電通こころラボNo.1
「カウンセリング×広告」で
新たなソーシャルサービスを拓く
2014/11/13
電通こころラボと電通マクロミルインサイトでは、心理カウンセラーのネットワークである全国心理業連合会(全心連)の協力を得て、心理カウンセラーがグループインタビューに関与する「カウンセリング・グルイン」を開発しました。全心連代表理事の浮世満理子さんに、心理カウンセラーのスキルの面から、「カウンセリング・グルイン」に対する期待などを語っていただきました。
心理カウンセリングは狭いスキルだと思われている
大屋:「カウンセリング・グルイン」では、浮世さんが代表理事を務めていらっしゃる全国心理業連合会にご協力を頂くことになりました。人の話を聴き、読み解くことを得意とする心理カウンセラーの方々とコラボレートできる仕組みができたことは画期的なことだと思います。
笹木:これまでマーケティングや調査に心理カウンセラーが直接かかわる仕組みはなかったと思うのですが、「カウンセリング・グルイン」についてはどのような印象をお持ちですか。
浮世:「カウンセリング・グルイン」という仕組みによって、さまざまな社会経験と高い専門性を持つカウンセラーたちが、自分たちのスキルを世の中に還元していく道ができたのではないかと思います。
このたびのコラボレーションには非常に可能性を感じています。
皆さん、心理カウンセラーという職業があることはご存じなのですが、心理的な問題を解決するだけの狭いスキルだと思われることが非常に多いと思います。実のところは、社会心理を学んでいたり、統計データに強かったり、さまざまな得意分野を持ったカウンセラーがいるわけですね。
全心連には、企業の商品開発に携わっていた人、子育てをしてきた人、消費者目線でいろいろなことを体験してきた人など、さまざまな経験知を持つカウンセラーが所属しており、かつ、一定の基準を満たした統一資格を持ったカウンセラーの集団であることが一つの特徴です。
カウンセリングは筋トレに似ている
大屋:心理カウンセラーの仕事というのは、心に何かしらの問題を持った方たちだけのためというイメージがありましたが、それだけではないということですよね。
浮世:これまでのイメージは、あまりにも限定的だったと思います。そもそもカウンセラーが最も得意とするところは、物事を整理することなのです。情報だけでなく感情面を整理してあげることによって深層心理的な部分にアプローチするのが私たちの基本的なスキルなんです。
例えば、ストレスがあってときどき電車に乗れない、めまいがするという人がいるとしましょう。お薬を差し上げて、「おうちで寝ていなさい」と症状を取り除くのがお医者さんの仕事だとするならば、心理カウンセラーの仕事は、その人の話を聴いて、「何がストレスになっているのだろう」「電車に乗ることがなぜストレスになるのだろう」ということを分析し、それに基づいてケアをします。
私はよく、カウンセリングは筋トレと似ているというお話をします。重い荷物を持って腰を痛めてしまったけれども、筋トレを続けたら、「このぐらいどうってことないでしょ」という具合になりますよね。要は、「筋トレを続ければ、あなたはこれだけの荷物が持てますよ」と励ましながら、少しずつ高めていってあげるのがカウンセリングです。
きちんとお話を聴いて、その人の感情や価値観を整理する。混乱してグチャグチャになっているためにつらいのだとしたら、整理されるだけでほとんどの悩みは解決する。私たちは「自分を育てる」という言い方をしますが、カウンセリングとは、自分を育てていくトリートメントや学びなのだということが、正しく理解されていないように思います。
話を聴く力を商品化した「カウンセリング・グルイン」
笹木:ケアというお話がありましたが、ケアをするためにはまず人の話を聴く力が求められます。今回、まさしく話を聴く力をグルインというかたちで商品化したのが「カウンセリング・グルイン」です。基本的には、質問や調査手法に関してアドバイスを頂き、調査当日はグルインの様子を聞いて、どういった深層心理が把握されたのかをレポートにして頂きます。さらにオプションとして、グルインのモデレーター役をお願いすることもできます。
浮世:ケアもグルインも、相手の話をきちんと聴いて、行動や感情、価値観を整理し、分析するところまでは一緒です。分析をベースにケアのプログラムに進めば心理セラピーと呼ばれるカウンセリングになりますし、レポートのかたちにして提供すればグルインになるわけですね。
心理分析には心理テスト、絵画、コラージュ、ミニチュアを並べる箱庭、フォトといった調査手法があります。そうした手法によって、「口ではこう言っているけど、本音はこうだ」というような部分や、あまり自覚のない、「意識しているのはこういうことだけど、無意識には違うことを考えている」といった、表層的な価値観よりもう一歩進んだ内面的な価値観が浮き彫りになってきます。いずれの手法にも、言語化しにくい、無意識の領域が見えやすくなるという特徴があります。
例えば、ある道を右に行こうか、左に行こうかと迷って、何となく決めることってありますよね。実際に写真を撮ってみると、右に見えた風景と左に見えた風景は異なっていて、異なる要素を瞬時に判断して選択しているわけです。それは、商品を選ぶときも同じで、嗜好品だけではなく、必需品といわれる食品や生活用品の選択にも価値観や志向が入ってくる。「別に好きでも嫌いでもない」という言葉の中に何か隠れた興味があるのではないか、「これが好き」と口ではいいながら、何か抵抗感があるから買わないのではないか。
無意識の心理を浮き彫りにして、こういう傾向があるのではないか、このような価値観を持っているのではないかと分類していくことによって、深い顧客理解が可能になります。
エッジに基づいた仮説はマーケティングにも役立つ
大屋:定性調査の分析手法にも心理学をベースにした手法はあると思いますが、「カウンセリング・グルイン」の特徴は心理カウンセラーが直接参加することで、そこに大きな意味があると思うんです。
浮世:カウンセリングやグループインタビューから出てきたデータを読み解く際には、いくつかのポイントがあります。まず、さりげない言葉、なにげないしぐさを見逃すことなく、エッジを立てていく。例えば、「別に」という言葉があります。普通は「どっちでもいいんだ」くらいに考えてしまうと思いますが、「別に」という言葉にも意味があって、どちらかというと拒絶しているのかもしれない、と分析したりする。心の深いところで会話をすることをなりわいとしている心理カウンセラーは、ひとつの言葉やしぐさから出てきたサインを見逃さず、エッジが立てられるわけです。
さらに、そのエッジに基づいて仮説を立てます。「別に」という言葉は若い子がよく使いますが、拒否しているわけではないけれども、聞かれたこと自体が不愉快だという気持ちの表れだったりする。だとすれば、どの言葉を不愉快に感じたのか、あるいは、不愉快に感じる人はどういう性格傾向で、どのような成育歴を持ち、どういう環境に置かれているのか――いくつかの軸を設定し、仮説を立てていきます。例えば、「別に」と答えた若い子は、実は経済的なことを聞かれることに違和感というか抵抗感があった。では、なぜその子は経済的なことを聞かれるのが嫌だったのか。豊かさについて話しているけれども、実は経済的に不安を抱えているのではないか、というような仮説が立ってくる。そういった仮説を複数組み合わせていくことによって、世代ごとの特徴や、ある一定のカテゴリーに属する人たちの特徴、共通項を抽出していくことができます。そうした仮説もマーケティングに非常に役立つと思います。
心理カウンセリング×広告という掛け算
笹木: 「買いたくなる気持ち」というのは言語化しにくいところですから、カウンセラーの方に言語化したり、編集していただいたりすることはとても有意義ではないかと思います。
大屋:私たちプランナーが言うのと、専門家の方に「心理学的にこうです」と言い切っていただくのでは説得力がまったく違ってくる(笑)。
笹木:「カウンセリング・グルイン」では「心理カウンセリング×グループインタビュー」という掛け算が実現したわけです、今後いろいろなコラボレーション、さまざまな展開が考えられそうです。
浮世:こころラボさんとの共働によって、新しいつながりや、新しいソーシャルサービスの可能性が開けるのは非常に大事なことです。私たちカウンセラーは経験知も含めた専門性を磨いてきましたが、カウンセラーだけのチームでは社会的な接点もなかなかできません。企業さんにとっても、私たちにとっても、社会に必要とされるソーシャルサービスが生まれてくる場になっていけば、すごくうれしい。
自分たちの意識改革も含め、より社会に役立ってこそ一つの仕事、職業として成り立っていく。心の時代、個の時代といわれて久しいですが、私たちカウンセラーが黒子として、後ろ支えさせていただく、そうしたかたちで社会へのお役に立てるように頑張っていきたいですね。
大屋:心に向き合うスキルというのは普段の生活にもすごく役に立つことですし、私たちのようにコミュニケーションを仕事にする場でも生かすべきスキルであることを実感できたように思います。
笹木:「カウンセリング・グルイン」を開発するプロセスの中で、話を聴く力を軸にすると、心理カウンセラーの分野と広告の分野が実はとても近いことに気づけたのは僕にとってもすごく大きい。異なるプレーヤーが共働することによって、新しい商品やサービスの開発にもチャレンジしていきたいですね。