仕事の創り方を変えよう! #07

西井美保子×小島雄一郎×廣田周作:コンプレックスを力に変える仕事術

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    西井 美保子
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター チーフプランナー
  •            3
    小島 雄一郎
    株式会社電通 プロモーション ・デザイン局
  • Take 02 6559 hirota
    廣田 周作
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

この企画では、廣田周作さんの著書『SHARED VISION』発売を記念し、これまでさまざまな「半歩踏み出した働き方」を実践する方々との対談を行ってきました。

今回は特別編として、12月に宣伝会議より『なぜ君たちは就活になるとみんな同じようなことばかりしゃべりだすのか。』を出版予定の電通若者研究部の小島雄一郎さん、西井美保子さんを加え、下北沢の書店B&Bで3人によるトークショーが開催されました。「コンプレックス」という共通点を持つ3人が、本音で語り合います。

「仕事の創り方を変えよう!」下北沢B&B

コンプレックスの正体

西井:今回、テーマにするのは「劣等感」「コンプレックス」です。自分なりの働き方を見つけていく上で、実はコンプレックスが鍵になっていたりするのではないかと。

廣田:そもそも広告業界の仕事って、競合プレゼンがあることが象徴ですが、常に競争にさらされていますよね。さらに、クリエーターの世界には「賞」がある。それだけにコンプレックスが生まれやすい業界なのかもしれないと思います。

小島:私が2012年に『広告のやりかたで就活をやってみた』という書籍を書いたのも、コンプレックスがあったからです。すごい活躍している同期がいて、同期の中で一番最初に書籍を刊行して、「うらやましいな」という気持ちが生まれて。でも当時の私は営業にいて、出版社から声がかかるような知名度はなかった。そこで、企画書を複数の出版社に送ったんですけど、そこで反応していただいた中の一社が宣伝会議さんでした。

廣田:西井さんは、入社2年目で書籍も刊行して、周囲からうらやましがられる方だったのでは。でも、そんな西井さんにもコンプレックスがあるんですよね。

西井:私のコンプレックスは周囲に対してうらやましいとか、人と比べての劣等感というところから生まれるものというよりは、自分が「こうありたい」と思う姿と現実のギャップが埋まらないことのフラストレーションから生まれているもののように思いますね。

小島:西井さん、一人だけコンプレックスの種類が違いますね。

コンプレックスを力に変えた、ターニングポイント

ストラテジック・プランナー西井美保子西井:3人それぞれコンプレックスを抱えているわけですが、仕事でのコンプレックス体験の中で「これがあったから自分の意識が変わった」といった出来事はありますか。

廣田:僕はCMプランナーになりたいと思って入社しながら、ビッグデータ分析の仕事をすることになってしまいました。モヤモヤした気持ちを抱えていた時、ツイッターに出合ったことが意識が変わるきっかけになったと思います。2010年くらいから、ツイッターがマーケティングに使えるのではないかと思い始めて、社内でいろんな人に「これからはソーシャルメディアの時代が来る!」みたいなことを説明して回ったんですけど…なかなか理解してもらえなくて。揚げ句の果てに、あだ名が「つぶやき」になりました。結局、その後ソーシャルメディアがマーケティングの場で活用されるようになって、コミュニケーション・デザイナーとしての仕事につながっていくのですが、この時の悔しい思いが起爆剤になっていると思います。

小島:僕の場合は、流通企業のプロモーション担当として販促の現場で仕事をしていました。テレビCMをはじめとしたマス広告の戦略が川上にあり、店頭プロモーションはその戦略に連動して実施される。企画の大枠を決められた上で仕事をするという環境がコンプレックスになっていました。しかし、実際には戦略やマス広告だけで、人を動かすことはなかなか難しい。販売の最前線で“最終的に人をいかに動かすか”に関わる仕事はとても重要なものと思っています。今、「アクティベーション・プランナー」という職種を社内で提案しているのですが、そのことにもつながっています。

領空侵犯を起こせるユニットを

廣田:広告会社に限らず、大手の企業は分業化が進んでいるので仕方ないところもありますよね。僕も、そこには日々葛藤があって、企画の立案から実施まで、部署に関係なく動くことができるような働き方ができれば、と思って肩書を変えたりしています。とにかく、いろいろ関わってみたいなと思います。

西井:全てを統括する廣田さんみたいな人を育成するというのも方向の一つですが、全体が分かりつつ、他の専門分野にも領域侵犯できる人たちが集まった集団、小さなユニットがこれからの時代には合っているのではないかと思います。プランナー集団ではなく、プロジェクトを統括してディレクションできる人、アートディレクターやクリエーティブディレクターなどが集まってプロフェッショナルとして動。それがクライアントにとっても良いことにつながると思っています。「人」に依頼するのではなく「ユニット」に依頼できる体制が大事な気がしています。

廣田:ロールプレイングゲームのチームビルディングみたいな感じで、最初からいろんなキャラクターの人が集まると面白いユニットになりそうです。「勇者」だけが集まっても、機能するチームにはなりづらいですから。

小島:廣田さんにとっても「勇者」はクリエーティブディレクターですか?

廣田:僕の勝手なイメージですが、勇者は営業です。いろんな職能はあっても、最後は勇気、決断して厳しい状況に飛び込んでいく勇気のある人。どちらかというと、クリエーティブディレクターは魔法使いでしょうか。腕力ではどうにもこうにもできない時、魔法がかかると一気に解決することってありますから。

西井:マーケターだからマーケティング、プロモーションだからプロモーションだけをやるのではなくて、分業はありつつも、良い意味で領空侵犯をしていくことが必要だと思います。私たちはコンプレックスを元に、そこをやっているような気がしています。

小島:逆にコンプレックスがなくなると領空侵犯もしなくなるし、ひどくなると「自分の領域侵さないで」っていう人も出てくる気がします。

ポジティブな推進力に変わる瞬間

西井:それまでコンプレックスに感じていたことがポジティブな感覚に変わった瞬間はありますか。

アクティベーション・プランナー廣田周作廣田:僕の場合はデータ解析しかできないやつだと思われていたところを、ある時、僕のデータがとても役立つものと認めてくれる人がいた、みたいなことですね。

僕は、仕事を「規定演技」と「自由演技」みたいに分けて考えていて、リサーチャーとしてもとめられる規定演技をしっかりとやった上で、自由演技の部分に自分のアイデアをいっぱい入れて自主的に提案をしていました。あとは、マーケティングの本を週に2〜3冊読んで、ポイントをまとめた100ページくらいの「廣田メソッド集」みたいなものを作っていました。それを作っていると、何を聞かれてもだいたい返せるようになって。クライアントさんから「電通さん」ではなくて、「廣田さん」と呼ばれたときに、努力が報われたと思いましたね。

小島:私の場合は社会人になる、はるか前までさかのぼるのですが、小学4年生から中学2年までマレーシアに住んでいて日本に戻った時、「外国から来た転校生」として、なかなかなじめなかった体験がありました。周囲に溶け込もうと、ことさら「普通であること」を意識していたら、帰国して半年後の三者面談で先生に「小島君は褒めたいくらい普通の子です」と言われて…。それは、戦略通りだったんですけど「小島君って超つまらない人間」って言われた気もして、ずっとコンプレックスになっていました。それでバンドをやったり、美大を目指すと言ってみたりして変わった人、普通の人から外れる感じを目指したものの、結局自分の中にそういう部分がないので、うまくはいかなかった。就職活動のとき誰かに、「広告の仕事では普通であることが価値になるんだ」と言われ、「いいんだ、これで」と思えたのが転機でしたね。

今は、たくさんアイデアを出す仕事をしていますが、それは普通というか「真ん中」がどこにあるかがわかっているので、そこを起点に少しずつつずらしていくことでアイデアを量産しています。いきなりぶっ飛んだアイデアは出ないけど、真ん中が分かっているからたくさん出せて、出し切ったものを人のアイデアと組み合わせてクリエーティブジャンプを起こす、というようにポジティブに変えて仕事をしています。西井さんは、どうですか。

西井:私は転校が多くて、小学校時代に5回転校しています。その度に自分をプレゼンテーションする機会があって、小学2年生のときに失敗して以来、人前に出ることが苦手になりました。いまだに第一印象が悪いとよく言われます。

高校時代はギャルだったんですけど、ギャルだと思われると周りから舐められます。高校3年で大学受験をしようと決めて、髪を黒くして、猛勉強して偏差値が上がると先生の態度が、がらっと変わりました。そこで、自分の見た目を変えれば人の態度が変わる、自分が頑張った、変えた分だけリアクションがあることを実感しました。

小島:悪い印象を利用して、良い印象につなげられることに気づいたのがギャル時代ということですね。

転機としては、どこかのタイミングで「僕にはこんなコンプレックスがあります」って言えるようになることでしょうか。最近、対談した山田ズーニーさんも、やっぱり発信することが大事で「コンプレックスあります」って言ってしまうと、それを埋めるために何か行動が必要になるといったことを話していて、言葉に出すというのは方法としてあるなと思いました。

廣田:コンプレックスのない人はいないので、言うことで共感から関係を作れるということもありますね。

コンプレックスの見つけ方

西井:自分の中にあるコンプレックスの見つけ方、見つけるセンスってあると思いますか。

小島:今度出す『なぜ君たちは就活になるとみんな同じようなことばかりしゃべりだすのか。』を一緒に書いている保持壮太郎というクリエーターは「コンプレックスは才能の塊だ」ということを言っていました。コンプレックスを感じるから、成長しようと思うわけで、自分の嫌な部分や自分ができないことを見つけることがコンプレックスや才能を見つけることにつながると思います。

そういった意味では、廣田さんにとって自分ができていないなって思うことってなんですか。

廣田:できないというのとは、ちょっと違いますが、最近「35歳問題」というのを考えています。35歳は人生の折り返し地点で、自分はこうなりたいという未来への期待と、そう思っていたけどなれなかったという悔やみみたいなものの量が逆転するのがこの年代だというもので、思想家の東浩紀さんの受け売りなんですが。

 村上春樹さんの小説の主人公もこの年代が多く、パラレルワールドに行ったり、プールサイドで号泣したり、「中年の危機」みたいなものに直面することで、物語が動いていきます。僕も本を出したり、仕事の可能性は広がっていますが、次の10年の計画が立てられない。もう少し近い、未来の5年くらい先に向けてのモチベーションの上げ方をどうすればいいのかが見つからず、少しもがいています。

これまでのように、コンプレックスだけを燃料にして、頑張るモデルに限界が来たというか、コンプレックスという薪をくべても勢いよく燃えなくなっているのかもしれません。もちろん、まだまだ頑張らないといけないのですが。

小島:コンプレックスを力に変える生き方は35歳くらいまでしかできないと。

廣田:そういう説ですね。

西井:だとしたら、とりあえず今あるコンプレックスを燃料にして燃やしきるしかないですね。

違う業界にいる同世代への羨望とどうつきあうか

西井:せっかくなので、会場の方から質問を受けましょうか。質問に答えつつ、今後の野望をからませて。

質問者A:他の会社で働く同世代に対して、コンプレックスを感じています。皆さんはそういう意識はあるのでしょうか。

アクティベーション・プランナー小島雄一郎小島:僕が社内ベンチャーを始めたのはまさにそれが理由で、同世代でベンチャー企業をやっている人たちの飲み会に行って、ウェブ系の横文字とか知識を植え付けられて、「やばい」と思ったのがきっかけでした。彼らがすごく先に行っているような感じがして。転職か、社内ベンチャーかみたいな二択で後者を選びました。入社8年目になった今になって考えると、ベンチャー企業論、大企業論ということもまたコンプレックスを刺激する角度でもあるのかなと思っています。

廣田:社内にベンチャー気質を持った人はたくさんいます。ただ、組織が大きくて、形にできていないという問題はあるかもしれませんね。ただ、最近は変革のスピードが上がってきていて面白いプロジェクトもたくさん生まれつつあります。

西井:大手の企業には、事業家的な気質の人が少ないという問題があるかもしれません。大企業に所属していたら個人でリスクを背負って、何かを始めようという気持ちにはなかなかなりづらいと思いますから。

廣田:転職してきた僕から見ると、会社によってカルチャーが全然違うと思っています。それぞれプライドを持っている場所の違いが出ているな、と。そういうことを気づけたという意味で転職してよかったと思っています。

これからの野望というか、希望で言うと、NHK時代にドキュメンタリーを撮りたいと思っていたとき、当時の師匠から、確か哲学者のシモーヌ・ヴェイユの言葉と一緒に、「表現をするのは人を励ますためだ」と言われたんですね。実は、そういう気持ちは今も僕の中にあります。電通では今、苦しんでいる人とか悩んでいる人を少しでも励ましたい、そういう仕事がしたいと思っています。

小島:私は、クリエーティブにコンプレックスを感じていると話しましたけど、一方で、クリエーティブな人たちをとても尊敬していて、自分よりすごいと感じる部分を持っている人は、その分野で正当に評価されてほしいと思って仕事をしています。自分の角を落として丸くなっていく世界ではなく、それぞれが違うベクトルで尖っている人が集まって丸い世界を作りたいと思っています。コンプレックスを早めに消化してそれぞれの人が本当にやりたい、楽しいと思っていることが絶対に価値のあることだと思っているので、その方向に頑張れる世の中を作っていきたいです。

西井:私は今の教育制度に問題があると思っていて、自分の進むべき道に気づくターニングポイントは早ければ早いほどいいんですけど、その時期がどんどん遅くなっていると感じています。それで「とりあえず大学」、「とりあえずサークル」という行動につながって大学の進学率が上がり、サークルの所属率も10年前に60%を割っていたものが今は70%くらいになっています。そんな「とりあえず」の環境を作っていることに疑問を感じています。

そういう意識が働くのはクリエーティビティーとイマジネーションというふたつの「そうぞうりょく」が下がっているからで、その能力を上げることができる民間の教育にチャレンジしたいと思っていて、そこにつながらない仕事をできるだけ減らそうと動いています。ギャルラボとワカモン以外で部署として所属している「未来創造グループ」では「未来につながるかどうか」を基準に成果評価をしています。お金を稼げるかだけではなく、未来を作れたかどうかが仕事の評価の対象です。未来というのは若者が作るものだと思っているので、今関わっている部やプロジェクトを通して、若い世代のクリエーティビティーやイマジネーションの下地になればいいなと思って仕事をしています。

小島:というようなことを東洋大学で「ジブンと社会をつなぐ教室」として講義させていただいて、その内容をまとめた『なぜ君たちは就活になるとみんな同じようなことばかりしゃべりだすのか。』という本が発売されるので、よかったら買ってください。最後、無理矢理宣伝にしましたね(笑)。本日は、ありがとうございました。

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