企業の未来のためにできること #11

Onのブランド、Offのブランド

―デジタルが変えるブランド戦略の今(第1回)

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    小西 圭介
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 コンサルティング・ディレクター

こんにちは。私の部門では企業・組織のブランド戦略を策定・実行するお手伝いをしています。
ひとくちに「ブランディング」といってもその内容はさまざま。例えば、ネーミングやロゴ開発、広告などにとどまらず、サービス開発やインナーコミュニケーション、ブランドコンテンツ制作、最近ではデジタルプラットフォーム開発など、仕事の領域も多岐にわたります。

最近は特に、デジタル化・グローバル化の波が急速に押し寄せ、ブランディングの仕事の内容が大きく変わりつつあることを実感しています。
ここでは、「デジタルが変えるブランド戦略の今」というテーマで、最近ブランドについて考えていることを連載していきたいと思います。

■Onのブランド、Offのブランド

第1回目は、デジタル時代のブランディングのキーワードとして、「OnとOff」という考え方を取り上げてみたいと思います。
ここでいうOnとOffは、オンラインメディアとオフラインメディアにも関係していますが、むしろ私たち生活者自身の態度や行動の「モード」のことを意味しています。

スマートフォンが普及し、24時間いつでも情報にアクセスし、ソーシャルメディアを通じて話題や体験の共有、そして買い物もできるようになった今日。生活者の情報接触スタイルも、受動的な接触から能動的な接触にシフトしつつある傾向が見られます(図1)。

【図1:ソーシャルメディアの浸透に伴い、アクティブな接触態度のユーザーが増加】
アクティブなネットユーザー増加

メディアを通じた広告に受動的に接触するといった「Off」の体験のみならず、「On」のモード ― すなわち、生活者がブランドに関する情報やコンテンツを自ら積極的に検索・視聴したり、評判を共有したり、そのまま一気に購買したりといった、かつてないシームレスなプロセスが生み出されるようになりました。
このOnとOffの切り換えが常に起こるようになったことで、従来と比べてコミュニケーションのスピード感が一気に加速しているといえるでしょう。

企業が顧客と直接的なコミュニケーション回路をつくり、一人一人の関心やタイミングに合ったコンテンツ配信を行う。またシェアや参加など「On」のモードでの行動喚起を通じてブランドへの興味や購買を促していく。企業にとってはいわゆる「アクティベーション」の機会が拡大しています。

逆に、ターゲットに向けていくら適切なマーケティングメッセージを発しても、人が動かないとしたら、あなたのブランドは顧客にとって「On」のブランドになれているか?という視点で物事を考えてみた方がいいかもしれません。例えば以下のような問いを持つことです。

●メディア視点のタイミングではなく、顧客の意識や関心が高まる「On」のタイミングに、ブランドが寄り添っているか。

●一方的なメッセージ発信ではなく、顧客にとっての関心を喚起し、共感できる体験をつくり出し、いかに「On」の態度・行動を生み出すことができるか。

●顧客にとって役立ち、自ら関われる、共有できるような価値を提案し続けることで、ブランドとの関係性を「On」の状態にすることができているか。図2

このように、今日のブランド競争では、独自の価値を定義し、メディアを通じてメッセージやイメージを伝える活動だけでは不十分です。

【図2:Onのブランド、Offのブランド:顧客体験の比較】onのブランド、offのブランド:顧客体験の比較

私が昨年出した著書「ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略」でも、イメージ形成を目的とした「形容詞のブランディング」から、顧客とつながり、アクションを通じて価値を共有していく「動詞のブランディング」へという考え方の変化を述べました。
そのとき大事なのが、この「On」のブランドとしての振る舞い、すなわち、顧客の生活の中での居場所や関係性をつくることであるといえます。

もっとブランドが顧客に寄り添い、直接的なつながりを起点にした価値や体験を創造すること。ブランドの利用や価値の実現を促すことを通じて「On」の関係を持ち続けること。こうして生まれる顧客にとってのブランドとの距離感や関係性の強さが、今日では重要な差別化要素になっているのです。

■参加やシェアを促せばいいのか?

ここでちょっとひとつ、本質的な疑問について触れてみましょう。
ソーシャルメディアが私たちの日常のコミュニケーションで重要な役割を担うようになってから、企業のブランドコミュニケーションでも一方的な発信ではなく、顧客が話題にする、参加する、そしてシェアされるようなブランドコンテンツや活動を企画することが、もはや当たり前になっています。

でも、参加型のキャンペーン施策や拡散したくなる面白いコンテンツを設計すれば、ブランディングの効果が本当に高まるのでしょうか?
もちろん、話題性による認知効果は得られるかもしれませんが、実際にはこうした活動も多くが「フロー」、すなわち一過性のコミュニケーションとして消費され、ブランド強化や購買につながらないまま、忘れ去られてしまうことも多いようです。

参加やシェアの効果は、①「On」のモードでの顧客の積極的な行動を通じて、ブランド体験やエピソードの記憶を強化すること、②そして顧客のネットワークを通じて、ブランドへの支持・共感を拡げることによって生まれます。

つまり、顧客自身が価値を生み出し、広げてもらう今日のブランディングにとって大事なのは、一過性の話題づくりやコンテンツの拡散ではなく、ブランドの購買・利用における「ユーザー体験」を一貫して強化・共有することに焦点を当てていくべきという点です。
そこでは、以下のような戦略的なアプローチが大事になってきます。

●体験テーマ・ストーリーを持つ:顧客がブランドの語り手となり、エピソードを通じて価値を共有するために、ブランド体験に一貫したテーマやストーリーを与えること

●関係プラットフォームを持つ:一人一人の顧客とブランドが継続的な関係を持ち続けることで、「ストック」の効果を生み出すこと

●絆の強化の仕組みを持つ:顧客自らファンとしての態度表明(参加や推奨)を行うことで、ブランドに対する絆を意識し、承認される仕組みを持つこと


これらのアプローチについては次回以降で触れていきたいと思います。

あなたのブランドは、「On」の顧客体験を生み出しているか?デジタル時代のブランディングにとって重要なこうした視点から、マーケティング活動のチャンスを考えてみてはいかがでしょうか。

(第2回以降に続く)

プロフィール

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    小西 圭介
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 コンサルティング・ディレクター

    1993年入社。2002年米国プロフェット社に出向し、デービッド・アーカー氏らとグローバル企業のブランド戦略構築に携わる。現在はコンサルティング・ディレクターとして、数多くのクライアントのブランド・マーケティング戦略サポートを行うとともに、多数の講演、執筆などで、デジタル時代の新しいブランドおよびマーケティング戦略モデルを提唱している。著書「ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略」、訳書に「顧客生涯価値のデータベースマーケティング」(いずれもダイヤモンド社)他。

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