新明解「戦略PR」 #14

「立て!立つんだ企業広報部!」今こそ、企業広報部が立ち上がるべきとき

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

いやいや、いきなり強いタイトル出ちゃいましたね。こんなお気楽な文章書いているやつが、なに言っちゃってんの? 的に捉えられそうですが、今回、私はマジメです。

実は最近ニュースで、私の入社時期であるバブル期のさまざまなものがリバイバルしていると耳にしております。24時間戦えますか? のエナジードリンクに、相次ぐレジェンドバンドの再結成、そのライブチケットの売れ行きの好調さ、さらには80年代ミュージックをリミックスしたビデオがMTVで流れたり、80年代に人気だった家電やらヒーロー物を特集した雑誌も人気だとか。この勢い、昔を思い出すなぁ…。その頃のカルチャーが、今まさに「バブルリターンズ」を起こしてる気がしてなりません。いやー、今の40~50代って、やっぱあの頃のノリや雰囲気をついつい思い出しちゃうんですよね。いいか悪いかは別にして。そういう私も反省なしさ、ふふん!

ま、話を本題に戻しますと、そのバブルの頃、私が従事していたのがいわゆる「コーポレート・コミュニケーション」というやつ。詳しくは述べませんが、企業アイデンティティを見直そう! って機運で、CI(コーポレート・アイデンティティー)やVI(ビジュアル・アイデンティティー)の再構築、再設計なんてのがやたらと多かったんですね。主観かもしれませんが、それこそ各企業の広報部が主役だった時代です。まさに企業イメージを引っ張ってるのは俺たちだ! と充実した時を過ごしていたはず。そしてわれわれもそのお手伝いをしながら、経営層を含む企業の中枢部とリレーションを持ち、日々ディスカッションをし、企業と共にズンズンと進んでいたのです。いやー、あの頃の充足ぶりは素晴らしかった(しみじみ)。しかし、ここで懐かしんでいる場合ではありません。今また、その機運が高まってきているからです。

製品・サービスがUSPで差別化できない今、企業ファンを増やさなきゃ!

たびたび言いますが、各製品・サービスがコモディティー化し、USP(Unique Selling Point)で差別化できない今、企業そのものへの共感や信頼感を高めていくことが必要といわれています。いわゆるエンゲージメントの構築・強化ということで、これは現在のPRの指標としても使われています。さまざまな施策の積み重ねでロイヤルティーの高いファンをつくるのが重要で、すでに欧米企業はこういった活動に注力しています。中には今後の参考になり、しかもすぐにマネできる、マネしたいアイデアもありますので、ここ数年のカンヌライオンズから、いくつかの事例を紹介してみたいと思います。

最初に紹介するのは、商品・サービスの提供背景となる企業姿勢・ビジョンをしっかりと明示し、さらにそれを生活者の日常の中でより実感してもらう取り組みです。企業が製品やサービスの提供によって生活者ベネフィットを向上させることや、それらの活動を通じて社会的存在意義を全うしようとする姿勢を表明し、生活者の賛同・共感を獲得しようとする動きというのは、表現の難しさより覚悟の有無に尽きるような気がします。単に「ビジョンつくってみましたー!」じゃなく、「で、おまえたち、何してくれんのよ?」という問いかけに真っ向から応えるその姿勢ってかっこいいですよね。

ピックアップ事例

Chipotle 「The  Scarecrow」(Cannes Lions 2014)

米国のメキシカンファストフードチェーンのチポートレーが、行き過ぎた加工食品の工業製品化へ警鐘を鳴らし、自社使用食材の全面自然回帰を宣言。同様の内容で2012年にフィルム部門でグランプリを獲得しているが、こちらはその延長線上のキャンペーンとなっており、一度掲げた宣言に継続して取り組む姿勢とその覚悟が見て取れる。

街の食品工場で働くカカシを主人公にしたショ-トムービーと、それをモチーフにしたiTunesのゲームなどを組み合わせた統合キャンペーンで、今回は特に子どもの食育という目線から、ゲームなどの手段を盛り込むことで接触機会を創出、対象を広げて成果を出している。

日本では実感がないが、米国の特に若年層における肥満問題は尋常ならざる状況になっており、その原因の主役とも言われているファストフード企業が行った、自らの存在を再定義するという取り組みは、生活者の大きな共感を獲得したわけだ。

営利を追求する他のメーカーと比べて「損なことをしたなあ」と思うなかれ。同キャンペーンによりチポートレーは、米国内でメキシカンフードのナンバーワンであるタコベルを抜いて、レストラン・ソーシャル・メディアインデックス※で1位を獲得するなどの成果も出している。

※全米9700以上のレストラン・ブランドに関して、ソーシャルメディア上の消費者のエンゲージメント、センリメントなどを調査し、400点満点で評価、ランキングしたもの。

Honey Maid 「This is Wholesome」(Cannes Lions 2014)

伝統的な全粒粉クラッカーのメーカーが、“古くさい”ブランドイメージを刷新するために展開したキャンペーン。古き良き時代の存在から、現代にも適合した製品であることを訴求するため、現代の米国において進化する家族像と、その価値観を肯定。すなわち、同性婚の家族や異人種婚、シングルファザーの家族などを「進化する家族像」として受け入れることで社会的議論を巻き起こした。

それらの内容を反映させたテレビCMやオンラインのドキュメンタリーを制作・発信しつつ、巻き起こる多数の批判的メッセージに対してもカウンター・コミュニケーションを展開、生活者の広い共感をつくり出すことに成功した。保守派の多い米国で、安定的存在価値を築いてきた同社が、あえてリスクを冒しながらも進化を求めたこの活動にも、その覚悟や勇気が強く感じられる。

コーポレート・メッセージの伝達にデザインが生きる!

企業ビジョンなんて小難しい言葉が並ぶと、「そんな高尚なこと言われてもわからん! で、一体なんなの?」という印象を持ってしまいますよね。私も、ビジョンやらステートメントやらカタカナ並んでくると、なんかこんがらがっちゃって…。やっぱそれらって、一般の生活者がスルッと飲み込めるようなものじゃないとだめだと思うんです。でも日本語ってなかなか複雑だからなー、っていう方に朗報! そう、言葉だけに頼らなくてもいいんです。

現在、企業からの情報発信は、その発信機会や発信手法において、定型化されてしまった観があります。枠にはめたがる日本の悪いところなのかもしれませんが、そういうのって得てして無機質なものになりがちですよね。ここでも差別化ができなくなっちゃう。さまざまな定型化によって企業内の効率は上がるかもしれませんが、情報の受け取り側にとっては面白みがなくなってしまいます。もっと、さまざまな情報発信の機会を捉えて、さらにその思いが伝わりやすく工夫することは、いくらでも可能なはず。ここでは、その思いをストレートに伝えるべく、直感的に分かりやすい鮮やかな「デザイン」を起用して、強い共感を得た事例を紹介してみましょう。ちょっとした工夫で印象って全然変わりますよね!

ピックアップ事例

葵鐘会・ベルネット「MOTHER BOOK」(Cannes Lions 2014)

産婦人科クリニックグループのベルネットが、妊娠初期の段階で分娩予約を入れた人に配布するビジュアルブック。

母子手帳のような記録メディアもあるが、妊婦の思い出や、生まれた後の子どもへの伝達のために、さまざまな感情を記録できるよう工夫されている。出産までの40週間を1冊の本にまとめたもので、ページをめくるごとにお母さんのおなかが少しずつ大きくなっていくなど、妊娠から出産までのプロセスを「見える化」している。

妊娠のプロセスを楽しみ、また出産後にも共有したいという妊婦のインサイトを拾い上げており、妊婦やその家族の気持ちを深く理解する存在として、企業姿勢に対する評価を高める好事例。

Austria Solar 「The Solar Annual Report」(Cannes Lions 2012)

太陽光発電を生業とする企業のアニュアルレポート。多くのアニュアルレポートは、ただ数字が並ぶだけで、とても読む気になれないと思う方が多いのでは。そこでAustria Solarは、太陽の光が当たると文字が浮かび上がる特殊インクでアニュアルレポートを制作。もちろん、アイテム的には数字が最重要だけど、自社の生業をよりよく理解してもらうため、太陽エネルギーとのつながりを強く表現できるよう工夫されている。

「なるほど、やるね!」と思わずつぶやきたくなるおしゃれな工夫。

海野海藻店 「Design NORI」(Cannes Lions 2012)

海野海藻店(茨城県の老舗海産問屋)が手掛けるアートな海苔。ぱっと見「黒一色」の海苔は、外国人から見れば、理解されづらく、とっつきにくい食べ物。しかし、ここに切り絵のような文様を入れていくことで、巻き寿司を作ったりする楽しさをアピールし、離れている関心を高め、トライアルのきっかけをうまく提供している。切り抜かれたデザインが日本文化的であることも関心を高めるのに重要な役割を担っている。パッケージのみならず製品自体もいじっていく、覚悟が感じられる一品。

このように、コーポレート・コミュニケーションにおいて、自社のアイデンティティーに立ち返った強い意志提示や、情報発信機会をよりよく活用するためにデザインで工夫を行った事例を紹介しました。定型のタイミングや手法にとらわれず、自社のファンを増やしていくような情報発信機会や、状況に適した情報コンテンツがあるかもしれませんし、その時の一工夫で影響度が格段に変わってくることもありましょう。ぜひこの機会を捉えて、自社の企業情報発信の仕方について議論してみてはいかがでしょうか?(今回、マジメに見えたかなー?)

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年電通PRセンター(現電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手掛けるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD」を日本で初めて受賞。Holmes Report「The Innovator 25 Asia-Pacific 2016」(アジア太平洋地域のイノベーター)選出。
    その他「Cannes Lions」「Spikes Asia」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC」「PRWeek Awards Asia」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」(朝日新聞出版)を上梓。自治体PR事例をまとめた「成功17事例で学ぶ自治体PR戦略」(共著:時事通信社)も好評発売中。

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