スタートアップって何?~新しい経済成長エコシステム~ #01

スタートアップって何?

  • Fmnakajima1
    中嶋 文彦
    株式会社電通 CDC 部長 事業開発ディレクター

スタートアップという言葉をメディアで聞くことが多くなった。
まだまだ一般的には遠い印象もあるが、大型の資金調達や広告キャンペーンを目にすることも増えてきた。また安倍政権の日本再生ビジョンにおける「起業大国No.1の実現」や産業競争力強化法の制定など、日本の経済再生の重点項目としても支援体制が敷かれつつあり、今年3月には、福岡市の「創業特区」認定9月には経済産業省からベンチャー育成へ総理大臣賞の創設など具体的なアクションも出てきた。また経済産業省と文部科学省で大学での先端技術事業化へのベンチャーキャピタル創設も1000億円規模で準備されている。

スタートアップの業種もインターネットサービスからハードウエア、ヘルスケア、バイオなどへ広がり、さまざまなビジネスアライアンスやエグジット(上場や売却などの出口戦略)を見せてきている。日本から北米やアジアへ、あるいは諸外国から日本への進出も増加している。毎週、小規模から数百人規模までスタートアップ、ベンチャーキャピタル、事業会社などが集まるカンファレンスやピッチ(投資家らを対象としたプレゼン)イベントなどが行われている。ここ数年でこうした会合も活況を呈してきており、広告会社との接点も徐々に増えてきたと強く実感している。しかし、この状況が広く理解されるのは、まだこれからというところだろう。

そこでこの連載では主にスタートアップを新たな起業とだけに捉えず、広告やマーケティングに関わる人々に向けて、既存の大企業の関与・参画・改革も含めたビジネス全体の活性化への挑戦や、新しい経済エコシステムが生まれてくるエネルギー、循環につながる動きと捉えて、現況やトップランナーたちを紹介したいと思う。スタートアップの広告キャンペーンに限らず、スタートアップと大企業双方の相互理解やインタラクションを増やし、ビジネス活性化につなげていきたい。

私自身は、自社およびクライアントの事業開発や事業投資に関わる仕事をしていて、カンファレンスやイベントに、講演者、審査員、時にはピッチプレゼンターとしてチームで参加することもある。そういった立場から、広告会社、事業会社視点でスタートアップの現状などをご紹介したい。

「スタートアップってどんな感じかよく分からないんだよね…」

自社内でも、こうした話を聞くことが多い。スタートアップ周辺で耳にする言葉は、インターネット業界のワードと資金調達のワードとが混じり合ったものが多く、広告業界のみならず、一般的にはなかなか分かりにくい。

初回では、全体のイントロダクションとして、

  1. スタートアップとその背景
  2. スタートアップのプレーヤーとエコシステム
  3. スタートアップの成長フェーズとビジネス課題
  4. スタートアップと大企業の関わりやオープンイノベーション

について記していく。

日本ではおよそ1年で20数万社が創業して、ベンチャーキャピタル(VC)の投資を受ける企業が約千数百社、そして株式公開(IPO)に至る企業が70~80社といわれている。IPOが全てのゴールではないが、そこに至るまでの企業成長を概観してみよう。

1.スタートアップとその背景「スタートアップとは急成長を目指すチーム」

スタートアップとベンチャー企業とはほぼ同義のように使われるが、双方とも起業家精神を持ちリスクを取って、新たなビジネス領域での価値創造に挑戦する新興企業といえるだろう。その中で特にスタートアップとは、米国の著名なインキュベーター「Yコンビネーター」創設者ポール・グレアム氏がStartup=Growthと象徴的に言うようにイノベーションを起こし短期の劇的成長とエグジットを追い求めるチームという点がなによりも特徴的だ。世の中を変えようとする、急激な成長を求めるエネルギーが世界的に新しい経済成長のエコシステムを生み、新たな雇用や非常に大きな時価総額を生み出している。

スタートアップが生まれる背景は、近年のインターネット技術進化、デバイス進化、低価格クラウドサービス、国際的な資金の流れ、人材や労働の流動性、ソーシャルネットワーキング、環境意識の高まり、健康意識の高まりなど、いわゆる世界的メガトレンドがあるだろう。こうしたトレンドからビジネスの循環が生まれ、挑戦や成功、再挑戦が生まれている。このようなトレンドに該当するスタートアップ企業は、皆さんもいくつか挙げられるはずだ。

日本国内の状況を列挙してみよう。VCや経済産業省が主催・後援する数百から千名を超えるイベントが大きな盛り上がりを見せている。クラウドファンディングなどの資金調達手法も登場し、数10~数100億円規模のファンドの新規組成や大企業によるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の設立も活況を呈している。それに伴い、数年前では数億円規模で大型調達とにぎわっていたものが、最近では数十億円規模の資金調達もメディアをにぎわせている。また、株式市場でのIPOも伸びており、2013年では58社、2014年では70~80社、2015年には3桁に到達する観測も出ている。VCの投資額も2012年の約1千億円から、2013年は約1800億円と急伸している(同時に日本のVC投資は、米国の20分の1、EUの3分の1の規模で、まだまだ成長余地があるといえよう)。日本では米国に比べIT関連への投資が約60%と多いが、バイオ、ヘルスケア、工業、エネルギーなども増えてきている。大手企業でもスタートアップと組んだハッカソン、アイデアソン(テーマを決めて、短時間でサービスをつくり上げるイベント)が増えたり、スタートアップへの支援、協業、投資を目的としたアクセレータープログラムが生まれてきたりしている。

2.スタートアップのプレーヤーとエコシステム

スタートアップのエコシステム

こちらは、スタートアップのエコシステムを図式化してみたものだ。アイデアが生まれて事業を開始して、成長させて、エグジット、あるいは事業清算を行い、さらには再起業、連続起業を行うという流れである。内側にスタートアップの成長ステージ、その外にビジネスイベント、一番外に関係するプレーヤーを配置した。これらについて、主にスタートアップの成長に関わる部分を説明しよう。

創業期(シード、アーリー):
アイデアを生み出し、プロトタイプ(デモ)をつくり事業準備や会社設立を行う段階をシード。事業開始して間もない状況をアーリーなどと呼ぶ。この段階では、エンジェル投資家からの出資や、インキュベーターやアクセラレーターといった投資家・育成家の数カ月にわたる育成プログラムでプロダクトを磨き、メンターシップを受けて、次の資金調達やステージに向けて活動する。シード・アーリー向けの投資家からの出資を受けたり、ベンチャーキャピタルやメディアが主催するピッチイベントに参加して認知を上げたり、ビジネス接点を増やす活動も始まる。シード段階での資金調達をシードラウンド、アーリーでの資金調達をシリーズAなどと呼ぶ。
成長期(ミドル):
プロダクトが安定し、事業の安定、収益の拡大が見えて、ビジネスも人員も急速な成長を始める時期。ベンチャーキャピタルからの投資で増資し財務体質を強化したり、プロダクトの拡張やビジネスアライアンスを強化し始めたりする時期。、マーケティングの強化も行う。ビジネス人材の採用や、弁護士、公認会計士、弁理士などプロフェッショナルサービスの元で企業体制も整え始める。この段階での資金調達はシリーズB(さらに進むとシリーズC)にあたる。
成熟期(レイター):
事業が成長・発展してきて、株式公開やM&Aなどのエグジットを検討する時期。事業シナジーを目指した大企業との協業ビジネスも行われる。マス広告の実施で大規模なユーザー獲得などを行う場合もある。IPOなどの場合では証券会社による上場準備も行われる。大手企業によるM&Aという流れも出てくる。この段階での資金調達をシリーズC(さらにシリーズDなどもありうる)などと呼ぶ。

もちろんこのような成長過程は一様ではなく、昨今のソーシャルゲームサービスやニュースメディアサービスのようにアーリー段階から大型のテレビ広告キャンペーンを行う企業もあれば、シード段階から国際展開を果たすものもあり、ミドルのフェーズで企業売却を果たした後にシリアルアントレプレナー=連続起業家として活躍をするという流れも生まれている。

スタートアップの血液でもある資金供給の観点からこれらステージは語られることが多いが、その新しい動きを報道したり支援したりするメディア、成長パートナーとなる大企業の活動も非常に重要であることは言うまでもない。こうしたサイクルが大きくなり循環することで経済の活性化が生まれてくるだろう。

 

3.スタートアップの成長フェーズとビジネス課題

この図は、成長フェーズとビジネス課題についてまとめたもので、「2.スタートアップのプレーヤーとエコシステム」でのビジネスイベントを、より具体的にビジネスタスクとして記した。さらにスタートアップ側のステージごとの課題に対応する広告・マーケティング領域での課題も併記した。先述の通り急激な成長を果たすスタートアップでは課題が前倒しだったり、シードからレイトまでが超圧縮のこともしばしばある。

4.スタートアップと大企業の関わりやオープンイノベーション

ミドル~レイトのステージでは、大企業との関わりが生まれてくることが多い。電通でも、ネット領域などのスタートアップ企業に対するマスコミュニケーションやネット広告のマーケティング活動支援が近年急速に増えてきた。さらにこうした広告マーケティングだけでなく、早いステージでの国内外に向けたマーケティング支援やイベント支援、プロダクト開発支援、共同開発などの事例も出てきている。最新テクノロジー、ビジネスモデルなど、広告会社としてもスタートアップのエコシステムへの関与でビジネス機会や事業成長のチャンスを強く感じるようになっている。

また、電通の主要クライアントである大企業でも、この時代にふさわしいイノベーションの模索に強い要望があり、大企業とスタートアップが協働するオープンイノベーションへの機運の高まりを感じている。電通ではその支援プログラムも行っている。

大企業ではイノベーションを求めつつも、事業の選択と集中が進んでいるため自社リソースだけでは新領域開拓が十分に行えず、外部リソースの活用が急務になっている。また大企業ゆえの意思決定プロセスなど、事業開発スピードも課題になることが多い。さらに外部人材を受け入れる土壌の有無も指摘される。一方でスタートアップ側でも技術力とスピードは保有しているが、業界知見や慣行などの知識不足、提案力・人脈不足などの課題がある。双方の課題を解決する上で、大企業側からのインキュベーションプログラムが生まれつつある。このようなプログラムでは、発注主と受託先という関係ではなく、事業創造に向けてテーマやリソースを生かし、事業開発を行い、相互に高めていくことが前提になる。アメリカではディズニー、GE、コカ・コーラ、ナイキ、マイクロソフトなどトップ企業主催、また企業幹部の参画によるプログラムも出てきている。

このように、私たちはスタートアップを起業とだけに捉えず、既存の大企業の関与・参画・改革も含めたビジネス全体の活性化への挑戦や、新しい経済エコシステムが生まれてくる循環につながる動きであると捉えている。次回以降、スタートアップ周辺でのトップランナーたちの活動を紹介したいと思う。

参照:中小企業庁「中小企業白書」、経済産業省「ベンチャー有識者会議」資料 2014、般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)ニュースリリース、長谷川博和「ベンチャーマネジメント事業創造入門」日本経済新聞社 2010、ほか

プロフィール

  • Fmnakajima1
    中嶋 文彦
    株式会社電通 CDC 部長 事業開発ディレクター

    電通でマーケティング局、営業局で国内外のクライアントのマーケティング戦略と実施を担当。退職後、アイ・エム・ジェイに転職。ネットマーケティング部門運営、子会社役員、CCCのTポイントECモールの事業化などを行う。2008年末に電通再入社。現在は、位置情報データやセンサー技術などを活用して自社、クライアント、パートナー企業との事業開発、サービス開発を行う。モバイル広告大賞、グッドデザイン賞など受賞。1971年生。

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