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ワカモンのすべてNo.32

中村隼人×竹山香奈:後編「日本の伝統文化と生きる。ワカモン的『歌舞伎』考察」

2014/12/17

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前回に続き、歌舞伎役者の中村隼人さんにワカモンメンバーの竹山香奈さんがお話を聞きました。伝統文化を継承する強い意志と今時の若者らしい感覚を併せ持つ中村さん。話題は近年の「グローバル化」にまで広がって…? 今すぐ歌舞伎を知りたくなるエピソードが満載のインタビュー、いよいよ後編です。

竹山氏、中村氏(右)

現代のメディアと歌舞伎の世界

竹山:現代の若者にとって、歌舞伎は「特別なもの」というイメージがあると思うんです。でも、テレビドラマや映画などのメディアに登場して注目を集める歌舞伎役者さんもいらっしゃいますよね。そこから歌舞伎に興味を持ってもらって、新しいファンも生まれていって、という流れができているように感じているのですが、実際はどうですか?

中村:たしかにそうだと思います。でも、他のメディアには出ずに歌舞伎一本でやっている人がほとんどです。テレビなどに出ている人は歌舞伎役者全体の1割くらいでしょうか。

竹山:意外と少ないんですね。若い人に歌舞伎を知ってもらうきっかけとして、テレビや映画など、他の舞台に積極的に出たり、活動の領域を広げていくことについて、隼人さんご自身はどう感じていますか?

中村:そこは強化していかなければいけないところだと思っていますが、俳優さんって、何千、何万人という大勢の中からオーディションなどをくぐり抜けて選ばれてきた人ですよね。ですから、そういう人と同じフィールドで対等にやっていこうとすると、僕らには勝てないところもあります。個性だったり、魅力だったり、いろいろあると思いますが、何か強烈に光るものがなければ、生き残っていけないと思います。

竹山:他のメディアにも出るということは、かなりの覚悟が必要ということですね。

中村:まず前提として、通用するかどうか。出るなら覚悟も必要だし、戦っていかなきゃいけない。だからこそ、他のメディアに「出る人」と「出ない人」にはっきりと分かれるんだと思います。ただ、出ないことも勇気だと思うんですよね。「夢の中の人であり続ける」というか。

竹山:なるほど。歌舞伎を見る側からすると、舞台の上は「非日常」である意味「夢の中」ですもんね。そこだけで生き抜いていく、ということも一つの覚悟ですよね。

なぜ、若者は歌舞伎を見ないのだろう?

竹山:歌舞伎で演じられている物語の中では、現代では思いつかない、想像できないような文化や考え方が出てきたりしますよね。

中村:昔は当たり前だったことが、時代や社会や政治が変わって、今の僕らからするとあり得ない感覚になっているんですね。だから若い人が見に来ないのかなとも思うんです。

竹山:それは感覚が違い過ぎているからということですか?

竹山氏

中村:そうです。今のメディアは分かりやすいものが良しとされているけれど、歌舞伎って、それに比べると圧倒的に分かりにくいですよね。最近は「GOEMON」のように、現代人の感覚に合わせた歌舞伎もありますが、基本的には何百年も続く演目を忠実に守っています。僕はそれも歌舞伎の魅力の一つだと感じていますが、もしも自分が歌舞伎の家に生まれていなかったら、「どうしてそういうものを守っているんだろう?」と思うだろうし、舞台も見に行かないかもしれません。

竹山:ワカモンでは「リーズナブル消費」と呼んでいるのですが、「何か理由がないとお金を使わない」といったように、今の若者は消費の対象に対して明確な意味や理由を求める傾向があります。

中村:それは分かるような気がします。歌舞伎のチケットは、1等席だと1万8000円くらいします。自分が歌舞伎を知らなかったら、「そのお金で映画を10回も見に行けるじゃん」と言いそうです(笑)。

竹山:いかにも最近の若者っぽい意見です(笑)。

中村:ですから役者としては、歌舞伎を見に来てくださることは本当にうれしいんです。

竹山:金銭的なハードルを一つ乗り越えてでも見たいと思って来てくださるのですものね。

中村:そうです。ただ、「時間とお金のある人が見るもの」というイメージはまだまだ根強い。歌舞伎って、江戸時代は庶民が子どもといっしょに家族みんなで見に行くような親しみやすいものだったのに、今はステータスを示すためのものになっているというか。それはそれでいいんです、そうじゃなければここまで守られなかったと思いますし、それだけ歌舞伎が尊重されているということですから。それに、見ていただくことで役者としても成長できる。ただ、僕は今のお客さまに喜んでもらうことはもちろんですが、若い人にも歌舞伎を知ってもらいたいと思っています。

伝統文化を知っておけば、国際社会も怖くない

竹山:先ほど「リーズナブル消費」について少し触れましたが、隼人さんが同世代の人に歌舞伎や伝統文化に触れるメリットや価値を伝えるとしたら、どんなことが言えますか?

中村:最近は公用語を英語にするという国内の企業がありますよね。「授業は英語だけ」という大学もありますし。なぜそこまで英語にこだわるかといえば、きっと国際社会に出たいからだと思うんです。それなら、実際に海外に出た時、歌舞伎は日本が誇れる文化として堂々と自慢できるものなんじゃないかなと思っていて。

中村氏

竹山:私たち日本人が海外の文化が気になるように、相手も日本の文化が気になるはずですものね。歌舞伎は海外でも公演されていますし。

中村:僕の友達で海外に留学した人がいたのですが、海外の人は「日本といえば『茶道と弓道と歌舞伎』」って思っているそうです。「日本人はみんなお茶をたてられるし、歌舞伎を理解していて当然」という感じらしくて。留学先で友達が「歌舞伎、見たことある? あなたは歌舞伎、できるの?」って聞かれて、「見たことないし、できない」って答えたら、すごくがっかりされたらしいんですよ。そういうきっかけがあって、「隼人、歌舞伎のチケットをとって」って言ってきた友達が周りにたくさんいます。

竹山:へえ、そうなんですね。海外からの“日本フィルター”を通して、自国の文化を見つめ直すきっかけになっているんですね。

中村:だから、本気で海外に出たいと思うなら、好きでも嫌いでも一度は歌舞伎を見ておくといいんじゃないかと思うんです。接待でも歌舞伎鑑賞って使われていますし。

竹山:「百聞は一見にしかず」ということですね。具体的に、若い人でも見に行きやすい舞台はありますか?

中村:「GOEMON」や「六本木歌舞伎」は20代のお客さまもたくさんいらっしゃると思います。それから、毎年1月に浅草公会堂でやっている「新春浅草歌舞伎」も若い人は多いですね。チケット代もお手頃ですし。僕も2015年のこの舞台に出ます。

竹山:どういった演目をやられるんですか?

中村:若手の役者7人で、先輩方が歌舞伎座などの大劇場でやっている古典の演目をするんです。けっこうプレッシャーですし、「お客さまを集められるのかな」とか、僕らはもう必死なんですよ(笑)。

竹山:歌舞伎を知らなくても「同世代の人が出ている」という理由だけで見に行ってもいいですよね。歌舞伎という伝統を継ぐ同世代を間近で感じることで、もしかしたら興味が持てるようになるかもしれませんね。

中村:きっかけは何でもいいと思うんです。若いうちに見て「ちょっと違うな」と思ったとしても、30代、40代になってから「また見てみようかな」と思えるかもしれませんし。まずは実際に見て、感じてみること。それが大切だと思うんです。


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【ワカモンプロフィール】
電通若者研究部(通称:ワカモン)は、高校生・大学生を中心にした若者のリアルな実態・マインドと向き合い、彼らの“今”から、半歩先の未来を明るく活性化するヒントを探るプランニングチームです。彼らのインサイトからこれからの未来を予見し、若者と 社会がよりよい関係を築けるような新ビジネスを実現しています。現在プロジェクトメンバーは、東京本社・関西支社・中部支社に計14名所属しています。ワカモンFacebookページでも情報発信中。