スタートアップって何?~新しい経済成長エコシステム~ #05

Googleも一目置くエンジェル投資家のベンチャー育成論:TomyK 鎌田富久氏インタビュー前編

  • Prfl kamada
    鎌田 富久
    TomyK Ltd. 代表 / 株式会社ACCESS 共同創業者
  • Fmnakajima1
    中嶋 文彦
    株式会社電通 CDC 部長 事業開発ディレクター

今回からは、独自技術を持つベンチャーをエンジェル投資家として創業支援し、グローバルベンチャーへと育てたいと考えているTomyK Ltd.の鎌田富久氏にテックベンチャー(最新の科学技術などを応用したテクノロジーを事業の軸としたベンチャー)の成長育成をお聞きしました。鎌田氏自身もiモードのブラウザーを開発するなど時代をつくったエンジニア、起業家、上場企業経営者といった幅広い側面を持っており、最近ではGoogleを相手に東大発のロボットベンチャー・SCHAFTの売却を成功させています。そんな鎌田氏に新進気鋭のベンチャーによる新しいプロダクト作りをどのように支援しているのかを2回にわたってお話しいただきます。

TomyK 鎌田氏(左)と電通 中嶋氏

 

新しい雇用を生み出す新しい産業を創出できるベンチャーを育成していく

中嶋:鎌田さんには、テックベンチャーやハードウエアベンチャーを中心に、日本からグローバルを目指す起業家にどのように関わっているのかをお聞きしたいと思います。まず、ご自身を投資家ではなく“スタートアップ・ブースター”と定義されている理由からお話しいただけますか。

鎌田:ACCESSというソフトウエア企業を経営してきた中で、大きく社会にインパクトを与えるイノベーションはテクノロジーが核になると考えていたので、テクノロジーにはこだわっています。日本は少子高齢化に伴って人口も減少トレンドになっており、社会保障が課題となっています。シニア層も働く必要があり、それによって若者の雇用が脅かされて仕事の取り合いが始まっています。

新しい雇用を生み出す新しい産業を創らなければ、ジリ貧となり、日本は行き詰まってしまいます。この課題への対策として、新しい企業が出てきて、その領域が一大産業になるほどのイノベーションが必要だと思っているのです。そのため若干時間がかかったとしても、成功したときのインパクトが大きいテックベンチャーを生み出したいということが、私のモチベーションとなっています。

中嶋:非常に壮大な構想ですね。

鎌田:壮大だけど、必要なことですよね。では、そのために何をしなければならないのか。テックベンチャーのベースは技術者なので、会社を経営していくこと自体が未知の領域です。もちろん経営に非常に興味があって、そこに技術が付いてくるというパターンもあります。しかし多くのテックベンチャーには経営の経験が欠けており、会社として立ち上げをするところからある程度形になるところまでが最も難しいと思います。

そこで、私は、必要であるならエンジェル投資を行って一緒に事業を立ち上げていこうと考えています。より踏み込んでインキュベーション(初期支援)を行って、一緒にジャンプするという感じです。ロケットがブースターと一緒に飛び上がるように“スタートアップ・ブースター”となり、しっかりと飛び上がって軌道に乗り、民間のベンチャーキャピタル(VC)が評価して出資してくれるまでの支援をやっていきたいと考えています。

中嶋:VC手前ということですね。そのような考え方に至ったのは、鎌田さん自身の研究者、起業家、経営者、投資家といった幅広い経験が大きく反映されているのでしょうか。

鎌田:そうですね。失敗したこともたくさんあるし、ゼロから始めて上場、M&Aなどひと通りの経験をしているので、若いベンチャー経営者が失敗しそうなところは大体分かります。少しでもショートカットできるように、アドバイスしていきたいですね。

枠組み自体を自ら起こすような新しさがなければ大きなイノベーションにはならない

中嶋:それは確かに心強いですね。TomyKのスタートアップパートナー一覧(http://tomyk.jp/activity/)を見ると、ロボットやIoT(Internet of Things)、宇宙、DNA解析など多岐にわたるジャンルのテックベンチャーが出てきますが、どのような基準で業種を選んでいるのでしょうか。

鎌田:基本的には興味が持てないと気合が入らないので、自分が好きな分野を選んでいます。最近のIT関連の技術は、スマートフォンやクラウドを中心に、ほとんどが米国勢にプラットフォームを握られています。その土台に乗って事業を行えば、ある程度の成功はできますが、枠組み自体を自ら起こすような新しさがなければ、大きなイノベーションにはなりません。そのような可能性を秘めているものを中心に支援していますね。

中嶋:鎌田さんのように“スタートアップ・ブースター”をしている人は、あまりいませんよね。

鎌田:起業段階で手を出すよりも、ある程度芽が出てきたところで投資して、5~7年でイグジットする(自社株を売却して利益を得る)のが一般的なVCのリターンモデルですからね。投資効率から考えると非常に悪く、手間ひまがかかるのですが、その手前を一生懸命やりたいと思っています。

私はエンジェル投資家がもっと必要だと思っているのですが、シリコンバレーに比べて日本はまだまだ数が少ないです。米国では年間のベンチャー投資の約5兆円のうち、2兆円がエンジェル投資と言われています。日本はベンチャー投資が増えたと言われてもだいたい2000億円くらいで、そのうちのエンジェル投資の割合は非常に少ないのではないでしょうか。

少し大きな話をすると、今出てきているベンチャーが成功して投資する側に回るまでを1ラウンドと考え、およそ1ラウンド=10年として3ラウンド(30年)すれば、3倍ではなく、3乗のペースでベンチャー市場が盛り上がると思っています。例えば、今私は10社ほど投資をしているので、同じように各社が10社ずつに支援をして、そこで育った100社がさらに10社ずつ支援をして1000社になる。このように投資環境が分厚くなっていくのが理想です。

中嶋:鎌田さんは、少子高齢化が変えられないメガトレンドとなっている中で、価値のあるイノベーションを生み出して、社会的インパクトを出してお金をつくり、産業を興すという壮大なコンテキストを描かれていると思います。サービス中心で利益を出して、上場を狙うといった考えとは異なりますね。

鎌田:例えば、ソーシャルゲームのスタートアップを短期間で成功させることも重要だとは思います。しかし、日本を代表するベンチャーとしては、ゲームだけでなくもっとテクノロジーに寄ったベンチャーが出てきてもよいと思いますね。もっとスケールの大きい実業家が生まれてほしいと願っています。

また、以前はハードウエアベンチャーがグローバルに展開しようとすると、販売網や営業を整備しなければならないなど、非常に体力が必要でしたが、今ではすぐにグローバルを狙える環境となっており、ネット販売もできるし、ソーシャルで宣伝もできます。アイデアさえ良ければ世界に持っていけます。TomyKでは、“最初から世界を狙い”日本でもやるというベンチャーを支援しようと考えています。

スタートアップが成長して最初に直面する課題は人の採用と組織づくり

中嶋:どのような比率や時間配分でベンチャーと関わっているのでしょうか。

鎌田:先程お話ししましたように今は10社くらいのサポートをしています。資金調達のフェーズでは事業計画作成の相談に乗ったり、VCにお願いしたりしますが、常にどこかの出資先が資金調達のフェーズになっているので、なかなかにぎやかです(笑)。

また、通常、投資判断は即決するので、投資先の相談に乗るといったことに時間をかけています。

中嶋:広告会社の仕事では、宣伝部長、マーケティング部長、ブランドマネージャーといった方々と日常的に接し、またマーケティングの側面から企業経営者とお付き合いすることが多いです。鎌田さん自身も経営者ですが、スタートアップの経営者はどのようなことで悩んでいるのでしょうか。

鎌田:まず、将来像を描いて会社の方向性を決めるところで、必ずしも最初に思い描いたものにはならない場合もあるので、どこを狙っていくのかという戦略的な悩みがあると思います。またB to Cの事業をしている場合は、ネット販売を利用するなど自分で計画できますが、B to Bで大企業を相手にする場合は、うまくやらないと相手に飲み込まれてしまうため、契約や取引をビジネスとして考える必要が出てきます。

中嶋:やりとりをちょっと間違えれば受託業者になりかねない場合もありますね。

鎌田:そこは、受託をやる代わりにノウハウを蓄積するのか、権利を取る代わりに価格を下げるのか、ある程度の権利を与える代わりにビジネス上のコミットを得るのかなど、複数の選択肢を戦略的に考えなければなりません。それらのどれが良いということの前に、さまざまな選択肢があることを示唆してあげることが多いですね。選択肢を示した上で、会社にとってどれが良いかを選ぶのは経営者ですから。

中嶋:実際に私もスタートアップの方々とやりとりして、お互いに良い着地点をうまく見つけられる場合は、鎌田さんやVCのような立場の人がアドバイスしてくれていることが多いと感じますし、その方がスムーズな取引ができると思います。

鎌田:人の採用や組織づくりの悩みもありますね。スタートアップは、最初は気心の知れた仲間と始め、次第に人を採用するというフェーズに入ります。その際に、創業メンバーの次の段階でジョインする人の採用が悩みとなりやすいですね。

別の話をすると、経理や労務・社会保険などの手続きに手間がかかり、その作業を人に任せたとしても経営者はそれらの内容を理解しておく必要があります。また、リソースが足りないからと妥協した採用をするのも良くないですし、だからといって理想の人を待ち続けることもできません。そのバランスを相談されることは多いですね。

中嶋:それらの相談に対しては、採用の気構えを教えるのでしょうか。それとも、具体的にご自身のネットワークから人を紹介するのでしょうか。

鎌田:採用は私もかなりの失敗をしたので、まず気構えを教えますね。優秀がどうかだけでなく、会社のカルチャーに合う/合わないということもあります。基本的には、チームのコアメンバーとして採用を考えるのであれば、創業者がその人と一緒に苦労して成功の道を歩めると思えるかどうかが一番重要ですね。リソースとしては欲しいが、そこまでの確信がないのであれば、しばらく契約やパートタイムで付き合ってみることも重要だともアドバイスしています。ベンチャー同士で、良い人材だけど自分の会社にはマッチしないという人を紹介し合うことも行っています。

中嶋:そういった情報交換の場は増えてきましたね。最近は毎日さまざまなイベントが行われ、エンジニアリングの勉強会なども行われています。


今回は鎌田氏の投資哲学やスタートアップの悩みについて伺いました。後編ではスタートアップと大企業のコラボレーション、メディアの未来について伺っていきます。

プロフィール

  • Prfl kamada
    鎌田 富久
    TomyK Ltd. 代表 / 株式会社ACCESS 共同創業者

    東京大学大学院 理学系研究科 情報科学 博士課程修了。理学博士。
    東京大の学生時代に、情報家電・携帯電話向けソフトウエアを手がけるベンチャー企業ACCESSを荒川亨氏とともに設立(1984年)、iモードなどのモバイルインターネットの技術革新を牽引。2001年に東証マザーズに上場、グローバルに積極的に事業を展開した。2011年に退任。2012年4月、これまでの経験を活かし、テクノロジーベンチャーを支援する会社TomyK Ltd.を設立。1961年生。

  • Fmnakajima1
    中嶋 文彦
    株式会社電通 CDC 部長 事業開発ディレクター

    電通でマーケティング局、営業局で国内外のクライアントのマーケティング戦略と実施を担当。退職後、アイ・エム・ジェイに転職。ネットマーケティング部門運営、子会社役員、CCCのTポイントECモールの事業化などを行う。2008年末に電通再入社。現在は、位置情報データやセンサー技術などを活用して自社、クライアント、パートナー企業との事業開発、サービス開発を行う。モバイル広告大賞、グッドデザイン賞など受賞。1971年生。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ