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スタートアップって何?~新しい経済成長エコシステム~No.6

ベンチャーと大企業、テクノロジーの未来:TomyK 鎌田富久氏インタビュー後編

2015/01/27

前回に続き、今回もTomyK Ltd.の鎌田富久氏にお話を伺います。テックベンチャーが成功するために必要なものは何か、テクノロジーの変革によりメディアやデバイスがどのように変わっていくのかなど、興味深いお話をお聞きしています。

TomyK 鎌田氏(左)と電通 中嶋氏

 

スケールするには大企業との橋渡し役が不可欠

中嶋:TomyKでは、現在約10社のスタートアップパートナーがいますが、この先はどのような分野に関心を持ち、支援していこうと考えられているのでしょうか。

鎌田:2年くらい続けてきて、これをどうスケールアップしていくかを模索しています。1人でやるのは限界があるので、チームにして組織的に進めることも検討しています。面白いと思っていても今は手が出ていないのは、長期間の支援が必要なエネルギーや環境、医療・ヘルスケアなどの分野ですね。興味は非常に持っていますが、うまくやらないと難しい分野です。人工知能系にも興味がありますが、何かと組み合わせる必要がある分野ですね。農業についても、今後大きな革新があると思っています。

どのような分野であっても、大企業がスタートアップに興味を持ってくれて協業やM&Aを行うようになり、私たちスタートアップのプロダクトを少しでも多くの人に使ってもらうのが理想です。電通は、広告主として大企業とつながりがあり、広告の出口としてエンドユーザーともつながっているので、いろいろな側面での橋渡し役となってほしいですね。

中嶋:実際にスタートアップの橋渡しとなる取り組みをここ1~2年やってきて、やっと事例が出てきたという感じです。オープンイノベーションはやってみないと分からないという話から始まって、テクノロジーは使ってみながら取り込んでいくことが一番重要だと分かりました。電通内でもそのような動きが増えてきています。

私たちのチームも、スタートアップの技術や能力に大きな刺激を受けていますし、技術を広げるところから一緒にやっていきたいと考えています。今後、スタートアップとの連携は確実に増えてくる中で、早い段階からお付き合いしていくことが重要だと思います。これまでの電通は広告枠やプロモーション施策を通したお手伝いをしていましたが、サービストレンドの移り変わりが早いので、はじめの段階から成長フェーズを見ながらご一緒させていただくことが増えていると感じています。

 

インパクトのあるテクノロジーだけでなく、チームの目線の高さが肝

中嶋:話は変わりますが、鎌田さんの支援されているベンチャーには、それぞれ応援したくなるようなメンバーが多いような気がします。

鎌田:エンジェル投資を行うときの私なりのポイントは2つあって、1つはテクノロジーの中身で、もう1つはチームや人です。テクノロジーの方は、前述のように社会的なインパクトを与える可能性があって、現段階の延長線上で、今後コストを安くしたり性能を上げたりすることで人々や大企業がどんどん使ってくれることが想像できるかどうかを見ています。

チームや人に関しては、テクノロジーを商品化するまでに時間がかかるので、諦めずに粘れる人かどうかが重要です。投資する前には「最も成功した未来をどのように描いていますか」ということを必ず聞いています。その経営者が10億円程度のビジネスと答えたら、そこまでのビジネスしかできないのです。大きな目標を持って、プロダクトが使われているシーンや将来像を描ける人であれば、その通りにならないかもしれないけど賭けてみる気になります。

中嶋:テクノロジーのインパクトもあって、大きなビジョンがなければ、新しい産業を創るという大きなコンテキストには合致しないわけですね。

鎌田:そうですね。私が投資するのは創業のフェーズなので、事業計画などはなく、可能性だけの話となります。そうなると、可能性の大きさ、経営者の目線の高さが重要になります。自分の経験を振り返っても、自分がイメージした以上の現実にはならないので、そこをどう考えているかに興味があります。かく言う私も当時イメージしていた成功には遠いのですが(笑)。

中嶋:先ほど、失敗もいろいろあったとおっしゃっていましたが。

鎌田:人の採用について経験がなかったときは、失敗しましたね。人が増えてきたとき、組織をきちんとマネージメントできる人が欲しくなり、大企業で経験を積んだ人を採用したことがあります。その人のマネージメントに違和感があったのですが「大企業ではこれが普通」と言われて、基準の違いを感じました。結局、その方とは相性を考えてやむなく辞めてもらいました。辞めてもらうのも大変なのですが、基本的に最初は見る目がないので、何度かこういったことを繰り返して見る目を養ってきました。

プロダクトに関しては、タイミングを間違えるという失敗が多かったですね。インターネットテレビなどを20年前にやりましたが、早過ぎたし、大きな失敗でした。

中嶋:プロダクト化に成功しているケースも当然あるわけですが、それらはとにかく手数を出したのか、それとも当たると信じて出してきたのでしょうか。

鎌田:打席にいっぱい立たないとヒットも出ないので、打席に立つことは重要です。また、ホームランは打つ力がないと打てず、かといって狙って打てるものでもありません。さまざまな環境や要因、タイミングが重要で、そういったチャンスが来たときのために打てる力をつけておく必要があります。

一方で、力を持っていて粘っていれば成功するタイミングが必ず来るので、打席に何回も立って凡退しても諦めないことが必要だと思います。サービスやアプリのように、チャンスがあるタイミングで資金を集めて一気に行くことも事業としてはアリだと思いますが、テックベンチャーはベースのテクノロジーをしっかり究めて、いずれ来る“その時”をイメージできることが大事だと思います。

 

デバイスや人間との接点が多様化する中でメディアはどのように変わっていくか

中嶋:鎌田さんはiモードのブラウザーや、電通ともかかわりが深いですが、地上デジタルテレビの選局画面のインターフェースなどを手がけられ、メディアプラットフォームというものを長く見てきていらっしゃいます。そのような立場から、今後のメディアの行方や広告マーケティングの行方についてどのように考えられているのでしょうか。

鎌田:そこは自分自身も非常に興味を持っているところです。メディアという観点でいえば、人間との接点が何かということになります。テレビは非常に大きな接点となり、情報の発信や広告を出す強力な場となりました。今はスマートフォンやウェアラブルデバイスなど、次々に人と情報の新しい接点が出てきています。この先もその接点が増え、分散・多様化していく世の中となるのではないでしょうか。

特に、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)的なデバイスが増えていく中で、どのようにそれらを活用してメディアにしていくかが課題となります。ディスプレーや音だけでなく情報の提供方法も多様化していく中で、大きなチャンスでもあり、ゲームチェンジにもなる可能性も秘めていると思います。

そして前述のように多様化しているデバイスも、何が生き残って本流になっていくのかはまだ混沌としています。もしかしたら、メディアやデバイスのようなものは使わずに、ダイレクトに人間の記憶や脳、感覚に伝わるものが実用化されるかもしれません。そのような変化が始まる最初の段階に来ていることを感じます。

中嶋:デバイスやメディアの多様化が進む一方で、マーケティングに一定のスケールを求めるならテレビの方が効率が良いということも言われたりしています。その点についてはどのように考えていますか。

鎌田:テレビは相当効率が良いし、これをしのぐメディアはなかなか難しいとは思います。しかし、現在はテレビを見ている人全員が欲しくなる物というのが減ってきて、ニッチなニーズの集合体に変わってきていると感じます。例えば、1000人ぐらいの人たちが欲しがる物の場合、その1000人を見つけて情報を届けるにはどうしたらよいか、どのようなデバイスに出すと効果があるのかという話になるのだと思います。

中嶋:1000人、1万人、10万人、1000万人といった規模によって、設計が変わっていくのでしょうね。

鎌田:そのような世界がもうすぐ来る雰囲気があるので、メディア側も、先頭を走っている新しいベンチャーのテクノロジーを試しながら模索していくようになると思います。

中嶋:テレビ局やメディア企業もコーポレートファンドを持って新しい企業に投資を始めているのを、期待しながら見ているところです。また電通としても、そのようなテクノロジーを活用したマーケティングコミュニケーションサービスをもっと一緒に作り上げていきたいです。

テクノロジー集団を経営面で支える、ビジネスの分かる人材が成功のカギ

中嶋:鎌田さんの活動は東京や国内が中心ですが、アジアや米国の西海岸では展開しないのでしょうか。

鎌田:投資先としては日本しかやっていませんが、投資した企業はグローバルに成功してほしいと考えています。必ずしも、日本にいるベンチャーである必要はありません。

中嶋:2015年は何社くらいの支援を予定されているのでしょうか。

鎌田:今年で何社というよりは、どうやって今後テクノロジーベンチャーの支援・育成をスケールアップするかが課題で、何とか具体的に進めたいと思っています。支援先をちゃんと成功させることも重要です。成功して次のベンチャーを育てたいと考える人が出て来ることも期待したいですね。

中嶋:この記事の読者は、エンジニアよりもマーケターに寄った人が多いと思いますが、最後にメッセージを頂きたいと思います。

鎌田:エンジニア集団のベンチャーが垢抜けるためには、ビジネスを理解した人のジョインが重要となります。たとえば、ダイソンの創業者のジェームズ・ダイソン氏はあくまで創業者兼チーフエンジニアで、経営は自ら連れてきたビジネスの分かる人に任せて成功しています。

ビジネス側の人の中から、テクノロジーのチームに俺が入って大きくしてやる、くらいの人がどんどん出てくるといいですね。Googleで言えばエリック・シュミット氏など、成功したテックベンチャーにはビジネスや経営のスペシャリストが必ずいると思いますので、ぜひそういった目線でスタートアップ業界に興味を持っていただければうれしいです。