テレビとソーシャルメディアのさらにいい関係 #09

ユーザー目線の重要性〜ゲームにハマる仕組みを考える

  • Take 02 6559 hirota
    廣田 周作
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター
  • 37
    濱野 智史
    情報社会学者・批評家・日本技芸リサーチャー

廣田: コンテンツのつくり方のヒントをお話ししていただく中で、ユーザーとの「地道なおつきあい」を通して信頼関係をつくっていくことが重要なんだ、ということは分かったのですが、一方で、技術もどんどん進化していき、技術自体の流行もあります。技術に限った話でいうと、開発者はどういうところを大事にしていけばいいのかをお伺いしたいのですが。

濱野: これもいろんな角度から無数にしゃべれる論点だと思うんですが、一つは、さっきまでの話の流れでいうと、技術でも未完成でユーザーが参加できるようなものがいいと思うんです。育てがいのある技術こそが愛されるし、伸びていくというか。

実際、ツイッターにリプライの仕様なんて初めはありませんでした。元々は「勝手ルール」みたいなもので、ユーザーが140字の中で@何々とつけたら、そいつに向けてしゃべったことにしようという「慣習」をつくっていたら、ツイッター側が、「じゃ、それ、面白いから公式の仕様にします」となって、いまのリプライの機能になった。あとはハッシュタグなんかも初めは公式の機能じゃなかったのに、勝手に使っていたら、あれもツイッター側が、「じゃ、それ、クリックしたら検索できるようにしましょう」となっていった。

廣田: 最近でいうと、ミュート機能とかがそうなるかもしれないですね(笑)。ツイートは見たくないけど、フォローは外したくないというユーザーって結構いたりして。

濱野: そうですね。ユーザーの提案からどんどん仕様が生まれていくような「すき間」があるものの方が、間違いなくこの手の仕組みでも受け入れられやすいのだと思います。ユーザーとの距離の近い技術開発それはもちろんユーザーの要望をなんでも聞き入れろ、ということではないんですが、ユーザーからいいアイデアを学ぶという感じです。

あともう一つは、さきほど「つながりが大事、一体感が大事、臨場感が大事」という話をしましたけれども、みんなで一緒に盛り上がっていると感じられるものって、まだまだたくさん眠っていると思います。特にこれまでのインターネットはテキストや写真・動画といったコンテンツが中心でしたけど、今後はもっと非言語的なコミュニケーションの領域で臨場感や共在感を感じられるものが掘り下げられていくんじゃないでしょうか。

僕がパッと思いつくAKBの例だったら、劇場で推しメンと目が合う、指をさされるという経験は、とてつもなくうれしいんですね。だって、たくさんのお客さんがいるなかで、ここぞというタイミングで自分だけに目線をくれるとなると、もうめちゃくちゃ強力で、心臓止まるかと思うくらい、ヤバイ体験なんですよ(笑)。アイドルオタクの用語で「レス」というんですけど。こういう非言語的なコミュニケーションを、じゃあ、オンラインの場でも感じられるようにするにはどういうアーキテクチャが必要なのか。

廣田: アプリのインタラクションで使われるバッジとかは、もっと使い方があるかもしれませんね。Foursquareでチェックインすると、メイヤーのバッジがもらえるとか、Clearというタスク管理アプリを使っていると、夜中に「課題をクリアしておめでとう!」とコメントが来たりしてうれしい。そんなちょっとしたことかもしれませんが、ある体験を際立たせ、魅力的に演出するような仕掛けを考えていくとよいのでしょうか。つまり、人間の行動や感情を観察して、優れたユーザーエクスペリエンスになるよう技術を磨いていく。

濱野: ですね。そのためには、人間がどういう些細なことにも反応し、喜びを感じたりするのかの研究ももっと必要ですよね。神経経済学とかニューロマーケティングとかはまさにそういう分野なんでしょうけど、日本ではあまり聞かないですね。しかも、いわゆる「サブリミナル効果」的なものに近いものを感じる人もいるので、そここそまさにおつきあいの作法が必要だと思うんです。「いや、私達はそんなあやしいことをやっているわけじゃございません」ということを、ちゃんと情報発信して、開発プロセスも含めて公開していく必要があるんじゃないかなと思いますね。

僕は、この点に関しては、べつに日本は不利じゃないと思うんです。日本人はささいなものに対する快楽や喜びを洗練させるのがとてもうまい。80年代に生み出されたファミコンなんかもそうですが、日本はゲームをつくるのがすごくうまい。ソーシャルゲームはまさにそうで、一見するとこんなの何が面白いんだと思うんですけど、いざやってみると、確かにめちゃくちゃよくできています。まさに「ソーシャルなおつきあい」の設計が施されていて、ついついハマってしまう。

アイドルも、ある種のソーシャルゲームなんです。来てくれたファンの名前を覚えてあげて、劇場ではレスをしてあげてと、人間関係のゲームなんですね。それが人をハマらせる。ああいうノウハウは、もっと共有されてしかるべきです。日本だと、そういう知識が、ゲーム業界とか、ソーシャルゲーム業界とか、アイドル業界とか、業界ごとにばらばらに分散しちゃっているので、それを体系化していくということは、すごく重要だと思います。

いままでの科学とか学問って、そういうのは小さな喜びはどうでもいいものだとみなして、普通は研究対象にしないじゃないですか。人文系の学問だったら、戦争しないように人間が倫理観を持つにはどうすればいいかとか、正義ってのはどうしたら実現できるのかとか。まあそれは人間の理想を追求するものとして立派なことなんですけど。でもこれからは、ついついゲームにハマっちゃうとか、ついついおつきあいで気持ちよくなっちゃうとか、そういうある種怪しげなメソッドやノウハウをきっちり形式知化していく必要があると思います。というか、いまのこの不景気で勝ってる人たちというのは、まさにそういうノウハウを積み上げているのだと思います。

次回(最終回)へ続く 〕

プロフィール

  • Take 02 6559 hirota
    廣田 周作
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

    2009年に電通入社。企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。社内横断組織「電通ソーシャルメディアラボ」「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」などに所属。著書に『SHARED VISION』(宣伝会議)。

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    濱野 智史
    情報社会学者・批評家・日本技芸リサーチャー

    1980年生まれ。慶應義塾大大学院政策・メディア研究科修士課程修了、国際大グローバル・コミュニケーション・センター研究員を経て、現在はウェブ関連サービス会社の日本技芸でリサーチャーを務める。2011年から朝日新聞論壇時評委員、千葉商科大非常勤講師を兼務。専門は情報社会論・メディア論。ウェブサービス、ネットコミュニティーの社会学的分析や、一般ユーザーの実態調査(フィールドワーク)を手掛けている。主著に『アーキテクチャの生態系』(08年、第25回テレコム社会科学賞・奨励賞)、『日本的ソーシャルメディアの未来』(佐々木博氏との共著。11年)、『希望論』(宇野常寛氏との共著。12年)など。

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