」という点で奏功しているのです。「生活者における最大公約数的な共感」がここで生み出されていると言ってもいいでしょう。メーンターゲットのみならず、周辺の生活者を巻き込んで大きなうねりとするのが戦略PRでいう「社会ゴト化」と言ってきましたが、まさにその好事例です。

PVは公開3カ月で800万弱を数え、ネット上で「これはスゲェ!」と話題に

そんな中、日本でも動画で話題になっている啓発ものがあります。それが九州の輸入タイヤ・ホイール販売会社であるオートウェイ社のウェブCM。雪道とか危ないからきちんとタイヤ交換しようぜ! 的な啓発動画「雪道コワイ」(http://youtu.be/jGFWEoCGhi8)がブレークしています。

雪道コワイ/SNOWY ROADS ARE SCARYのエントリーボード
AUTOWAY:SNOWY ROADS ARE SCARY
ADFEST2014 INTERACTIVE LOUTUS /BEST USE of VIRAL
<SILVER>受賞
 

これはウェブ上でのみ流れるCMなのですが、その意表を突くような中身から、PVは公開3カ月で800万弱を数え、ネット上で「これはスゲェ!」と話題になっていました。3月にタイはパタヤで行われた「Adfest2014」でも、インタラクティブ部門でシルバーを獲得するなど、国を超えて評価されるまでになっています。詳細内容は上記リンクから見ていただくとして、おおまかにはこうです。

雪道を走っていると非常にコワイ目に遭うドライバーに(ここネタバレになるんで書きませんが)、そんなコワイ目に遭いたくなければ雪道用のタイヤも用意しておかなきゃね! 雪道でスベるともっとコワイよ!(私の意訳ですが…)というもの。実は単に「コワイつながり」かと思うかもしれませんが、いやはやなんだかシチュエーションやらなんやらの作りがとても良くて、最終的に「さらりとタイヤチェックしようぜ!」な啓発につながってるんですよね。前回、Adfestは広告的エッジがまだ高評価を得る土壌があると書きましたが、その中できちんと伝えたいことが伝わるという設計で、みんなが「あるある」と共感できたことが大きかったのかもしれません。

大きなプレッシャーを受けてのオートウェイ社ウェブCM第2弾、「【放送事故】生配信中に…いきなりBAN」(http://www.autoway.jp/cp/ban/)はさらに動画視聴層の「あるある」感を十分に見越して考えた構成となっており、こちらも味わい深いものとなっています。

この動画を手がけたクリエーティブディレクターと、Adfest会場のタイはパタヤのプールサイドで酒を酌み交わしたのですが、「作るに当たって、かなりネットの研究をした」と話していました。コンテンツが大事なのは当然ですが、リーチする相手がどのようなキーワード、あるいはシチュエーションにひかれるのか、また人に語りたくなるのかを分析し、それらを十分に盛り込んだものになっていると感じました。とりあえず作ってみて「どうだろ?」という場当たり的なものではなく、さまざまな条件をきっちりと検証してから満を持して動画を投入しているわけですね。動画コンテンツ花盛り、うちもやってみようかなー、なんて軽い気持ちではなく、実はコレ、相当大変なことだと思うんです。

動画コンテンツの制作から拡散、意識変化・態度変容まで一気通貫で手掛ける

そんな中、われわれPRチームもこの動画コンテンツに関して黙っていられなくなりました。生活者に届いたときに実際に気持ちを動かし、行動を起こさせるようなコンテンツとは何なのか? はたまたネット上で情報が拡散するには、例の「情報流通構造」をうまく設計しないといけないよな! と、非常に関わりが深くなってきているわけでして。で、で、立ち上げました。動画バイラル専門チーム、その名も「Buzzle Brothers(=通称BB)」(http://dentsuprdigital.com/pr1/keppekideka.html)。

Buzzle Brothersのロゴ

ネットの特性をベースに、動かしたい情報受信者のインサイトを把握し、ネットもマスも包含する情報流通構造において、効率的な情報拡散を果たすルートを設定。そこから逆算して、投入するコンテンツを設計していく。このように、動画コンテンツの制作から拡散、意識変化・態度変容までを一気通貫で手掛けるチームを、電通の若手クリエーターたちと、ムーブメントを仕掛けるPRパーソンで立ち上げました! すでに着々と計画は進行中。動画作ったら拡散させないともったいない! ご興味ある方、ぜひお声がけくださいましー(宣伝)。

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年電通PRセンター(現電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手掛けるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD」を日本で初めて受賞。Holmes Report「The Innovator 25 Asia-Pacific 2016」(アジア太平洋地域のイノベーター)選出。
    その他「Cannes Lions」「Spikes Asia」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC」「PRWeek Awards Asia」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」(朝日新聞出版)を上梓。自治体PR事例をまとめた「成功17事例で学ぶ自治体PR戦略」(共著:時事通信社)も好評発売中。

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