新明解「戦略PR」 #13

「今さらですか? いや、今こそ!」のCMパブのお作法を伝授

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

いやー、カンヌ熱下がんねー!って感じに毎日熱い、いや、暑いですが、皆さまいかがお過ごしですか?やっぱクリエーティビティーの祭典、カンヌライオンズに行くと「おれもでっけー仕事やっちゃる!」みたいな意気込みっちゅーか、覚悟っちゅーか、ともかく高ぶりますよね。しかし日本に帰ってくれば即、現実的なお仕事ですよ。というわけで、今日は、現実的なお仕事の代表格、CMパブリシティーがテーマです。題して、「CMパブってさー、誰がやっても同じじゃね?」「いやいや、違うっしょ!」ということで、はじまり、はじまり~。

CMそのものがエンタテインメント作品だった時代は終わった。

ワクワクするCMってのはいつの時代にもあると思うんです。でも今、クライアントから求められるのは「で? 売れたの? 売れないの?」なんて成果がガッツリ問われたりすることが増えてますよね。「CMの評判は良かったんですけどねー」なんて言おうものなら、クライアントから「それよりビジネス成果でしょ、成果!」と言われちゃったりするわけ。そう、正しいんです。大いに正しい。そんな事情もあってか、最近は、説明調なインフォマーシャルみたいなCMも多くなってきたなぁと思うんです。でもCMはやっぱりアテンションが大事だから、クリエーティブの方々は、エッジを立てたり、インパクトを持たせたいよなぁと、クライアントとの板挟みになり、苦しんでるんじゃないでしょうか。

そんなクリエーティブの方々をPRの視点からも、何かお手伝いしたいなーと。そんなときは「そーだ、CMパブなんかいかがですか、ダンナ! お安くしときまっせ」とお薦めしてるんですが、CM枠をたくさん持っているクライアントだと「情報番組でCM紹介なんかしたって、15秒枠が1回増えたくらいのもんでしょ? いいよ、いいよ、めんどくさいからさー」なんてうとまれたり。でもね、やはり情報番組などで紹介されると、生活者の反応が結構違ったりするんですよ、ほんと。なんでだろ? と思われるかもしれませんが、やはりCMは企業側の「セールス」(売り込み)に思われていて、それが生活者との距離を作っているんじゃないかなと。なので「セールス」の部分は控えめに、「このCM、おっもしれーなー!」と言わせて、ユルく共感を獲得するというのが、このCMパブの目的でもあるわけなんです。

そんなCMパブですが、簡単にいくわけではありません。前述した通り、「どうして情報番組でCM流すのよ? CM枠で流しなよ!」と思うのは、テレビ局などのメディア側も同意見なんですよね。そりゃお金もらってそれを流すってのが基本のビジネスですから、番組内で紹介するには工夫が必要になります。そこで、われわれ、PRパーソンの出番というわけです。その工夫を掘り下げてまいりましょう!

番組側にとっても情報価値ある存在となるために。

CMはCM、「セールス」のためのものでしょ? となると、それを伝えるのは企業側のメリットにしかなりません。ではこれを生活者側から見た情報価値に置き換えてみたらどうでしょうか? 生活者は何を知りたいのか? それを徹底的に考えてみるというのが、まずは必要ですね。例えば「CMってどうやって作ってるのかな?」とか「あのタレントってCM撮影のときどんなふうにお仕事してるのかな?」とか知りたくありませんか?生活者の求める視点から情報を整備し、CMの話題につなげていくというのがポイント。そこで用いられる手法がCMメーキングビデオの提供です。

一番多いのは、やはりタレントを起用したCMです。CMそのものは当然のことながら細かな演出によって、非常に丁寧なプロセスを経て撮影されています。どのタレントを起用するかに始まり、メークやヘアスタイリング、衣装などさまざまな担当者がいて、場合により歌や振り付けまでしちゃう。たった15秒のために全部用意するわけですから、異常に集約された時間といえるかもしれません。さらに撮影場所の造作なんかも大変です。狭いスタジオにセットが組まれ、例えば設定が4畳半一間のアパートなんて設定だったら、そこに住む人の人物像を想像し、そこにある家具やカーテンなどのインテリア、キッチン回り、読んでる雑誌、食べかけのお菓子やペットボトルに至るまでを作り込む。いやー、これほんと職人芸ですよ。
また、屋外でのロケなんてのも大変ですよね。監督のイメージに合う場所を探し、撮影に適しているかをロケハンし、撮影当日の天気を気にしながら、タレントさんのスケジュールを横目に見て撮影を進めるなんてのは、正直ストレスだらけでたまりません。それがCMというもの。でもそれって、CMを見るだけじゃ分からないじゃないですか。なんかその裏話があったら面白そうだよね?というところから、この「メーキングビデオ」という工夫が生まれたわけですね、はい。

メーキングビデオは、PRパーソンにとっては本編よりも大事?

で、PRパーソンはこのメーキングビデオを撮るためにCM撮影現場に入るわけです。でももちろん現場はCMを撮るためのものであって、前述したような苦労の上で成り立っているわけですから、少しでも邪魔なものは省きたいわけです。そう、われわれはそんなやっかいな対象となってしまうわけですね、むしろメーンの邪魔者、みたいなレベル。少しでもタレントさんの素っぽい表情や言葉をカメラに収めたくて、撮影の合間にタレントさんに近づき、声をかけようとするわけですが、CM撮影のスタッフからすると「なーに、忙しいところタレントつかまえて話しかけてるんだ、あいつら!」となりがちなわけです。でもそれがわれわれの生命線。ここでリアルな言葉や表情を拾えないと番組に使ってもらえないんですから。だからわれわれも必死なんです。

「分かった。おまえらの言い分もよーく分かった! だったら俺ら制作チームがきちんとメイキング撮っといてやるから」と言われることもありますが、これは私、実は遠慮するようにしています。なぜなら、そういう映像に限って「使えない」から(あ、ちょっと強い物言いしちゃった。まーた怒られるかな?)。だってそういうの撮ってくれる人は結局CM制作側の視点なんで、むっちゃ遠慮した映像しか撮れてないんですよ。遠目で休んでいるタレントの横顔だけとか、セット大写しで人多過ぎとか、「おはようございますー、お疲れさまでしたー」というありきたりな言葉だけとか。それだと皆さんが視聴者だったとしても特に興味をそそられないじゃないですか? だからこのときのわれわれは、半ば芸能レポーター的な振る舞いをしてしまうんですね。

もちろん、タレントに不快な思いをさせてしまっては台無しですので、そのあたりの配慮や空気の読み方がむしろわれわれのノウハウといえるのかもしれません。あと、おまけで言わせてもらうと、メーキングの撮影時に一番困るのが「ブルーバック」。合成用で背景も衣装もブルーなんてことがあると、わけの分からない映像にしかなりません。そういう現場の時は、また別の視点での工夫が必要になるわけです。

メーキングビデオやCM発表会でのコンテンツにも、もう一工夫!

いいメーキングビデオが撮れたとしても、もう少し話題を広げるためにはネタを仕込んでおきたいもの。ここでいくつか実際にわれわれが付加した演出をご紹介してみましょう。

一つ目はある化粧品メーカーのCM。出演タレントは美人モデルではなく、実はお笑い出身の女性でした。その化粧品を使うことで、そのビフォーアフターのギャップを劇的に見せるために起用されていたのです。そこでわれわれは、その起用理由自体が面白いネタだと考え、そこにフォーカスした話題作りを考えました。CMメイキングビデオの中で、このタレントさんの後ろ姿などだけを撮影し、「誰だか分からない編」を作ったのです。もちろん、その答えを明かす「実は私は…篇」のネタばらし用のコメントも添えて! そうすることで、ある種の「どっきりエンターテインメント」的な要素を作り、テレビ局側が番組内でCMを紹介しやすいようにしたのです。もちろん通常撮影するような「普通」のメーキングも撮影。テレビ局側がどっちを使いたいか選べるようにして渡したのは、PRパーソンとして当然の配慮。結果、生活者が面白がり、テレビも喜ぶ、そしてCMを紹介されたクライアントも満足というWIN-WIN-WINな結果となったのです。

二つ目は、発表会での演出です。こちらはある湿布薬の新CM発表会でした。CM撮影時にメーキングビデオが撮れなかったので、その発表会内で普段なかなか見られないような表情や聞けないようなコメントを出演タレントから引き出し、少しでも生活者が見たいと思うような内容にすることで、情報番組で紹介される尺を伸ばしたいと思いました。

そこで、ステージ上での演出で、タレントさんにご協力いただくことにしました。いつも多忙なことで有名な大人気のタレントさんですが、その人の口から「やっぱ湿布薬は助かりますよね!」と言わせたい。そこで、激痛足ウラマッサージ師をその発表会に登場させステージ上でタレントさんの足裏をマッサージしていただく演出としました。ご想像の通り、激痛にもだえるタレントさんの顔をメディアが激写!

「イタタタタ!!!!(涙)」といった様子に取材陣さえもこぼれ笑いを見せるほど。メディアが笑えば、その先の視聴者は言わずもがな、です。そう、最後のオチもご想像の通り。「こんなイタイ思いするなら、僕はこの湿布薬で十分です。ありがたやありがたや!」というお言葉をいただくことができました。
これら事例のように、CMは確かに一つの世界観を作り出していますが、その枠にとらわれずにもっと広範囲に生活者の関心を高めるようなネタをちりばめていくというのがPRの視点となります。今回は特にタレント起用のCMについて書きましたが、彼らのパーソナリティーをひもとき、ふかんした視線で製品やサービスとの意外な関連性を見つけたり、あるいは逆に納得感の強い関連性をより強く象徴的に見せたりすることで、生活者の関心をあおることができるのではないでしょうか。そういう鳥の目・虫の目で見ていくと、PRのための情報っていろいろ作れるんですよね。

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年株式会社電通PRセンター(現株式会社電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手がけるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD2014」を日本で初めて受賞。
    その他、受賞歴に、Asia Pacific PR Award、日本PR協会「PRアワード グランプリ」、国際PR協会「ゴールデンワールドアワーズ」、SABRE AWARDS ASIA PACIFIC、PR WEEK アワード・アジア、Asia Pacific SABREアワード、Spikes Asia 2014、Global SABRE アワードなど。
    実務のみならず、大学やトレードショー、PR協会での講義による若手育成にも従事。「Cannes Lions 2012」「Spikes Asia 2012」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC 2014」「PRWeek Awards Asia 2015」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。「New York Festivals パブリック&メディア・リレーションズ部門」Grand Jury。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」を上梓。

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