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スタートアップって何?~新しい経済成長エコシステム~No.4

マネーフォワード辻庸介社長インタビュー後編

スタートアップのテレビCMを見るとザワッとくる!? スタートアップのマーケティング戦略

2014/12/23

ソニーを経てマネックス証券へ。MBA留学で渡米し、その後独立してマネーフォワードを設立したマネーフォワード社長CEO辻庸介氏。最初のサービスは惨敗を喫しましたが、個人資産管理のマネーフォワードは順調に成長しています。また大手企業との提携も続いています。

今後、サービスをどのように成長させていくのでしょうか。電通 事業開発ディレクターの中嶋文彦が迫ります。

マネーフォワード・辻氏(左)と電通・中嶋氏
マネーフォワード・辻氏(左)と電通・中嶋氏

 

中嶋:マネーフォワードの今後の展開は?

辻:マネーフォワードで資産の現状把握ができるので、さらに一歩進めて資産管理のアドバイスをリアルとネットでできるようにするなどして、使っているだけで想定通りにお金が貯まるような、お金について心配する必要がなくなるような、生活に根差したサービスにしていきたいですね。現状でも非常に多くのユーザーが毎日ログインしていて、生活に密着しているので、さらにサービスを進化させていきたいです。

中小企業向けサービスでは、今まで人手とコストをかけていた煩雑な作業をテクノロジーで自動化して、もっとクリエーティブなことに時間をかけられる環境をつくりたい。世の中を変えるのはテクノロジーだと思っていて、マネーフォワードも従業員が50人くらいいる中で7割をエンジニアとデザイナーが占める、エンジニアドリブンの会社です。

中嶋:クレディセゾンやYahoo! Japanなど大手企業との提携での成長展開も続いていますね。今後もこうした事業提携なども活発に行っていくのでしょうか?

辻:そうですね。最近オープンイノベーションという言葉がはやっているかと思いますが、ベンチャーが得意なことは、スピード感をもって、ある意味野武士的な勢いでサービスやプロダクトを作っていくことだと思います。一方、スピード感は組織が大きいので劣るかもしれませんが大企業でしかできないことも数多い。そういった意味で、大企業の方々と組ませていただくことで、ユーザーに新しい価値を提供することができるのでは、と思います。最近、KDDIさんが話題のベンチャー企業を数社買収しているようなことが、これから日本でどんどん起こってくると思います。

採用で見るのはスタートアップに欠かせない3つのポイント

中嶋:創業時のメンバーはどうやって集めていったのですか。

辻:初めは何もない状態ですから、夢とビジョンと自信を伝えて口説くしかないですよね。今思うとよく来てくれたと思いますが…。知り合いで一緒に働きたいと思う人などを中心に声をかけましたね。

中嶋:社長の仕事は人集め、採用なのでいつも面談しているということもありますよね。人材ダイバーシティー(多様性)を重視ということですが、多様な人材をそろえるということは意識したのですか。

辻:ベンチャーの立ち上げの場合、実績もなにもない、最初は給料も十分には払えずで、なかなか優秀な人が来ないという現実もあります。なので知り合い経由での人集めにならざるを得ないことがあります。後、色々な方々に活躍してもらえるような、ダイバーシティーをつくらないと勝てないですよね。最近は、子育てで仕事を辞めた女性に声をかけて、すごく優秀な方に時短で働いてもらうことなどもしています。

採用では履歴書はほとんど見ないのですが、必ず見るポイントが3つあります。1つは能力、2つ目はチームプレーができるかどうか、そして3つ目がサービスが好きか、ビジョンに共鳴できるかということです。この3つがそろった人だけを採用して、2つ以下の人は採用しないと決めています。特にサービスを実現したいという思いがある人は入社後もぶれないですね。

オープンな雰囲気の社内。デスクワークが多い社員のためにバランスボールなども用意されている。
オープンな雰囲気の社内。デスクワークが多い社員のためにバランスボールなども用意されている。

 

経営者の役割はステージで変わっていく

電通・中嶋氏
 

中嶋:辻さんは、日々の業務をどういう割合で行っていますか。人事、戦略、プロダクト、資金調達など、どんなバランスで動かれていますか。

辻:時間の効率的な使い方は悩みでもあるんですが…。プロダクトのステージによって配分が変わりますね。起業してからの2年を4つの段階に分けると、去年の前期はプロダクト作りと人集め。プロダクトがある程度できてサービスとして安定した去年の後半は資金調達と人集め。そしてB2Bのクラウド会計を作り始めてまた資金調達と人集め。今年は良いクラウド型会計サービス、請求書サービスができたので、営業と広報にかなりリソースを割いています。

中嶋:プロダクトの成長につれ、やることの比重が変わるんですね。人材はどんなふうに割り振っているのですか。

辻:任せ切ってしまっていますね。事業推進の責任者、プロダクトの責任者、会計の責任者それぞれに采配してもらっています。KPIは毎日の朝会で、各責任者とは週1でミーティングしてそれぞれの進捗を確認するくらいです。それと隔週土曜日に経営ミーティングをして経営の課題を話し合ったりしています。

スタートアップがテレビ広告を入れるようになったわけ

中嶋:最近はスタートアップでもテレビ広告をするところが増えていますが、サービスを拡大するためにどんな戦略を考えていますか。

辻:テレビ広告はスタートアップがガンガンやっているので、心がザワっとしますね(笑)。やった方がいいのかなぁとか…。クラウド会計というところでは、古くからOBCの勘定奉行などがテレビ広告していますし。テレビとアプリの相性はいいと思うので、どこかのタイミングでやってみたいですね。

中嶋:テレビ広告もスタートアップのマーケティング施策の1つとして今後普通になりそうですよね。

辻:そうですね。2つ理由があると思います。1つはスタートアップが大きなお金を調達できる環境になったこと、2つ目が大企業経験のある経営者、連続起業家が増えて、経営者としてのスキルが高い人が増えていることです。メルカリさん、ラクスルさんもテレビ広告を始めましたし。手練ですよね。話していても学びが多く、広告、マーケティングも含めていろいろなことをよくご存知です。

中嶋:辻さんは、マネックスの松本さんのような巨匠が師匠で、さらに起業家の仲間もいて刺激のある環境ですね。

辻:自分は気が抜けているな、危機感が足りないなというときは、先輩企業家や仲間に会いに行って、叱咤激励されています(笑)。

サービスは数値で評価。ユーザーの行動がプロダクトを育てる

中嶋:マネーフォワードのプロダクトやブランディング、提供価値の整理などは社内で練っているのですか。

辻:基本的にはユーザーの行動を数字で見て決めます。というのも、自分たちの思い込みで、新しいサービスや機能をつくっても価値がないんです。サービスをつくる時は、誰がターゲットなのか、ターゲットのうちがどれくらいの割合が利用するのか、日にどれくらい使うかという仮説を立てて、実際の数値と比較します。たいていは仮説が過大評価になっていますね。あと、想定ターゲットとは違う人が使ったり、想定外の使われ方をしたり。コンセプトの整理はユーザーの動きを見ながら行っています。また、新たな機能を1つつくったら1つつぶすというようにドラスティックにやっています。

また、コミュニケーションではUI(ユーザー・インターフェース)とUX(ユーザー・エクスペリエンス)が占める割合が大きくなっていると感じます。マネーフォワードの競争優位性はテクノロジーですけど、ユーザーから見た時にはデザインがすべてで、一般の人がかっこいい、使いやすいと言語化しにくい部分で良いと思ってもらえるには、UIとUXが一番重要だなとも感じています。

マネーフォワード・辻氏と電通・中嶋氏。対談のようす。

無駄なことはない。過去の経験は未来につながるもの

中嶋:広告の在り方が変わってきている中で電通に期待することはありますか?

辻:マネーフォワードは、広告を出稿するだけでなく、自分たちでメディアをつくって媒体になろうとしています。お金のウェブメディアNo.1を目指して、資産運用、家計管理、会計の情報が集まったメディアを用意して、その中でユーザーに合った広告を配信するOne to One広告、さらにユーザーの購買履歴などマスデータを分析してO2Oに結びつけたりしたいので、アドテクやマーケティングの部分で電通さんとは協業させていただけるといいなと思います。

電通さんは最近スタートアップ関連のイベントにも頻繁に来られていたり、スタートアップと提携をされたりと、電通さんが持たれているネットワーク、リソースとベンチャーがうまくシナジーを出せていけると、広告とテクノロジーが融合して、もっと面白いビジネスが展開できるのでは、と楽しみにしております。

中嶋:最後にこのインタビューの読者に伝えたいことはありますか。

辻:スティーブ・ジョブズも言っていたように、振り返ると点が線につながることを感じます。希望していなかった経理部に入って、いつの間にかクラウド会計を作っているというように、ビジネスマンとして日々一生懸命やっていると、点としての経験がどこかで一本の線になることがあります。何が役に立つか分からないなあというのが今の実感です。

中嶋:ありがとうございました。ますますのご活躍、期待しています。