企業の未来のためにできること #15

「エンゲージメント」再考:

最新調査が示す5つのポイント

―デジタルが変えるブランド戦略の今

(第5回)

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    小西 圭介
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 コンサルティング・ディレクター

こんにちは。今回は、デジタル時代のブランド戦略の重要なキーワード、「エンゲージメント」について考察してみたいと思います。

エンゲージメントは、絆や愛着、献身といった意味で使われる言葉ですが、マーケティング用語としての「コンシューマーエンゲージメント」は、ソーシャルメディアの浸透などで、ブランドが顧客と直接つながる時代になって改めて脚光を浴びました。

従来はキャンペーンなど短期的でフロー型だったコミュニケーション活動が、いったんブランドをフォローしたユーザーに対してはタイムラインなどを通じ直接・継続的に配信するストック型になりました。そのためマインドシェアを高める効果や、顧客のネットワークを通じて共感や好意(リツイートやいいね!など)を広げるアプローチが効果的に行えるようになったからです。
そして、ユーザーの反応(いいね!やコメント)が「エンゲージメント率」などとして指標化され、従来目に見えなかった、ブランドへの態度や行動に関するデータをマーケティングの中間指標として捉えることができるようになりました。

ただし、こうしたブランドの「エンゲージメント効果」は直接的・短期的なセールスとは異なり、ファン基盤の構築に対する継続的な投資の効果が見えにくいという課題が付きまといます。
また、最近はフェイスブックなどのプラットフォームポリシー変更の影響でファンへのリーチが低下する状況もあり、SNSを軸としたエンゲージメント戦略自体にも再考が求められるようになっています。

ここでは、最近行った調査結果(電通 ソーシャルメディア利用実態調査2014)の一部もご紹介しながら、エンゲージメント=「ブランドと顧客との関係・絆づくり」というマーケティング活動の本質的な意味と今後のあり方について考えてみたいと思います。

■エンゲージメント戦略を考える5つのポイント(事実と示唆)

①つながり自体がブランドリフトを生む
まず基本的なことですが、企業/ブランドと顧客がデジタルで直接つながることで、ブランドへの親しみや興味関心、好意度といった態度形成に寄与します。
実際に企業/ブランドの自社サイトやSNSアカウントの登録者ではブランドの購入意向や購入頻度(消費材など)が高いことがデータからも示されています。またオウンドメディアよりもSNS登録者の方が購入頻度が高い傾向もうかがえます(図1・図2)。
元々のユーザーがつながっているだけでなく、つながり自体がブランドリフト効果に寄与し得るといえるでしょう。

図1・図2また直接つながったユーザーだけでなく、そのユーザー自身のネットワークでブランド活動が共有・シェアされることによって、掛け算でブランドリフトの「2次効果」が形成されていることも分かっています。つまり、N(顧客/ファン)×N2(顧客/ファンのネットワーク)のブランド効果を生み出せるというわけです。

②メディアの役割やターゲットに合わせたエンゲージメント戦略を立てる
ソーシャルメディアも、プラットフォームによってターゲットやファンとのエンゲージメントのあり方は大きく異なります。自社サイトやアプリなどはブランドのユーザー比率が高く、フェイスブックはブランド好意層が多く、メール会員やLINEなどはお得な限定情報などが求められやすいといったデータもあります。
図3・図4は主要ソーシャルメディアの浸透状況を、閲覧率とエンゲージメント率(書込み・アップロード者の割合)で図示したものですが、LINE、Twitterなどは10代ではいずれも7割を超えるスコアとなっており、若年層のエンゲージメント戦略では中核的な役割を果たし得ることがわかります。

図3図4  

③製品だけでなく、感情や人を介したブランドエンゲージメントを生み出す
ブランドと直接つながった顧客層は、一般層に比べて高い品質イメージを持つ傾向があります。さらに製品だけでなく、共感やつながり、また企業の志、顔となる人との関係など、感情(エモーション)や人を介したブランドとの強い絆を生み出し得るチャンスがあると考えられます(図5)。

図5

④ブランドのストーリーを語る、生活者視点の価値を提案する
ブランドのエンゲージメント活動について、主要30ブランドで顧客の購入意向との相関を分析してみたところ、「商品に込めたブランドの思想・ストーリーの伝達」「自分の生活を楽しく、幸せにしてくれる提案」を行っているとの認識が高いほど購入意向が高い傾向が見られました(図6)。
製品だけでなく、コンテンツマーケティングなどを通じて、ブランドのストーリーを語る、生活者視点の価値を提案することは、購買に寄与する効果的なエンゲージメント強化の活動だと考えられるでしょう。

図6

⑤生活者の本質的な参加欲求(モチベーション)を満たす
エンゲージメントはブランドの一方的なコミュニケーションだけではなく、顧客の行動(反応)・参加などを通じて築かれる相互関係です。では、ブランドの活動に生活者はなぜ参加・行動をしたいと思うのでしょうか。
調査結果では、①個別化(自分に合った商品や特典が欲しい)、②帰属・承認(声を聞いてほしい、顧客と認識されたい)、③他者貢献(自分の力を役立てたい)、④自己達成(目標達成や課題解決を図りたい)などの参加欲求が見られます(図7)。

図7

単に情報やコンテンツのシェアを促すだけではなく、こうした欲求に応える活動テーマや仕組みの設定を図りながら、顧客の参加や行動を通じて絆をつくっていくことで、効果的なブランドエンゲージメントにつながっていくはずです。

■ブランドが、生活者やコミュニティにエンゲージするために

かつてのCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)は、クローズドな「顧客囲い込み」の発想が中心で、ブランドと顧客の一対一の関係を前提としていましたが、エンゲージメントはより中立的な概念だといえます。

メディア環境とともにブランドと生活者の関係性が大きく変わり、モバイルの普及によってオンラインメディアもリアルの世界の体験とつながるようになりました。
今日ではむしろ、ブランドの方がリアルも含めたさまざまな接点でいかにコンシューマーの生活やコミュニティにエンゲージするか、そして開かれた顧客中心のネットワークで、いかに顧客を主語にして価値を共有・共創して広げていくのか、といった発想の転換が必要になりつつあるからです。
今日のエンゲージメント戦略では、より一人一人のタイミングや欲求に応えてブランド体験や価値を一緒に生み出していく、マーケティング戦略自体の進化が求められているといえるでしょう。

(第6回以降につづく)

プロフィール

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    小西 圭介
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 コンサルティング・ディレクター

    1993年入社。2002年米国プロフェット社に出向し、デービッド・アーカー氏らとグローバル企業のブランド戦略構築に携わる。現在はコンサルティング・ディレクターとして、数多くのクライアントのブランド・マーケティング戦略サポートを行うとともに、多数の講演、執筆などで、デジタル時代の新しいブランドおよびマーケティング戦略モデルを提唱している。著書「ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略」、訳書に「顧客生涯価値のデータベースマーケティング」(いずれもダイヤモンド社)他。

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