次の10年、広告マンに必要なスキルとは何か?
2014/06/06
今回は、『広告ビジネス次の10年』(横山隆治・榮枝洋文著、翔泳社)を取り上げましょう。
本書は、デジタル化とグローバル化の波によって、広告会社のビジネスモデルが大きな転換を迫られていることがテーマになっています。
これから10年、広告ビジネスが生まれ変わるためには何が必要か、広告マンには何が求められるのか?
僕たちにとっても耳の痛い話が、たくさん課題としてあげられています。
本書には、「広告マンの8割はいらなくなる」とあります。
実際、先行してデジタル化とグローバル化が進んだ金融業界では、この15年で証券会社の営業マンが半減しているといいます。
そんな状況をみて、以下のような広告マンは必要なくなるというのです。
「広告主の前でお天気と株価の話しかできない幹部」
「メディアの事情通というだけのメディア担当」
「広告主が素人だったので通用していた御用聞き営業マン」
「15秒と30秒の広告しか作れないCM職人」
「自ら分析できないプランナー」
ややあおっているようにも聞こえますが、大きくは間違っていないでしょう。
では、なぜこうなってしまうのでしょうか?
それは広告主が必要としているものが「マーケティング」だからです。
そしてマーケティングとは「広告販促」ではなく、「経営の根幹」だからです。
経営の根幹であるマーケティングは、デジタル化とグローバル化によって、開発、生産、物流、労務などなど、どんどん広告販促以外の領域に浸透するようになるからなのです。
ならば、広告会社と広告マンは、仕事を再定義しなければなりませんよね。
本書では、「データを制するものがビジネスを制す」と述べられています。
つまり、マーケティングで主導権をとるために、データの保有合戦が始まり、これを制しなければならないというのです。
しかし現状は、広告会社は厳しい立場に置かれているようです。
広告、マーケティング領域においてはコミュニケーションの対象者であるオーディエンスデータを整備することが喫緊の課題である。
いわゆるユーザーの購買・行動履歴データを指すオーディエンスデータはグーグルをはじめ多くの有力ウェブサイトが保有している。
また、広告主も顧客データや会員データ、ウェブサイトへの訪問者というオーディエンスデータを保有する。
そのほかにもポイントカード、クレジットカードや外部のデータ供給会社も存在する。
ところが、広告代理店はオーディエンスデータを保有する立場にないのだ。
これは致命傷である。
つまり、マーケティングの通貨はオーディエンスデータになるわけです。
ならば、オーディエンスデータを持たないプレーヤーは、無用の存在になってしまいます。
広告会社が広告主のマーケティングを支援しようというなら、彼らが持っていないデータを保有し、提供できる立場になる必要があります。
本書では、広告会社が狙うべき3つのオーディエンスデータを挙げています。
・ 購買データ(オンラインとリアル店舗)と購買意識データ
・ ソーシャルメディアデータ
・ テレビ視聴を中心とするメディア接触データ
これらを広告主に提供できるのならば、広告会社の優位性は増します。
しかしいずれのデータも、調査会社が持つような数千人単位のパネルデータではなく、ビッグデータでなければ説得力がありません。
購買もソーシャルメディアも視聴率も、全数の時代なのです。
ならば、広告会社がアマゾンやTポイントカードのように、こういったデータの取得システムを持てるかどうかがカギです。
これができれば、チャンスが訪れるというわけですね。
一方、広告マンに求められる再定義とはどのようなものでしょうか?
本書では、次世代広告マンに必要なスキルセットが詳細に述べられていますが、大きくまとめると以下のようになるでしょう。
・ データマーケティングと向き合う「インサイト&プランニング」スキル。これまでのマーケティングプランナーや戦略プランナーが「仮説言い切り型」だとしたら、これからは生活者の行動分析に基づくカスタマージャーニーデータからの「文脈発見型」のプランニングのスキルが必要。
・ ターゲットとのコンタクトポイントを設計する「メディア/コネクション」スキル。これまでの広告会社のメディアプランナーとは意味が違うため、セールスプロモーションやメディア開発の経験が欲しい。これからのコンタクトポイントは、同時にデータ収集ポイントになるため、様々な接点でのコミュニケーションと同時にデータを収集し、それを他の接点に生かして企画するスキルが必要。
・ 「ビジュアルデザイン/コピーライティング/インタラクションデザイン」というこれまでとは全く別物のクリエーティブスキル。これまでのクリエーティブの概念をリセットして、デジタルを中心にすべてのスキルに関わりながら考えることができること。コミュニケーションプランニングの領域まで拡張して捉え(本書では「コミュニケーションプランニング」は「広告」よりもはるかに広い概念と定義されている)、ペイドメディアからの発想ではなく、オウンドメディアからアーンドメディアへ発想し、それを補足するペイドメディアという考え方ができること。また、戦略PRにおける情報クリエーティブや、広告を超えたブランデッドコンテンツ、さらにはサービス開発や新たなビジネス開発への発想も求められる。
・ 「テクノロジー」「アナリティクス」スキル。「テクノロジー」は、広告配信からCRM、ウェブ最適化からソーシャルまで多様なテクノロジーの導入と運用のコンサルティングができるスキルだが、今の広告会社には全く欠けているという。社内育成はかなり難しいので外部からの獲得になるが、マーケティングの本質を理解しているテクノロジーの専門家も希少。また「アナリティクス」については、単独の職種というより、すべての広告マンに求められるスキル。たとえばクリエイターでも各ユーザー接点での反応データを分析し相乗効果を最大化する発想が求められる。
本書では、このようなスキルを次世代広告マンに必要なものとした上で、一番重要なのは「フロントライン=営業」の改革だと述べられています。
営業かスタッフかという古い考え方を一旦捨て、広告主との窓口は誰であるべきかをじっくり考え直す必要がある。
つまり、プロジェクトの性質によって窓口の適任は違うということでしょう。
また、売上の大きい広告主には、その企業用のビジネスユニットを構成することもひとつの対処策と述べられています。
つまり、広告会社の組織として機能するのではなくて、広告主の組織として課題解決に対応する人材配置をするというものです。
こういったビジネスユニットは、ひとつひとつがそのまま次世代広告会社のプロトタイプになるのかもしれませんね。
厳しい視点も多い本書ですが、最後まで読んでみると、これらは長年この業界に身をおく著者お二人からの熱いエールなのだと理解できます。
デジタル化、グローバル化に直面する、広告会社と僕たち広告マン。
十分過ぎるほどの課題があぶり出された分、逆にこれからの成長に向けたチャンスも明確になった一冊でした。
(写真・小柴尊昭)