ロボティクスビジネス入門講座 #08

マツコロイド開発者・石黒浩教授インタビュー② ロボット開発のパイオニアが考える、真に求められるUIとは?

  • Drobo prof
    石黒 浩
    大阪大学 基礎工学研究科 教授/ATR石黒浩特別研究所客員所長
  • Profile nishijima 1
    西嶋 賴親
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

アンドロイド研究の第一人者、石黒浩先生をお迎えした対談の前編では、先生の視点でロボティクスビジネスの発展の可能性を伺いました。「人間と技術は切り離せない」、「ロボットには人間性が反映されていく」といった興味深い指摘に続いて、後編ではサービス分野での発展の道筋や実証実験など、具体的な取り組みについて教えていただきます。

「賢くなった」と思わせるインターフェース

西嶋:ここまでのお話(前編参照)を通して、いろいろな可能性はありながら具体的に企業が今どうするかという点では、しばらくは体制づくりやトライ&エラーを繰り返していく時期なのかなと感じました。経済産業省のロボットビジネス市場に関する推測では、10年後にサービス分野が製造分野を上回るとされていますが、模索が必要そうですね。

石黒:確かに一足飛びにはいきませんが、サービス分野が上回るというのは間違いないでしょうね。産業用ロボットはもうかなり普及していて、製造業的にはすでに効率を最大化しているので、新しいものは出てくるでしょうが市場の広がりという点ではもう落ち着いているのではないでしょうか。すると、今後はサービス業にいくしかない。

西嶋:サービス業では、どのような発展の方向性がありそうでしょうか?

石黒:先の話(※前編)にも通じますが、ブランド戦略としては、ユーザーを賢く思わせるインターフェースが重要だと思います。
 ロボットというと、とかく機能ばかりが注目されますが、リテラシーがさまざまな一般の人が使うサービスという視点で考えると、スペックではなく「どうやって人を快適に思わせるか」を追求する。ロボットは特にそれが必要だと思いますね。
 ただ、その快適さが、単なる快楽主義にいってしまうと困るんです。うまい例があればいいんですが、思想がないまま人間の表面的な浅い知識や能力で「こうなればラクでしょ」という方向性でちょっと工夫がされているだけでは、人間を甘やかすだけで、深みがない。本能的に引かれるインターフェースとは何か、それが人に何をもたらすのか、深く人について考えた上でのインターフェースが求められると思います。

西嶋:確かに、単にラクなだけだと、すぐ飽きられたり真似されたりしそうですね。

石黒:サービスというのは、その人が本当に賢くなるとか、能力が上がるとかではなく、そう思わせて「満足してもらえるかどうか」がすべてですよね。もちろん実利も必要ですが、気分を良くしてくれることが大事です。

福祉施設で「テレノイド」が効果を発揮

西嶋:もう少しロボットのサービス分野での活用を考えると、介護領域などでのビジネスモデルの確立はかなり期待されています。先生は、デンマークの複数の高齢者福祉施設で、人にそっくりのシリーズとは正反対のアンドロイド「テレノイド」を使った実証実験をされていますよね。
 テレノイドは、抱きかかえるのにちょうどいいくらいのぬいぐるみのようなボディーに、人としての要素を最小限にとどめた真っ白な頭部だけがついています。実際の会話は、別室につないだマイクを通じて人が対応する仕組みだそうですが、これが大きな効果を発揮していると伺いました。

石黒:ええ。高齢者施設では、介護士や家族など生身の人間が会話をしようとしても、多くの人が「話しかけると迷惑がかかる」「言いたいことがうまく伝わらない」と感じて積極的になれず、ふさぎ込みがちになるんです。それがテレノイドに対してだと、長ければ1時間も話し続けることがあります。

いちばんよかったのは、暴れる人が落ち着いたことです。ああいった施設は暴れる人が一人でもいると大変なんですが、原因の大半が意思疎通できないことのイライラからきているんですね。だからテレノイドと会話をするようになると、臆する必要がないのでどんどん積極的になって、気持ちが落ち着いていきました。
 デンマークは福祉先進国で、一連の実験も国家プロジェクトに参加する形で行いましたが、メディアや世論でのロボットへの抵抗感や、例えば介護士が「ロボットに職を奪われるのでは」と感じているなどの点は日本とそう変わりません。ただ、テレノイドの効果を知ると、介護士は歓迎してくれるようになりましたね。もう、「サービスモデルをどうつくればいいか」という最終的な実験段階へ入っています。

西嶋:それは、大きな前進ですね。ところで日本での実証実験はどのような段階なのですか?

石黒:JST(科学技術振興機構)のチーム型研究支援プログラム「CREST」に採択されて、10カ所くらいの福祉施設で実施しています。ユーザーの反応としては、国を問わず高いコミュニケーション促進効果があるのですが、難しいのは、日本はデンマークほど介護や福祉の現場に余裕がない。新しい技術を継続的に導入するには忙しすぎるんです。サービス自体は評判がいいので、もう少し探りたいですね。

自律的な対話の実現に向けて

西嶋:テレノイドは、今後自律的に話せるようになるのでしょうか?

石黒:ええ、今はマイクを通してオペレーターがしゃべるのみですが、これから自律にする予定です。現時点で、自律的に対話できるロボットはありません。今できるのは顔認識と、テレノイドのように会話に合わせて首や手先が動いたり、発話に合わせて口が動いたり。そこにとどまっているので、次の5年で、人間の意図や要求を理解し、身ぶり手ぶりも全部使って対話ができるようなロボットをつくろうとしています。
 先のCRESTと同じくJSTが支援する、独創性に富んだ研究をサポートする「ERATO」プログラムのひとつとして進行中です。「石黒ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト」というんですが。

西嶋:それが実現したら、すごいことですね。ついに、ロボットの自律対話にまで国が支援するようになるのですから。

石黒:そこをやらないとね。今、ロボットって“張り子の虎”みたいになっているんですよ。期待ばかり膨らんで、実は中身はほとんど進んでいない。例えばアクチュエーター(※)なんかはまったく新しいことがないんです。

※油圧や電動モーターによって、前進・後進や回転運動を起こす仕組み。ここではロボットを動かす仕組みを指す。

 

ヒト型ロボットだと、ハードウェアの点ではセンサー技術を中心にかなり進んだと思います。ただ、中身はどこが革新的なのかというと、強いて言えば音声認識の安定化とか、ジェスチャーによるコントロール技術、人の行動を認識する技術が進んだかなと。しゃべれるといってもまだまだ単語が理解できるだけで、しかも静かな場所に限られます。身ぶり手ぶりも、演劇的にはいくらでもつけられますが、自然に対話に合わせてというのはまだ無理ですね。

西嶋:その点では、遠隔操作型ロボットである先生の「ジェミノイド」は、成功しているといえるのではないですか?

石黒:確かに、自律という部分を除けばできていますね。だからこそ、遠隔操作のロボットでは、操作する側が離れたときに「どこをどうやったら自律化するか」が大事だと思っているんです。自動モードもありますが、今はそれだと「毎回同じことしゃべってる」って分かってしまいます。そこを変えていきたいです。

西嶋:遠隔操作については、例えば国土交通省がヒト型の遠隔操作ロボットを重機に乗せて危険な場所で操作する、といった実験を進めているようです。そうした形の発展もありえますか?

石黒:もちろん、ありますね。人間の代わりですから。ただ、危険地域ではなくごく普通の場所へも遠隔作業用ロボットが拡大するかを考えると、単純に人件費とどちらが安いかという問題になるので、働く人口がよほど減らないと、そこまでいかないような気はします。

人同士の関わりが密接になる未来社会

西嶋:ビジネスとしての発展性から、インターフェースの重要性、実際のサービス分野への実証実験まで、非常に幅広いお話を聞かせていただきました。ほかにも、劇作家の平田オリザさんとともに展開された、アンドロイドが出演する演劇(※)なども興味深いです。先生は、今後どのような方向へいちばん力を入れたいとお考えなのでしょうか?

※青年団国際演劇交流プロジェクト2014「青年団+大阪大学ロボット演劇プロジェクト アンドロイド版『変身』」

 

石黒:基本的には、僕の興味はとてもシンプルで、「『人とはなにか』ということがどこまで分かるか」ということなんです。インターフェースの原理にしても、人が自然に関わるにはどんな原理が必要か、ということですよね。
 例えば、従来の脳科学や認知科学では証明できない仮説が、まだまだたくさんあります。「心とはなにか?」とか、意識とは、感情とは、という。そいつをはっきりさせないと…メタレベルすぎて、はっきりとはできないと思いますが、もう少し“わかったつもり”くらいにならないと、まともに人と関われるロボットはつくれないでしょう。僕は研究者なので、そうした問いに立脚するなら何だってやりますし、何をしてもいいと思っています。

西嶋:そう考えると、先生の幅広いプロジェクト内容もひとまとまりに見えてきます。

石黒:この先のロボットの発展において、僕がちょっと心配しているのは、経済面です。今は解決すべき課題を見据えて社会が成熟したり技術が進歩したりするのと違って、無理に成長させようとしているというか。
 少し話は変わりますが、成長・発展という意味ではロボットも無理に開発を進めてもハッピーにならないんじゃないでしょうか。今後、企業が参入してくるにしても、その点を見据えた上で、例えば日本がもっと本格的なロボットコンテストを実施するなど、ステージを上げていくべきだと思います。そのコンテストをやるにしてもお遊びや賑やかしではなく、人も資金も本気で費やすような真剣度ですよね、必要なのは。自動車産業でいうF1のような。

西嶋:国が本気の企業同士の研鑽を促すと、技術も大きく進みそうですね。最後に、ロボットが発展していく社会への期待をお伺いできますか?

石黒:技術の発展は、人間の能力を拡張させ、おのずと「人とはなにか?」を考えさせます。新しいメディアやロボットが加わりながら、人が人と関わる時間や密度が増していく、それが未来社会だと思います。そういう文脈でロボットが出てくる社会は悪くないのではないでしょうか。僕の取り組みを通して、ロボットに対する考え方も変わってくるといいと思います。

西嶋:技術が進むほど人に興味を持つというのは、おっしゃる通りだと思いました。貴重なお話、ありがとうございました。

プロフィール

  • Drobo prof
    石黒 浩
    大阪大学 基礎工学研究科 教授/ATR石黒浩特別研究所客員所長

    大阪大学基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。京都大学情報学研究科助教授,大阪大学工学研究科教授を経て,2009年より大阪大学基礎工学研究科教授。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。社会で活動するロボットの実現を目指し、知的システムの基礎的な研究を行う。ロボット研究においては,従来,ナビゲーションやマニピュレーションという産業用ロボットにおける課題が研究の中心であったが,インタラクションという日常活動型ロボットにおける課題を世界に先駆けて提案し,研究に取り組んできた.そして,これまでに人と関わるヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットや,それらの活動を支援し人間を見守るためのセンサネットワークを開発してきた.そして,2007年には、Synectics社(英)の調査「世界の100人の生きている天才のランキング」で日本人最高位の26位に選出される。また2011年には,大阪文化賞を受賞.2013年大阪大学特別教授。主な著書に「ロボットとは何か」(講談社現代新書),「どうすれば「人」を創れるか」(新潮社)などがある。

  • Profile nishijima 1
    西嶋 賴親
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

    電通ロボット推進センター代表。トヨタ自動車、東京大学先端科学技術研究センター、ロボ・ガレージ、電通の4社共同プロジェクト、「ロボット宇宙飛行士KIROBO」プロジェクトマネージャー。2013年より慶應義塾大学大学院・宇宙システムラボ所属。2014年フランス国立理工科大学に短期留学して、人とロボットが宇宙で暮らすリスクマネジメントを研究。コピーライター、東京都立第一商業高等学校非常勤講師(マーケティング)、日本ロボット学会所属。

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