新明解「戦略PR」 #03

共感や信頼感から見る2013カンヌライオンズ受賞作。

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

企業メッセージを継続的に発信、エンゲージメントを創る

さて、第3回は前回の、「戦略PR視点で見る2013カンヌライオンズ受賞作」の続きです。今回のお題は「企業メッセージを継続的に発信、エンゲージメントを創る」です。いやはや、引っ張りますねー、既にネタ枯れかとお察しの皆様、「正解」です(笑)。とはいえ、与えられたこの使命、全うせずには逃げられまい、ということで今日も締め切りぎりぎりで頑張ってみます。

前回の「ストーリーテリングで“自分ゴト化”を図る」では、製品・サービスの差別化ができない中、いかにそれらがターゲットにおいて有用なベネフィットを持っているか、さらになぜそれがこのタイミングであなたに必要なのか?を背景文脈と併せて提示し、“自分ゴト化”を促進させることが必要としました。「私にとって便利なんだ」と「えっ?やっぱ今買っておくべきなのかな?」と思わせる、二段構えの引き込み方ですね。ぐいぐいっと、ここぞとばかりに引っ張り込むわけです! でもですよ、それでもなかなかうまいことその「ストーリー」ってやつが浮かばないこともあるじゃないですか。コモディティ化された製品を数十種類もショートタームで打ち出している企業とか、あるいはロングセラーがメインどころの企業にとっては、やっぱりかなりハードル高かったりしますよね。

そんな時代に、企業は一体どのような手立てを採るべきなのでしょうか。大切なのは「コーポレート・メッセージの継続的発信」です。機能や価格において、ほぼ差異の無い製品・サービスが眼前に並んだとき、生活者は何を決め手に購買を決めるのでしょうか。実はその作り手に対して共感が持てるかどうか、に大きく左右されると言われています。確かに売り手の「人となり」は、モノを買う時かなり重要視しますよね。自分の日常の買い物を思い返しても間違いないです。「この人が作ったものなら安心」「この人の考え方にはいつも賛同しちゃうわ!」「どうせ買うならいつも挨拶してくれるこの人から」なんてのもあるじゃないですか。つまり今は、買い手と売り手の共感や信頼を、いかに継続的に醸成・維持していけるかを、本気で考えないといけない時代なんです。

 

企業のスタンスや気持ちが伝わると、そこに共感が生まれる

そんなことを日々感じつつ、カンヌの事例なんかを見ると、やっぱその辺をきっちりやってる企業ってあるんですよね。それが「コカ・コーラ」や「Dove」。「コカ・コーラ」は、キャンペーンスローガンに「Open Happiness(オープン・ハピネス)」を掲げ、同社のCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)も「Share(シェア)」という言葉を常に使います。「うれしさ、楽しさをシェアしよう」というスローガンの下に、いろいろなキャンペーンがなされていて、いつもすごいな、と思うわけです。一昨年、ダイレクトやデザイン部門でゴールドを受賞したアルゼンチンの「The Friendship Machine」(7月20日の「友達の日」に背の高いベンダーを街中に設置、2人で協力してコインを入れると2人分のコカ・コーラがゲットできる)や、昨年のPR部門他でショートリスト入りしたシンガポールの「Hug Machine」(通常より横幅の広いベンダーを設置し、複数人で協力してベンダーをハグ=抱きかかえると、コカ・コーラが無料で出てくる)など。複数でトライする機会をつくり、ゲーム感覚の楽しいひとときを生み出すことで、コカ・コーラと一緒に体験した楽しい記憶を残すというやり方は非常に新鮮です。今年はそれと商品、「コカ・コーラ」自体で具現化していました(事例の「Sharing Can」(シンガポール)参照)。コアアイデアが共通しているので、いつも同じ人が考えているのかな、と思いつつ見てみると、その施策を展開する国も違えば、エージェンシーも違っていて、まさに世界中でキャンペーンスローガンが浸透している、芯が通った施策だなと感心してしまいます。

そして今年の注目株が「Dove」ですね。「Dove」は「女性の自然な素の美しさを応援する企業」というスタンスを貫いています。今年、PR部門含め複数カテゴリーでゴールドを獲った「Real Beauty Sketches」やフィルム部門ゴールドの「Camera Shy」は、エントリービデオを見ているだけで、まさに勇気をもらったり、ほのぼのさせてくれたりと、「こういうキャンペーンを考える人たちって、きっといい人なんだろうなぁ」と思ってしまいます。(あ、やばい、すでに術中にはまってるわー!)

これらの事例のように、その企業が誰のために、そもそも何のために企業活動をしているのか、というスタンスや気持ちが伝わると、そこに共感が生まれるわけです。企業としては、いかに本気感を持って、力強く、継続して社会や生活者に対して宣言していけるかが、今後のポジショニングを大きく左右するはずです。つまり、企業の「人となり」を伝え続けるということです。そのためには、まずはシンプルに企業自身の存在意義を確認することが必要となるかもしれません。このステージに登るには、自身が発信する、時間が経ってもブレない強いメッセージ、ブランド・フィロソフィが必須となるのです。まずは自身を見つめ直すこと、そこからこの取り組みは始まるのかもしれませんね。

 

カンヌライオンズ受賞作のなかから、優れたエンゲージメント事例をご紹介

■Sharing Can(シンガポール)

カンヌの常連、コカ・コーラの今年のエントリー。これまでたくさんの面白い取り組みで楽しさを「シェア」してきたコカ・コーラが、初の試みとして製品そのものも「シェア」できるようにしてしまった事例。1つのコカ・コーラ缶をひねると2つの缶に早変わり。2人で分けて飲めればもっと楽しいよね、という体験を創り出している。通常、製品そのものに手を加えるには勇気がいるけれど、ブランド・フィロソフィを伝えるためなら、製品だって変えちゃってかまわない、というコカ・コーラの信念の強さを感じさせる。

カンヌライオンズ2013のプロモ&アクティベーション部門、デザイン部門でゴールドを受賞。


■Real Beauty Sketches(ブラジル)

たった4%の女性しか、自分の容姿に自信がないという調査データを背景に、「あなたは自分が思っているよりも美しい」ということを伝えるためのユニリーバ「Dove」のキャンペーン。元FBI捜査官の似顔絵師に、2枚の絵を描いてもらう。1枚は、ある女性が自分の容姿について自ら説明するのを聞きながら、顔そのものを見ずに似顔絵を描く。もう1枚は、その女性と初対面の人にその人の印象を聞きながら描く。両方の絵を本人に見せると、他人の説明で描いた絵の方が美人だし本人に似ているというもの。「もっと自分の容姿に自信をもっていいんですよ」という女性へのエールとなっている。

カンヌライオンズ2013のPR部門を含む7部門でゴールド、チタニウム部門でチタニウムライオングランプリを受賞。

 

■Camera Shy(イギリス)

こちらは「Dove」のCM。大人の女性にカメラを向けると、お化粧をきっちりしてないから嫌だとか、疲れた顔しているから嫌など、写真や映像を撮られるのを嫌がる傾向にある。でも、子どもの頃はカメラの前で満面の笑みを浮かべていた。そこに「いつから自分のことを美しいと思わなくなったんですか?」というタグラインが入る。素の美しさを出していいんですよ、というメッセージを表現している。うーん、一貫していますよね。カメラを向けられた女性たちは、顔を隠したり、逃げまわったり、しまいには怒り出したり。日常にありがちなシーンを切り出すことで「ああ、こういうことあるある!」という共感を生み出しつつ、最後に女性を応援するメッセージで締めるほのぼの作品。

カンヌライオンズ2013のフィルム部門でゴールドを受賞。

 

 

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年電通PRセンター(現電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手掛けるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD」を日本で初めて受賞。Holmes Report「The Innovator 25 Asia-Pacific 2016」(アジア太平洋地域のイノベーター)選出。
    その他「Cannes Lions」「Spikes Asia」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC」「PRWeek Awards Asia」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」(朝日新聞出版)を上梓。自治体PR事例をまとめた「成功17事例で学ぶ自治体PR戦略」(共著:時事通信社)も好評発売中。

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