loading...

顧客を動かすデジタル・マーケティングの実践No.9

電通のDMP実践論 ~データによるマーケティング精緻化~【前編】

2014/08/28

マーケティングへのビッグデータ活用が本格化する中、その中核を担うのがDMP(データマネジメントプラットフォーム)だ。DMP導入は普及期に入りつつあり、成果を挙げている企業も増えてきた。電通の統合データ・ソリューションセンターでDMP導入と運用を推進する近藤康一朗氏がDMPの実践論について解説する。

いよいよ「DMPは当たり前」の時代へ

昨年末からメディア、代理店、コンサルティング会社によるDMP事業への参入が活発になっています。アドテクソリューション市場の中でも特に伸び率が高く、2012年から13年にかけて25倍に成長しています。(出典:アイ・ティ・アール http://www.itr.co.jp/company_outline/press_release/140109PR/index.html)。

DMPの戦略策定や分析を行える人材、ビッグデータを高速で処理するツール、多様なマーケティング施策に活用できるデータなど「ヒト・モノ・データ」の各プレーヤー企業が出そろい、市場普及への準備は整いつつあるといえます。しかしながら、膨大なデータが持つ意味と価値を理解し、スピード感をもってマーケティングに活用することは容易ではありません。本連載では、広告主がDMP導入を成功させるための課題と電通の取り組みをご紹介します。

DMPは3つのプロセスでデータの価値を引き出す

DMPには必ず①データ収集、②データ整理・分析、③データ活用という3つのプロセスが存在します。これらのプロセスを通して、膨大なデータをマーケティングにとって価値のあるものに変えていくことがDMPの提供価値です。電通グループでは、広告配信やメール配信、サイト最適化にとどまらず、マーケティング戦略自体をシフトするための知見抽出など、広告の費用対効果を高めるための幅広いDMP活用を実施しています。

今も、これからも、DMPは魔法の箱ではない

クライアントへの導入・運用を通して私たちが痛感したことは、DMPは魔法の箱ではないということでした。データという新たな武器を手に入れたと同時に、考えるべきことや求められることも増えるのです。また技術的な限界も残っており、今できることと将来的にできるようになることを正確に判断しながら、目標を設計していかなければなりません。本稿では、ブランド広告主向けのDMP事例を通じ、各課題に焦点を当てていきたいと思っています。

ここで、私たちが関わった直近の案件から知見を得た、広告主がDMPを運用する際に注意すべき3つのポイントを紹介します(後に詳述します)。

ポイント① セグメンテーション精度とオーディエンス人数のトレードオフ
ポイント② オーディエンスを規定するデータ一つ一つの精度
ポイント③ データ収集、セグメント作成、施策運用の一貫した戦略

良いセグメント=料理をつくるには、データ=素材を理解する

データを活用する際に考えるべきなのは、そのデータの質と量、価格(収集コスト)の3点です。DMPでは、同じ属性、同じ興味を持つ顧客を集めたセグメントを作り、効果の見込めるセグメントに集中した施策ができます。その際に、セグメントの量が大きく収集コストが安ければより費用対効果を高められます。

DMPにおけるセグメントは、多様なデータによって構成されます。セグメント構築において、データの質、量、価格を理解することは、料理に例えるなら、味、在庫、コストを理解して素材選びをするという当たり前のことです。

アンケートや記入されたデータは別として行動データ(サイト閲覧、検索、購買など)からユーザーの属性や興味を抽出する場合、ほぼ間違いなく「推定」が必要になります。行動データには、行動の意味/強さ(購買>検索>サイト閲覧など)、鮮度(昨日した行動か、去年した行動か)、頻度といったたくさんの要素が紐づいています。これらの要素をヒトの感覚で分類する、または機械学習などの方法で類似度を算出することで、その行動をした人物のインサイトや属性を「推定」するのです。

例えば、ある商品のウェブサイトを閲覧した人と商品を買った人ならば、商品を買った人の方が明らかに商品に対する関心は高いでしょう(購買>閲覧)。ですが、ウェブサイトをここ1週間で何回も見た人と比較して、商品を1年前に1回だけ買った人では、商品に対する関心はどちらが高いでしょうか。データから正しくインサイトや属性を推定するには、「意味/強さ、鮮度、頻度」 の要素を理解することが不可欠なのです。

DMPでは、「1週間で○回以上閲覧」のように、頻度や鮮度の条件を加えることで精度を高めたデータに加工することができます。しかしながらそれらの条件で絞った場合、今度は精度の代わりにセグメントが収縮し、対象ターゲットを失うというジレンマに陥ります(ポイント①)。このトレードオフを解決するには経験による肌感が重要になってきます。

もちろん人的な推定だけでなく、機械学習(決定木、K-means、ディープラーニングなど)によるセグメンテーションも有効な場合があります。ただし、それぞれの手法における得手不得手と入力パラメーター、アウトプットを理解しておく必要があります。

ターゲティング広告の精度を、パネルデータの統合によって確かめる

DMPでできることは、今述べたようなターゲティング精度を高めることだけではありません。電通グループのアンケートパネルデータとの統合によって、評価指標の精緻化とデジタル広告予算の最適化に役立てることもできます。

デジタル広告のターゲティング商品は一般的に、ウェブサイトの遷移行動を元に構築されます。しかし、それらの遷移行動からどの程度、確かなインサイトが読み取れるものなのでしょうか(ポイント②)。

電通グル―プのDMPプロジェクトでは、アンケートパネルとターゲティング広告接触者のデータを統合して「ターゲット(例:商品購入経験者)とおぼしき行動をしている人」における「真のターゲット含有率」を検証してみました。すると、購入経験者の含有率が高いだろうと思っていたセグメントでも、ターゲット外の人間が過半数を占めている場合が多々ありました。これらの「答え合わせ」により単純なリーチ単価をより精緻化されたリーチ単価に修正し、本来の目的を達成している広告を抽出することができます。

例えば図のようにターゲットの含有率を加味することで、広告メニューAとBの評価は入れ替わります。実際に、広告メニューの評価をDMPによって精緻化した結果、広告予算配分が大きく変わり、費用対効果が飛躍的に高まった例も存在します。データを統合することで、推定の難しい行動データに対して、より本質的な広告効果を追求したメディア予算配分が可能になるのです。

 

※後編は9月2日掲載予定。
同センターの佐伯諭氏が、引き続きDMPの実践論について解説します。