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コンテンツマーケティングの時代No.1

いま話題のコンテンツマーケティングとは何か?

2014/08/18

コンテンツマーケティングの時代

「コンテンツマーケティング」に熱い視線が注がれている。このアプローチが注目される背景、従来の手法との違い、その問うているものを、電通グループのキーパーソンに取材した。そこから見えてくる新しい世界を考察する。


今、世界的に関心が高まっている「コンテンツマーケティング」はマーケティングの手法の一つで、今年あたりから日本でも注目され始めている。

米国で数多くの大手クライアントを持つコンテンツマーケティングの第一人者、ジョー・ピュリッジ氏による指南書『エピック・コンテンツマーケティング』(発行=マグロウヒル・エデュケーション、発売=日本経済新聞出版社)の翻訳チームを率いた電通 iPR局の郡司晶子氏は語る。「今、われわれが最も力を入れている分野の一つです。ピュリッジ氏も著書の中で触れていますが、その原型は1800年代にまでさかのぼることができ、アプローチとしては決して新しいものではありません。しかし、デジタルメディアが台頭し、ソーシャルメディアが発展した現在、これまでと違う、双方向でリアルタイムなメディアにふさわしいマーケティングコミュニケーションの手法、つまり消費者のその時々の要望や反応に対して真摯に向き合うことが求められてきている。それがコンテンツマーケティングの根底にある問題意識です。当たり前のことではあるのですが、今の環境では長く続ければ続けるほどデータがたまって、消費者とのコミュニケーションの精度を上げることができます。そのため、一日でも早く始めたところが、その果実を得られるのです。逆に、これをやらないと完全に時代に取り残されてしまうと思います」

情報流通と社会的背景の変化が求めるコンテンツマーケティング

そもそも「コンテンツマーケティング」とはどういうものなのか。前掲書では「コンテンツマーケティングとは、有益で説得力のあるコンテンツを制作・配信することによって、ターゲット・オーディエンスを引き寄せ、獲得し、エンゲージメントをつくり出すためのマーケティングおよびビジネス手法を指す。その目的は、収益につながる顧客の行動の促進である」と定義する。また「メディアを借りるのではなく、自前のメディアを持つこと」ともある。要約すれば、自らの媒体(≒オウンドメディア)を中心に情報発信して顧客との良い関係をつくり、収益につながる行動を起こしてもらうこと、といえるだろう。

こうした手法に期待が寄せられてきている背景には、デジタルメディアの普及により情報流通のパラダイムシフトが起こったこと、そして少子高齢化や人口減少など、社会構造の大幅な変化に伴うマーケティング側からの要請があり、その問題意識は広告の在り方までをも問うている。

旧来の情報流通モデルでは、企業やマスメディアから発信され、基本的に消費者は情報の受け手という構造を前提としてきた。この枠組みは依然、機能しているものではあるが、インターネットで情報発信が容易になったこと、また検索で的確な情報が入手可能になったこと、さらにはソーシャルメディアの浸透で消費者同士の情報交換が活発化したことは、情報流通の新しい形を考え出すことも迫っている。

消費者が自分の好きなときに、好きな情報を、好きなだけ入手し、発信・交換まで可能になったのであれば、マーケティング活動を行う際、企業は想定した各種のシナリオを準備するだけでなく、消費者がいつでも手軽に情報入手できるような場としてオウンドメディアやコンテンツを用意しておく必要がある。コンテンツマーケティングは、こんなごく当たり前のことをしよう、と提案しているのだ。

社会問題にもなっている少子高齢化や人口減少は、従来のような市場の拡大が見込めないことを示している。これを受け、新規顧客の開拓だけでなく、既存顧客との関係を見直し、こちらに力点を置こうというのもコンテンツマーケティングに期待されている点だ。

郡司氏は「電通iPR局は、“ソーシャルメディアを主な手段とする企業と顧客との温かい関係構築を継続的に行っていく”という企業のコミュニケーションの新たな流れに対応することをミッションとして、2年前に発足しました。その新しい流れを実現する手段としてコンテンツマーケティングを重視し、力を入れています」と話す。

ここまで少しくどいようにコンテンツマーケティングの語義について触れてきているのは、コンテンツマーケティングという言葉が、映画やスポーツ、アニメ、音楽といった「商業コンテンツを活用したマーケティング」と直結されることが多いからだ。

コンテンツマーケティングは、
・ブランドの認知の拡大
・ブランドのファンの育成
・共創による、商品開発
・問い合わせ対応
・クライシス対応
・企業ニュースの告知
・店頭への送客
・リピート促進

など、企業の多岐にわたるマーケティングコミュニケーションの課題を対象としている。その表現手段として用いられるものは、ニュースリリースやホワイトペーパー、ウェビナーeラーニング、アプリや電子書籍なども含む多種多様なものだ。

さらに企業と顧客との温かい関係構築を継続的に行っていく、ということは、消費者との対話を生み出し収益につながる顧客の態度変容を起こす、とも言い換えられる。その態度変容の中身は直接の消費行動に限らない。検索で求める情報に行き着いたり、ソーシャルメディアによる情報発信や情報交換を行うことが、結局は消費行動につながる近道になる、というのがコンテンツマーケティングの要諦といえる。

コンテンツマーケティングが問うているものは?

ここで少し違った角度からコンテンツマーケティングへの取り組みについて紹介したい。ネクステッジ電通の事例だ。

同社は、電通デジタル・ホールディングスとサイバー・コミュニケーションズが出資するデジタルマーケティングのコンサルティング会社で、2013年5月に設立された。リスティング広告ディスプレー広告SEO(検索エンジン最適化)などを扱い、eコマース、金融、不動産などのクライアントを持つ。

「当社では、クライアントの運営するeコマースサイトや、資料請求などのサイトに誘導するための広告施策を請け負っています。クライアントの予算を預かって、それを運用し、その運用を通じて成果(具体的には商品販売、申し込みの獲得、資料請求など)を創出する、この成果の部分に軸足を置いています」(同社社長・杉浦友彦氏)

その業務は、まるで投資信託のファンドマネージャーとトレーダーを兼ねているようで、結果を出すことが厳しく求められる世界、と杉浦氏は話す。この分野でもコンテンツマーケティングのニーズが高まっていて、二つの理由を杉浦氏は挙げる。

「各種広告でサイトに誘導したときに、実際に消費者が購入などの行動をしてくれる確率は数%というのが一般的。そうした中で、消費者に魅力的なコンテンツを提供した上で、施策を行うと効果が数倍にもなる。これが一つ目の理由です。もう一つは、広告による誘導には限界があること。一般的には広告で誘導できるアクセスは3~5割程度で、残りは検索エンジンを通じた自然な流れでたどり着くものといわれています。広告はセオリーが確立されている世界なので、予算を掛けて、定石通りにすれば結果が出る。けれど、それではコストが掛かり過ぎる。そこでコンテンツマーケティングによって残りの5~7割の流入が拡大できれば効果的ではないか、ということです」

旅行サイトを例にしてみよう。仮に消費者がハワイに行きたいと思っているとしても、ハワイへ行く航空券やホテルの予約だけを求めていることもあれば、魅力的なツアーを探していることもある。またハワイの楽しみ方も、ショッピング、マリンスポーツ、ゴルフなど多種多様にある。

消費者がなんとなくサイトを訪れたとしても、そこにハワイの魅力を伝えるコンテンツが用意されていれば、 “ハワイ旅行を決断する”態度変容が起こり、旅行商品の販売につながっていく。また、優良なコンテンツを準備することで検索エンジンの評価も上がり、自然と人が集まる導線ができ、ポジティブなスパイラルができていく。

少し遠回りで、時には成果が出ているかどうかが分からないような局面が訪れるが、結果的には消費者の満足度が高まり、収益につながる。コンテンツマーケティングでは、こうしたストーリーを描いている。

また従来のデジタルマーケティングが岐路に立たされていることも無関係ではない。

グーグルアルゴリズムの見直しを行うことも多々あり、今後は小手先のSEO手法はむしろリスクとなり、真に消費者に価値ある情報を提供できるサイトこそが競争力のある企業として評価されると考えています。われわれは電通グループのクリエーティブ力、コンテンツ制作力という強みを生かしながらお客さまに価値のある提案をしていきたいと思っています」(杉浦氏)

先に触れたハワイの例でいえば、単に旅行の情報を提供するだけでなく、ハワイで楽しみたい音楽、その音楽を聴くためのガジェットの情報などを、別分野のクライアントと連携して提案することができるのも強みと杉浦氏。また自戒を込めながら、広告関係者の存在意義が問われているとも話す。

「この分野で仕事をしていて痛感するのは、デジタルメディアを用いるマーケティングはごまかしが効かないということ。消費者の反応に対して真摯に向き合えるかどうかは根源的な課題です。広告が作品で終わってはいけないと、日々念頭に置きながら、お客さまと向き合っています」

時代の変革から求められてきているコンテンツマーケティング。その示唆するところは、企業、広告会社、メディアなどの各方面に新たな視座を求めている。

「自分たちが提供しているものは消費者が欲しいものなのか? そこをちゃんと疑おうということかもしれません。消費者の反応が怖いというのではなく、それに向き合って反応を見よう、投稿という形で企業に対するコメントをもらおうと意識を変えること。そうすることで、消費者との新しい関係が生まれる。この流れは不可逆的で、もう以前の状態には戻りません。それを行っていくためには地道な取り組みと、くじけないモチベーションが大切です。覚悟を決めて活動を始め、しかも地道にそれを継続しているところが確実に果実を得ていく。コンテンツマーケティングとは、そういうものです」(郡司氏)

コンテンツマーケティングは大きな可能性と新しい問いを同時に投げ掛けている。


用語解説
 
コンテンツ
コンテンツマーケティングでは、「顧客や潜在顧客にとって有益で説得力のある情報」と捉える。またコンテンツを発信する手法や場なども含んで捉える。「コンテンツ」から一般的に想起される映像や音楽などの領域に限定されるものではない。
 
オウンドメディア
自社保有の各種メディア。中心となるものは、会報誌やカタログなどから自社のウェブサイトなどデジタルメディアへと移行している。コンテンツマーケティングでは、これを核にペイドメディア(他社の各種広告媒体)、アーンドメディア(ソーシャルメディア)と連携し総合的な戦略を立てる。
 
ウェビナー、eラーニング
ウェビナーは、ウェブを活用したセミナーで、新商品や戦略などのプレゼンテーションを行う。eラーニングは、商品の解説や操作説明などにも活用される。どちらもコンテンツマーケティングでも有用とされ、こうしたものもコンテンツと捉える。
 
リスティング広告、ディスプレー広告
リスティング広告は、検索結果と連動して現れるキーワードを媒介にした広告。ディスプレー広告は、ウェブページなどに埋め込まれた画像や動画などを用いるもの。ヤフーのブランドパネルや、ウェブサイトのバナー広告も、この一種。
 
SEO
検索エンジンが特定の情報を見つけやすくするための対策。転じて検索エンジンの検索結果に特定のウェブページが上位に表示されるようにする手法も指す。利用者の意図に合致した内容が提供されたとき、ウェブページは有益なコンテンツと見なされる。
 
グーグルのアルゴリズム
グーグルは、独自のアルゴリズム(計算方法)を改良し、高品質な検索結果を表示するアップデートを順次行っている。内容が薄く、品質の低いと見なしたコンテンツを検索上位から外すとされる。信頼のある媒体社や、有力な執筆者の記事などが再評価されそうだ。

郡司晶子氏

電通 iPR局 iクリエーティブ部長
クリエーティブ・ディレクター(当時)
 

「コンテンツマーケティングの取り組みは、まだ始まったばかりなので、競合他社に一歩先んじるためにはとにかく始めてみて少しでも多くの知見をためていくことが重要です。私たちは、企業のコンテンツマーケティングをサポートするために多様なプレーヤーと、さまざまなテクノロジーを活用しながら取り組んでいきたいと思っています」

郡司晶子氏

 


杉浦友彦氏

ネクステッジ電通
社長
 

「短期的なニーズには広告で応えられますが、中長期的な視点で売り上げを伸ばしたり、市場を開拓していくためには、コンテンツマーケティングの視点は欠かせません。その際、質の高いコンテンツを誰が作れるのか、どんなふうに消費者に届けるのかなど、さまざまな課題に対応できるように準備をしています」

杉浦友彦氏

 

こちらも要チェック!

インフルエンサーワイヤー」はアジャイルメディア・ネットワーク社と電通iPR局が連携して運用するブロガー向けニューズレター配信サイト。電通では、マスメディア各社の他、ブロガーへも情報を届けるコンテンツマーケティングの展開に着手している。
influencerwire.com/

『エピック・コンテンツマーケティング』(マグロウヒル・エデュケーション/日本経済新聞出版社)

コンテンツマーケティングの第一人者、ジョー・ピュリッジ氏の著書『エピック・コンテンツマーケティング』(マグロウヒル・エデュケーション/日本経済新聞出版社)。コンテンツマーケティングの具体的な企画や運営などにも言及した実践的教科書といえる。


コンテンツマーケティング時代の歩き方

本文 でも触れた通り、今、商品の提供者と消費者の間で対話、つまりコミュニケーションが生まれつつある。これによって信頼関係が築かれ、ときには購買につなが るし、そのとき購入しなくてもポジティブな印象は、企業の利益につながるような行動を促すかもしれない。そうした可能性を多面的に捉えて実行する、これが コンテンツマーケティングの核心といえる。

advertisementが、「人に興味を向けさせる」という意味から、やがて広告や 宣伝という言葉に使われるようになったことを考えると、そこには向き合う相手がいることを想定している。興味を引きつける方法が片方向だけでなく双方向に 可能になったのだとしたら、そのチャンスを生かすべきだろう。